25 / 27
青い本と棺
友だったもの
しおりを挟む
柊平は、その場にへたり込み、そのぼろぼろの鬼を見つめた。
「それは…剛か?なんでだ…?」
「よくみろ柊平。ほんとにお前の旧友か?」
そう言葉をかけられ、混乱した頭でかつての友の姿を見つめる。意識もなく項垂れている男をよく見ると、半分は確かにかつての友の姿をしている。
「剛…だ…いや…?こいつ、だれだ…?」
「これはお前の友ではない。これは、ドッペルゲンガーだ」
「…そうか…よかった。で?じゃあ、剛は?無事なんだよな?」
蒼月を見上げ、不安と希望が綯い交ぜになった顔をする。
あの気丈だった友が、老いてからこんなにも弱くなったものかとその瞳を見つめる。
「·····なに、そう遠からず会えるだろうよ」
「蒼月·····?なんで目を逸らすんだ、おい、こっち見てちゃんと」
「お前ら冷えるぞ、中に入れ」
柊平の言葉を遮って、蒼月は店の中に入った。
その行動に鬼灯は首を傾げたが、他は皆、黙って蒼月について行った。
柊平もそれに続き、よろめきながら立ち上がって中に入る。
弱々しい祖父を見ていられず、蒼柊は柊平を見ようとしない。
そんな中、鬼灯が空気を壊すような声音で、あっけらかんと話し出す。
「なんだね、よく分からんがまぁやる事をやるとしよう」
「今開ける」
蒼月は本棚の前に立ち、以前蒼柊が誤って解いてしまった仕掛けを作動させる。
また轟音を立て、本棚が動き、あの質素な扉が顔を出す。
扉を開け、 その先に進む。中は相変わらず静かで、本達がひっそりと想いを抱えながら過ごしている。
「はは!この装置も久しぶりに見たね。さて……蒼月、それに蒼柊。他に連れていく人は居るかね?」
「いいや。居ない。フラヴィアーナには危険だし、紅月は本人だし、柊平は老いぼれで役に立たんからな」
「で、でも蒼月さん、俺その、戦ったりとかそういうのは……」
「戦わん。集めて来るだけだ。ほれ、これ一つ持て」
「……?」
蒼月はそう言って、蒼柊に古びた小瓶を渡す。少し重みのある焼き物の瓶は、異様に冷たかった。手の中にあっても、いつまでも熱が移っていかないのかひんやりとしていた。
「冷たい……。蒼月さん、これ、なんのために持ってくんですか?」
「馬鹿でもない限り分かるだろ。その中に魂を入れる。お前は特別なことはしなくていい。魂を見つけたら、その瓶の口を魂に向ければ良いだけだ」
「えっ、わ、わかりました」
投げやりな蒼月の説明に少々不安を覚えながらも、蒼柊は装置の前へと近付いた。
「父様、その本乗せてくれ。さっさと行って終わらせたい」
「わかったよ、さぁ!2人とも行ってきてくれ!」
鬼灯は持っていた青い本を水晶の上に置く。そして、蒼月がその本を開く。1ページ目を開くと、その瞬間から水晶が淡く光り出す。
「えっ!ちょちょちょ待ってください心の準備が!」
「そんなもの入ったあとでいいだろ、喚くな」
「理不尽だ!!」
蒼柊の訴えも虚しく、目の前の水晶は徐々に光を増していく。視界を白が覆い尽くし、蒼柊は咄嗟に目を瞑った。
瞼の向こうから強い白が無くなった辺りで、蒼柊は目を開く。隣に立つ蒼月はなんともない顔をして、キョロキョロする蒼柊を面白そうに見ていた。
「え、え、ここ、え?」
「本の中だ。いちいちうるさいヤツだな」
「驚くでしょうが!……でもなんか……魂?みたいな……何も無いようにしか見えないですけど」
「……確かにそうだな。探し回るしかなかろう。とは言え、こんな荒野で探し回るほどの遮蔽物も無いが」
目の前に広がる景色は、薄暗く重苦しい曇り空。地面はカラカラに乾涸び、ひび割れていて、疎らに生えている木もおおよそ生きているとは言えなかった。
視野の中に、動き回るものもなければ、目立つような異物もさして見当たらない。
蒼柊は、魂が思ったより居ないことを疑問に思い、その辺に足を踏み出す。すると、蒼月に腕を捕まれる。
「お前、臆病なのか無謀なのかどちらかにしろ。1人で行くと何があるか分からんとは思わんのか?」
「あっ……すいません。悪い癖です」
「一つの事しか出来ないのか貴様は。いいか、あまり離れるな」
「わかりました!」
眉間に皺を寄せ注意する蒼月の顔を、蒼柊はじっとみた。それは何かを思ったからでは無い。美貌とは、それだけで人を捕まえてしまうのだという事実の立証に過ぎなかった。
はっと我に返り、自身の頬をパシンっと両手で叩く。それを蒼月は訝しげに眺めたが、鼻をひとつ鳴らし歩き出した。
「どこかに隠れてるんです……よね?」
「さぁ……だが居るはずだ、まさか居なくなることは無いと思うが」
「そもそも、僕、魂ってどんなものだか分かりません……」
「あぁ、それもそうだな。……ふむ…………。あぁ」
蒼月は、すぐ近くの木の根を指さす。
「こんな感じの、紙人形のような人型のもの……」
「…………蒼月さん」
「…………ああ」
指さした先の、黒い人型の小さな紙人形は動きを止める。
吸血鬼と人間は、その紙人形をじっと見て。
「「 いたぁああ!!! 」」
