快晴に咲く

春夏冬 ネモ

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訪ね歩くは本の虫

花の名前

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「マホ、今お前はスポンジだ」

「え?」

「スポンジみたいに、なんでも吸い込めるイメージをしろ。勝手にお前に魔力が入っていく」

「わ、わかった!」



 白い光は、マホの体に染み込むように消えていく。
 その工程を2、3度繰り返した。



「マホ、具合はどうだ」

「あ……お腹、いたくない!」

「手の痣は」

「あれ!?ない!!」

「やっぱり……。良かったな。マホ、お前の魔力量は今日からずっとその量だ。見たところ第二次性徴はまだみたいだから、これから運が良ければもっと増えることが1度だけ有る。頑張れ」

「わ、分かりました!あ、あの!」

「なんだ」

「マホ、マホを!弟子に……」

「……」



 弟子入りを申し込んできたマホの頭に、セイカは片手を置いてぐりぐりと撫でた。
 そして、少しの間があったあと、その手を仕舞いマホの目を見つめた。



「それは無理なお願いだ。俺は人に教えるのが下手くそなんだ。それに、今は親友と旅をしている途中だ。人間がどのくらい残っているのか、他の魔法使いはどうなったのか。それを確かめなきゃいけない」

「親友さん……そこの……ビオンさま?」

「ああそうだ。ビオンは俺の親友なんだ。……マホ、お前にこの旅はまだ危険だ。黒く煤けた元人間がいつ、お前を襲うか分からない。守り切れる約束は出来ない。だから、ごめんな」

「…………マホ、マホじゃ、役に立たない……?」



 少し泣きそうなマホに、セイカは慌てて訂正する。



「ち、違うんだ、あー……えっと……。役に立たないなんて言わないが……あーーー……」



 困った目で後ろのビオンを見る。ビオンは自分で説得しなさい、と首を振る。



「えっとなあ……俺は、あの……。ほんと、人に教えるの下手くそなんだ、それでえっと……。普通の魔法をどの程度お前に教えていいのかも分からないし……。お前の可能性は充分だ!だけど、まだお前は小さいしだから…………」

『フフ……ご主人困ってる……フフ……ねーご主人!その子、まだ契約してる妖精は居ないみたいだよ?』

「ぁ……。そうだ!じゃあマホ、こうしよう!お前が契約妖精を自分で獲得出来たら、考えてやらないこともない!」

「かくやくじゃないの……??……でもマホ、そんな魔法しらない……」

「魔法陣だけは教えてやる。あとはどうやって発動させて、どうやって契約するか。お前はそれを自分で考えるんだ。俺たちは少しだけここで滞在する。1週間だ。その間に成功したら、考える」

「……!……わかった!マホ、頑張る!!」



 何とか涙を流させずに済んだことにホッと息を吐き、立ち上がる。
 そして、マホに頑張れよと言い、マホの家を出た。
 そして数メートル歩いてから、セイカは長いため息と共にしゃがみ込んだ。



「あっはは!セイカ頑張ったねえ!ほんとうにセイカ、子供に好かれるよね」

「弟子にしろ、は初めてだ……」

「いいじゃない。どうせ僕らプラチナは次世代を育成しなきゃならない。途中入学は無理だからね、少し難度高いけど。セイカの口利きなら、学院長も昇級試験だけは受けさせてくれるよ」

「……まぁ、そうだな。ビオン、そういうわけで、ちょっとここに居るぞ。その間、今からクラウド卿とアンジュに手紙を出す。他のプラチナにもだ。返事が来るかも待ちつつ、俺は研究する。お前も、世界本棚で調べてみてくれないか」

「わかった。……ふふ、なんだかんだ弟子取り乗り気じゃん?」

「うるせえ」



 セイカはからかわれると、少し顔を赤くしながらムッとした。
 そんな様子を、ビオンは楽しげに眺めた。

 その日から、1週間ほど村に滞在するため空き家を貸してもらった。
 空き家とはいえボロではなく、元々村長が使っていた家だそうだ。
 そのため広さは2人で居ても有り余るくらいだった。


 セイカは、村のハズレから花を1輪採取し持ち帰る。
 人だと思うと申し訳ないが、何も分からないままでは旅をしていても意味が無い。

 そして、羊皮紙に文をしたためた。

 アンジュ、クラウド卿、その他プラチナの魔法使い、学院長。

 それらを鳩に託し、返事を待つ。

 待機の間、採取してきた花を隅々まで調べることにした。魔力量測定、花の構成物質の測定、晴れとの関係性。


 今わかっているのは、魔力の全くない人間は触れた途端黒く煤け、花になること。
 魔法使いに基本的には効かないが、魔力量が極端に少ないものにはその限りでは無いこと。
 魔力を底上げしたら、それは解決するということ。

 花自体にも魔力があり、それは魔力の無い人間から成ったとしても花になった途端獲得すると考えるのが妥当だろう。
 花の構成は、気持ち悪いほどに人間の成分と同じだった。触り心地も、人の肌のように滑らかで吐き気がした。



「気持ち悪いが……元人間なら致し方ないか…。ビオン、そっちはどうだ?」

「世界本棚を開いて調べてみたけど、中々いいものは見当たらないね。晴れとの関係性については、昔の伝承を見つけた。おとぎ話だと思っていたものだよ」

「そうか。それ、どんなやつだ?」

「……機嫌、悪くしない?」

「は?しねえけど……なんだよ?」

「その……花の名前がさ……"晴花せいか"って、いうんだ……」

「………………そうか、それで?」



 セイカは、今握っているものがそうとは限らないにしても、同じ名前というのが気持ち悪くなった。
 セイカの名前は、女神がくれたものだ。
 泉から魔法使いが生まれる時、名前はその泉の女神がつけてくれる。

 セイカが生まれた泉は、ここから遥か南西側の大きな泉だった。すぐ側には、女神を祀った神殿が構えられている。
 その泉から魔法使いが生まれること自体稀だったが、母とも言えるセイカの女神は、セイカを見て考える素振りもなく「セイカ」と呼んだ。

 名付けの瞬間の記憶だけは、どの魔法使いも持っている。本当に、そういう女神だった。



「……それでね、その晴花は、ある時世界に咲き始めるんだ。それで、その代わりに人が居なくなっていく。花が咲いた地域は、その花の魔力が寄り集まって雲を弾き飛ばして、常に晴れなんだって。……ごめん、ボクもびっくりで……」

「お前は悪くねぇ。……ビオン、1週間経ったら、アンジュの街に向かうぞ。……それと、その途中にある、俺が生まれた泉にも。女神に聞かなきゃなんねぇことがある」

「女神様がでてくるの……?」

「しらねぇ。出てこさせる。……なぁビオン。お前の名前は、どう付けられたんだ」

「ボクの?……たしか、女神様が1週間くらい悩んだ末に公募して決まった名前だったかな……。もうその泉の住民、滅びちゃったけど。ボクの女神様、優柔不断なんだ。でも大抵死ぬほど悩んでると思うよ」

「そうか……。じゃあなんで、俺の女神は俺を見た瞬間に、セイカの名前を呼んだんだろうな……」

「……」



 ビオンは何も答えることが出来なかった。女神が考えている事など、自分たちには分からない。
 黙り込んだビオンを見て、セイカも少しだけ申し訳なくなる。



「あー……、ビオン!」

「な、なに?」

「腹へったな~、ビオンの飯がくいたいな~~」

「! わかった!」

「よっしゃ~!」



 何とか親友のメンタルを保つことに成功する。しかし、この花と、自分の名前が本当に同じなのだしたら
 女神にだけは、絶対に会わなければならない。

 先程手紙を送ったアンジュの街は、セイカが生まれた泉の近くだった。幼い頃、住処が近いこともありアンジュとは腐れ縁が有る。
 勿論、女神同士も仲が良かった。
 アンジュの泉は、セイカの泉のすぐ隣にある泉だった。
 だが、セイカの泉とは違い、神殿もない小さな泉だ。

 もし、セイカの女神が出てこなかったとしたら。その時は、アンジュの女神を訪ねよう。あの女神はひょうきんだ、絶対に出てくる。


 そうして考えていると、ビオンが作った夕飯が出来上がったようだった。
 腹がすいたまま考えていても仕方ない。セイカは腰を上げ、夕飯を食べ、その日は休むことにした。



 翌朝、鳩が手紙を置いていってはないかと窓辺を見た。



 そこには、数通の手紙があった。
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