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本編5 闘犬と魔獣犬 その2
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次の日、あたしは少し気になった事をスタンピードさんに尋ねてみた。
甲殻竜を駆り疾走するスタンピードさんの横につき、
「あの。スタンピードさんは、キリちゃんの事、比較的大丈夫なんですね?」
キリちゃんの事は拠点ではすぐさま噂になっていた。しかし、お店で会った時もそうだがこの人はキリちゃんと話していても大丈夫そうに見えた。
「まー、とんでもねぇ奴なのはビシバシ伝わってくるぜ。でもな、お前らと出会うほんの少し前に、そいつ以上のとんでもない化け物と会ってな。それと比べるとその嬢ちゃんは可愛いもんだぜ。」
「ありがとう!おじさん!」
可愛いと言われてご機嫌のキリちゃん。そう言う意味じゃないけど放っておこう。
「あたしもだいぶ慣れましたけど、それでも時折気絶しそうになるのに、キリちゃん以上ってどんな化け物なんですか?」
「見ただけで脂汗が止まらなくなる原生生物の鹿と、それを見ても平然としてる禿げかな?まー、二度と会うこと無いと思うけどね。てか、本当に会いたくねぇ。」
そう言うスタンピードさんの顔色は悪く、げんなりとしていた。
「え?なんですか、それ?」
馬鹿にされてるんだろうか、あたし。
あたしの呆れた顔を見てスタンピードさんは、
「ま、普通そういう反応だわな。忘れてくれ、嬢ちゃん。」
そう言ってスピードを上げて前の方に行ってしまった。
二日目の移動は一日目より短く、早めに野営となった。
辺りは草木も生えない荒野で、一見すれば見通しが良く、吹きすさぶ砂嵐が無ければかなり遠くまで見通せそうだった。
場所によっては、むき出しの巨大な岩がポツポツと乱立していたり、地面が隆起したのか、長い年月をかけて削れたのか、そこら中に岩壁があった。
あたしたちの部隊は、なるべく姿が隠れるように巨大な岩が入り組んでいる場所で野営地を設けた。
スタンピードさんが皆に訓示をのべる。
「よし、みんな、ここはもう前線付近になる。明日からは戦闘になるだろう。ゆっくり身体を休めてくれ。」
「キリちゃん。いよいよ戦闘になるみたいだよ。敵なんていいから、先ずは自分の身を守ろうね。」
キリちゃんはふかし芋をハムスターみたいに頬張りながら笑顔で、
「ん~、大丈夫!てっちゃんとエクレアさんは私が守るからね!」
頼もしいー。こんなにも頼もしい事があるだろうか?あの、暴力の嵐のキリちゃんが守ってくれるだなんて、あたし泣いちゃいそう。
あたしはキリちゃんの頬についてる”お弁当”を手ですくって、
「ありがとう、キリちゃん。でも危険なことはしないでね。」
そう言うと『ニヘラ~』と笑うキリちゃん。最初会った時はもっとクールビューティな印象を受けたけど、付き合ってみると小動物みたいで可愛い。スイッチが入っちゃうと大変なことになるけど・・・誰が言ったのか『ピットブル』ってこの子にピッタリの二つ名ね。
「エクレアさん、今日はてっちゃんと三人で寝よ。」
「そうだね。そうしようか。」
丸まって眠るてっちゃんを布団に眠る甘ロリの少女。
絵になる光景だ。今日ほどカメラが欲しいと思ったことは無い。
この中にあたしも入っていいんだ。
ああ・・・きっと凄くいい匂いがするんだろう。そう思ってキリちゃんと密着するようにあたしも横になったが、
(超獣臭い・・・)
実際はてっちゃんの臭いで、ただただ獣臭いだけだった。
(うう・・・。温もりを感じれるだけ良しとしないと・・・)
あたしは心の中で静かに涙した。
「あははははははははははは~~~~~~~~!!!」
翌日、スタンピードさんが言ったように戦闘になった。
赤い目をしたキリちゃんがてっちゃんを駆り、荒野を駆け抜け、ハルバードを振り回しながら敵の兵士をミンチにしていく。
圧倒的だった。近接では全く勝負にならない。盾や鎧ごとハルバードで叩き潰し、その一撃を武器で受け止めようものなら武器ごと人体を破壊した。
遠距離の攻撃もてっちゃんを駆り、上手く躱しながら、ハルバードで投擲物を叩き落としたり、魔法まであのハルバードで叩き潰していた。
何よりその姿を見たものは、皆震えて恐怖し、本来の力を発揮させてもらえない。
なかには戦場だというのに、武器を投げだし頭を抱えて蹲る者もいた。
「ば、ばけもの!」
一人の敵が仲間を担げるだけ担いで逃げ出す。そのスピードはガルムよりも遥かに早かった。
「くそ!あいつ【韋駄天足】スタリオンだ!情報を持って帰られるぞ!逃がすな!」
あたし達と数騎の部隊員が追いかけるが、その距離はどんどん開いて行く。
砂煙を上げながらどんどん加速し、小さくなってゆくスタリオン。
「駄目だよ!キリちゃん。追いつけないよ。」
「ちっ・・・。エクレアさん、てっちゃんお願いね。」
小さく舌打ちしたかと思うと、あたしにてっちゃんを預け、キリちゃんは飛び降りて走り出した。
「ちょっと!何してるの!?」
瞬く間にキリちゃんが後ろに流れ消える・・・しかし次の瞬間。
ぐんぐんキリちゃんがてっちゃんを駆るあたしに迫ってくる。
横に並んだと思ったらあっという間に追い抜いて・・・
スタリオンに並んだ。
「こんにちは、足の速いお兄さん。まだ演目の途中だよ?帰るのには早いんじゃないかな?」
話しかけられたスタリオンと担がれてる仲間はきっと青い顔をしている事だろう。
次の瞬間、キリちゃんがハルバードを振り回し、スタリオンたちは二分割にされた。
遅れてあたしとてっちゃんや他の部隊員も追いつく。
周りでも戦闘はもう落ち着いていた。
「き、キリちゃん・・・」
「疲れた~、エクレアさん~。抱っこして~。てっちゃんに乗せて~。」
甘えた声でそう言うキリちゃん。血まみれのハルバードは足元に放り投げられていた。
あたしはハルバードを回収してから言われたようにキリちゃんを抱え、てっちゃんに乗せてあげた。
キリちゃんはてっちゃんをなでなでして、
「てっちゃん、ありがとう。ご褒美に”アレ”食べていいよ。ホルモンも新鮮だよ!」
笑顔でそう言って二分割され臓物が飛び出しているスタリオン達の亡骸を指した。
その様子に魔獣であるてっちゃんの方が尻込みをする。あたしも手で口を押さえ嘔吐をこらえる。
「き、キリちゃ~ん。てっちゃんは生よりも炙ったお肉の方が好きなんじゃないかな~?」
あたしはてっちゃんに助け舟を出す。
「そうなの?うーん・・・あれ持って帰れるかな?」
「い、いやいやいやいや!部隊に帰ってスタンピードさんに干し肉貰おう?てっちゃんもそれがいいよね?」
物凄い勢いで首を縦に動かすてっちゃん。
「う~ん・・・じゃあそうする!もうちょっとご褒美待ってね、てっちゃん♪」
てっちゃんが本当に賢い子で助かった。
最近、おかしな言動が少なかったから油断していたけど、キリちゃんはやっぱり頭のねじが何本か外れている。気を付けないと・・・
あたしたちは本隊に戻ろうとした。
その時チラッと見えた、部隊員の人達の顔は仲間に向ける顔ではなかった。
それは得体の知れないものに対する畏怖が顔に張り付いていたのだった。
甲殻竜を駆り疾走するスタンピードさんの横につき、
「あの。スタンピードさんは、キリちゃんの事、比較的大丈夫なんですね?」
キリちゃんの事は拠点ではすぐさま噂になっていた。しかし、お店で会った時もそうだがこの人はキリちゃんと話していても大丈夫そうに見えた。
「まー、とんでもねぇ奴なのはビシバシ伝わってくるぜ。でもな、お前らと出会うほんの少し前に、そいつ以上のとんでもない化け物と会ってな。それと比べるとその嬢ちゃんは可愛いもんだぜ。」
「ありがとう!おじさん!」
可愛いと言われてご機嫌のキリちゃん。そう言う意味じゃないけど放っておこう。
「あたしもだいぶ慣れましたけど、それでも時折気絶しそうになるのに、キリちゃん以上ってどんな化け物なんですか?」
「見ただけで脂汗が止まらなくなる原生生物の鹿と、それを見ても平然としてる禿げかな?まー、二度と会うこと無いと思うけどね。てか、本当に会いたくねぇ。」
そう言うスタンピードさんの顔色は悪く、げんなりとしていた。
「え?なんですか、それ?」
馬鹿にされてるんだろうか、あたし。
あたしの呆れた顔を見てスタンピードさんは、
「ま、普通そういう反応だわな。忘れてくれ、嬢ちゃん。」
そう言ってスピードを上げて前の方に行ってしまった。
二日目の移動は一日目より短く、早めに野営となった。
辺りは草木も生えない荒野で、一見すれば見通しが良く、吹きすさぶ砂嵐が無ければかなり遠くまで見通せそうだった。
場所によっては、むき出しの巨大な岩がポツポツと乱立していたり、地面が隆起したのか、長い年月をかけて削れたのか、そこら中に岩壁があった。
あたしたちの部隊は、なるべく姿が隠れるように巨大な岩が入り組んでいる場所で野営地を設けた。
スタンピードさんが皆に訓示をのべる。
「よし、みんな、ここはもう前線付近になる。明日からは戦闘になるだろう。ゆっくり身体を休めてくれ。」
「キリちゃん。いよいよ戦闘になるみたいだよ。敵なんていいから、先ずは自分の身を守ろうね。」
キリちゃんはふかし芋をハムスターみたいに頬張りながら笑顔で、
「ん~、大丈夫!てっちゃんとエクレアさんは私が守るからね!」
頼もしいー。こんなにも頼もしい事があるだろうか?あの、暴力の嵐のキリちゃんが守ってくれるだなんて、あたし泣いちゃいそう。
