83 / 171
パート5:追憶と対峙
第83話 前向きに検討させていただきます
しおりを挟む
「ふんふふ~ん」
アジトにて、鼻歌を響かせるタルマンは分厚い生地を取り出しながらラジオを聞いていた。その傍らでは上着を脱いだジョージがコンピュータと睨み合っており、険しい表情で入手したデータやファイルの確認に勤しんでいる。
”続いてのニュースです。あの不朽の名作と呼ばれた冒険映画『アワー・ファイナル・ジャーニー』のリメイク、そしてその続編の製作が決定しました。監督であるジェスター・ブライムズは『人種、ルッキズム、フェミニズムなどありとあらゆる思想や文化に配慮した素晴らしいキャスティングとシナリオ改変を行う』とコメントしており、一方で製作会社のネイキッド・ウルフ・エンターテイメントも今後はリメイク版に準拠したメディア展開を行っていくという理由からオリジナル版の公開及び販売を停止する計画を明らかにしています”
ラジオから流れるニュースを聞いたタルマンは苦笑いと共に生地を天井からフックでぶら下げ、なぜか火炎放射器を準備し始める。
「こんな事だろうと思ってオリジナル版のDVD買っといて正解だったぜ。しかもディレクターズカット」
「映画そんなに見ないからな…ってちょっと待て。アンタ何やってんだ ?」
ニュースに対する自身の感想をタルマンは話しながら、トリガーを引いて炎を放出する。ジョージはそれとなく反応していたが、彼が火炎放射器で吊り下げていた生地へ炎を浴びせている光景に思わず驚いてしまった。
「ただのテストだ安心しろ。ほら、焦げ一つない」
耐火グローブをはめて近づいたタルマンは、理由を説明してから無事だったらしい生地を見せつける。確かにこれといって目立った損傷も見られなかった。
「リリスが能力とやらを使うと服がボロボロになって大変だって言うもんだから、いっそ全員が暴れる時のために丈夫な装備でもあった方が良いって思ってよ。やるなら他人の金が使える今の内ってわけだ。お前の方はどうだ ? さっきからずっと機械と睨み合ってるみたいだが」
「それが少し妙な物を見つけた。こっちに…」
タルマンは事情を話してから休憩でもする気なのか、道具を放りっぱなしにしてジョージの方へ近づくと、彼は取り寄せてもらったらしいコンピュータの画面を指し示す。どういう事なのか早速見てみようとしたその時、何者かが軽快な音で扉をノックした。
「はい、すぐに行きます」
ジョージは簡単に呼びかけてからテーブルに置いてあった拳銃を手に取り、いつでも発砲できるのを確認してから腰に下げる。そのままドアを開けると、フロウが箱を持って立っていた。
「差し入れやで…それと客人が来とる」
「ん…お前、何でここに…⁉」
ナッツの香りがする箱を手渡してくるフロウの背後から、静かな足取りで人影が現れる。その顔を見たタルマンは嬉しさや驚愕が入り混じりつつ、半笑い気味な表情で人影へ話しかけた。
――――ベクターの発言を最後に、全員が押し黙ったまま時間が少しだけ過ぎた。仮面によって隠されているが、酷く殺気立っているザガンや訝しさを顔に出して来るコウジロウを前に、ベクターは相手をするのに疲れたらしく首を鳴らしている。
「そんなもんか…とは、どういう意味でしょうか ?」
「予想が的中したって事だよ。手を打っといて正解だった。いくら物腰柔らかい紳士を演じてようが、これまでの対応や話している時の態度から察しが付く」
静かに語り掛けてくるコウジロウだったが、ベクターは相も変わらず嘗め腐った様な口ぶりで彼に返答をした。
「オーガズゲートのオーナーがウェジバグってデーモンに殺されたのは聞いたか ? いや、知らないわけ無いよな。あれだけズブズブな関係なんだ。確実に情報が来ている筈…ベルゼブブとかいう奴の使い魔らしいが、あんたとベルゼブブの繋がりは ? 口封じに殺したのか ?」
「さあ…何の事やら。それにそんな事をして、私に何のメリットがあるのです ? 大事な取引相手を――」
「始末するわけがない。普通はそうだが手に入れたメールのやり取りを見る限り、奴は只の雇われ。本音を言えば、実験の材料を持ってきてくれるんなら誰でも良かったんだろ ? 自分の息子があんだけボコられたってのに、心配する素振りすら見せなかったのもそうだ。不利益を被ると分かったらさっさと見捨てる…ハッキリ言って、一番組むのを避けたい人種だよ」
ベクターの追及にコウジロウも真顔で応じ続ける。この馬鹿をいい加減黙らせるべきだろうかと、ザガンは時折粗暴な衝動に駆られるがリリス達が自分に睨みを利かせている事に気づくと思い留まった。間違いなく互いに無事では済まない。
「必要な犠牲というものです。足を引っ張られ、計画を台無しにされては元も子もない」
「なら包み隠さずに人攫って人体実験してますと世間に公表すれば良い。それが出来ない辺り、自分達が他人の神経逆撫でするような事しでかしてるって自覚はあるんだろ ? 」
「言っても分からぬ者達で溢れかえっている世界だからです。こうするしかない」
ベクターから陰湿さを責め立てられていたコウジロウは、それが必要な事であると開き直った。彼の態度と言い分に興味が湧いて来たのか、ベクターは少し目を丸くして彼の言い分に耳を傾ける。
「どれだけ理屈を並べて説明しても、自分に都合が悪ければ見なかった事にし…理想とは名ばかりの夢物語に現を抜かす。そのような頭の足りん有象無象に限って犠牲ををとことん嫌がる。自分達の生活や人生が、その犠牲の上で成り立っている事を理解すらしていない。社会の繁栄のための正義…それを遂行するには、時として切り捨てる判断も必要になって来る」
「正義か。俺が好きな言葉だが…たぶん、アンタと俺じゃ正義に対する認識が違うんだな」
一通り聞いたベクターは彼の話に出てきた正義という言葉に反応するが、すかさず自分とコウジロウが相容れない人間であると主張し出す。
「俺にとっての正義ってのは”道具”だよ。善悪とか、何が正しいかとかは関係ない。自分の行動を相手に納得させるための手段。警官や弁護士共がこれ見よがしに付けてる胡散臭いバッジと同じ。自分の主張や行動を認めさせるための箔付けだよ。俺は少なくとも、アンタと違って自分の行いが正しい事となんざ思っちゃいない。感謝されようが恨まれようが知った事じゃないし、それを承知の上でやってる」
鳴らした指を向けながら思いついたようにベクターは持論を喋り続ける。軽快な喋り口調ではあるが、経験に裏打ちされてるような断定的な物言いであった。
「つーわけで馬が合わないし交渉決裂…って行きたいところだが、おたくが持ってる情報や、何をやってるのかについては興味がある」
ベクターは勿体ぶりながら、話に乗る気自体はあるとチラつかせて様子を窺い始めた。諦めるつもりだったらしいコウジロウも眉を少しだけ吊り上げて彼のほうを見る。
「少し時間をくれ。ちょっと前なら二つ返事で答えを出してたんだが、最近”荷物”が増えたもんで。こっちも色々打ち合わせが必要になってる」
ベクターからの提案に、ザガンは何を言うわけでも無くコウジロウの回答を待ち続ける。一方で他の三人は荷物扱いされた事が癪に障ったのか、不服そうな顔でベクターの方を見ていた。
「…成程。ではお早めにお願いします。その際には、またこちらへ出向いてくれれば結構です。良い返事を期待していますよ」
「それじゃあ、そろそろお暇と…そういえばリゾートで暴れた事については…」
「ハイドリート保安機構へ釘を刺しておきました。『この件に関しては手出し無用』だと」
コウジロウが頷き、要求を吞んでくれた事を確認したベクターはさっさと帰ろうと立ち上がる。同時に治安維持組織に逮捕させるなんて事はしないだろうかと不安げに尋ねるが、コウジロウもそれについてはお咎めなしにしておこうと返答をして来た。肩の力を抜いたベクターは仲間達を軽く押しながら部屋の外へ出していき、自分が最後になるよう歩き出す。
