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パート5:追憶と対峙
第84話 虚偽
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「ただいま…うおっ、これはひどい」
アジトのある地下に戻ってきたベクター達は、付近に飛び散っている血痕や血だまり、そして細切れにされて乱暴に捨てられた肉塊を見て気色悪そうに顔を歪める。ドアの向こうでは野太い悲鳴が上がっており、まだ生存者が良そうな雰囲気であった。ドアノブを掴んで勢いよく開けると、スーツに身を包んだ男たちが見慣れた三匹の犬によって見るも無残な姿に変えられている真っ最中である。
生きたまま牙によって頭蓋骨を砕かれ失禁し、はらわたを食い散らかし、首や足などに噛みついて振り回している三匹の内、ベクター達に気づいた一匹が声を上げた。
「あ、ファイさん」
「よお ! 先に楽しんじゃったぜ !」
ムラセが声を出すと、頭部を噛み千切って吐き出したファイが駆け寄る。そのままドイラーやティカールも近づいてじゃれ付き、跪いて撫でてくれる彼女の顔を舐め始めた。懐いてくれてるのは分かるが、血生臭さと口内の汚れによってムラセの顔は赤くなってしまう。彼らなりの交流の仕方だという事もあってか、ムラセは断ろうにも断れなかった。
「その辺にしとけ、汚れるだろ…こいつらはどうした ?」
「ほんのついさっきに来やがった。ま、結果は見ての通りだがな」
夢中になってムラセにじゃれ付くファイ達を叩きながら、ベクターが部屋に入るとタルマンやジョージ、それにフロウも椅子に腰かけていた。そのまま事情を尋ねると、タルマンがすかさず口を開いて先程スーツの男達が押しかけて来たのだと答える。
「無茶振りして悪いね」
「ホント。おかげで仕事の大半ほっぽり出しちゃった」
オベリスクを壁に立てかけながらベクターが喋っていると、奥のソファに座っていたリーラが立ち上がって彼を見る。ようやく三匹から解放されたムラセも状況が分かってないのか、ベクターと彼女を交互に見ながら不思議そうにしている。
「ウチもビックリしたわ。連絡も無しにいきなり来よって」
フロウは呟きながら煙草を吸おうとしていたが、箱が空になっている事に気づいて渋々ゴミ箱へ放り投げる。
「もう少し遅れてくる予定だったけど、コイツに頼まれたから」
「その通り。でも早めに来てもらって正解だった…さて。フロウさん、少し話がある」
リーラも呆れた様に言うが、ベクターは結果オーライだと彼女へ笑い返した。しかしすぐに笑顔を消してフロウへ話しかけ始める。いつになく重々しい声にフロウも思わずベクターの方へ首を向けた。
「どうしたんや急に」
「腹を割って話す事も大事だと思ってな。正直に教えてくれ、何か隠している事はないか ?」
問いかけて来たフロウに対し、ベクターは椅子を一つ運んで彼女の前に置く。そしてそこに座ってから真剣な表情で質問をした。真剣というよりは、出方次第では彼女を排除せんとする凄味さえ感じる。冷蔵庫からオレンジジュースのパックを取ろうとしていたリーラも思わず手を止めた。
「…根拠は ?」
「コウジロウ・シライシとかいう爺さんと話をして来た。俺達の事に随分詳しかったが、情報が筒抜けになっている。経歴や身分はまだしも、俺達が来る事すら知っている風だった。そうなると情報源は確実に限られて来る。間違いなく俺達と一緒にいて、予定や行動を把握している奴にしか出来ない。そんな事を考えてたら、アンタの事を思い出してな」
少し頭を掻いてからベクターは彼女を疑っている根拠を言い連ねていく。フロウも変に反応をする事なく、もしくはボロを出してはマズいと思っているのか沈黙したままであった。
「ふ~ん、言うてみいや」
フロウは少しだけ鼻で笑ってから、他に気になる部分があるのなら言ってみろと催促をし出す。
「俺達がリゾートへ向かう前だよ。ここでホワイトボード引っ張り出してから話し合ってたろ。シライシって奴に会わないといけないとか計画立ててたが、奴に関する情報を色々入手し忘れてた。そこでアンタに聞いてみたら、『そんな男は知らん』って返されてな」
「ああ、そやったな。それがどうしたんや」
「情報を聞きそびれてたせいで、俺達はシライシがどんな奴かを把握できてなかったんだ。色んな可能性があるからって事でホワイトボードにも名前以外の情報を載せてなかった…なのに、アンタはなぜシライシって人物が男だと断定できた ? 知ってたんだろ ? 奴の事」
ベクターが気になっていた点について指摘し出すと、フロウは変に反応するわけでも無くただ俯いている。焦る様な態度でも無く、むしろ余裕さえ感じられた。
「闘技場やクラブで相手方に顔が割れてる事は分かってた…だから、もしかしたらと思って鎌をかけてみたら、そんな答えが返って来て驚いたよ。まさかこの人が…ってさ。だけど、コソコソ隠れて人を動かす手合いは平気で仲間を見捨てる。用が済めば始末に動くかもしれない…だから急いでリーラと連絡を取って彼女を呼んだ。まあ、よっぽどの相手でもない限りは事足りると思ってたしな…で、どう ? 俺の推理って当たってたりする ?」
話し終えたベクターはリラックスするように体勢を崩し、椅子を軋ませながらフロウの方を見た。他の全員も黙ったまま彼らのやり取りの行く末を窺っていた。フロウは一度だけ天井を仰ぎ、ふぅと一息ついてから自分に背を向けているリーラの方へ目をやる。
「アンタ、やっぱ話しとらんかったんやな」
呆れたような声と共にフロウから発せられたその言葉は、再びベクター達を混乱させる事となった。
アジトのある地下に戻ってきたベクター達は、付近に飛び散っている血痕や血だまり、そして細切れにされて乱暴に捨てられた肉塊を見て気色悪そうに顔を歪める。ドアの向こうでは野太い悲鳴が上がっており、まだ生存者が良そうな雰囲気であった。ドアノブを掴んで勢いよく開けると、スーツに身を包んだ男たちが見慣れた三匹の犬によって見るも無残な姿に変えられている真っ最中である。
生きたまま牙によって頭蓋骨を砕かれ失禁し、はらわたを食い散らかし、首や足などに噛みついて振り回している三匹の内、ベクター達に気づいた一匹が声を上げた。
「あ、ファイさん」
「よお ! 先に楽しんじゃったぜ !」
ムラセが声を出すと、頭部を噛み千切って吐き出したファイが駆け寄る。そのままドイラーやティカールも近づいてじゃれ付き、跪いて撫でてくれる彼女の顔を舐め始めた。懐いてくれてるのは分かるが、血生臭さと口内の汚れによってムラセの顔は赤くなってしまう。彼らなりの交流の仕方だという事もあってか、ムラセは断ろうにも断れなかった。
「その辺にしとけ、汚れるだろ…こいつらはどうした ?」
「ほんのついさっきに来やがった。ま、結果は見ての通りだがな」
夢中になってムラセにじゃれ付くファイ達を叩きながら、ベクターが部屋に入るとタルマンやジョージ、それにフロウも椅子に腰かけていた。そのまま事情を尋ねると、タルマンがすかさず口を開いて先程スーツの男達が押しかけて来たのだと答える。
「無茶振りして悪いね」
「ホント。おかげで仕事の大半ほっぽり出しちゃった」
オベリスクを壁に立てかけながらベクターが喋っていると、奥のソファに座っていたリーラが立ち上がって彼を見る。ようやく三匹から解放されたムラセも状況が分かってないのか、ベクターと彼女を交互に見ながら不思議そうにしている。
「ウチもビックリしたわ。連絡も無しにいきなり来よって」
フロウは呟きながら煙草を吸おうとしていたが、箱が空になっている事に気づいて渋々ゴミ箱へ放り投げる。
「もう少し遅れてくる予定だったけど、コイツに頼まれたから」
「その通り。でも早めに来てもらって正解だった…さて。フロウさん、少し話がある」
リーラも呆れた様に言うが、ベクターは結果オーライだと彼女へ笑い返した。しかしすぐに笑顔を消してフロウへ話しかけ始める。いつになく重々しい声にフロウも思わずベクターの方へ首を向けた。
「どうしたんや急に」
「腹を割って話す事も大事だと思ってな。正直に教えてくれ、何か隠している事はないか ?」
問いかけて来たフロウに対し、ベクターは椅子を一つ運んで彼女の前に置く。そしてそこに座ってから真剣な表情で質問をした。真剣というよりは、出方次第では彼女を排除せんとする凄味さえ感じる。冷蔵庫からオレンジジュースのパックを取ろうとしていたリーラも思わず手を止めた。
「…根拠は ?」
「コウジロウ・シライシとかいう爺さんと話をして来た。俺達の事に随分詳しかったが、情報が筒抜けになっている。経歴や身分はまだしも、俺達が来る事すら知っている風だった。そうなると情報源は確実に限られて来る。間違いなく俺達と一緒にいて、予定や行動を把握している奴にしか出来ない。そんな事を考えてたら、アンタの事を思い出してな」
少し頭を掻いてからベクターは彼女を疑っている根拠を言い連ねていく。フロウも変に反応をする事なく、もしくはボロを出してはマズいと思っているのか沈黙したままであった。
「ふ~ん、言うてみいや」
フロウは少しだけ鼻で笑ってから、他に気になる部分があるのなら言ってみろと催促をし出す。
「俺達がリゾートへ向かう前だよ。ここでホワイトボード引っ張り出してから話し合ってたろ。シライシって奴に会わないといけないとか計画立ててたが、奴に関する情報を色々入手し忘れてた。そこでアンタに聞いてみたら、『そんな男は知らん』って返されてな」
「ああ、そやったな。それがどうしたんや」
「情報を聞きそびれてたせいで、俺達はシライシがどんな奴かを把握できてなかったんだ。色んな可能性があるからって事でホワイトボードにも名前以外の情報を載せてなかった…なのに、アンタはなぜシライシって人物が男だと断定できた ? 知ってたんだろ ? 奴の事」
ベクターが気になっていた点について指摘し出すと、フロウは変に反応するわけでも無くただ俯いている。焦る様な態度でも無く、むしろ余裕さえ感じられた。
「闘技場やクラブで相手方に顔が割れてる事は分かってた…だから、もしかしたらと思って鎌をかけてみたら、そんな答えが返って来て驚いたよ。まさかこの人が…ってさ。だけど、コソコソ隠れて人を動かす手合いは平気で仲間を見捨てる。用が済めば始末に動くかもしれない…だから急いでリーラと連絡を取って彼女を呼んだ。まあ、よっぽどの相手でもない限りは事足りると思ってたしな…で、どう ? 俺の推理って当たってたりする ?」
話し終えたベクターはリラックスするように体勢を崩し、椅子を軋ませながらフロウの方を見た。他の全員も黙ったまま彼らのやり取りの行く末を窺っていた。フロウは一度だけ天井を仰ぎ、ふぅと一息ついてから自分に背を向けているリーラの方へ目をやる。
「アンタ、やっぱ話しとらんかったんやな」
呆れたような声と共にフロウから発せられたその言葉は、再びベクター達を混乱させる事となった。
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