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チャプター3:始動
第12話 お尋ね者
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バスでの妨害に成功したと思っていたジェイソンは、後ろを振り返らず逃げ続けてどうにか仲間達との集合場所であった空きビルへと辿り着いた。中に入りながら腕に付けていた端末で仲間達に繋ぐと、少々息を切らしながら警告をする。
「全員準備しろ!サムライ野郎が来るぞ!」
「おい、狙いはもう一人の奴じゃないのか?」
「知るか。どの道殺せって話だろ!」
ジェイソンは仲間たちとやり取りをしてからビルの階段を上がって行った。一方で空きビルの付近に到着したサムは周囲を見回していたが、ちょうどその時にエマから連絡が入る。
「スサノオ、聞こえる?気づいてると思うけど、あなたのヘルメットに機能として付けてある探知機が、左側にある空きビルから複数の強力な脳波を検出してる。ホールの反応も無いから…まあ、そういう事みたい」
「分かった。気を付けておこう…キッド、念のためにカメラをオンにしろ。そしてアレスのヘルメットと同期してリアルタイムで映像を見せるよう設定してくれ」
『了解です、すぐに取り掛かります』
エマから忠告を受けたサミュエルは、キッドに頼みカメラのオンライン機能を起動する。後を追いかけていたイナバは、ヘルメットのスクリーンに登場した画面に少し驚いた。
「キッド、これは?」
『スサノオの使用しているヘルメットのカメラをオンにして、それを共有しています。タイミングを見計らって突入してほしいとの事です。』
「なるほど。後は場所だけだな」
『ご心配なく、ナビゲーションを起動します』
キッドからそう告げられると、ヘルメットの拡張現実機能によって目的地の詳細が画面に表示される。自分が今立っているいる場所から少し離れた建物の上に、赤色の逆三角形型のアイコンが表示されていた。
『赤色のアイコンが見えますか?そこが目的地です』
「すぐに向かう!それにしても便利だなホントに…」
イナバは技術の進歩に驚きながらも、ヘルメットのスクリーンに表示されるナビを頼りに目的地である空きビルへと急ぐ。一方空きビルでは、サミュエルによる殺戮の真っただ中であった。不意打ちをしようにもすぐに気づかれてしまい、隠れていたものや正面から襲い掛かって行った者達は片っ端から斬り殺された。銃を使い抵抗する者もいたが、防がれるか或いはそれよりも先に接近されてしまい哀れな末路をたどった。
静かに階段を昇って最上階に着くと、ジェイソンは狼狽えつつも臨戦態勢に入った。
「ありえない…クラスCのはずだぞ…」
「ま、おもちゃのおかげだ」
見せつけるように刀で床に傷を付けながら、サミュエルは歩み寄っていく。無慈悲そうな佇まいを前にジェイソンは右腕を振り回して攻撃をするが、上体を反らして躱されてしまう。続けざまに攻撃を仕掛けていくが、刀で弾かれてしまいまともに当てられなかった。
「どうすりゃ良いんだこんな奴…!」
「何もされてないのにもう諦めるのか?…あいつの方がまだ根性がある」
「な、何だと?」
サミュエルが落胆した様に呟くと、流石にむかっ腹が立ったらしいジェイソンが言い返して来た。サミュエルはイナバからの連絡に目を通してから、ゆっくりと歩き出した。思わずジェイソンは後ずさりし、日の当たっているガラス張りの屋根の真下に追い詰められてしまう。
「最近かわいい後輩が出来てな。まあ格闘訓練でボコボコにしてやるんだが、へこたれもせずに何度も向かってくるんだよ。成り行きで雇われただけのもやしっ子とは思えん良い根性をしてる奴だ」
「まさか…」
「そのまさかだ。ついでに上から来るぞ」
サムが言った直後、ジェイソンは辺りが急に暗くなったのを感じて思わず上を見た。人影が太陽を遮ってこちらへ飛び込んで来ていたのが原因だと気づいたが、行動を取ろうとする頃にはガラス張りの屋根を突き破ってきた人影からそのまま顔面に拳を叩きこまれる。
「おっと!」
追撃をする前にジェイソンが右腕を振り回して暴れたので、イナバは後方への回避を余儀なくされた。イナバが離れたのを見たジェイソンはすぐさま腕の端末から位置情報を仲間に伝える。
「クソっ…終わってたまるかよこんな所で!」
「犯罪者じゃなければカッコいいのに、その台詞」
「…構えろ」
ジェイソンがヤケクソ気味になりながらそう言うと、イナバは感心していたがサミュエルに窘められた。鞭のようにしならせて右腕を振り回して来るが、狭い部屋という事もあってかイナバは上手く回避できなかった。フィスト形態で防ぐことは出来たものの、中々間合いへ近づく事が出来ない。
「落ち着いて相手を見ろ。厄介そうだが攻撃はデタラメ、動き自体は目で追えないわけじゃない。ただの素人だ…俺に合わせろ」
「了解」
サミュエルが走り出すと、イナバもそれに合わせた。ジェイソンはどちらを攻撃しようか迷い、横に薙ぎ払う様にして振ってみるが躱されてしまう。さらには伸ばし切っていた腕をイナバに掴まれてしまった。右腕についていた無数の細かい刃が時折服を切り裂くが、イナバは手を緩めるどころかそのままジェイソンを振り回した。天井に一度叩きつけられて意識が朦朧としそうになる最中、また振り回される羽目になるが次の瞬間にはサミュエルによって右腕が切り落とされた。
「ぐあぁっ…!!」
悲鳴を上げて床へ放られたジェイソンは再び腕を生やそうと試みるが、それよりも前にイナバに胸倉を掴まれてしまい、彼の頭上へと持ち上げられた。イナバは片腕だけをソード形態に変形させ、その切っ先をジェイソンに向ける。
「ま、待て、見逃してくれよ!殺すつもりは無かったんだ!」
「ふざけてるのか!お前のせいで人が死にかけたんだぞ!」
心にもない嘘を吐きながらジェイソンは許しを乞うたが、イナバは気を緩めることなく彼が犯した罪を追及した。
「アレは…そうだ、あんた達なら止めると信頼してやったんだよ!一応はあんた達以外に犠牲者は出ないように考えてたんだ!」
「下手な言い訳もここまで来ると…その辺の芸人より面白いな。目的はなんだ?」
イナバの隣まで来たサミュエルはジェイソンを睨み、呆れながら問い詰めた。
「懸賞金だ…レギオンに所属している二人のアマルガム。刀を持った方は殺せば四千万コズ、もう一人の新しく入った方は七千万だが、生け捕りにすればその三倍…そう言われたからやっただけだ!」
「俺に七千万…!?誰がそんなことを?」
「そ、それは言えねえ…そんな事バラしちまったらどうなるか…」
「一度しか言わんぞ。選択肢は二つ、ここで俺達に殺されるか正直に話してひとまずは生き延びるかだ。その後は知らんがな」
ジェイソンから情報を聞き出していると、エマから連絡が入った。複数体のアマルガムと思われる反応が空きビルに侵入してきているとの事であった。間もなく階下から、せわしない足音が駆けあがってくるのを二人は耳にする。
「予定変更だ」
「ああ」
サミュエルに相槌を打ったイナバは、ソード形態に変えた右腕をジェイソンの胸に深々と突き刺す。ゴホッと咳き込み、口から血を流しながらジェイソンが力尽きると、彼の肉体を粒子へと変えて自身の肉体へと取り込んでいく。ジェイソンが取り込まれ、床に残っていた血さえもが塵のように舞い上がって消えた後にイナバの肉体に異変が起こった。右腕がむずがゆくなり、肉体から放出された粒子が纏わりついていく。
「うわっ…と」
イナバは少し驚いた後、右腕が新たな形態を獲得した事に気づいた。その証拠に右腕は軟体生物の触手、もしくは蛇のように蠢いており、表面には刃の様な突起物が縦に伸びていた。ぶつけられればひとたまりも無さそうな長い腕の先には、三本の爪で形成されたアームが備えられている。どことなく吸収したアマルガムの物を彷彿とさせる代物であった。
「ほう…大したもんだ」
『スサノオ、フランクが細かく様子を見たいと言うんでお前のカメラから映像を同期してやってくれ」
「了解」
サミュエルが感嘆を漏らしていると、キースからそのように指示が入る。設定を弄ってカメラの映像をシェアしていると、ジェイソンが呼んだのであろう仲間達が部屋へと突入してきた。
「ジェイソ…いや、違う!」
「てめえ!あいつに何しやがった!」
口々に喚く低クラスのアマルガム達に対して質問に答えるわけでも無く、二人は禍々しい威圧感を放ちながら向かって行く。一人が咄嗟に銃を構えようとした瞬間に、イナバは腕を伸ばして見せた。スルスルと高速で伸びていく右腕は、やがて先端の爪を開き銃を握っていた腕ごと食い込むように掴むと、一気に手元まで引き寄せる。
