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パート6:嵐
第115話 いつもの
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――――現在
「ま、そういうこった」
煙草の吸殻が何本か地面に転がった頃に、話し終えたベクターは新しい一本を咥えながら言った。そして火を付けてから立ち上がると、煙を吐きながらアーサーに背を向ける。彼は黙ったまま何か悩んでいる様に俯いていた。
「正直に白状したから許して欲しいとなんざ言わねえよ。後悔もしてない。だが自分がやった事から逃げるつもりも無い。背中撃ちたきゃいつでも撃てばいいさ。死ぬかは別としてな」
そのまま言い残してアジトに戻って行こうとするベクターをアーサーは振り返ってから見つめ、腰にある拳銃の存在を思い出すがすぐに思い留まった。ここで感情的になって凶行に走った所で事態をややこしくするだけである。
責任を負うと口で言うのは簡単だが、償いを行動として示せないのであればただの方便にすぎない。そしてその言葉を軽々しく言う者に限って、いざ有事になれば逃げだすのが関の山だろう。
「…誰も彼もがお前みたいに生きてたら、とっくに人類は滅んでるだろうな」
歯痒さを感じるアーサーだったが、今はただ皮肉を言うしか彼には出来なかった。
――――各々が寛ぐか作業をしているアジトへ戻って来たベクターだが、冷蔵庫で飲み物を漁ってるムラセと目が合うや否や、すぐに目を逸らしてソファに座った。そのままソファの上に放置していたオンボロな携帯ゲーム機を付ける。おまけで付属していたゲームソフトをベクターが遊び始めると、缶を二本持ったムラセも隣に座る。
「勝てね~…クッソ」
「格闘タイプのモンスター持ってた方が良いですよ、そいつと戦う時」
一人で遊んでいた時にムラセが隣で小言の様にアドバイスをしてくる。そして彼の足元に開封していないコーラの缶を置いた。「ありがと」と返してからベクターもそれを拾い上げて一度だけ飲むと、再び床に置いてからゲームを再開する。
「リーラさんから話聞きました。色々昔あったって」
「ん、まあそこそこな」
どうやらコーラの受け渡しや先程の会話で話しかけても大丈夫そうだとムラセは判断したらしい。そのまま事情は聞かせてもらったとかれに告げる。自分がいない所で元カノが勝手に暴露をしていた事だけは少し不愉快だったが、変にキレ散らかしても仕方ない。そう考えたベクターは相槌を打ってゲームの方に目を向け続けた。
「何か…すいませんでした」
ベクターが抱えていた事情も知らずに食って掛かった事に対し、ムラセは缶を手で弄繰り回しつつ言った。
「別に謝んなくていいよ。いきなり俺も悪かったし…あ、死んだ」
素っ気なくベクターも反応するが、直後にゲームオーバーになった事で苦々しい顔をする。
「人と話すときは目を合わせろって言ってんのに昔から…」
そんなぎこちない二人を遠目に眺めながらリーラはぼやく。そして自分も何か飲もうかと動きかけた時、タルマンが少し慌てた様に別室から戻って来た。
「おい、ジョージの奴が何か話あるらしいぜ」
そのまま急いで別室に入ると、コンピュータの前で椅子を軋ませているジョージがいた。
「データの解析が全部終わった。改竄もね。サーバーからデータぶっこ抜いたついでにウイルスも仕込んで繋がってる全ての端末に送り込んだ。相手側がコンピュータを起動した時、自動でウイルスに感染させてデータを消去するようになっているプログラムだ。しかも有線無線問わず実験場のサーバーに接続されている全ての端末がターゲット…奴さん、今頃大慌てかもな」
画面を全員に見せながらジョージは話し始めるが、その際にベクターへコッソリともう一つ用意しておいたメモリを渡す。誰も気づいてはいなかった。
「それで、”再臨”ってのがどういうものなのかって部分だが…これだ」
そのまま画面にはシェルター全体を記している巨大な地図が写されるが、その各地に巨大な召喚機の座標が記されていた。
「召喚機か ? これは何のためにあるんだ ?」
ベクターが尋ねた。
