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本編6 肝胆相照の殺戮者 その2

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「まさか、そんな弱点があったとはな・・・」
 
 その日の野営。テント内にはあたしとキリちゃんとスタンピードさんしかいない。キリちゃんは手当てを受けて今は眠っている。先ほどまで怪我の痛みで泣き暴れて大変だった。
 あたしは戦闘時の様子をスタンピードさんに伝えた。ただ・・・キリちゃんが本名と年齢を名乗ったことは伏せておいた。
 
「恐らくは身体への負担が信じられないくらい大きいんだと思います。」

「俺の予想だが、まだあると思うぞ?こいつの能力のデメリット。」

「そんな・・・。」
 
「あくまで勘だぜ?なぁ嬢ちゃん、分かってるとは思うが、このことは誰にも言うなよ?」

「分かっています。キリちゃんは拠点で良く思われてませんから・・・」
 隣で眠るキリちゃんの頭を優しくなでるとネコみたいに丸まった。

「あまりに強すぎる代償がこれか・・・。そういや、お前さんたちに出会うちょっと前に敵さん側にも似たような奴が居たよ。」

「え!?敵にもキリちゃんのような人が!?」

「こんなバイオレンスな奴じゃなかったがな。能力をとんでもなく引き上げる奴だ。他人の能力までな。代わりにその反動なのか常にボロボロだったよ。」
 そういうスタンピードさんは少し懐かしむ目をしていた。

「ま、この様子じゃこれ以上前線に留まるのは無理だな。明日には拠点に帰るから支度しといてくれ。あとデメリットが不透明である以上、必要な時以外はなるべくキリングドーターを戦わせないようにしろ。」
 そう言い残してスタンピードさんはあたしたちのテントを出ていった。代わりにテントの出入口の隙間からてっちゃんが心配そうに覗いている。

「お前、あれだけの目に会っていながら心配してくれるの?ありがとうね。」
 出入口から手を伸ばし、てっちゃんの鼻を撫でる。グルグル喉を鳴らし甘える仕草をする。

「明日は頑張って貰わないといけないから、もうお休み。」
 そう言うとてっちゃんは出入り口付近で丸まり眠りだした。
 あたしも寝よう。明日からはあたしがしっかりしないと・・・



 翌日、部隊は拠点に向けて帰路に付く。いつもはあたしが後ろだが、今日はあたしが前でキリちゃんが後ろだ。荷物のように『だらん』と、てっちゃんに乗っかるキリちゃん。
 部隊員達はその様子を見ても、『どうせ楽をするためにそうしているんだろ?』というような目でキリちゃんを見ていた。
 なるべくそう思っていてくれた方がいい。キリちゃんの秘密を知るものは少ない方が良いのだから・・・



 拠点に戻るとキリちゃんは本格的な治療を受け、日常生活が送れるくらいに回復した。
あとは自然治癒でも問題ないとのことで、拠点でゆっくりすることになった。
 数日後スタンピードさんは服のオーダー代金の支払いに加え、事務所で自身の貢献度で拠点で使える紙幣を発行してくれて、お礼としてあたしたちにくれた。

 キリちゃんは早速洋菓子屋さんに紙幣を握りしめてエクレアを買いに行き、今は洋菓子店の椅子に座り、足をブラつかせながら幸せそうに頬張っている。あたしはキリちゃんの隣に座り、ニコニコと上機嫌なキリちゃんを横目で見る。このキリちゃんは怒らせなければ人懐っこくて同室のリコちゃんとも仲良くやってくれた。お店の人に対してだってそうだ。無茶なことは言わないし、滅多なことで癇癪を起こしたりしない。
 だが、あたしはこの無邪気なキリちゃんと接していて、慕われることに嬉しさを感じると共に不安も同じくらい感じていた。
 
 あの恐ろしいキリちゃんに・・・殺戮の天使にいつか戻ってしまうんじゃないかと。明日目が覚めたらそうなっているんじゃないかと、底知れぬ不安を感じていた。

「エクレアさん!」

 暗い考え事をしている中、急に呼ばれて『ビクッ』となってしまう。
 悟られないように笑顔を向けると、

「美味しいね!」
 口にカスタードクリームを付けながら笑いかけてくる。

「もう、キリちゃん。またついてるよ。」
 あたしは苦笑いしながら手で口元に付いたクリームを掬って上げると、

「いつもありがとう、エクレアさん。」
 いつものニヘラ笑いをあたしに向けてくる。

 いつあの昔のキリちゃんに戻っちゃうか分からない。でも、それを気にしていたら勿体ない。そう思えるくらい、ここ数日の時間はかけがえのないものだった。

 しかし運命は残酷だ。そんな幸せな時間も多くは与えてくれないのだから・・・
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