アマルガム

シノヤン

文字の大きさ
上 下
22 / 26
チャプター4:崩壊

第21話 賽は投げられた

しおりを挟む
 あまりにも突然すぎる報道によって駅前がざわついていた時、パトカーのサイレンが遠くから聞こえた。間もなく現れた警察、そしてレギオンの車両によって道路が塞がれ、警官達によって民間人はその場からの避難を余儀なくされる。この時、スカーグレイブの各地に存在する国道や入り口にも同じようにして兵士や警官達が配備されていた。

 最後に到着した装甲車両からCVATの隊員達が武装した状態で登場した。銃を構えてアイザックを牽制する警官達の背後から現れたのは、強化外骨格を身に纏ったキースとヘンリー、そしてイナバである。そのほかの者達は周辺や街の警備に辺り、本部のオフィスにもナーシャとエマが待機してモニターで街の様子を解析している。まるで総力戦であった。

「アイザック・ウィンストン。報道の通りだ!こちらは既に証拠も押さえてあるぞ」

 キースはそうやって叫びながら、いつでも攻撃が出来る様にだけ準備をしつつ部下達と共に近寄って行く。ここしばらくの間、レギオンは警察と連携して市議会やニュースメディアへ極秘に捜査のメスを入れていた。幸いなことにアイザックによる指示の一部始終を映像で捉えられていた事もあってか、取り調べや情報の収集は想定よりも苦労せずに済んだのである。資本主義による出世欲が野心を駆り立てたのか、彼の失脚を狙うスペンテック社の関係者も喜んで情報提供に協力した。

「この周辺も我々が包囲している。抵抗はせずに大人しく同行していただきたい」

 ヘンリーもアイザックに対して穏やかに言った。当然アイザックは大人しく従うつもりなどなかった。

「嫌だと言ったら?」
「力ずくだ」

 アイザックが尋ねるとキースはすぐに返答して機銃を構える。その時、レギオン本部にいる仲間達から連絡が入る。エマからだった。

「隊長!各地でアマルガムの反応と目撃が報告されています!」
「クラスAも数体確認されている!現場の戦力じゃ抑えられそうにない!」

 エマに続いてナーシャも状況を伝えた。キース達が通信に気を取られた直後、アイザックは右腕を巨大な腕に変形させて一気に殴り飛ばすと、一目散にステージを飛び越えて逃げ出した。

「アレス、すぐにそいつを追え!最悪の場合は殺害も許可する!」

 吹き飛ばされたキースが何とか立ち上がりながら指示を出すと、イナバは応答をしてすぐに追跡を開始する。その後、他の者達は手分けをしてアマルガム達が出現している地域へ急行する事となった。

 アイザックとイナバは街の建物の間を飛び交い、自動車を踏み越えながら壮烈な駆け引きを繰り広げていた。アイザックは、このまま違う地域か人目に付かない場所まで逃げた上で自分を追跡している者達を片っ端から始末しようかとも考えていたのだが、オルガから入った連絡によって街全体が実質封鎖された状態にある事を知った後は、無事に逃走できる可能性はほぼ無いと判断した。どこかで持ちこたえてくれれば応援を寄越すと連絡を受けたアイザックは、個人商店が立ち並ぶ寂れた通りへ差し掛かると、足を止めてイナバが向かってくる方向へと向き直る。

「大人しくする気になった?」

 到着したイナバは、見覚えのある商店を少しだけ懐かしみながらアイザックへ投降の意思があるかを尋ねる。

「…自分の力がどれほど強大なものであるか、分からないわけでは無いだろう?首輪を繋がれたまま、他人に頭を下げ続けて一生を終える気か?」
「何が言いたいんだよ?」

 いきなりそのような事を言い始めたアイザックに対して、イナバは怪しみながら言った。

「残る道は二つに一つだ。これから死ぬか…私の下に来るかだ」
「もう一つあるぜ。お前が負けるっていう選択肢がな」

 死を宣告してきた上に、下僕になれとでも言うように見下した事をのたまうアイザックに対して、イナバは素っ気なく誘いを断る。そして両腕をフィスト形態に変えて戦う気がある事をアピールした。アイザックもそれに応えるように、両腕を鋭い爪に変形させるとウォーミングアップ代わりに軽く跳ねる。そして静かに臨戦態勢に入ると、互いが相手の挙動に気を配りながら隙を窺っていた。

 最初に動いたのはイナバだった。フッと息を少しだけ吐きながら駆け出すと、アイザックも待っていたと言わんばかりに駆け出す。拳を振りかぶって殴ろうとした瞬間にアイザックはそれを鋭い爪が生えている手で受け止め、もう片方を使ってイナバの脇腹へ貫手を放つ。イナバは彼の腕を掴んで脇腹に届くギリギリでそれを止めると、お互いに力を緩めることなく押し合いが始まった。

 直後にイナバがアイザックに向けて頭突きをかます。怯んだアイザックから手を振りほどいて僅かに距離を取ろうとしたイナバだったが、アイザックはそれを見越していたのか彼へ蹴りを放つ。すぐに腕で防いだものの吹き飛ばされたイナバは、着地を決めつつアイザックの方を見た。

「つくづく惜しい。今日からでも部下にしたいくらいだよ」

 本心かどうかは分からなかったが、アイザックはそう言うと再び構えて挑発するように指を動かして「掛かって来い」とイナバを誘った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

MMS ~メタル・モンキー・サーガ~

千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』 洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。 その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。 突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。 その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!! 機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

それでも僕は空を舞う

みにみ
SF
この空を覆う 恐怖 悲しみ 畏怖 敬意 美しさ 大地を覆う 恐怖 幸せ  それを守るために空に舞う、1人の男と それを待つ1人の女の物語

機動幻想戦機

神無月ナデシコ
SF
リストニア大陸に位置する超大国ヴァルキューレ帝国は人型強襲兵器HARBT(ハービット)の製造に成功し勢力を拡大他国の領土を侵略していった。各国はレジスタンス組織を結成し対抗するも軍事力の差に圧倒され次々と壊滅状態にされていった。 これはその戦火の中で戦う戦士達と友情と愛、そして苦悩と決断の物語である。 神無月ナデシコ新シリーズ始動、美しき戦士達が戦場を駆ける。

INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー 魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。 「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。 <第一章 「誘い」> 粗筋 余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。 「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。 ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー 「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ! そこで彼らを待ち受けていたものとは…… ※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。 ※SFジャンルですが殆ど空想科学です。 ※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。 ※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中 ※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。

SEVEN TRIGGER

匿名BB
SF
20xx年、科学のほかに魔術も発展した現代世界、伝説の特殊部隊「SEVEN TRIGGER」通称「S.T」は、かつて何度も世界を救ったとされる世界最強の特殊部隊だ。 隊員はそれぞれ1つの銃器「ハンドガン」「マシンガン」「ショットガン」「アサルトライフル」「スナイパーライフル」「ランチャー」「リボルバー」を極めたスペシャリストによって構成された部隊である。 その中で「ハンドガン」を極め、この部隊の隊長を務めていた「フォルテ・S・エルフィー」は、ある事件をきっかけに日本のとある港町に住んでいた。 長年の戦場での生活から離れ、珈琲カフェを営みながら静かに暮らしていたフォルテだったが、「セイナ・A・アシュライズ」との出会いをきっかけに、再び戦いの世界に身を投じていくことになる。 マイペースなフォルテ、生真面目すぎるセイナ、性格の合わない2人はケンカしながらも、互いに背中を預けて悪に立ち向かう。現代SFアクション&ラブコメディー

ホワイト・クリスマス

空川億里
SF
 未来の東京。八鍬伊織(やくわ いおり)はサンタの格好をするバイトに従事していたのだが……。

処理中です...