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第弐念珠

#016 『オジギソウ』

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 1ねんせいの ココナちゃんは、 おはながだいすきな おんなのこです。

 いつも だんのところへいって、 だいすきなおはなを ながめていました。


 ある、 ココナちゃんは 3ねんせいのだんのすみっこに ふしぎなかたちをした くさがはえているのを みつけます。

 そのくさは、 まるで ながくてひらたい だんごむしのようで、 よくみると ちいさなはっぱが きそくただしくならんで いちまいのはっぱに みえていたのでした。

「わぁー、へんなくさ!!」

 ココナちゃんは それがはじめてみる くさだったので、 おもわず ゆびで つんつんとさわってみたのです。

 すると、どうでしょう。

 ちいさなはっぱたちが しゅんしゅんしゅん、と おりたたまれ、

 それとどうじに、 すずしくて あまいにおいのかぜが すぅーっと ココナちゃんのかおに あたったのです。

 とじた はっぱは、 まるで おじぎをしているかのように うなだれて しまいます。


 ココナちゃんは びっくりしました。


 そして、 おなじくさの、 べつのはっぱにさわってみました。  

 するとやっぱり、 はっぱが しゅんしゅんしゅん、と おりたたまれ、

 すぅーっと、 あまいみつの かぜがふいて、 ココナちゃんを いいきぶんにさせました。

「なんて いいにおいの くさ! ちょう いいかおり!」


 おかあさんの こうすいなどより よっぽど いいきもちになれます。

 ココナちゃんは、 のこりのはっぱも すべてさわって このかおりを たのしみました。

  ※   ※   ※   ※

 そのの よるです。

 いえにかえった ココナちゃんは、 ベッドのなかで、 おひるにみた あのくさのことを おもいだしていました。

(あのくさは なんていうのだろう)
(きんじょの スーパーに たねとか うってないかなぁ)

 おうちのプランターに あのくさがあったら どんなにすてきだろう、と ココナちゃんはおもったのです。

 そのきもちが たまらなくなったココナちゃんは、 ベッドをぬけだし、 おとうさんと おかあさんのところへ いきました。

「おや、 どうしたんだい ココナ」
「ねむれないの? こんやは おかあさんといっしょに ねる?」

 ココナちゃんは、 もうおねえさんなので、 おかあさんとねる なんて、 ちょうはずかしいことだと おもいました。

 そんなことより、 くさです。 おとうさんと おかあさんに、 くさのはなしを します。

「ほほう、 そんなくさを みつけたのかい?」
「わかったわココナ。 それはきっと、 オジギソウよ」

 オジギソウ!

 なんてぴったりの なまえなのでしょう。

 おかあさんは スマホをつかって オジギソウのしゃしんを みつけました。 そして、 ココナちゃんに みせました。


「ああ、これだわ! オジギソウと いうのね!!」


 なまえがわかって あんしんしました。

 なまえがわかれば そのほかのことも スマホでいろいろと わかるからです。

「きっと、このくさのたねも うっているところを すぐにみつけられるわ」

 ほっとしたココナちゃんは、 おへやに かえりました。

 そして、 ぐっすりと ねむったのでした。


  ※   ※   ※   ※

 それからも ココナちゃんは しばしば 3ねんせいのだんのところへ ゆきました。

 そして、 ちいさなオジギソウをつついて、 よいかおりを たのしみました。


 そんなある、 ココナちゃんは ひとりのおんなのこから よびとめられます。


「ねぇねぇ あなた、 いつもだんのところに いるんだね」


 それは、 3ねんせいのだんがかりの ユウナさんでした。

 ココナちゃんは、ユウナさんのことを しっています。 とてもまじめに いつもきまったじかんに おはなへ おみずをやったり していたからです。 
 でも、ユウナさんは ココナちゃんのことを よくしりません。

「1ねんせいが 3ねんせいの だんのところで なにをしているの?」

 それは オジギソウをさわっているからだよ、と ココナちゃんは しょうじきに いいました。

 オジギソウをおじぎさせて、 よいかおりのかぜをあびて、 たのしんでいるからだよ。 そう いいました。


 すると、ユウナさんは くびをかしげました。
 そして、 こう こたえたのです。


「あなた、まちがえてるわ。 あれは、オジギソウじゃないのよ。 よくにているけど ネムノキというの。 ネムノキは、 おじぎを しないのよ?」



 え――っ?!!