「それは…剛か?なんでだ…?」
「よくみろ柊平。ほんとにお前の旧友か?」
そう言葉をかけられ、混乱した頭でかつての友の姿を見つめる。意識もなく項垂れている男をよく見ると、半分は確かにかつての友の姿をしている。
「剛…だ…いや…?こいつ、だれだ…?」
「これはお前の友ではない。これは、ドッペルゲンガーだ」
「…そうか…よかった。で?じゃあ、剛は?無事なんだよな?」
蒼月を見上げ、不安と希望が綯い交ぜになった顔をする。
あの気丈だった友が、老いてからこんなにも弱くなったものかとその瞳を見つめる。
「·····なに、そう遠からず会えるだろうよ」
「蒼月·····?なんで目を逸らすんだ、おい、こっち見てちゃんと」
「お前ら冷えるぞ、中に入れ」
柊平の言葉を遮って、蒼月は店の中に入った。
その行動に鬼灯は首を傾げたが、他は皆、黙って蒼月について行った。
柊平もそれに続き、よろめきながら立ち上がって中に入る。
弱々しい祖父を見ていられず、蒼柊は柊平を見ようとしない。
そんな中、鬼灯が空気を壊すような声音で、あっけらかんと話し出す。
「なんだね、よく分からんがまぁやる事をやるとしよう」
「今開ける」
蒼月は本棚の前に立ち、以前蒼柊が誤って解いてしまった仕掛けを作動させる。
また轟音を立て、本棚が動き、あの質素な扉が顔を出す。
扉を開け、 その先に進む。中は相変わらず静かで、本達がひっそりと想いを抱えながら過ごしている。
「はは!この装置も久しぶりに見たね。さて……蒼月、それに蒼柊。他に連れていく人は居るかね?」
「いいや。居ない。フラヴィアーナには危険だし、紅月は本人だし、柊平は老いぼれで役に立たんからな」
「で、でも蒼月さん、俺その、戦ったりとかそういうのは……」
「戦わん。集めて来るだけだ。ほれ、これ一つ持て」
「……?」
蒼月はそう言って、蒼柊に古びた小瓶を渡す。少し重みのある焼き物の瓶は、異様に冷たかった。手の中にあっても、いつまでも熱が移っていかないのかひんやりとしていた。
「冷たい……。蒼月さん、これ、なんのために持ってくんですか?」
「馬鹿でもない限り分かるだろ。その中に魂を入れる。お前は特別なことはしなくていい。魂を見つけたら、その瓶の口を魂に向ければ良いだけだ」
「えっ、わ、わかりました」
投げやりな蒼月の説明に少々不安を覚えながらも、蒼柊は装置の前へと近付いた。
「父様、その本乗せてくれ。さっさと行って終わらせたい」
「わかったよ、さぁ!2人とも行ってきてくれ!」
鬼灯は持っていた青い本を水晶の上に置く。そして、蒼月がその本を開く。1ページ目を開くと、その瞬間から水晶が淡く光り出す。
「えっ!ちょちょちょ待ってください心の準備が!」
「そんなもの入ったあとでいいだろ、喚くな」
「理不尽だ!!」
蒼柊の訴えも虚しく、目の前の水晶は徐々に光を増していく。視界を白が覆い尽くし、蒼柊は咄嗟に目を瞑った。
瞼の向こうから強い白が無くなった辺りで、蒼柊は目を開く。隣に立つ蒼月はなんともない顔をして、キョロキョロする蒼柊を面白そうに見ていた。
「え、え、ここ、え?」
「本の中だ。いちいちうるさいヤツだな」
「驚くでしょうが!……でもなんか……魂?みたいな……何も無いようにしか見えないですけど」
「……確かにそうだな。探し回るしかなかろう。とは言え、こんな荒野で探し回るほどの遮蔽物も無いが」
目の前に広がる景色は、薄暗く重苦しい曇り空。地面はカラカラに乾涸び、ひび割れていて、疎らに生えている木もおおよそ生きているとは言えなかった。
視野の中に、動き回るものもなければ、目立つような異物もさして見当たらない。
蒼柊は、魂が思ったより居ないことを疑問に思い、その辺に足を踏み出す。すると、蒼月に腕を捕まれる。
「お前、臆病なのか無謀なのかどちらかにしろ。1人で行くと何があるか分からんとは思わんのか?」
「あっ……すいません。悪い癖です」
「一つの事しか出来ないのか貴様は。いいか、あまり離れるな」
「わかりました!」
眉間に皺を寄せ注意する蒼月の顔を、蒼柊はじっとみた。それは何かを思ったからでは無い。美貌とは、それだけで人を捕まえてしまうのだという事実の立証に過ぎなかった。
はっと我に返り、自身の頬をパシンっと両手で叩く。それを蒼月は訝しげに眺めたが、鼻をひとつ鳴らし歩き出した。
「どこかに隠れてるんです……よね?」
「さぁ……だが居るはずだ、まさか居なくなることは無いと思うが」
「そもそも、僕、魂ってどんなものだか分かりません……」
「あぁ、それもそうだな。……ふむ…………。あぁ」
蒼月は、すぐ近くの木の根を指さす。
「こんな感じの、紙人形のような人型のもの……」
「…………蒼月さん」
「…………ああ」
指さした先の、黒い人型の小さな紙人形は動きを止める。
吸血鬼と人間は、その紙人形をじっと見て。
「「 いたぁああ!!! 」」
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる