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パート8:ホープ
第169話 地獄の底で王は笑う
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ベクターは自分の後方にアーサーがいる事を確認し、彼が武器を向けていることから”クリフォト”を使用すると読んだ。全員がオルディウスと睨み合う中、アーサーは無線を繋いでタイミングを窺い続ける。一方で、周りを旋回している飛行艇がわざわざ離脱しようとしない事から、何かしらを企んでいるとオルディウスは既にお見通しだった。
「さあ、何が来る ?」
挑発的な言葉と共に笑みを浮かべる彼女だが、既にこの時点で致命的な失態を犯していた。侮りと慢心である。当然ベクター達に向けた物ではない。飛行艇でこちらの様子を監視し続けている兵士達についてであった。アーサーと交戦した際、彼の攻撃を受けた事で確信した「人類はまだ自分にとって敵と認識するには早い」という結論が原因だが、この時はまだ自身の判断を後悔する事になるとは夢にも思っていなかった。
リリスとケルベロスが真っ先に動いた。背後から飛び掛かってきた二人に対抗するが如くオルディウスは高速で移動し、飛び掛かってきたケルベロスの顎をアッパーカットで砕く。その巨体の死角からリリスが現れ、彼女と肉弾戦を展開する。イフリートとムラセ、そしてザガンも近づいていき、一斉に攻撃を放つ。拳や剣が襲い掛かって来たのを察知し、オルディウスはリリスを殴り倒してから体を鋼で覆ってまとめて防ぐ。
そのまま押し返そうと思った直後、自分の足元にリーラが作り出した魔法陣が現れた。すぐにオルディウスだけが違う場所へ瞬間移動させられるが、そのまま投げ出された先にはベクターがいた。"破砕剛拳"へと変形させた左腕で彼女の顔面を掴み、そして地面へと全力で叩きつける。地面に亀裂が入り、仰向けになっている所で彼女の足を掴んで振り回す。そして何度も何度も地面へ叩きつけた。
まだまだやってやると思っていた矢先に、オルディウスが手を向けて光線を放つ。慌ててベクターは躱すが、その拍子に手を放してしまった。オルディウスは反撃をと思ったが、小さい魔法陣が四方八方に現れるとそこから光の鎖が伸びて彼女の四肢を絡めとる。リーラによる援護だった。
これを好機と見たザガンも両手から鎖を出してオルディウスの首に巻き付け、勢いよく締め上げる。
「そのまま抑えとけよ」
ベクターが言いいながら左腕を”爆噴壊突”へと変え、拘束されたオルディウスへ真正面から近づいていく。ムラセもゲーデ・ブリングを纏って背後から走って行った。
「よっしゃあ、やってやんよ」
リリスも体に稲妻を走らせ、オルディウスの右手側から彼女の側頭部へ狙いを定める。間もなくゲーデ・ブリングによる打撃と”爆噴壊突”を前後から放たれ、背中と腹へ挟み込むようにベクター達の拳がめり込んだ。
そして吐血した直後にリリスが助走を付けて高速で走り、オルディウスの側頭部に膝蹴りを入れた。勢いのあまり飛ばされた先にはイフリートが待ち構えている。これでガス欠になっても構わないと考えていたのか、口の中から出力の高い青い炎がチラチラと噴き出していた。
そして一気に熱線を口から発射し、射線上にいたオルディウスを焼き焦がす。先程とは反対側に飛ばされたが、瓦礫に叩きつけられた後で立ち上がる。体はボロボロだったが、余力はあるのか自力で歩いていた。
「…ふぅ」
小さく息を吐き、ボロボロなロングコートを破り捨ててワイシャツ姿になる。その直後、飛行艇も彼女の近くまで移動してハッチを開けてから狙撃手にライフルを構えさせる。
「撃て !」
無線を繋いだアーサーが叫ぶと、一斉に弾丸が放たれた。しかし時間の流れを遅らせたオルディウスは、障壁を纏いながら迫りくる弾丸に近づいていった。わざと障壁を弾丸にぶつけてみると、あっさり潰れてしまう。
「ふん」
この程度の威力なら防ぐまでもないのだが、無駄な体力を使っていられない。彼女は鼻で笑ってから残る弾丸を歩いて躱す。そして時間操作を解除した。
『外れました ! 四発中四発全てです !』
「チッ、だろうな」
飛行艇からの連絡にアーサーが舌打ちをしながら悔しがり、残るは自分が持っているものだけだという事に緊張する羽目になった。その間にもムラセ達がオルディウスの方へ向かい、血みどろになりながら戦いを続けている。ふと見れば、彼らから離れている位置にベクターが見えた。オベリスクを担いだまま"時流超躍"へと左腕を変え、ニヤリとこちらへ笑いかける。
「頼むぞ」
アーサーが呟き、ベクターが走り出した瞬間にオルディウス達の方へと弾丸を発射した。一方でベクターはアーサーが撃つより先に"時流超躍"を発動し、時間の流れを遅くする。
「えっと、おお…あったあった」
どこまで弾丸が飛んでいるのかと慌てて探し、銃口からそれほど離れてない位置を進んでいるのを見つける。ゆっくり進んでいる弾丸を摘み、翼を生やしてから飛行してオルディウスの方へと向かった。
「えげつねえなホント」
ちょっと彼らに気を逸らすように頼んでいた筈なのだが、目を離している隙に大乱闘と化していたらしい。オルディウスがイフリートを踏みつけ、その勢いのままザガンを殴り飛ばし、既に一度倒されたらしいリリスとムラセ、そしてケルベロスが血を流しながら彼女へ再び挑もうとしているといった地獄絵図である。
欠伸が出るほどにゆっくりと動いている彼らを搔い潜り、オルディウスの真正面に立った後でベクターは彼女の腹、それもほぼ密着しているのではないかという位置に弾丸を設置する。"時流超躍"が解除されれば、瞬く間に命中するだろう。そう思いつつ彼はその場を立ち去り、それから間もなく能力が解除された。
「…ッ!!」
オルディウスは突然腹部に激痛を感じた。いや、腹部だけじゃない。伝染するように体の内側に激痛が駆け巡る。彼女に命中した弾丸は体内で破裂し、その破片が放射状に飛び散りながら肉体を破壊していた。破片の中には貫通した物もあれば体内に残ったままの物まであり、それが猶更痛みを残してしまう。俗に言うダムダム弾である。
激痛が走る中でもオルディウスは向かってくるムラセ達を殴り飛ばし、果敢に反撃するがやはり様子がおかしい。痛みは治まるどころか悪化しており、まるでベクターに攻撃を受けた時と同じように傷の治癒が進まない。能力を使おうにも、上手く発動が出来ずに不発で終わってしまう。
「どんなもんだ ?」
声が聞こえた。オルディウスが振り返った直後、ベクターがオベリスクを振り下ろしているのが目に入る。オルディウスは防ごうと腕を動かすが間に合わず、オベリスクによって肩から袈裟斬りにされた。
「虫けら達なりに振り絞った知恵ってやつは」
そう言い放ったベクターだが、オルディウスは動かせる左手を使って掌から鋼の杭を生やし、それでベクターの顔を突いた。完全に躱すことは出来ず、右目を抉られたベクターだが一切怯もうとしない。"破砕剛拳"へ左腕を変形させ、オルディウスの胸元にできた傷跡へ腕を突っ込む。そして彼女のコアを掴んだ。
「ぐああああ…‼」
激しく吐血し、苦しみもだえる彼女はベクターに寄り掛かる。周りにいた者達も加勢しようとしたが、ベクターが右腕でちょっと待って欲しいとジェスチャーを送る。一同が動きを止め、どうなってしまうのかと見守っている内に小さく笑い声が聞こえた。オルディウスの声であり、それを聞いていたベクターは彼女に敵意がなくなってしまっている事に気づいたのである。
「負けたかあ…」
血を吐きながらオルディウスがベクターに顔を向けて言った。ゆっくりと彼の左腕を触り、やがて彼の両肩を掴む。あんなに嬉しそうに、満足げに笑っている彼女を見たのはいつ以来かとザガンは思わず考えてしまった。
「今更だが、数で押すなんて卑怯なマネして悪かった」
「戦いに卑怯も糞もないだろう。勝って生き残る以上、お前が正義になる。つくづく…私には似なかったか」
「そうでもないさ。それにあんたが好き勝手してくれたおかげで、俺も少しやりたい事が出来た。感謝してるぜ」
「ハハハ…なら、やってみると良い。私は地獄の特等席で眺めてやるさ」
親子にしては奇妙な会話だが、なぜか両者は満足げに見つめ合っていた。やがてベクターが右手で静かに頬を触り、肩に手を置くとオルディウスも覚悟を決めたように頷く。そして一気にコアを引き抜いた。
「破壊してくれ…死んでも…働かされるのは…ごめんでな…」
「ああ」
意識が遠のく中で、オルディウスが最後の頼みをしてきた。ベクターもそれに応じ、左手に力を込めて砕いた。吸収されることなく砕かれたコアはバラバラと地面に落ち、そして砂へと変わった後に風で吹き飛ばされていく。オルディウスの肉体もまた同じように消滅し、ベクターは温もりの残っている左腕を見つめた。
「……不器用で、話をしたがらない奴ばっかだな。俺”達”の家族」
「え ?」
不意にベクターが口走ってからムラセの方を向く。ムラセも少し驚きながら彼を見ていた。ベクターは優しげな眼をしており、やがて口角を上げ始める。
「話もしたいし、ひとまず帰るか ? 嫌じゃないなら一緒に」
「…はい !」
そして笑顔で話しかけてきた彼を前にして、ムラセは涙腺が緩んだのか泣きながらも必死に笑って返事をした。周りの者も体から力を抜いてベクターへ近寄っていた頃、遠くからアーサーとリーラ、そして飛行艇たちも向かってくる。そのままベクター達は全員で歩き出し、彼らと合流した後に帰投する事となった。
「やりたい事って何ですか ? さっき言ってた」
着陸してくれた飛行艇に乗り込んでいた時、ムラセが尋ねた。
「聞きたいか ? またしばらくは借金まみれになるが」
ベクターも笑いながら答える。仲違いをしていた過去の事などすっかり忘れているかのような、いつもの雰囲気が戻ってきたような気がした。
「さあ、何が来る ?」
挑発的な言葉と共に笑みを浮かべる彼女だが、既にこの時点で致命的な失態を犯していた。侮りと慢心である。当然ベクター達に向けた物ではない。飛行艇でこちらの様子を監視し続けている兵士達についてであった。アーサーと交戦した際、彼の攻撃を受けた事で確信した「人類はまだ自分にとって敵と認識するには早い」という結論が原因だが、この時はまだ自身の判断を後悔する事になるとは夢にも思っていなかった。
リリスとケルベロスが真っ先に動いた。背後から飛び掛かってきた二人に対抗するが如くオルディウスは高速で移動し、飛び掛かってきたケルベロスの顎をアッパーカットで砕く。その巨体の死角からリリスが現れ、彼女と肉弾戦を展開する。イフリートとムラセ、そしてザガンも近づいていき、一斉に攻撃を放つ。拳や剣が襲い掛かって来たのを察知し、オルディウスはリリスを殴り倒してから体を鋼で覆ってまとめて防ぐ。
そのまま押し返そうと思った直後、自分の足元にリーラが作り出した魔法陣が現れた。すぐにオルディウスだけが違う場所へ瞬間移動させられるが、そのまま投げ出された先にはベクターがいた。"破砕剛拳"へと変形させた左腕で彼女の顔面を掴み、そして地面へと全力で叩きつける。地面に亀裂が入り、仰向けになっている所で彼女の足を掴んで振り回す。そして何度も何度も地面へ叩きつけた。
まだまだやってやると思っていた矢先に、オルディウスが手を向けて光線を放つ。慌ててベクターは躱すが、その拍子に手を放してしまった。オルディウスは反撃をと思ったが、小さい魔法陣が四方八方に現れるとそこから光の鎖が伸びて彼女の四肢を絡めとる。リーラによる援護だった。
これを好機と見たザガンも両手から鎖を出してオルディウスの首に巻き付け、勢いよく締め上げる。
「そのまま抑えとけよ」
ベクターが言いいながら左腕を”爆噴壊突”へと変え、拘束されたオルディウスへ真正面から近づいていく。ムラセもゲーデ・ブリングを纏って背後から走って行った。
「よっしゃあ、やってやんよ」
リリスも体に稲妻を走らせ、オルディウスの右手側から彼女の側頭部へ狙いを定める。間もなくゲーデ・ブリングによる打撃と”爆噴壊突”を前後から放たれ、背中と腹へ挟み込むようにベクター達の拳がめり込んだ。
そして吐血した直後にリリスが助走を付けて高速で走り、オルディウスの側頭部に膝蹴りを入れた。勢いのあまり飛ばされた先にはイフリートが待ち構えている。これでガス欠になっても構わないと考えていたのか、口の中から出力の高い青い炎がチラチラと噴き出していた。
そして一気に熱線を口から発射し、射線上にいたオルディウスを焼き焦がす。先程とは反対側に飛ばされたが、瓦礫に叩きつけられた後で立ち上がる。体はボロボロだったが、余力はあるのか自力で歩いていた。
「…ふぅ」
小さく息を吐き、ボロボロなロングコートを破り捨ててワイシャツ姿になる。その直後、飛行艇も彼女の近くまで移動してハッチを開けてから狙撃手にライフルを構えさせる。
「撃て !」
無線を繋いだアーサーが叫ぶと、一斉に弾丸が放たれた。しかし時間の流れを遅らせたオルディウスは、障壁を纏いながら迫りくる弾丸に近づいていった。わざと障壁を弾丸にぶつけてみると、あっさり潰れてしまう。
「ふん」
この程度の威力なら防ぐまでもないのだが、無駄な体力を使っていられない。彼女は鼻で笑ってから残る弾丸を歩いて躱す。そして時間操作を解除した。
『外れました ! 四発中四発全てです !』
「チッ、だろうな」
飛行艇からの連絡にアーサーが舌打ちをしながら悔しがり、残るは自分が持っているものだけだという事に緊張する羽目になった。その間にもムラセ達がオルディウスの方へ向かい、血みどろになりながら戦いを続けている。ふと見れば、彼らから離れている位置にベクターが見えた。オベリスクを担いだまま"時流超躍"へと左腕を変え、ニヤリとこちらへ笑いかける。
「頼むぞ」
アーサーが呟き、ベクターが走り出した瞬間にオルディウス達の方へと弾丸を発射した。一方でベクターはアーサーが撃つより先に"時流超躍"を発動し、時間の流れを遅くする。
「えっと、おお…あったあった」
どこまで弾丸が飛んでいるのかと慌てて探し、銃口からそれほど離れてない位置を進んでいるのを見つける。ゆっくり進んでいる弾丸を摘み、翼を生やしてから飛行してオルディウスの方へと向かった。
「えげつねえなホント」
ちょっと彼らに気を逸らすように頼んでいた筈なのだが、目を離している隙に大乱闘と化していたらしい。オルディウスがイフリートを踏みつけ、その勢いのままザガンを殴り飛ばし、既に一度倒されたらしいリリスとムラセ、そしてケルベロスが血を流しながら彼女へ再び挑もうとしているといった地獄絵図である。
欠伸が出るほどにゆっくりと動いている彼らを搔い潜り、オルディウスの真正面に立った後でベクターは彼女の腹、それもほぼ密着しているのではないかという位置に弾丸を設置する。"時流超躍"が解除されれば、瞬く間に命中するだろう。そう思いつつ彼はその場を立ち去り、それから間もなく能力が解除された。
「…ッ!!」
オルディウスは突然腹部に激痛を感じた。いや、腹部だけじゃない。伝染するように体の内側に激痛が駆け巡る。彼女に命中した弾丸は体内で破裂し、その破片が放射状に飛び散りながら肉体を破壊していた。破片の中には貫通した物もあれば体内に残ったままの物まであり、それが猶更痛みを残してしまう。俗に言うダムダム弾である。
激痛が走る中でもオルディウスは向かってくるムラセ達を殴り飛ばし、果敢に反撃するがやはり様子がおかしい。痛みは治まるどころか悪化しており、まるでベクターに攻撃を受けた時と同じように傷の治癒が進まない。能力を使おうにも、上手く発動が出来ずに不発で終わってしまう。
「どんなもんだ ?」
声が聞こえた。オルディウスが振り返った直後、ベクターがオベリスクを振り下ろしているのが目に入る。オルディウスは防ごうと腕を動かすが間に合わず、オベリスクによって肩から袈裟斬りにされた。
「虫けら達なりに振り絞った知恵ってやつは」
そう言い放ったベクターだが、オルディウスは動かせる左手を使って掌から鋼の杭を生やし、それでベクターの顔を突いた。完全に躱すことは出来ず、右目を抉られたベクターだが一切怯もうとしない。"破砕剛拳"へ左腕を変形させ、オルディウスの胸元にできた傷跡へ腕を突っ込む。そして彼女のコアを掴んだ。
「ぐああああ…‼」
激しく吐血し、苦しみもだえる彼女はベクターに寄り掛かる。周りにいた者達も加勢しようとしたが、ベクターが右腕でちょっと待って欲しいとジェスチャーを送る。一同が動きを止め、どうなってしまうのかと見守っている内に小さく笑い声が聞こえた。オルディウスの声であり、それを聞いていたベクターは彼女に敵意がなくなってしまっている事に気づいたのである。
「負けたかあ…」
血を吐きながらオルディウスがベクターに顔を向けて言った。ゆっくりと彼の左腕を触り、やがて彼の両肩を掴む。あんなに嬉しそうに、満足げに笑っている彼女を見たのはいつ以来かとザガンは思わず考えてしまった。
「今更だが、数で押すなんて卑怯なマネして悪かった」
「戦いに卑怯も糞もないだろう。勝って生き残る以上、お前が正義になる。つくづく…私には似なかったか」
「そうでもないさ。それにあんたが好き勝手してくれたおかげで、俺も少しやりたい事が出来た。感謝してるぜ」
「ハハハ…なら、やってみると良い。私は地獄の特等席で眺めてやるさ」
親子にしては奇妙な会話だが、なぜか両者は満足げに見つめ合っていた。やがてベクターが右手で静かに頬を触り、肩に手を置くとオルディウスも覚悟を決めたように頷く。そして一気にコアを引き抜いた。
「破壊してくれ…死んでも…働かされるのは…ごめんでな…」
「ああ」
意識が遠のく中で、オルディウスが最後の頼みをしてきた。ベクターもそれに応じ、左手に力を込めて砕いた。吸収されることなく砕かれたコアはバラバラと地面に落ち、そして砂へと変わった後に風で吹き飛ばされていく。オルディウスの肉体もまた同じように消滅し、ベクターは温もりの残っている左腕を見つめた。
「……不器用で、話をしたがらない奴ばっかだな。俺”達”の家族」
「え ?」
不意にベクターが口走ってからムラセの方を向く。ムラセも少し驚きながら彼を見ていた。ベクターは優しげな眼をしており、やがて口角を上げ始める。
「話もしたいし、ひとまず帰るか ? 嫌じゃないなら一緒に」
「…はい !」
そして笑顔で話しかけてきた彼を前にして、ムラセは涙腺が緩んだのか泣きながらも必死に笑って返事をした。周りの者も体から力を抜いてベクターへ近寄っていた頃、遠くからアーサーとリーラ、そして飛行艇たちも向かってくる。そのままベクター達は全員で歩き出し、彼らと合流した後に帰投する事となった。
「やりたい事って何ですか ? さっき言ってた」
着陸してくれた飛行艇に乗り込んでいた時、ムラセが尋ねた。
「聞きたいか ? またしばらくは借金まみれになるが」
ベクターも笑いながら答える。仲違いをしていた過去の事などすっかり忘れているかのような、いつもの雰囲気が戻ってきたような気がした。
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