上 下
115 / 171
パート6:嵐

第115話 いつもの

しおりを挟む
 ――――現在

「ま、そういうこった」

 煙草の吸殻が何本か地面に転がった頃に、話し終えたベクターは新しい一本を咥えながら言った。そして火を付けてから立ち上がると、煙を吐きながらアーサーに背を向ける。彼は黙ったまま何か悩んでいる様に俯いていた。

「正直に白状したから許して欲しいとなんざ言わねえよ。後悔もしてない。だが自分がやった事から逃げるつもりも無い。背中撃ちたきゃいつでも撃てばいいさ。死ぬかは別としてな」

 そのまま言い残してアジトに戻って行こうとするベクターをアーサーは振り返ってから見つめ、腰にある拳銃の存在を思い出すがすぐに思い留まった。ここで感情的になって凶行に走った所で事態をややこしくするだけである。

 責任を負うと口で言うのは簡単だが、償いを行動として示せないのであればただの方便にすぎない。そしてその言葉を軽々しく言う者に限って、いざ有事になれば逃げだすのが関の山だろう。

「…誰も彼もがお前みたいに生きてたら、とっくに人類は滅んでるだろうな」

 歯痒さを感じるアーサーだったが、今はただ皮肉を言うしか彼には出来なかった。



 ――――各々が寛ぐか作業をしているアジトへ戻って来たベクターだが、冷蔵庫で飲み物を漁ってるムラセと目が合うや否や、すぐに目を逸らしてソファに座った。そのままソファの上に放置していたオンボロな携帯ゲーム機を付ける。おまけで付属していたゲームソフトをベクターが遊び始めると、缶を二本持ったムラセも隣に座る。

「勝てね~…クッソ」
「格闘タイプのモンスター持ってた方が良いですよ、そいつと戦う時」

 一人で遊んでいた時にムラセが隣で小言の様にアドバイスをしてくる。そして彼の足元に開封していないコーラの缶を置いた。「ありがと」と返してからベクターもそれを拾い上げて一度だけ飲むと、再び床に置いてからゲームを再開する。

「リーラさんから話聞きました。色々昔あったって」
「ん、まあそこそこな」

 どうやらコーラの受け渡しや先程の会話で話しかけても大丈夫そうだとムラセは判断したらしい。そのまま事情は聞かせてもらったとかれに告げる。自分がいない所で元カノが勝手に暴露をしていた事だけは少し不愉快だったが、変にキレ散らかしても仕方ない。そう考えたベクターは相槌を打ってゲームの方に目を向け続けた。

「何か…すいませんでした」

 ベクターが抱えていた事情も知らずに食って掛かった事に対し、ムラセは缶を手で弄繰り回しつつ言った。

「別に謝んなくていいよ。いきなり俺も悪かったし…あ、死んだ」

 素っ気なくベクターも反応するが、直後にゲームオーバーになった事で苦々しい顔をする。

「人と話すときは目を合わせろって言ってんのに昔から…」

 そんなぎこちない二人を遠目に眺めながらリーラはぼやく。そして自分も何か飲もうかと動きかけた時、タルマンが少し慌てた様に別室から戻って来た。

「おい、ジョージの奴が何か話あるらしいぜ」

 そのまま急いで別室に入ると、コンピュータの前で椅子を軋ませているジョージがいた。

「データの解析が全部終わった。改竄もね。サーバーからデータぶっこ抜いたついでにウイルスも仕込んで繋がってる全ての端末に送り込んだ。相手側がコンピュータを起動した時、自動でウイルスに感染させてデータを消去するようになっているプログラムだ。しかも有線無線問わず実験場のサーバーに接続されている全ての端末がターゲット…奴さん、今頃大慌てかもな」

