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チャプター4:崩壊
第23話 ノックアウト
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「その力が使えるのを…自分だけだと思うな」
唸るイナバを前にして、アイザックは武装形成を解除すると拳銃を取り出してこめかみに押し付ける。頭に押し付けた拳銃から発砲音が響き、その場に倒れ伏したアイザックもイナバと同様の過程を経て、禍々しい姿の巨獣へと変貌する。そしてイナバを一回り上回る体躯でアスファルトに亀裂を入れながら一歩ずつ歩き出した。
「貴様さえ始末すれば俺に敵はいない」
おどろおどろしい声とともにアイザックは言いながら、こちらへ向かって来るイナバに合わせて走り出す。絶え間ない地響きと共に両雄が激突した瞬間、周囲を揺るがすほどの衝撃が走った。
――――次々に襲い掛かって来る未確認生命体を相手に、キース達はありったけの鉛玉を浴びせ続ける。アビゲイルが指揮している一般兵たちは即席の遮蔽物や配備した車両に隠れつつ前線で暴れる強化外骨格を身に纏った者達をサポートしていた。
「どうしたどうした!人間様の力を思い知らせてやる!」
アドレナリンの分泌によって興奮してるのか、マルコムは単細胞じみた言葉をのたまいながら機関銃を連射し続け未確認生命体や敵対するアマルガム達を皆殺しにせんとする勢いで暴れる。キースも後に続き、アビゲイルも兵士達を指揮し射撃を続けていた。
その時、どこからか騒がしい破壊音が聞こえたキースのもとへキッドから通知が入った。
『すぐに退避してください!』
「キッド?一体――」
キッドが発した警告の意味が良く分かっていなかったキースが理由を問いただしていた瞬間、建物を倒壊させながら何かが吹き飛ばされたのを目撃する。変異したイナバであった。地面を抉りながら転げまわり、辛うじて態勢を整えていた彼だったが、すぐに現れたもう一体の変異体と揉み合いになりながら殴り合いを再開し始める。
「援護どころじゃねえぞアレ…」
周囲が唖然とする中でキースは少し震えた様に呟いた。高速かつ周囲を巻き込む広い規模での破壊を生み出しながら肉弾戦を繰り広げる二体のアマルガム、それも報復現象によって大幅に強化された特殊個体である彼らの戦いである。下手に介入すればどうなるかは火を見るよりも明らかだった。とうとうアマルガム達も、たまらず逃げ出し始めてしまう。
「アビゲイル、一般兵を指揮して逃走した者達の追跡を行え!マルコム、お前は俺と来い!」
余裕無く喋るキースに二人は返事をしてそれぞれ行動を開始する。
「どうする気です?」
マルコムは走りながらキースに尋ねた。
「こうなったら航空支援を使う。大暴れのせいで滅茶苦茶になるよりマシだ」
キースは端末を使って準備をしながらマルコムに答えた。
――――オルガとサミュエルが幾度となく攻防を繰り返し、鍔迫り合いをしていた頃にヘンリーが助太刀に現れた。ヘンリーは機関銃でオルガを攻撃するが、アイザックも使用した鎧の姿を取っていたオルガは平気そうに彼へ詰め寄る。弾切れを起こした後にサミュエルの刀と同じ機構を持つマチェットを手に取ったヘンリーは、彼女を牽制しつつ間合いを取る。
サミュエルもオルガの背後で構えを取り、挟み撃ちの状態で静かに時が来るのを待つ。一方で物陰に隠れていたレイは、フランクから支給された試作品のグレネード弾をアサルトライフルに取り付けている発射器へと装填してチャンスを窺い続ける。
踏み出したヘンリーを皮切りに、サミュエルも動き出して二人で同時に攻撃を始める。オルガは二人をあしらいながらも適切なタイミングで反撃をして徐々に疲弊をさせていった。気が付けば外骨格も損傷の激しさが増しており、このままでは時間の問題だと考えたヘンリーは一か八かの賭けに出る。
標的がサミュエルの攻撃に気を取られていた瞬間を狙い、サミュエルが蹴り飛ばされた直後に背後から羽交い絞めにする。そしてレイに向かって叫んだ。
「構わねえ!このままやれ!」
一瞬だけ躊躇いを見せたレイだったが、次の瞬間には物陰から飛び出してグレネード弾を発射した。想像よりも勢いよく発射されたグレネード弾がオルガの肉体に触れた瞬間、フックが作動して鎧の様な外殻に食い込んだが爆発は起きなかった。
「何、これ…?」
ヘンリーを肘打ちで殴り倒したオルガは、急いでそれを取り外そうとした直後グレネードの内部にあった装置が作動した。弾頭の先からアイスピックのような鋭い針が突き刺さり、弾の中に仕込まれていた液体を体内に注入する。激痛のあまり状況が呑み込めないオルガだったが、次第に自分の体が言う事を聞かなくなり、内側から燃えるような熱さを感じる。
「そんな…!!」
悲鳴を上げようとした直後、注入をされた胸部が豪快に破裂した。そのまま崩れ落ちたオルガの身体はすぐに蒸発をするように煙を上げて、やがて完全に消失してしまう。フランクがウィリアムの肉体とイナバの血液を調査した後に作り上げた「対アマルガム専用弾頭」、その名も"解放殲滅弾"である。弾頭内に液体に仕込んだ特殊なナノマシンを注入し、無理矢理セル粒子達の暴走を引き起こさせた結果、肉体が耐えきれずオーバーヒートした事によってオルガは死んだのであった。
「あのバカ、効果ぐらい教えておけっての」
レイは愚痴を言いながら愕然とした様子で近づき、立ち上がろうとするヘンリーに手を貸した。サミュエルの無事も確認してから、機能を失いただの鉄くずのようになった外骨格を引き摺る様にヘンリーは歩き出した。レイ達も彼に続いてその場を立ち去る。
「済まなかったな。とんだ足手纏いになってしまった」
申し訳なさそうにサミュエルは二人に謝った。
「大丈夫よ。しかし『構わねえ、このままやれ』…だってさ。フフ」
「…カッコつけたかったんだよ。笑うな」
レイに冷やかされたヘンリーは、露骨に不機嫌になりながら照れくさそうに歩調を強めた。
――――街のビルや施設が次々と壊される中、イナバとアイザックによる大立ち回りは続いていた。しかし、慣れの差なのか次第にイナバは防戦一方になってしまい、アイザックによる攻めたての餌食になってしまう。だがアイザックも余裕があるわけではないらしく、互いに満身創痍になりつつあった。
『空爆用の無人機を上空で待機させています』
「よし、俺が合図をしたら発射出来る様にしててくれ」
キッドから情報が送られたキースは彼らから離れた場所で戦いの様子を窺う。押し倒されたイナバは、アイザックが振り下ろしてくる攻撃を防ぎ続けていたが、不意に彼が腕に生やした刃を肩に突き刺されてイナバは悲鳴を上げる。アイザックがトドメを刺そうとした時、イナバによる悪あがきの拳が炸裂した。顔を殴られて吹き飛ばされた拍子に突起物によって肉が引き裂かれたが、肉体のダメージは既にどうでも良くなっていた。
「…やれ!」
倒れたアイザックの姿を見たキースは勝機を見出し、キッドに対して爆撃を指示した。間もなく小型ミサイルが放たれ、標的をアイザックへ定めた後に突っ込んでくる。ミサイルが撃ち込まれると辺りにある物が衝撃で吹き飛ばされ、壊された。爆発によって起こった煙が晴れると、辛うじて耐えきっていたらしいアイザックがまた立ち上がってこようとしている。
イナバは雄たけびを上げながら突撃し、最後の最後に全力で拳を顔面に叩き込んだ。そのまま地面に叩きつけられたアイザックは陥没した地面の中央で変異を解除させられて倒れていた。イナバも気づけば姿が元に戻り、必死に体を動かしながら彼へ近づく。
「終わりだぜ。何もかも」
イナバがそう言うが返事はない。既に虫の息であったアイザックは、死ぬのも時間の問題であった。
「お前のせい…で…多くのアマルガム達が…死ぬ…ハハッ…人間風情に…媚なんか売りやがって」
アイザックの口から苦し紛れの負け惜しみが聞こえて来た。
「俺の味方は最初から人間だよ。お前達じゃない」
「違うな…今だけだ…!俺達が街から…居なくなれば…次は…お前だ」
イナバに否定されようが、アイザックは不安を掻き立てようとしているのか必死に血を吐きながら話を続ける。
「…その時はその時だよ。今はただ職務を全うする」
イナバがそう言った頃、キース達も彼らの下へ到着する。突如として勃発した壮絶な市街戦はこうして幕を下ろした。
唸るイナバを前にして、アイザックは武装形成を解除すると拳銃を取り出してこめかみに押し付ける。頭に押し付けた拳銃から発砲音が響き、その場に倒れ伏したアイザックもイナバと同様の過程を経て、禍々しい姿の巨獣へと変貌する。そしてイナバを一回り上回る体躯でアスファルトに亀裂を入れながら一歩ずつ歩き出した。
「貴様さえ始末すれば俺に敵はいない」
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――――次々に襲い掛かって来る未確認生命体を相手に、キース達はありったけの鉛玉を浴びせ続ける。アビゲイルが指揮している一般兵たちは即席の遮蔽物や配備した車両に隠れつつ前線で暴れる強化外骨格を身に纏った者達をサポートしていた。
「どうしたどうした!人間様の力を思い知らせてやる!」
アドレナリンの分泌によって興奮してるのか、マルコムは単細胞じみた言葉をのたまいながら機関銃を連射し続け未確認生命体や敵対するアマルガム達を皆殺しにせんとする勢いで暴れる。キースも後に続き、アビゲイルも兵士達を指揮し射撃を続けていた。
その時、どこからか騒がしい破壊音が聞こえたキースのもとへキッドから通知が入った。
『すぐに退避してください!』
「キッド?一体――」
キッドが発した警告の意味が良く分かっていなかったキースが理由を問いただしていた瞬間、建物を倒壊させながら何かが吹き飛ばされたのを目撃する。変異したイナバであった。地面を抉りながら転げまわり、辛うじて態勢を整えていた彼だったが、すぐに現れたもう一体の変異体と揉み合いになりながら殴り合いを再開し始める。
「援護どころじゃねえぞアレ…」
周囲が唖然とする中でキースは少し震えた様に呟いた。高速かつ周囲を巻き込む広い規模での破壊を生み出しながら肉弾戦を繰り広げる二体のアマルガム、それも報復現象によって大幅に強化された特殊個体である彼らの戦いである。下手に介入すればどうなるかは火を見るよりも明らかだった。とうとうアマルガム達も、たまらず逃げ出し始めてしまう。
「アビゲイル、一般兵を指揮して逃走した者達の追跡を行え!マルコム、お前は俺と来い!」
余裕無く喋るキースに二人は返事をしてそれぞれ行動を開始する。
「どうする気です?」
マルコムは走りながらキースに尋ねた。
「こうなったら航空支援を使う。大暴れのせいで滅茶苦茶になるよりマシだ」
キースは端末を使って準備をしながらマルコムに答えた。
――――オルガとサミュエルが幾度となく攻防を繰り返し、鍔迫り合いをしていた頃にヘンリーが助太刀に現れた。ヘンリーは機関銃でオルガを攻撃するが、アイザックも使用した鎧の姿を取っていたオルガは平気そうに彼へ詰め寄る。弾切れを起こした後にサミュエルの刀と同じ機構を持つマチェットを手に取ったヘンリーは、彼女を牽制しつつ間合いを取る。
サミュエルもオルガの背後で構えを取り、挟み撃ちの状態で静かに時が来るのを待つ。一方で物陰に隠れていたレイは、フランクから支給された試作品のグレネード弾をアサルトライフルに取り付けている発射器へと装填してチャンスを窺い続ける。
踏み出したヘンリーを皮切りに、サミュエルも動き出して二人で同時に攻撃を始める。オルガは二人をあしらいながらも適切なタイミングで反撃をして徐々に疲弊をさせていった。気が付けば外骨格も損傷の激しさが増しており、このままでは時間の問題だと考えたヘンリーは一か八かの賭けに出る。
標的がサミュエルの攻撃に気を取られていた瞬間を狙い、サミュエルが蹴り飛ばされた直後に背後から羽交い絞めにする。そしてレイに向かって叫んだ。
「構わねえ!このままやれ!」
一瞬だけ躊躇いを見せたレイだったが、次の瞬間には物陰から飛び出してグレネード弾を発射した。想像よりも勢いよく発射されたグレネード弾がオルガの肉体に触れた瞬間、フックが作動して鎧の様な外殻に食い込んだが爆発は起きなかった。
「何、これ…?」
ヘンリーを肘打ちで殴り倒したオルガは、急いでそれを取り外そうとした直後グレネードの内部にあった装置が作動した。弾頭の先からアイスピックのような鋭い針が突き刺さり、弾の中に仕込まれていた液体を体内に注入する。激痛のあまり状況が呑み込めないオルガだったが、次第に自分の体が言う事を聞かなくなり、内側から燃えるような熱さを感じる。
「そんな…!!」
悲鳴を上げようとした直後、注入をされた胸部が豪快に破裂した。そのまま崩れ落ちたオルガの身体はすぐに蒸発をするように煙を上げて、やがて完全に消失してしまう。フランクがウィリアムの肉体とイナバの血液を調査した後に作り上げた「対アマルガム専用弾頭」、その名も"解放殲滅弾"である。弾頭内に液体に仕込んだ特殊なナノマシンを注入し、無理矢理セル粒子達の暴走を引き起こさせた結果、肉体が耐えきれずオーバーヒートした事によってオルガは死んだのであった。
「あのバカ、効果ぐらい教えておけっての」
レイは愚痴を言いながら愕然とした様子で近づき、立ち上がろうとするヘンリーに手を貸した。サミュエルの無事も確認してから、機能を失いただの鉄くずのようになった外骨格を引き摺る様にヘンリーは歩き出した。レイ達も彼に続いてその場を立ち去る。
「済まなかったな。とんだ足手纏いになってしまった」
申し訳なさそうにサミュエルは二人に謝った。
「大丈夫よ。しかし『構わねえ、このままやれ』…だってさ。フフ」
「…カッコつけたかったんだよ。笑うな」
レイに冷やかされたヘンリーは、露骨に不機嫌になりながら照れくさそうに歩調を強めた。
――――街のビルや施設が次々と壊される中、イナバとアイザックによる大立ち回りは続いていた。しかし、慣れの差なのか次第にイナバは防戦一方になってしまい、アイザックによる攻めたての餌食になってしまう。だがアイザックも余裕があるわけではないらしく、互いに満身創痍になりつつあった。
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キッドから情報が送られたキースは彼らから離れた場所で戦いの様子を窺う。押し倒されたイナバは、アイザックが振り下ろしてくる攻撃を防ぎ続けていたが、不意に彼が腕に生やした刃を肩に突き刺されてイナバは悲鳴を上げる。アイザックがトドメを刺そうとした時、イナバによる悪あがきの拳が炸裂した。顔を殴られて吹き飛ばされた拍子に突起物によって肉が引き裂かれたが、肉体のダメージは既にどうでも良くなっていた。
「…やれ!」
倒れたアイザックの姿を見たキースは勝機を見出し、キッドに対して爆撃を指示した。間もなく小型ミサイルが放たれ、標的をアイザックへ定めた後に突っ込んでくる。ミサイルが撃ち込まれると辺りにある物が衝撃で吹き飛ばされ、壊された。爆発によって起こった煙が晴れると、辛うじて耐えきっていたらしいアイザックがまた立ち上がってこようとしている。
イナバは雄たけびを上げながら突撃し、最後の最後に全力で拳を顔面に叩き込んだ。そのまま地面に叩きつけられたアイザックは陥没した地面の中央で変異を解除させられて倒れていた。イナバも気づけば姿が元に戻り、必死に体を動かしながら彼へ近づく。
「終わりだぜ。何もかも」
イナバがそう言うが返事はない。既に虫の息であったアイザックは、死ぬのも時間の問題であった。
「お前のせい…で…多くのアマルガム達が…死ぬ…ハハッ…人間風情に…媚なんか売りやがって」
アイザックの口から苦し紛れの負け惜しみが聞こえて来た。
「俺の味方は最初から人間だよ。お前達じゃない」
「違うな…今だけだ…!俺達が街から…居なくなれば…次は…お前だ」
イナバに否定されようが、アイザックは不安を掻き立てようとしているのか必死に血を吐きながら話を続ける。
「…その時はその時だよ。今はただ職務を全うする」
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