あたしはキリちゃんの頬についてる”お弁当”を手ですくって、
「ありがとう、キリちゃん。でも危険なことはしないでね。」
そう言うと『ニヘラ~』と笑うキリちゃん。最初会った時はもっとクールビューティな印象を受けたけど、付き合ってみると小動物みたいで可愛い。スイッチが入っちゃうと大変なことになるけど・・・誰が言ったのか『ピットブル』ってこの子にピッタリの二つ名ね。
「エクレアさん、今日はてっちゃんと三人で寝よ。」
「そうだね。そうしようか。」
丸まって眠るてっちゃんを布団に眠る甘ロリの少女。
絵になる光景だ。今日ほどカメラが欲しいと思ったことは無い。
この中にあたしも入っていいんだ。
ああ・・・きっと凄くいい匂いがするんだろう。そう思ってキリちゃんと密着するようにあたしも横になったが、
(超獣臭い・・・)
実際はてっちゃんの臭いで、ただただ獣臭いだけだった。
(うう・・・。温もりを感じれるだけ良しとしないと・・・)
あたしは心の中で静かに涙した。
「あははははははははははは~~~~~~~~!!!」
翌日、スタンピードさんが言ったように戦闘になった。
赤い目をしたキリちゃんがてっちゃんを駆り、荒野を駆け抜け、ハルバードを振り回しながら敵の兵士をミンチにしていく。
圧倒的だった。近接では全く勝負にならない。盾や鎧ごとハルバードで叩き潰し、その一撃を武器で受け止めようものなら武器ごと人体を破壊した。
遠距離の攻撃もてっちゃんを駆り、上手く躱しながら、ハルバードで投擲物を叩き落としたり、魔法まであのハルバードで叩き潰していた。
何よりその姿を見たものは、皆震えて恐怖し、本来の力を発揮させてもらえない。
なかには戦場だというのに、武器を投げだし頭を抱えて蹲る者もいた。
「ば、ばけもの!」
一人の敵が仲間を担げるだけ担いで逃げ出す。そのスピードはガルムよりも遥かに早かった。
「くそ!あいつ【韋駄天足】スタリオンだ!情報を持って帰られるぞ!逃がすな!」
あたし達と数騎の部隊員が追いかけるが、その距離はどんどん開いて行く。
砂煙を上げながらどんどん加速し、小さくなってゆくスタリオン。
「駄目だよ!キリちゃん。追いつけないよ。」
「ちっ・・・。エクレアさん、てっちゃんお願いね。」
小さく舌打ちしたかと思うと、あたしにてっちゃんを預け、キリちゃんは飛び降りて走り出した。
「ちょっと!何してるの!?」
瞬く間にキリちゃんが後ろに流れ消える・・・しかし次の瞬間。
ぐんぐんキリちゃんがてっちゃんを駆るあたしに迫ってくる。
横に並んだと思ったらあっという間に追い抜いて・・・
スタリオンに並んだ。
「こんにちは、足の速いお兄さん。まだ演目の途中だよ?帰るのには早いんじゃないかな?」
話しかけられたスタリオンと担がれてる仲間はきっと青い顔をしている事だろう。
次の瞬間、キリちゃんがハルバードを振り回し、スタリオンたちは二分割にされた。
遅れてあたしとてっちゃんや他の部隊員も追いつく。
周りでも戦闘はもう落ち着いていた。
「き、キリちゃん・・・」
「疲れた~、エクレアさん~。抱っこして~。てっちゃんに乗せて~。」
甘えた声でそう言うキリちゃん。血まみれのハルバードは足元に放り投げられていた。
あたしはハルバードを回収してから言われたようにキリちゃんを抱え、てっちゃんに乗せてあげた。
キリちゃんはてっちゃんをなでなでして、
「てっちゃん、ありがとう。ご褒美に”アレ”食べていいよ。ホルモンも新鮮だよ!」
笑顔でそう言って二分割され臓物が飛び出しているスタリオン達の亡骸を指した。
その様子に魔獣であるてっちゃんの方が尻込みをする。あたしも手で口を押さえ嘔吐をこらえる。
「き、キリちゃ~ん。てっちゃんは生よりも炙ったお肉の方が好きなんじゃないかな~?」
あたしはてっちゃんに助け舟を出す。
「そうなの?うーん・・・あれ持って帰れるかな?」
「い、いやいやいやいや!部隊に帰ってスタンピードさんに干し肉貰おう?てっちゃんもそれがいいよね?」
物凄い勢いで首を縦に動かすてっちゃん。
「う~ん・・・じゃあそうする!もうちょっとご褒美待ってね、てっちゃん♪」
てっちゃんが本当に賢い子で助かった。
最近、おかしな言動が少なかったから油断していたけど、キリちゃんはやっぱり頭のねじが何本か外れている。気を付けないと・・・
あたしたちは本隊に戻ろうとした。
その時チラッと見えた、部隊員の人達の顔は仲間に向ける顔ではなかった。
それは得体の知れないものに対する畏怖が顔に張り付いていたのだった。
応援ありがとうございます!
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