「魔界にいる自分の手下を連れてくるってベルゼブブが話してたそうじゃないか。この巨大なポータルはそれに使うつもりなんだ…やろうと思えばすぐにでも魔界から大量の化け物が押し寄せてくることになる。召喚機の実験に関するレポートもあったが…山みたいなデカさのデーモンも行けるらしい。欠点もあるけど…」
「欠点 ?」
「二つある…一つは構造。”グレイル”が持ってる魔力を利用してポータルを作るって仕組みが召喚機の基本だが、これ程デカいポータルを用意して魔界と繋ぐ場合、魔界にも”グレイル”の魔力による余波が届いてしまうんだ。つまり、彼らが出し抜こうとしているオルディウスって奴に魔力を探知されて勘付かれる恐れがある」
「もっとめんどくさいのを呼び寄せちまうかもしれないって事か」
ジョージが手に入れた資料やデータから推測をし、ベクター達も相槌を打ちながら聞き続ける。暇潰しが終わったリリスやイフリート、用事から返って来たシアルド・インダストリーズの面々も興味ありげに近づいて来た。
「そしてもう一つはグレイルの不調…ここ最近になって上手く動作をしなくなってるらしい。どうも制御出来る範疇を超える様な出力を勝手に出してまったり、後たまに強烈な光や稲妻を発するって…何か別の要因に感応してるんじゃないかって説もある。いずれにせよ、この”グレイル”ってのをどうにかすればポータルそのものが使えなくなるかもな」
ジョージが説明をする間、ベクターは黙ったまま今後の身の振り方を考える。ベルゼブブが聞かせてくれた計画からするに、オルディウスと正面からぶつかるのは避けたい事なのだろう。つまりポータルが抱える欠点を改善できない内は利用する確率も低い。しかし自分達が裏で色々と画策している事がバレてしまっている以上、コウジロウ側がどの様な行動に出るかが分からない。
どの道目的は彼らがノースナイツを始めとした他のシェルターで好き放題している横暴を止める事であり、そのためにはポータルを破壊するかコウジロウを始末する必要がある。向こうが動くのを待つか、準備が出来次第仕掛けるかの二択しか彼の頭には無かった。
「やっぱ仕掛けるか…」
結局そっちの方が性に合ってると感じたのか、全員がいる前でベクターは言った。
「ま、そういうこった」
煙草の吸殻が何本か地面に転がった頃に、話し終えたベクターは新しい一本を咥えながら言った。そして火を付けてから立ち上がると、煙を吐きながらアーサーに背を向ける。彼は黙ったまま何か悩んでいる様に俯いていた。
「正直に白状したから許して欲しいとなんざ言わねえよ。後悔もしてない。だが自分がやった事から逃げるつもりも無い。背中撃ちたきゃいつでも撃てばいいさ。死ぬかは別としてな」
そのまま言い残してアジトに戻って行こうとするベクターをアーサーは振り返ってから見つめ、腰にある拳銃の存在を思い出すがすぐに思い留まった。ここで感情的になって凶行に走った所で事態をややこしくするだけである。
責任を負うと口で言うのは簡単だが、償いを行動として示せないのであればただの方便にすぎない。そしてその言葉を軽々しく言う者に限って、いざ有事になれば逃げだすのが関の山だろう。
「…誰も彼もがお前みたいに生きてたら、とっくに人類は滅んでるだろうな」
歯痒さを感じるアーサーだったが、今はただ皮肉を言うしか彼には出来なかった。
――――各々が寛ぐか作業をしているアジトへ戻って来たベクターだが、冷蔵庫で飲み物を漁ってるムラセと目が合うや否や、すぐに目を逸らしてソファに座った。そのままソファの上に放置していたオンボロな携帯ゲーム機を付ける。おまけで付属していたゲームソフトをベクターが遊び始めると、缶を二本持ったムラセも隣に座る。
「勝てね~…クッソ」
「格闘タイプのモンスター持ってた方が良いですよ、そいつと戦う時」
一人で遊んでいた時にムラセが隣で小言の様にアドバイスをしてくる。そして彼の足元に開封していないコーラの缶を置いた。「ありがと」と返してからベクターもそれを拾い上げて一度だけ飲むと、再び床に置いてからゲームを再開する。
「リーラさんから話聞きました。色々昔あったって」
「ん、まあそこそこな」
どうやらコーラの受け渡しや先程の会話で話しかけても大丈夫そうだとムラセは判断したらしい。そのまま事情は聞かせてもらったとかれに告げる。自分がいない所で元カノが勝手に暴露をしていた事だけは少し不愉快だったが、変にキレ散らかしても仕方ない。そう考えたベクターは相槌を打ってゲームの方に目を向け続けた。
「何か…すいませんでした」
ベクターが抱えていた事情も知らずに食って掛かった事に対し、ムラセは缶を手で弄繰り回しつつ言った。
「別に謝んなくていいよ。いきなり俺も悪かったし…あ、死んだ」
素っ気なくベクターも反応するが、直後にゲームオーバーになった事で苦々しい顔をする。
「人と話すときは目を合わせろって言ってんのに昔から…」
そんなぎこちない二人を遠目に眺めながらリーラはぼやく。そして自分も何か飲もうかと動きかけた時、タルマンが少し慌てた様に別室から戻って来た。
「おい、ジョージの奴が何か話あるらしいぜ」
そのまま急いで別室に入ると、コンピュータの前で椅子を軋ませているジョージがいた。
「データの解析が全部終わった。改竄もね。サーバーからデータぶっこ抜いたついでにウイルスも仕込んで繋がってる全ての端末に送り込んだ。相手側がコンピュータを起動した時、自動でウイルスに感染させてデータを消去するようになっているプログラムだ。しかも有線無線問わず実験場のサーバーに接続されている全ての端末がターゲット…奴さん、今頃大慌てかもな」
画面を全員に見せながらジョージは話し始めるが、その際にベクターへコッソリともう一つ用意しておいたメモリを渡す。誰も気づいてはいなかった。
「それで、”再臨”ってのがどういうものなのかって部分だが…これだ」
そのまま画面にはシェルター全体を記している巨大な地図が写されるが、その各地に巨大な召喚機の座標が記されていた。
「召喚機か ? これは何のためにあるんだ ?」
ベクターが尋ねた。
「魔界にいる自分の手下を連れてくるってベルゼブブが話してたそうじゃないか。この巨大なポータルはそれに使うつもりなんだ…やろうと思えばすぐにでも魔界から大量の化け物が押し寄せてくることになる。召喚機の実験に関するレポートもあったが…山みたいなデカさのデーモンも行けるらしい。欠点もあるけど…」
「欠点 ?」
「二つある…一つは構造。”グレイル”が持ってる魔力を利用してポータルを作るって仕組みが召喚機の基本だが、これ程デカいポータルを用意して魔界と繋ぐ場合、魔界にも”グレイル”の魔力による余波が届いてしまうんだ。つまり、彼らが出し抜こうとしているオルディウスって奴に魔力を探知されて勘付かれる恐れがある」
「もっとめんどくさいのを呼び寄せちまうかもしれないって事か」
ジョージが手に入れた資料やデータから推測をし、ベクター達も相槌を打ちながら聞き続ける。暇潰しが終わったリリスやイフリート、用事から返って来たシアルド・インダストリーズの面々も興味ありげに近づいて来た。
「そしてもう一つはグレイルの不調…ここ最近になって上手く動作をしなくなってるらしい。どうも制御出来る範疇を超える様な出力を勝手に出してまったり、後たまに強烈な光や稲妻を発するって…何か別の要因に感応してるんじゃないかって説もある。いずれにせよ、この”グレイル”ってのをどうにかすればポータルそのものが使えなくなるかもな」
ジョージが説明をする間、ベクターは黙ったまま今後の身の振り方を考える。ベルゼブブが聞かせてくれた計画からするに、オルディウスと正面からぶつかるのは避けたい事なのだろう。つまりポータルが抱える欠点を改善できない内は利用する確率も低い。しかし自分達が裏で色々と画策している事がバレてしまっている以上、コウジロウ側がどの様な行動に出るかが分からない。
どの道目的は彼らがノースナイツを始めとした他のシェルターで好き放題している横暴を止める事であり、そのためにはポータルを破壊するかコウジロウを始末する必要がある。向こうが動くのを待つか、準備が出来次第仕掛けるかの二択しか彼の頭には無かった。
「やっぱ仕掛けるか…」
結局そっちの方が性に合ってると感じたのか、全員がいる前でベクターは言った。
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