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第21報『看板と漆』

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 房田さんは仕事柄、帰りがどうしても深夜遅い時刻になってしまう。しかも時間帯すらまちまちで、最大2時間くらいラグがあるのはザラだ。

 しかしそれにも関わらず、彼が車で帰路を走る際 自宅近所の橋の近くに、いつも立っている奇妙な親子連れの姿があった。

 一年中、雨の日も風の日も目に留まる。小学生くらいの女の子を連れた男親。しかも何だか、燕尾服のような不自然な正装をしているように見える。

 ――どういう人達なんだろう。
 ――いや、いくら何でもこりゃ有り得ん。
 ――もしか、この世の者ではないのでは・・・

 いつもそんな事を考え、同時に少し怖気のようなものを感じていた。


 ある日、遂に恐怖より好奇心の方が勝った。

 帰宅中、橋から少し離れたところに車を止め、いつもの親子連れの近くまで歩いて行ったのである。

 すると、

「えっ。 なぁんだ・・・」

 そこには、「ここから〇〇m先 焼き芋あります」と書かれた古い看板と、それに寄り添うように伸びた一本の漆の木があった。
 この二つの物体を、親と子に錯覚していたんだな、と房田さんは直感した。
 よくある見間違いってヤツか・・・ホッと一息し、そのまま車に乗って帰宅した。


 翌日の帰り道、いつもの親子連れが立っている場所を凝視してみたが、そこには看板と漆の姿しか見受けられなかった。

 ――というか。何で今まで、看板と漆なんぞが似ても似つかない親子連れに見えていたのだろう?ということに初めて気づいた。
 そして何で昨日の自分は、この二つを目にした瞬間に「ああ。よくある見間違いね」と安易に合点したのだろうか――?

 今以いまもってまったくわけがわからず、深く考えようとすれば混乱してくるという。

 


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