肝胆相照のティーシポネー

人の心無いんか?

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本編10 肝胆相照の復讐者 その1

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 中央の塔の足元まで来る。

 不意にキリちゃんがアーカイブさんに、
「アンタ、私たちに違和感を感じたと言っていたわね。」

「ええ・・・道行く人は感じてはいないみたいだけど、私にはあなた達を見た時、僅かに違和感があったわ。」

「じゃあ、この塔を見て何か感じない?」

「???いえ・・・特に・・・」

「そう・・・あなたは見たことのある能力を劣化コピーできると言っていたけど、大したこと無いみたいね。元の能力が雑魚なのか、あなたの劣化具合で雑魚になっているのか・・・」

「それは・・・」

「ねぇ・・・この塔”いつから”あるの?」

「いつからって・・・え・・・えっと・・・最初から?あれ?いつから・・・」
 キリちゃんに言われアーカイブさんの瞳が揺れる。

「ふん・・・。あなた本当に役に立つのかしらね?”期待”しているわ。」
 嫌味っぽくそう言って観音開きの大きな扉を開けてキリちゃんは塔に入っていった。

「ご、ごめんなさい。アーカイブさん。」
 俯くアーカイブさんにあたしは声をかける。

 アーカイブさんは疲れた顔で、
「いいのよ・・・彼女の言っていることは本当だから・・・私は”無能の原初”だもの・・・。フォーチュンや放浪者と違って・・・ね。彼女痛いとこ突くなぁ~。古傷抉られちゃったわ。」
 そう言って苦笑いし、キリちゃんの後について入っていった。

(無能・・・か。あたしも荷物持ちくらいしか出来てないもんね・・・)
 暗くなる気持ちを押し込めて、あたしもてっちゃんを連れてその後を追った。



 塔内部は広い空間の様だった。というのも真っ暗で良く見えなかったからだ。
 全員が入ると後ろの扉が閉まり、壁の燭台に火がともる。映し出されたのは直径300メートルくらいはあろうかという石造りの大広間だった。

「ようこそ~。まだ外側だけで内部はテキトーなのよね~。張りぼて状態ってやつ?」

 目の前、空中に天秤の神様が浮いていた。神様はゆっくりと降りてきて、着地する。

「な~んか、増えてるわね?まぁ良いけど。」

「大丈夫よ。アイツらはギャラリーだから。」

「あら?全員で掛かってきてくれていいのよ?」
 
「ま、待ってください!」
 そう言って横やりを入れたのはアーカイブさんだった。

「あら?なにかしら?”失敗作”ちゃん。」

「し、失敗作って・・・」

「ああ~。私たちの中でのあなたの呼び名。全ての能力を扱えるような最強のチート戦士作ってみようぜ!ってノリで作ったのよ。あなたは様々な分野に興味を持ち、ある種、蒐集癖しゅうしゅうへきの様なものも持っていたから色々な能力を持つには適任かな?って。でも確かに色々な能力を扱えるような能力になったけど、どれもこれも出力の弱い劣化コピーで使い物にならない。そこでついたあだ名が”失敗作”ちゃんってわけ。」
 そう言ってゲラゲラとアーカイブさんを笑い飛ばした。アーカイブさんは自身の能力のルーツを聞かされショックを受けていた。

「んでもって、成功例があなたの隣の子ね。」
 そう言ってキリちゃんを指す。

「やっぱりさぁ。どこかしら無理が生じてデメリット部分が出ないと突出した能力になんないのよね~。
その点あなたはデメリットだらけな分、最強の一角になったわよ、ね~、キ~リちゃん♪」
 
 キリちゃんは腰に下げていた袋に入っていた火打石を神様に投げつけた。神様は顔面に飛んできた石を首を軽く動かし、簡単に避けてしまう。

「その名で呼ぶな。許可した覚えはない。」

「やーん!怖ーい♪長い付き合いなのに優しくして~♪」
 挑発するように言う神様。

「・・・待って、待ってください・・・」
 ショックが抜けきらない顔で割り込むアーカイブさん。

「あーごめんね。失敗作ちゃん。それで何だっけ?」

「いい加減、私たちを解放してくださいませんか?」

「やでーす♪」

「あなたは!・・・あなたは賭け事とスリルを好むとお聞きしました。」

「違いないわね~。」

「でしたら!私と賭けをして私が勝ったら皆を解放してくれませんか!?」

「それはね~無理かな~。」

「どうして!!!」

「私が”ここ”を運営してるわけじゃないのよ~。そんな事できないわ。どっちかって言うと運営側じゃなくて客側?なわけ。だからこの塔を勝手に作ったのもバレたら怒られちゃうわ~。まー、皆は私がやったって分かったら『またか・・・またあいつか』で済むと思うけど・・・」
 目を泳がせながらそう言う神様。何だか神様同士で、この天秤の神様がどういう風に思われているのか立ち位置が透けて見えそうだった。

 自身の思惑が外れ、愕然とし俯くアーカイブさん。しかし次の瞬間、顔を挙げ神様に向かって手をかざす。すると地面から無数にツタが生えてきて神様を絡めとった。

「うーん、何かしらこれ?ああ、この状況じゃなくて能力ね。こんな能力あったかしら・・・?もしかして”グレイトネイチャー”の能力?
 この世界の未だ未踏破の広大な大森林を作った能力が瓢箪カズラのツタを出す能力って・・・弱すぎて分かんなかったわ。でも水分には困らなそうね。」
 拘束されたままゲラゲラと笑う。

「あなたを・・・フォーチュンの材料にします!殺してでも!」

「おお!なるほど!それは運命を変え、世界線を変える材料としてはかつてないほどの物になるわね~。」
 神様はのんきに手を叩いて大袈裟に驚いた。

「馬鹿にして!!!」
 怒りを宿し、さらに雷撃の能力を発動し、攻撃するアーカイブさん。

「いやーん。やられちゃう~。助けて~。」
 体をくねらせキリちゃんにわざとらしく助けを求める神様。
「助けないと、あなた、私に復讐できないわよ~。」

「必要ないでしょ?どうせそこの雑魚にアンタがやられるわけないじゃない。」
 キリちゃんは平然としてその光景を見つめていた。

「ふぅ・・・つまんないな。ノリ悪い~。」
 パチンと神様が指を鳴らすと、拘束していたツタが消える。

「そ、そんな・・・」

「あの”電気マッサージ”結構気持ちよかったわ~。あなたこの狭間世界でマッサージ屋でもしてみたら?うけるかもよ?」
 ニヤニヤしながらそう言う神様。アーカイブさんは両手両膝をつき、項垂れて心が折れたようだった。
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