(なるほど、意志に応じて長さが変わるのか…)
使い方を確かめつつも感心していたイナバだったが、捕まえられたアマルガムは必死に腕を引き離そうとする。しかし爪によって完全に動きを封じられてしまい、いくら藻掻こうがビクともしない。
それでも臆することなく向かってくる他の仲間達をどうにかしようと、イナバは捕まえていたアマルガムを解放してやってから尻を全力で蹴飛ばした。見事に吹っ飛んだアマルガムは、そのまま仲間達に激突してしまいまとめて壁に叩きつけられる。イナバはデモンストレーションのように右腕を振り回して使い心地を試してみた。リーチこそ優れているが、フィストやソードに比べればやはり扱いにくいのか次の行動がワンテンポ遅れてしまう。
「しばらく慣れが必要かも」
そう言いながらイナバは懲りずに向かって来るアマルガム達に対して、薙ぎ払う様に右腕を振り回す。咄嗟に躱した者もいたが、避けられなかった者達は右腕の至る所に生えている刃の餌食になってしまう。
「凄いぞ!三つ目の武装形成だ!!」
研究棟の一室でサミュエルから見せられている映像を観察しながらフランクは興奮しきっていた。
「名前はそうだな、鞭(ウィップ)は少し安直か?柔軟でしなやかな動きに似合わない剣のような切れ味…そうだ!かつてとある国で古代に使われていた武器と同じ!ウルミだ、この形態の名前はウルミ!」
そうしてウルミ形態と名付けられた姿で、イナバは敵を薙ぎ倒していった。防ぐ術のないアマルガム達は何とか避けようとするが、室内という狭い空間では逃げられる場所も限られており、次々に倒されていく。一方でイナバも尺の長い得物を扱いきれず、時々自身の体に当たって服や皮膚が切り裂かれたが、さほど気には留めなかった。
「終わった…」
敵を倒し切ったイナバは一息ついてから右腕を元に戻す。倒したアマルガム達を吸収して肉体の再生も完了させると、肩凝りでも気にしているのか腕を回してストレッチをした。
「御苦労だったな」
「何で手伝ってくれなかったんだ?」
「キースとフランクからの指示でな、お前の戦いぶりを撮っていた」
加勢に加わらなかった事に対してサミュエルは弁明をしてから、エマ達に報告をして脅威が消えた事を確認し合う。そして二人揃って反省点や敵の存在に関する様々な憶測を語り合いながら荒れ果ててしまったビルを後にした。
「全員準備しろ!サムライ野郎が来るぞ!」
「おい、狙いはもう一人の奴じゃないのか?」
「知るか。どの道殺せって話だろ!」
ジェイソンは仲間たちとやり取りをしてからビルの階段を上がって行った。一方で空きビルの付近に到着したサムは周囲を見回していたが、ちょうどその時にエマから連絡が入る。
「スサノオ、聞こえる?気づいてると思うけど、あなたのヘルメットに機能として付けてある探知機が、左側にある空きビルから複数の強力な脳波を検出してる。ホールの反応も無いから…まあ、そういう事みたい」
「分かった。気を付けておこう…キッド、念のためにカメラをオンにしろ。そしてアレスのヘルメットと同期してリアルタイムで映像を見せるよう設定してくれ」
『了解です、すぐに取り掛かります』
エマから忠告を受けたサミュエルは、キッドに頼みカメラのオンライン機能を起動する。後を追いかけていたイナバは、ヘルメットのスクリーンに登場した画面に少し驚いた。
「キッド、これは?」
『スサノオの使用しているヘルメットのカメラをオンにして、それを共有しています。タイミングを見計らって突入してほしいとの事です。』
「なるほど。後は場所だけだな」
『ご心配なく、ナビゲーションを起動します』
キッドからそう告げられると、ヘルメットの拡張現実機能によって目的地の詳細が画面に表示される。自分が今立っているいる場所から少し離れた建物の上に、赤色の逆三角形型のアイコンが表示されていた。
『赤色のアイコンが見えますか?そこが目的地です』
「すぐに向かう!それにしても便利だなホントに…」
イナバは技術の進歩に驚きながらも、ヘルメットのスクリーンに表示されるナビを頼りに目的地である空きビルへと急ぐ。一方空きビルでは、サミュエルによる殺戮の真っただ中であった。不意打ちをしようにもすぐに気づかれてしまい、隠れていたものや正面から襲い掛かって行った者達は片っ端から斬り殺された。銃を使い抵抗する者もいたが、防がれるか或いはそれよりも先に接近されてしまい哀れな末路をたどった。
静かに階段を昇って最上階に着くと、ジェイソンは狼狽えつつも臨戦態勢に入った。
「ありえない…クラスCのはずだぞ…」
「ま、おもちゃのおかげだ」
見せつけるように刀で床に傷を付けながら、サミュエルは歩み寄っていく。無慈悲そうな佇まいを前にジェイソンは右腕を振り回して攻撃をするが、上体を反らして躱されてしまう。続けざまに攻撃を仕掛けていくが、刀で弾かれてしまいまともに当てられなかった。
「どうすりゃ良いんだこんな奴…!」
「何もされてないのにもう諦めるのか?…あいつの方がまだ根性がある」
「な、何だと?」
サミュエルが落胆した様に呟くと、流石にむかっ腹が立ったらしいジェイソンが言い返して来た。サミュエルはイナバからの連絡に目を通してから、ゆっくりと歩き出した。思わずジェイソンは後ずさりし、日の当たっているガラス張りの屋根の真下に追い詰められてしまう。
「最近かわいい後輩が出来てな。まあ格闘訓練でボコボコにしてやるんだが、へこたれもせずに何度も向かってくるんだよ。成り行きで雇われただけのもやしっ子とは思えん良い根性をしてる奴だ」
「まさか…」
「そのまさかだ。ついでに上から来るぞ」
サムが言った直後、ジェイソンは辺りが急に暗くなったのを感じて思わず上を見た。人影が太陽を遮ってこちらへ飛び込んで来ていたのが原因だと気づいたが、行動を取ろうとする頃にはガラス張りの屋根を突き破ってきた人影からそのまま顔面に拳を叩きこまれる。
「おっと!」
追撃をする前にジェイソンが右腕を振り回して暴れたので、イナバは後方への回避を余儀なくされた。イナバが離れたのを見たジェイソンはすぐさま腕の端末から位置情報を仲間に伝える。
「クソっ…終わってたまるかよこんな所で!」
「犯罪者じゃなければカッコいいのに、その台詞」
「…構えろ」
ジェイソンがヤケクソ気味になりながらそう言うと、イナバは感心していたがサミュエルに窘められた。鞭のようにしならせて右腕を振り回して来るが、狭い部屋という事もあってかイナバは上手く回避できなかった。フィスト形態で防ぐことは出来たものの、中々間合いへ近づく事が出来ない。
「落ち着いて相手を見ろ。厄介そうだが攻撃はデタラメ、動き自体は目で追えないわけじゃない。ただの素人だ…俺に合わせろ」
「了解」
サミュエルが走り出すと、イナバもそれに合わせた。ジェイソンはどちらを攻撃しようか迷い、横に薙ぎ払う様にして振ってみるが躱されてしまう。さらには伸ばし切っていた腕をイナバに掴まれてしまった。右腕についていた無数の細かい刃が時折服を切り裂くが、イナバは手を緩めるどころかそのままジェイソンを振り回した。天井に一度叩きつけられて意識が朦朧としそうになる最中、また振り回される羽目になるが次の瞬間にはサミュエルによって右腕が切り落とされた。
「ぐあぁっ…!!」
悲鳴を上げて床へ放られたジェイソンは再び腕を生やそうと試みるが、それよりも前にイナバに胸倉を掴まれてしまい、彼の頭上へと持ち上げられた。イナバは片腕だけをソード形態に変形させ、その切っ先をジェイソンに向ける。
「ま、待て、見逃してくれよ!殺すつもりは無かったんだ!」
「ふざけてるのか!お前のせいで人が死にかけたんだぞ!」
心にもない嘘を吐きながらジェイソンは許しを乞うたが、イナバは気を緩めることなく彼が犯した罪を追及した。
「アレは…そうだ、あんた達なら止めると信頼してやったんだよ!一応はあんた達以外に犠牲者は出ないように考えてたんだ!」
「下手な言い訳もここまで来ると…その辺の芸人より面白いな。目的はなんだ?」
イナバの隣まで来たサミュエルはジェイソンを睨み、呆れながら問い詰めた。
「懸賞金だ…レギオンに所属している二人のアマルガム。刀を持った方は殺せば四千万コズ、もう一人の新しく入った方は七千万だが、生け捕りにすればその三倍…そう言われたからやっただけだ!」
「俺に七千万…!?誰がそんなことを?」
「そ、それは言えねえ…そんな事バラしちまったらどうなるか…」
「一度しか言わんぞ。選択肢は二つ、ここで俺達に殺されるか正直に話してひとまずは生き延びるかだ。その後は知らんがな」
ジェイソンから情報を聞き出していると、エマから連絡が入った。複数体のアマルガムと思われる反応が空きビルに侵入してきているとの事であった。間もなく階下から、せわしない足音が駆けあがってくるのを二人は耳にする。
「予定変更だ」
「ああ」
サミュエルに相槌を打ったイナバは、ソード形態に変えた右腕をジェイソンの胸に深々と突き刺す。ゴホッと咳き込み、口から血を流しながらジェイソンが力尽きると、彼の肉体を粒子へと変えて自身の肉体へと取り込んでいく。ジェイソンが取り込まれ、床に残っていた血さえもが塵のように舞い上がって消えた後にイナバの肉体に異変が起こった。右腕がむずがゆくなり、肉体から放出された粒子が纏わりついていく。
「うわっ…と」
イナバは少し驚いた後、右腕が新たな形態を獲得した事に気づいた。その証拠に右腕は軟体生物の触手、もしくは蛇のように蠢いており、表面には刃の様な突起物が縦に伸びていた。ぶつけられればひとたまりも無さそうな長い腕の先には、三本の爪で形成されたアームが備えられている。どことなく吸収したアマルガムの物を彷彿とさせる代物であった。
「ほう…大したもんだ」
『スサノオ、フランクが細かく様子を見たいと言うんでお前のカメラから映像を同期してやってくれ」
「了解」
サミュエルが感嘆を漏らしていると、キースからそのように指示が入る。設定を弄ってカメラの映像をシェアしていると、ジェイソンが呼んだのであろう仲間達が部屋へと突入してきた。
「ジェイソ…いや、違う!」
「てめえ!あいつに何しやがった!」
口々に喚く低クラスのアマルガム達に対して質問に答えるわけでも無く、二人は禍々しい威圧感を放ちながら向かって行く。一人が咄嗟に銃を構えようとした瞬間に、イナバは腕を伸ばして見せた。スルスルと高速で伸びていく右腕は、やがて先端の爪を開き銃を握っていた腕ごと食い込むように掴むと、一気に手元まで引き寄せる。
(なるほど、意志に応じて長さが変わるのか…)
使い方を確かめつつも感心していたイナバだったが、捕まえられたアマルガムは必死に腕を引き離そうとする。しかし爪によって完全に動きを封じられてしまい、いくら藻掻こうがビクともしない。
それでも臆することなく向かってくる他の仲間達をどうにかしようと、イナバは捕まえていたアマルガムを解放してやってから尻を全力で蹴飛ばした。見事に吹っ飛んだアマルガムは、そのまま仲間達に激突してしまいまとめて壁に叩きつけられる。イナバはデモンストレーションのように右腕を振り回して使い心地を試してみた。リーチこそ優れているが、フィストやソードに比べればやはり扱いにくいのか次の行動がワンテンポ遅れてしまう。
「しばらく慣れが必要かも」
そう言いながらイナバは懲りずに向かって来るアマルガム達に対して、薙ぎ払う様に右腕を振り回す。咄嗟に躱した者もいたが、避けられなかった者達は右腕の至る所に生えている刃の餌食になってしまう。
「凄いぞ!三つ目の武装形成だ!!」
研究棟の一室でサミュエルから見せられている映像を観察しながらフランクは興奮しきっていた。
「名前はそうだな、鞭(ウィップ)は少し安直か?柔軟でしなやかな動きに似合わない剣のような切れ味…そうだ!かつてとある国で古代に使われていた武器と同じ!ウルミだ、この形態の名前はウルミ!」
そうしてウルミ形態と名付けられた姿で、イナバは敵を薙ぎ倒していった。防ぐ術のないアマルガム達は何とか避けようとするが、室内という狭い空間では逃げられる場所も限られており、次々に倒されていく。一方でイナバも尺の長い得物を扱いきれず、時々自身の体に当たって服や皮膚が切り裂かれたが、さほど気には留めなかった。
「終わった…」
敵を倒し切ったイナバは一息ついてから右腕を元に戻す。倒したアマルガム達を吸収して肉体の再生も完了させると、肩凝りでも気にしているのか腕を回してストレッチをした。
「御苦労だったな」
「何で手伝ってくれなかったんだ?」
「キースとフランクからの指示でな、お前の戦いぶりを撮っていた」
加勢に加わらなかった事に対してサミュエルは弁明をしてから、エマ達に報告をして脅威が消えた事を確認し合う。そして二人揃って反省点や敵の存在に関する様々な憶測を語り合いながら荒れ果ててしまったビルを後にした。
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