「ああ、そうだ。年下のガキの戯言だと思って聞いて欲しいんだが…あまり人を見下さない方が良い。いつどこで切り捨てられる側になるかなんて分からないからな」
部屋を出ようとした直前、ベクターは突然立ち止まってから振り返らずに語り掛ける。戯言程度ならと耳を貸していたコウジロウ達だが、一切表情が見えないせいかどことなく不穏な気配が漂っていた。
「それともう一つ」
ベクターが同じ口調で付け足しを行おうとした時、二人は思わず身構えたくなる程の覇気を感じ取った。鳥肌が立つだけではない。産毛が逆立ち、体に寒気が走った事で誰にも気づかれない程の小さな身震いが二人に襲い掛かる。彼自身が抱える凶悪な本性の一端が、殺気として垣間見えたと錯覚さえしてしまった。
「こっちは身内に手出されて黙ってられる程、平和主義ってわけでも無いんだ。何してくるのも勝手だが、それは忘れるなよ…それじゃあまた」
そのままベクターが障子を閉めて歩き去って行った後、コウジロウが無意識に握っていた手を開くと汗で濡れていた。
「ザガン、奴らをどう思う ?」
平静をよそいつつコウジロウは背後にいたザガンへ問いかける。
「ベクターだけではなく、あのムラセとかいう小娘も含めて不安要素が多い。これまでの情報からして、真正面から殺り合うのはキツイものがある。念のためベルゼブブに話を通した方が良いかもしれん」
「そうだな…ところで、何やら不機嫌そうだがどうした ?」
助言をして来るザガンへ同意していたコウジロウだったが、不意に彼女の態度が少々素っ気なくなっている事に気づいた。顔を隠しているせいで分からないが、明らかに物悲しさや苛立ちを匂わせている。
「いや、別に」
「…お前が買って来た菓子をあの男が食べなかったからか ?」
「黙れ」
否定する彼女へコウジロウが憶測を述べると、ザガンはすぐさま彼を威圧する。そして調べたい事があると言い残して応接間から出て行く彼女を、コウジロウは馬鹿馬鹿しいと言いたげな表情で見送った。
アジトにて、鼻歌を響かせるタルマンは分厚い生地を取り出しながらラジオを聞いていた。その傍らでは上着を脱いだジョージがコンピュータと睨み合っており、険しい表情で入手したデータやファイルの確認に勤しんでいる。
”続いてのニュースです。あの不朽の名作と呼ばれた冒険映画『アワー・ファイナル・ジャーニー』のリメイク、そしてその続編の製作が決定しました。監督であるジェスター・ブライムズは『人種、ルッキズム、フェミニズムなどありとあらゆる思想や文化に配慮した素晴らしいキャスティングとシナリオ改変を行う』とコメントしており、一方で製作会社のネイキッド・ウルフ・エンターテイメントも今後はリメイク版に準拠したメディア展開を行っていくという理由からオリジナル版の公開及び販売を停止する計画を明らかにしています”
ラジオから流れるニュースを聞いたタルマンは苦笑いと共に生地を天井からフックでぶら下げ、なぜか火炎放射器を準備し始める。
「こんな事だろうと思ってオリジナル版のDVD買っといて正解だったぜ。しかもディレクターズカット」
「映画そんなに見ないからな…ってちょっと待て。アンタ何やってんだ ?」
ニュースに対する自身の感想をタルマンは話しながら、トリガーを引いて炎を放出する。ジョージはそれとなく反応していたが、彼が火炎放射器で吊り下げていた生地へ炎を浴びせている光景に思わず驚いてしまった。
「ただのテストだ安心しろ。ほら、焦げ一つない」
耐火グローブをはめて近づいたタルマンは、理由を説明してから無事だったらしい生地を見せつける。確かにこれといって目立った損傷も見られなかった。
「リリスが能力とやらを使うと服がボロボロになって大変だって言うもんだから、いっそ全員が暴れる時のために丈夫な装備でもあった方が良いって思ってよ。やるなら他人の金が使える今の内ってわけだ。お前の方はどうだ ? さっきからずっと機械と睨み合ってるみたいだが」
「それが少し妙な物を見つけた。こっちに…」
タルマンは事情を話してから休憩でもする気なのか、道具を放りっぱなしにしてジョージの方へ近づくと、彼は取り寄せてもらったらしいコンピュータの画面を指し示す。どういう事なのか早速見てみようとしたその時、何者かが軽快な音で扉をノックした。
「はい、すぐに行きます」
ジョージは簡単に呼びかけてからテーブルに置いてあった拳銃を手に取り、いつでも発砲できるのを確認してから腰に下げる。そのままドアを開けると、フロウが箱を持って立っていた。
「差し入れやで…それと客人が来とる」
「ん…お前、何でここに…⁉」
ナッツの香りがする箱を手渡してくるフロウの背後から、静かな足取りで人影が現れる。その顔を見たタルマンは嬉しさや驚愕が入り混じりつつ、半笑い気味な表情で人影へ話しかけた。
――――ベクターの発言を最後に、全員が押し黙ったまま時間が少しだけ過ぎた。仮面によって隠されているが、酷く殺気立っているザガンや訝しさを顔に出して来るコウジロウを前に、ベクターは相手をするのに疲れたらしく首を鳴らしている。
「そんなもんか…とは、どういう意味でしょうか ?」
「予想が的中したって事だよ。手を打っといて正解だった。いくら物腰柔らかい紳士を演じてようが、これまでの対応や話している時の態度から察しが付く」
静かに語り掛けてくるコウジロウだったが、ベクターは相も変わらず嘗め腐った様な口ぶりで彼に返答をした。
「オーガズゲートのオーナーがウェジバグってデーモンに殺されたのは聞いたか ? いや、知らないわけ無いよな。あれだけズブズブな関係なんだ。確実に情報が来ている筈…ベルゼブブとかいう奴の使い魔らしいが、あんたとベルゼブブの繋がりは ? 口封じに殺したのか ?」
「さあ…何の事やら。それにそんな事をして、私に何のメリットがあるのです ? 大事な取引相手を――」
「始末するわけがない。普通はそうだが手に入れたメールのやり取りを見る限り、奴は只の雇われ。本音を言えば、実験の材料を持ってきてくれるんなら誰でも良かったんだろ ? 自分の息子があんだけボコられたってのに、心配する素振りすら見せなかったのもそうだ。不利益を被ると分かったらさっさと見捨てる…ハッキリ言って、一番組むのを避けたい人種だよ」
ベクターの追及にコウジロウも真顔で応じ続ける。この馬鹿をいい加減黙らせるべきだろうかと、ザガンは時折粗暴な衝動に駆られるがリリス達が自分に睨みを利かせている事に気づくと思い留まった。間違いなく互いに無事では済まない。
「必要な犠牲というものです。足を引っ張られ、計画を台無しにされては元も子もない」
「なら包み隠さずに人攫って人体実験してますと世間に公表すれば良い。それが出来ない辺り、自分達が他人の神経逆撫でするような事しでかしてるって自覚はあるんだろ ? 」
「言っても分からぬ者達で溢れかえっている世界だからです。こうするしかない」
ベクターから陰湿さを責め立てられていたコウジロウは、それが必要な事であると開き直った。彼の態度と言い分に興味が湧いて来たのか、ベクターは少し目を丸くして彼の言い分に耳を傾ける。
「どれだけ理屈を並べて説明しても、自分に都合が悪ければ見なかった事にし…理想とは名ばかりの夢物語に現を抜かす。そのような頭の足りん有象無象に限って犠牲ををとことん嫌がる。自分達の生活や人生が、その犠牲の上で成り立っている事を理解すらしていない。社会の繁栄のための正義…それを遂行するには、時として切り捨てる判断も必要になって来る」
「正義か。俺が好きな言葉だが…たぶん、アンタと俺じゃ正義に対する認識が違うんだな」
一通り聞いたベクターは彼の話に出てきた正義という言葉に反応するが、すかさず自分とコウジロウが相容れない人間であると主張し出す。