 びっくりです。
 びっくりというより、 ちょっと パニックです。

 ココナちゃんは、 「ユウナさん、なにをいってるんだろう」 と、 こころがなんだか おちつかなくなってしまいます。

「あれがオジギソウだったら どんなにおもしろかっただろうと わたしも おもうわ。 でも、あれは ネムノキなのよ。 パパのスマホで しらべたの。 さわってもうごかないけど、 はっぱのかたちが おもしろいから、 だんのすみっこに うえたままに してるんだ」

 そんなことないよ、 うごくよ、 とココナちゃんはいいました。
 うごかない。 おじぎしない。 ユウナさんは ちょっとおこって しまいます。

「それに、 いいにおいのかぜなんて ふくわけないわ。 くさなんだもの。 ほんもののオジギソウだって、 そんなにおい するわけない。 スマホにも でてなかったし」

 わけがわかりません。

 なんだか むねのところがもやもやとなってしまったので、 ココナちゃんは いそいで 3ねんせいのだんへと はしってゆきました。

 そして、 あのくさをつついてみました。


 しかし、どうしたことでしょう!
 ユウナさんが いうとおり。 くさは、もう ぴくりとも うごきません。


「あっ。 うごかない。 ネムノキだ!!」


 オジギソウが、ネムノキになっちゃった。

 ココナちゃんは、 やだぁ!と おもわず くちにだしました。


 なんだか ぜんぶが いやになりました。


  ※   ※   ※   ※

 それから、 ずいぶん たったころの ことです。

 ココナちゃんのおうちに、 ひとりのおじさんが たずねてきました。

「やぁ。どうも。 はじめまして、ココナちゃん。 まつおかと いいます」

 まつおかさんは、 ふしぎなはなしをたくさんあつめて スマホのなかで しょうかいしているひとだと おとうさんが、せつめいをしてくれました。

「ココナが このあいだ おしえてくれた、 『オジギソウがネムノキになったはなし』を ききたいのだそうだ。 さぁ、 はなしておあげ」

 ココナちゃんは へんなの!と おもいました。

 あれは ふしぎなはなしでも なんでもない。 ただの かなしい いやなおもいで だったからです。

 でも、ココナちゃんは おとうさんがだいすきだったので、 まつおかさんに そのおはなしを ていねいに してあげました。

 まつおかさんは、 ほんとうにこまかいところまで いろいろときいてきたので、 ココナちゃんは つかれてしまいました。

 まつおかさんは、 さいごに こんなことを たずねました。

「オジギソウが ネムノキになったとき ココナちゃんは どうおもったの?」

 ココナちゃんは こたえました。


「ものしりなひとに すてきだったことをはなすと、 すてきだったことが すてきじゃなくなってしまうから、 ほんとにだめだなぁ、って おもったよッ!!」


 そして、ぴゅーっと。 じぶんのおへやへ はしっていきましたとさ。


(※)このお話は、小学校一年生の女の子心夏ここなちゃん(仮名)から取材した体験談を、本人とご両親の承諾のもとに文章化したものです。ご両親は「記念に本名で発表してもかまわない」と仰って下さいましたが、娘さんの本名が 特殊な読みをする特徴的なお名前だった為、個人を特定されることを懸念してあえて仮名で表記させて頂きました。 また、娘でも読みやすい文章にしてほしいというご意向があったので、いつもの語りとはかなり形式を変えてお送りしました。 以上の点をご了承下さい。

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