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パート5:追憶と対峙

第100話 衝突

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「真正面から喰らって無事な奴は初めてだ…」

 殲滅衝破ジェノサイド・ブラストを何事も無く耐えきって見せたザガンを前にしたベクターは、動揺を隠さずに口に出した。すかさず背負っていたオベリスクを握り締め、構えようとするが何かがおかしい。オベリスクだけではない。レクイエムも含めて何かに引っ張られてるかのような凄まじい違和感が彼を襲った。

 ハヤト・シライシが何をせずとも彼女に引き寄せられた様に、これが彼女の能力ななのかとベクターが見抜きかけた時には遅かった。オベリスクを引き付けようとする引力はさらに強まり、遂に手放さざるを得なくなってしまう。そのまま飛んで行ったかと思えば、その先に立っていたザガンの手に勢いよく収まった。

「何だ、思っていたより扱いやすいな」

 軽々と持ち上げ、触り心地を確かめながらザガンはオベリスクに対する所見を述べる。

「返してくれ。作り直すってなると馬鹿にならねえんだよ、金」

 相手の戦力が把握できない状況下であるせいか、流石に素手でやり合う度胸は無かったらしいベクターは気まずそうに頼み込む。ザガンは一度だけ彼の方を見たが、そのままオベリスクを床に突き刺してから距離を取る。

「安心しろ。こちらとしてもお前の実力を見ておきたい。それに…」
「それに ?」
「後で言い訳されても胸糞悪いんでな。まあ…詰まるところハンデだ。来い、叩き潰してやる」

 ベクターを試しているかの様な発言をザガンはすると、そのまま刀を持ったまま腰を低くして構えを取る。

「お前たぶん後悔するぜ。あんな事言わなきゃ良かったってな」

 虚勢を張りながらベクターも構え、静かに睨み合う。虚しく響き続ける警報や慌ただしい物音の中、頃合いを見ていたベクターがオベリスクのスターターを起動してチェーンを回転させた瞬間、ザガンが駆け出した。ベクターもそのまま突っ込み、両者の武器が激突する。鍔迫り合いとなりながらも火花が散り、互いを押し合う様にして力比べが始まった。咄嗟に武器を振り払ってベクターは距離を取るが、すかさずザガンは間合いに詰め寄って刀を振るって来る。

 攻撃を凌ぎ続けるベクターは隙を見てレクイエムで殴ろうとするが、彼女が刀で袈裟切りにしようとしていた事に気が付き、咄嗟にレクイエムの掌で受け止めてから刀身を握る。ほぼ同じタイミングで自身もオベリスクを彼女に叩きつけていたが、あろうことかザガンも素手で受け止めていた。レクイエムは勿論の事、オベリスクの攻撃を受け止めている彼女の腕からも火花が迸っている。ザガンが体に何かを仕込んでいる事は明らかであり、手応えからして金属であるとベクターは瞬時に判断した。

「どうした。後悔させてくれるんじゃないのか ?」

 ベクターを押し返しながらザガンが挑発した。

「安心しろよ。今からさせてやる」

 少し余裕は無くなりつつあったが、ベクターも答えてから押し返し始めた。踏みしめながら押し合っているせいで床にも亀裂が入り始める。互いが互いに対する困惑をひた隠し、そのまま押し比べをしていたが先に次の一手を仕掛けたのはベクターであった。仮面を纏っていたザガンの顔面に頭突きを敢行し、彼女は思わず力を緩めてしまう。

 額がかち合い、あまりの衝撃に両者は少しよろけて後退をしたものの、ベクターはすぐに立て直して彼女の顔面へレクイエムによる拳打を叩き込んだ。吹き飛ばされたザガンは、そのまま通路からの視察に使われてる防弾ガラスの窓を突き破り、別の研究室へ壁を壊しながら叩き飛ばされた。後を追いかけてやろうとベクターは走り出すが、壁が崩れて舞い上がっている煙の中から物凄い勢いで何かが飛来したかと思えば、そのままベクターの肉体を貫通した。

「は… ?」

 煙の中からこちらに向かって一直線に鎖が伸びていた。鎖はベクターの肉体を貫通しており、先端が鉤爪になっているせいで簡単には引き抜けないようになっている。そのまま鎖によって引っ張り寄せられた先では、ひび割れた仮面越しにベクターを睨むザガンの姿があった。鎖は彼女の腕に出来た裂け目から生える様に伸びており、彼女の意思に応じて自在に動き回る。そのままベクターを壁に叩きつけ、その隙に刀を再び変形させて今度は自身の片腕に纏わせる。たちまち即席の籠手が完成した。

「お返しだ」

 再びベクターを自分の方へ引き寄せた直後、ザガンは籠手を使ってベクターを殴り飛ばす。脇腹をアッパーカットで殴られたベクターは、勢いのままに天井を突き破って上の階層へと吹き飛ばされた。何とか受け身を取って着地をしたものの、周囲はかなり暗い。自分達が利用していたケーブルカー乗り場に近いらしく、レールが付近に設置されている。

 近くに転がっていたオベリスクを拾った直後、今しがた自分が床に空けた穴から後を追う様ににザガンも現れる。勢いよく跳躍した彼女はそのまま音を立てて着地をすると、ベクターの前に再び立ちはだかった。身に着けていた仮面が大きく損傷している事が気になったのか、ザガンはそれを取っ払って顔を露にする。リリスやイフリート同様の紅い瞳を持っており、顔にも大きな傷が見えた。

「理由も無いのに顔隠す奴は根暗かブスって相場が決まってるもんだが…何だ、悪くないな」

 ベクターが揶揄ってみるが、あまり大したリアクションもせずにザガンは再び構える。それに応じたベクターも、少し痛む体に鞭を打ってからいつでも行けると構え直した。
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