 画面を全員に見せながらジョージは話し始めるが、その際にベクターへコッソリともう一つ用意しておいたメモリを渡す。誰も気づいてはいなかった。

「それで、”再臨”ってのがどういうものなのかって部分だが…これだ」

 そのまま画面にはシェルター全体を記している巨大な地図が写されるが、その各地に巨大な召喚機の座標が記されていた。

「召喚機か ? これは何のためにあるんだ ?」

 ベクターが尋ねた。

「魔界にいる自分の手下を連れてくるってベルゼブブが話してたそうじゃないか。この巨大なポータルはそれに使うつもりなんだ…やろうと思えばすぐにでも魔界から大量の化け物が押し寄せてくることになる。召喚機の実験に関するレポートもあったが…山みたいなデカさのデーモンも行けるらしい。欠点もあるけど…」
「欠点 ?」
「二つある…一つは構造。”グレイル”が持ってる魔力を利用してポータルを作るって仕組みが召喚機の基本だが、これ程デカいポータルを用意して魔界と繋ぐ場合、魔界にも”グレイル”の魔力による余波が届いてしまうんだ。つまり、彼らが出し抜こうとしているオルディウスって奴に魔力を探知されて勘付かれる恐れがある」
「もっとめんどくさいのを呼び寄せちまうかもしれないって事か」

 ジョージが手に入れた資料やデータから推測をし、ベクター達も相槌を打ちながら聞き続ける。暇潰しが終わったリリスやイフリート、用事から返って来たシアルド・インダストリーズの面々も興味ありげに近づいて来た。

「そしてもう一つはグレイルの不調…ここ最近になって上手く動作をしなくなってるらしい。どうも制御出来る範疇を超える様な出力を勝手に出してまったり、後たまに強烈な光や稲妻を発するって…何か別の要因に感応してるんじゃないかって説もある。いずれにせよ、この”グレイル”ってのをどうにかすればポータルそのものが使えなくなるかもな」

 ジョージが説明をする間、ベクターは黙ったまま今後の身の振り方を考える。ベルゼブブが聞かせてくれた計画からするに、オルディウスと正面からぶつかるのは避けたい事なのだろう。つまりポータルが抱える欠点を改善できない内は利用する確率も低い。しかし自分達が裏で色々と画策している事がバレてしまっている以上、コウジロウ側がどの様な行動に出るかが分からない。

 どの道目的は彼らがノースナイツを始めとした他のシェルターで好き放題している横暴を止める事であり、そのためにはポータルを破壊するかコウジロウを始末する必要がある。向こうが動くのを待つか、準備が出来次第仕掛けるかの二択しか彼の頭には無かった。

「やっぱ仕掛けるか…」

 結局そっちの方が性に合ってると感じたのか、全員がいる前でベクターは言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲーのモブに転生した俺、なぜかヒロインの攻略対象になってしまう。えっ? 俺はモブだよ?

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑ お気に入り登録をお願いします! ※ 5/15 男性向けホットランキング1位★  目覚めたら、妹に無理やりプレイさせられた乙女ゲーム、「ルーナ・クロニクル」のモブに転生した俺。    名前は、シド・フォン・グランディ。    準男爵の三男。典型的な底辺貴族だ。 「アリシア、平民のゴミはさっさと退学しなさい!」 「おいっ! 人をゴミ扱いするんじゃねぇ!」  ヒロインのアリシアを、悪役令嬢のファルネーゼがいじめていたシーンにちょうど転生する。    前日、会社の上司にパワハラされていた俺は、ついむしゃくしゃしてファルネーゼにブチキレてしまい…… 「助けてくれてありがとうございます。その……明日の午後、空いてますか?」 「えっ? 俺に言ってる?」  イケメンの攻略対象を差し置いて、ヒロインが俺に迫ってきて…… 「グランディ、決闘だ。俺たちが勝ったら、二度とアリシア近づくな……っ!」 「おいおい。なんでそうなるんだよ……」  攻略対象の王子殿下に、決闘を挑まれて。 「クソ……っ! 準男爵ごときに負けるわけにはいかない……」 「かなり手加減してるんだが……」  モブの俺が決闘に勝ってしまって——  ※2024/3/20 カクヨム様にて、異世界ファンタジーランキング2位!週間総合ランキング4位!

チート生産魔法使いによる復讐譚 ~国に散々尽くしてきたのに処分されました。今後は敵対国で存分に腕を振るいます~

クロン
ファンタジー
俺は異世界の一般兵であるリーズという少年に転生した。 だが元々の身体の持ち主の心が生きていたので、俺はずっと彼の視点から世界を見続けることしかできなかった。 リーズは俺の転生特典である生産魔術【クラフター】のチートを持っていて、かつ聖人のような人間だった。 だが……その性格を逆手にとられて、同僚や上司に散々利用された。 あげく罠にはめられて精神が壊れて死んでしまった。 そして身体の所有権が俺に移る。 リーズをはめた者たちは盗んだ手柄で昇進し、そいつらのせいで帝国は暴虐非道で最低な存在となった。 よくも俺と一心同体だったリーズをやってくれたな。 お前たちがリーズを絞って得た繁栄は全部ぶっ壊してやるよ。 お前らが歯牙にもかけないような小国の配下になって、クラフターの力を存分に使わせてもらう! 味方の物資を万全にして、更にドーピングや全兵士にプレートアーマーの配布など……。 絶望的な国力差をチート生産魔術で全てを覆すのだ! そして俺を利用した奴らに復讐を遂げる!

逃げるが価値

maruko
恋愛
侯爵家の次女として生まれたが、両親の愛は全て姉に向いていた。 姉に来た最悪の縁談の生贄にされた私は前世を思い出し家出を決行。 逃げる事に価値を見い出した私は無事に逃げ切りたい! 自分の人生のために! ★長編に変更しました★ ※作者の妄想の産物です

異世界転生? いいえ、チートスキルだけ貰ってVRMMOをやります!

リュース
ファンタジー
主人公の青年、藤堂飛鳥(とうどう・あすか)。 彼は、新発売のVRMMOを購入して帰る途中、事故に合ってしまう。 だがそれは神様のミスで、本来アスカは事故に遭うはずでは無かった。 神様は謝罪に、チートスキルを持っての異世界転生を進めて来たのだが・・・。 アスカはそんなことお構いなしに、VRMMO! これは、神様に貰ったチートスキルを活用して、VRMMO世界を楽しむ物語。 異世界云々が出てくるのは、殆ど最初だけです。 そちらがお望みの方には、満足していただけないかもしれません。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました! ~失われたギフト~

高見南純平
ファンタジー
最弱ヒーラーの主人公は、ついに冒険者パーティーを100回も追放されてしまう。しかし、そこで条件を満たしたことによって新スキルが覚醒!そのスキル内容は【今まで追放してきた冒険者のスキルを使えるようになる】というとんでもスキルだった! 主人公は、他人のスキルを組み合わせて超万能最強冒険者へと成り上がっていく! ~失われたギフト~ 旅を始めたララクは、国境近くの村でかつての仲間と出会うことに。 そして一緒に合同クエストを行うことになるが、そこで彼らは不測の事態におちいることに!

デルモニア紀行

富浦伝十郎
ファンタジー
高度なVR技術によって創り上げられた世界 『デルモニア』 主人公のペルソナが受肉したのは矮小なゴブリンだった。 ポジティブな主人公の地道なサバイバルが始まる。

戦場で死ぬはずだった俺が、女騎士に拾われて王に祭り上げられる(改訂版)

ぽとりひょん
ファンタジー
 ほむらは、ある国家の工作員をしていたが消されそうになる。死を偽装してゲリラになるが戦闘で死ぬ運命にあった。そんな彼を女騎士に助けられるが国の王に祭り上げられてしまう。彼は強大な軍を動かして地球を運命を左右する戦いに身を投じていく。  この作品はカクヨムで連載したものに加筆修正したものです。

処理中です...