「俺にとっての正義ってのは”道具”だよ。善悪とか、何が正しいかとかは関係ない。自分の行動を相手に納得させるための手段。警官や弁護士共がこれ見よがしに付けてる胡散臭いバッジと同じ。自分の主張や行動を認めさせるための箔付けだよ。俺は少なくとも、アンタと違って自分の行いが正しい事となんざ思っちゃいない。感謝されようが恨まれようが知った事じゃないし、それを承知の上でやってる」
鳴らした指を向けながら思いついたようにベクターは持論を喋り続ける。軽快な喋り口調ではあるが、経験に裏打ちされてるような断定的な物言いであった。
「つーわけで馬が合わないし交渉決裂…って行きたいところだが、おたくが持ってる情報や、何をやってるのかについては興味がある」
ベクターは勿体ぶりながら、話に乗る気自体はあるとチラつかせて様子を窺い始めた。諦めるつもりだったらしいコウジロウも眉を少しだけ吊り上げて彼のほうを見る。
「少し時間をくれ。ちょっと前なら二つ返事で答えを出してたんだが、最近”荷物”が増えたもんで。こっちも色々打ち合わせが必要になってる」
ベクターからの提案に、ザガンは何を言うわけでも無くコウジロウの回答を待ち続ける。一方で他の三人は荷物扱いされた事が癪に障ったのか、不服そうな顔でベクターの方を見ていた。
「…成程。ではお早めにお願いします。その際には、またこちらへ出向いてくれれば結構です。良い返事を期待していますよ」
「それじゃあ、そろそろお暇と…そういえばリゾートで暴れた事については…」
「ハイドリート保安機構へ釘を刺しておきました。『この件に関しては手出し無用』だと」
コウジロウが頷き、要求を吞んでくれた事を確認したベクターはさっさと帰ろうと立ち上がる。同時に治安維持組織に逮捕させるなんて事はしないだろうかと不安げに尋ねるが、コウジロウもそれについてはお咎めなしにしておこうと返答をして来た。肩の力を抜いたベクターは仲間達を軽く押しながら部屋の外へ出していき、自分が最後になるよう歩き出す。
「ああ、そうだ。年下のガキの戯言だと思って聞いて欲しいんだが…あまり人を見下さない方が良い。いつどこで切り捨てられる側になるかなんて分からないからな」
部屋を出ようとした直前、ベクターは突然立ち止まってから振り返らずに語り掛ける。戯言程度ならと耳を貸していたコウジロウ達だが、一切表情が見えないせいかどことなく不穏な気配が漂っていた。
「それともう一つ」
ベクターが同じ口調で付け足しを行おうとした時、二人は思わず身構えたくなる程の覇気を感じ取った。鳥肌が立つだけではない。産毛が逆立ち、体に寒気が走った事で誰にも気づかれない程の小さな身震いが二人に襲い掛かる。彼自身が抱える凶悪な本性の一端が、殺気として垣間見えたと錯覚さえしてしまった。
「こっちは身内に手出されて黙ってられる程、平和主義ってわけでも無いんだ。何してくるのも勝手だが、それは忘れるなよ…それじゃあまた」
そのままベクターが障子を閉めて歩き去って行った後、コウジロウが無意識に握っていた手を開くと汗で濡れていた。
「ザガン、奴らをどう思う ?」
平静をよそいつつコウジロウは背後にいたザガンへ問いかける。
「ベクターだけではなく、あのムラセとかいう小娘も含めて不安要素が多い。これまでの情報からして、真正面から殺り合うのはキツイものがある。念のためベルゼブブに話を通した方が良いかもしれん」
「そうだな…ところで、何やら不機嫌そうだがどうした ?」
助言をして来るザガンへ同意していたコウジロウだったが、不意に彼女の態度が少々素っ気なくなっている事に気づいた。顔を隠しているせいで分からないが、明らかに物悲しさや苛立ちを匂わせている。
「いや、別に」
「…お前が買って来た菓子をあの男が食べなかったからか ?」
「黙れ」
否定する彼女へコウジロウが憶測を述べると、ザガンはすぐさま彼を威圧する。そして調べたい事があると言い残して応接間から出て行く彼女を、コウジロウは馬鹿馬鹿しいと言いたげな表情で見送った。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」
マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。
目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。
近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。
さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。
新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。
※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。
※R15の章には☆マークを入れてます。
異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
ざまぁにはざまぁでお返し致します ~ヒロインたちと悪役令嬢と転生王子~
陸奥 霧風
ファンタジー
仕事に疲れたサラリーマンがバスの事故で大人気乙女ゲーム『プリンセス ストーリー』の世界へ転生してしまった。しかも攻略不可能と噂されるラスボス的存在『アレク・ガルラ・フラスター王子』だった。
アレク王子はヒロインたちの前に立ちはだかることが出来るのか?
偽りの結婚生活 ~私と彼の6年間の軌跡
結城芙由奈
恋愛
偽りの結婚をした男性は決して好きになってはいけない私の初恋の人でした―
大手企業に中途採用された「私」。だけどその実態は仮の結婚相手になる為の口実・・。
これは、初恋の相手を好きになってはいけない「私」と「彼」・・そして2人を取り巻く複雑な人間関係が繰り広げられる6年間の結婚生活の軌跡の物語—。
<全3部作:3部作目で完結です:終章に入りました:本編完結、番外編完結しました>
※カクヨム・小説家になろうにも投稿しています
付与って最強だと思いませんか? 悪魔と呼ばれて処刑されたら原初の悪魔に転生しました。とりあえず、理想の国を創るついでに復讐しようと思います!
フウ
ファンタジー
勇者にして大国アルタイル王国が王太子ノアールの婚約者。
そんな将来を約束された一人の少女は……無実の罪でその人生にあっさりと幕を下ろした。
魔王を復活させて影で操り、全てを赦そうとした聖女様すらも手に掛けようとした公爵令嬢。
悪魔と呼ばれた少女は勇者ノアールによって捕縛され、民の前で処刑されたのだ。
全てを奪われた少女は死の間際に湧き上がるドス黒い感情のままに強く誓い、そして願う。
「たとえ何があったとしても、お前らの言う〝悪魔〟となって復讐してやる!!」
そんな少女の願いは……叶えられた。
転生者であった少女の神によって与えられた権利によって。
そうして悪魔という種族が存在しなかった世界に最古にして始まり……原初の悪魔が降り立ったーー
これは、悪魔になった一人の少女が復讐を……物理的も社会的にも、ざまぁを敢行して最強に至るまでの物語!!
※ この小説は「小説家になろう」 「カクヨム」でも公開しております。
上記サイトでは完結済みです。
上記サイトでの総PV1200万越え!!
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!
半妖姫は冥界の玉座に招かれる
渋川宙
ファンタジー
いきなり部屋に御前狐のユキが現われた!
今まで普通の女子高生として生きてきた安倍鈴音だったが、実は両親には大きな秘密が!!
さらに突然引退宣言した妖怪の王の跡継ぎ問題に巻き込まれ・・・
イケメンライバル・小野健星や妖怪たちに囲まれ、異世界生活スタート!?
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる