124 / 171
パート6:嵐
第124話 因果応報
しおりを挟む
なぜか動作しているエレベーターを使ってベクターは屋上へ向かう。屋上に存在する飛空艇の発着場の端には小柄な人物が立っていたが、他ならぬコウジロウであった。火の手が上がり、各地で爆発音が響いているハイドリートを眺めている。
「飛び降り自殺か ?」
ベクターが挨拶代わりに言った。
「貴様…」
「踏ん切りついたら教えてくれ。俺が蹴り落としてやるよ」
明らかに敵意を持っているコウジロウの様子などお構いなしに、追い討ちをかけるかの如くベクターは笑いながら彼を煽る。ベルゼブブの事に集中している今となっては、コウジロウなど彼のコバンザメという認識になってしまっていた。つまり警戒する必要すらないと判断していたのである。
「私がどれだけの歳月と犠牲を費やしたと思ってる。その研究を台無しにしおって…」
コウジロウがベクターへ憎しみを向ける。多くの援助があったとはいえ、ここまでの地位へ上り詰めた事そのものは決して並大抵の努力ではない。彼にはその自負があり、客観的な立場から見ても管理や指揮を執る労力は計り知れないというのは想像に難くない。
「金目当てのチンピラごときに潰される。そんな雑魚の寄せ集め軍団作ったくらいでイキってんじゃねえよ」
ベクターはそんな彼の過去や事情など知った事では無いかのように突き放す。率直すぎる意見へ言い返せない悔しさを少し滲ませ、コウジロウはさらに話を続ける。
「ここから更に発展する見込みもあった。兵器として半魔兵が行き渡り、世界中で平和の維持を可能にするかもしれなかったんだ…それを貴様は――」
「散々権力や金や暴力で好き勝手してた癖に都合が悪くなったら被害者面か ? 炎上した芸能人みたいだな。お前のその御大層な名目で何人殺されたよ ?」
「理想論を妄信する馬鹿と凡人には一生理解出来んだろうが、発展とは犠牲無くして生まれるものではない。そもそも人に言える立場か ? 勝手な目的のために街を破壊し、敵と見定めた者を嬲り殺して来た貴様と何が違う ?」
「少なくとも、俺は誰かさんみたいに自分が正しいとは思ってない。誰が仕返しして来ようと覚悟してる。文句あるならいつでも喧嘩上等だよ。まあ、こっちもタダでやられる気はないがな」
何が何でも自分のしたことは間違いではないと食い下がるコウジロウだが、ベクターはそんな彼を心底見下していた。決して彼の思想や行為を間違っていると糾弾したり、説教を聞かせてやりたいわけではない。好き勝手しておきながらツケを払おうとしない彼のふんぞり返った態度に虫唾が走っていた。それだけである。
「そいつの言う事も一理あるな」
声が聞こえたかと思えば、背後から虫の群れを引き連れてベルゼブブが現れる。相変わらず薄汚く、おまけに異臭までしてきた。
「強さだ。強い奴がルールと正義を決める。弱者を守るか狩るかは強者の気持ち次第…負けた奴は何も言う権利すらない。あんたが入ったのはそういう世界だって、分かってると思ってたんだがな、爺さん」
ベルゼブブはコウジロウの方へと歩み寄りながら言った。
「裏切る気か…私を」
コウジロウが動揺しながら問いただした。
「人聞きの悪い事言わないでくれ。人間は利益が出ないと分かったパートナーがいたら、早い段階で約束を反故にしたり、戦略的撤退とかのたまって見捨てたりするだろ ? それと同じ事をしてるだけだ…これ以上あんたと組むのは俺にとって旨味が無い。それともまさか…自分が手を切られるなんて夢にも思って無かったか ?」
ベルゼブブがそう言い聞かせてる間、コウジロウの顔が青くなっていくのをベクターは他人事の様に眺めていた。他者を格下扱いし、優勢思想を有難がる者達に限って自分が虐げられて捨てられる側だという事に気づけないのは何故なのだろうか。
「周りの状況を調べたが、ほとんど戦力を削られてしまったみたいだぞ。というわけで…」
そう思っていた矢先、ベルゼブブはコウジロウへ戦況を囁いていた。そして薄汚いローブの隙間から瞬時にサソリの尾に似た巨大な触手を出すと、先端に付いている毒針でコウジロウの首を刺す。
「用済みだ。来世ではもう少し他人の痛みが分かる人間になれると良いな」
毒針を抜きながらベルゼブブは言ったが、コウジロウは苦しみに悶えながら地面に倒れ伏した。やがて体中からポツポツと毛が生え、腕や足が細くなっていく。両目が腐って落ちたかと思えば、昆虫の様な複眼が新しく現れる。そして全てが終わる頃には、醜い虫の姿になりながらベクターの方へと必死に地面を這いずっていた。
「まあそうなるわな」
ベクターはボソリと言った。やはり自分に襲い掛からない不幸ほど見ていて面白い物は無い。それが嫌いで仕方のない者達が転落するまでの過程であれば猶更である。助けを求めるように足元へ縋りついて来るコウジロウだったが、ベクターは軽くどかしてからベルゼブブの方を見る。どうやらこちらの出方を待っているらしかった。
「で、話って何だよ」
汚い金切り声を上げだすコウジロウがうるさくて仕方ないが、とりあえず無視してからベクターは話を進めだした。
「単刀直入に言うと、交換条件付きでお前と組みたい。応じてくれるなら望む物も…”情報”もくれてやる」
「詳しく聞こう」
「今この街に召喚され続けてるデーモン…そいつらを呼び寄せるポータルの動力になっている魔具をくれてやる。そして、俺が知ってる限りの情報もやろう。例えば…そうだな。お前の父親を殺した犯人を知りたくないか ?」
「何 ?」
ベルゼブブがなぜか自分と組みたがっている事に対して、懐疑心しかないベクターはひとまず詳しい話を聞こうとした。しかし、ベルゼブブからの返答に思わず反応してしまう。当のベルゼブブでさえ、意外そうな様子を見せていた。
「やはり何も知らないか…まあいい。ここからが聞きたいのであれば返答次第だ」
「その前にお前が何したいのか話せ。世界征服か ?」
報酬を提示されたはいいが、何をやらされるのかを気にしたベクターはすぐに彼へと聞き返す。
「勿論それもそうだが…もっとデカい目的がある。オルディウスを殺したいのさ」
そしてベルゼブブの口から出て来た彼の目的を聞いた瞬間、事態の規模が着々と大きくなりつつある事をベクターはすぐに感じ取った。
「飛び降り自殺か ?」
ベクターが挨拶代わりに言った。
「貴様…」
「踏ん切りついたら教えてくれ。俺が蹴り落としてやるよ」
明らかに敵意を持っているコウジロウの様子などお構いなしに、追い討ちをかけるかの如くベクターは笑いながら彼を煽る。ベルゼブブの事に集中している今となっては、コウジロウなど彼のコバンザメという認識になってしまっていた。つまり警戒する必要すらないと判断していたのである。
「私がどれだけの歳月と犠牲を費やしたと思ってる。その研究を台無しにしおって…」
コウジロウがベクターへ憎しみを向ける。多くの援助があったとはいえ、ここまでの地位へ上り詰めた事そのものは決して並大抵の努力ではない。彼にはその自負があり、客観的な立場から見ても管理や指揮を執る労力は計り知れないというのは想像に難くない。
「金目当てのチンピラごときに潰される。そんな雑魚の寄せ集め軍団作ったくらいでイキってんじゃねえよ」
ベクターはそんな彼の過去や事情など知った事では無いかのように突き放す。率直すぎる意見へ言い返せない悔しさを少し滲ませ、コウジロウはさらに話を続ける。
「ここから更に発展する見込みもあった。兵器として半魔兵が行き渡り、世界中で平和の維持を可能にするかもしれなかったんだ…それを貴様は――」
「散々権力や金や暴力で好き勝手してた癖に都合が悪くなったら被害者面か ? 炎上した芸能人みたいだな。お前のその御大層な名目で何人殺されたよ ?」
「理想論を妄信する馬鹿と凡人には一生理解出来んだろうが、発展とは犠牲無くして生まれるものではない。そもそも人に言える立場か ? 勝手な目的のために街を破壊し、敵と見定めた者を嬲り殺して来た貴様と何が違う ?」
「少なくとも、俺は誰かさんみたいに自分が正しいとは思ってない。誰が仕返しして来ようと覚悟してる。文句あるならいつでも喧嘩上等だよ。まあ、こっちもタダでやられる気はないがな」
何が何でも自分のしたことは間違いではないと食い下がるコウジロウだが、ベクターはそんな彼を心底見下していた。決して彼の思想や行為を間違っていると糾弾したり、説教を聞かせてやりたいわけではない。好き勝手しておきながらツケを払おうとしない彼のふんぞり返った態度に虫唾が走っていた。それだけである。
「そいつの言う事も一理あるな」
声が聞こえたかと思えば、背後から虫の群れを引き連れてベルゼブブが現れる。相変わらず薄汚く、おまけに異臭までしてきた。
「強さだ。強い奴がルールと正義を決める。弱者を守るか狩るかは強者の気持ち次第…負けた奴は何も言う権利すらない。あんたが入ったのはそういう世界だって、分かってると思ってたんだがな、爺さん」
ベルゼブブはコウジロウの方へと歩み寄りながら言った。
「裏切る気か…私を」
コウジロウが動揺しながら問いただした。
「人聞きの悪い事言わないでくれ。人間は利益が出ないと分かったパートナーがいたら、早い段階で約束を反故にしたり、戦略的撤退とかのたまって見捨てたりするだろ ? それと同じ事をしてるだけだ…これ以上あんたと組むのは俺にとって旨味が無い。それともまさか…自分が手を切られるなんて夢にも思って無かったか ?」
ベルゼブブがそう言い聞かせてる間、コウジロウの顔が青くなっていくのをベクターは他人事の様に眺めていた。他者を格下扱いし、優勢思想を有難がる者達に限って自分が虐げられて捨てられる側だという事に気づけないのは何故なのだろうか。
「周りの状況を調べたが、ほとんど戦力を削られてしまったみたいだぞ。というわけで…」
そう思っていた矢先、ベルゼブブはコウジロウへ戦況を囁いていた。そして薄汚いローブの隙間から瞬時にサソリの尾に似た巨大な触手を出すと、先端に付いている毒針でコウジロウの首を刺す。
「用済みだ。来世ではもう少し他人の痛みが分かる人間になれると良いな」
毒針を抜きながらベルゼブブは言ったが、コウジロウは苦しみに悶えながら地面に倒れ伏した。やがて体中からポツポツと毛が生え、腕や足が細くなっていく。両目が腐って落ちたかと思えば、昆虫の様な複眼が新しく現れる。そして全てが終わる頃には、醜い虫の姿になりながらベクターの方へと必死に地面を這いずっていた。
「まあそうなるわな」
ベクターはボソリと言った。やはり自分に襲い掛からない不幸ほど見ていて面白い物は無い。それが嫌いで仕方のない者達が転落するまでの過程であれば猶更である。助けを求めるように足元へ縋りついて来るコウジロウだったが、ベクターは軽くどかしてからベルゼブブの方を見る。どうやらこちらの出方を待っているらしかった。
「で、話って何だよ」
汚い金切り声を上げだすコウジロウがうるさくて仕方ないが、とりあえず無視してからベクターは話を進めだした。
「単刀直入に言うと、交換条件付きでお前と組みたい。応じてくれるなら望む物も…”情報”もくれてやる」
「詳しく聞こう」
「今この街に召喚され続けてるデーモン…そいつらを呼び寄せるポータルの動力になっている魔具をくれてやる。そして、俺が知ってる限りの情報もやろう。例えば…そうだな。お前の父親を殺した犯人を知りたくないか ?」
「何 ?」
ベルゼブブがなぜか自分と組みたがっている事に対して、懐疑心しかないベクターはひとまず詳しい話を聞こうとした。しかし、ベルゼブブからの返答に思わず反応してしまう。当のベルゼブブでさえ、意外そうな様子を見せていた。
「やはり何も知らないか…まあいい。ここからが聞きたいのであれば返答次第だ」
「その前にお前が何したいのか話せ。世界征服か ?」
報酬を提示されたはいいが、何をやらされるのかを気にしたベクターはすぐに彼へと聞き返す。
「勿論それもそうだが…もっとデカい目的がある。オルディウスを殺したいのさ」
そしてベルゼブブの口から出て来た彼の目的を聞いた瞬間、事態の規模が着々と大きくなりつつある事をベクターはすぐに感じ取った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
36
1 / 2
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる