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パート3:争奪
第54話 ここからが本番
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「馬鹿な‼」
アーサーが叫んだ。コアを守るために強固な肉体を纏うか、毒性の強い体液が循環している様なデーモンがいるとは聞いた事はあるが、コアそのものが防衛機能を備えているなど前代未聞である。
「あ~…いった…」
口から血を吐きながら呟いていたベクターだったが、そのまま触手によって放り投げられる。周囲にへばり付いている汚れが服にも付着し、茶色や黄土色が混ざった染みを服を染める。
「…良くない方向に向かっている気がする」
そう言って既に塞がりつつある腹の傷口を眺めた。気のせいかもしれないが、レクイエムがデーモンのコアを吸収し、力を得る度に肉体の能力も増強している様な気がしてならない。あれだけの攻撃を食らっておきながら直後に立ち上がれるだけの余力があるなど、少なくとも以前であればあり得なかった。
確かに良い事尽くしだが、ベクターにとっては素直に喜べない。”タダほど怖い物はないぞ”と父であるジードは常に言い聞かせてくれた。世の中に存在するものは必ず対価を必要としており、払わなければ本人が忘れた頃に必ずやって来て、首を絞めながら払えと催促をして来る。だからこそ自分にとって対価を払えない程手に余る物や、一生をかけてでも払う覚悟が無い物には手を出してはいけない。
それが今の世界を生き抜く上で重要なコツだと語っていた。だが、殺されたという時点でジードはそのコツとやらを遵守出来ずに破滅してしまう側なのかもしれない。きっとどこかでうっかり払い忘れてたツケを、命を以てして払う羽目になったのだろう。レクエイムが持つ力についてベクターは嬉しがる反面、自分が取り返しのつかない事をし始めているのかもしれないと不安がよぎり続けていた。その不安が増幅するのはレクイエムを手に入れて行使するようになった時だけではない。様々な仕事に手を染めた経歴や、”あの日”の出来事も同様であった。
「ちょっと、何あいつら…」
アーサーの背後に隠れさせてもらったウィンディが呟く。コアの背後にある肉壁から、一際大きいプレタの棲み処と思われる穴が開いている。そこからこれまで遭遇してきた貧相な個体達とは比べ物にならない体躯を持つプレタが数体ほど現れた。体からは蒸気を放ち、綺麗な形で整った筋肉が目立っている。そして鋭利そうな骨質のスパイクが腕や足、体の様々な部分を覆っていた。
「ボディーガード付きとは贅沢なサービスだ」
立ち上がったベクターが嫌味ったらしく言った。
「ムラセ、全員を一回下に降ろすんだ」
「はい」
ベクターはすぐさま指示を出すと、ムラセも納得した様に応じる。今度ばかりは「自分達も戦う」などとは言わずに、ウィンディ達は黙ってムラセに連れられて行った。
「やるのか」
この際だからなぜ平気でいられるのかは突っ込まず、アーサーはベクターに聞いた。
「言う迄も無いだろ。全部倒す、それで終わり。何なら避難してても良いぞ」
喋りながら準備運動をしていたベクターへ、プレタの内の一体が飛び掛かって来た。力比べでもしてやろうかとプレタを受けとめたものの、明らかに押し負けている事に気づき、少々ベクターは慄く。
「すまん、やっぱ助けて ! 」
「チッ ! 」
ベクターが乞うと、アーサーは舌打ちをしてからプレタにタックルをかます。そして一瞬だけ怯んだ瞬間に、腹部へ向かって重厚なガントレットを叩きつけた。一瞬だけ光が放たれたかと思えば、直後に爆発が発生した様な轟音が響く。そして黒焦げになったプレタが吹きとばされた。
「しばらく見ない内に…装備増えたのな」
「企業努力だ」
攻撃によるノックバックで後ろへ少しよろけたアーサーに対して、ベクターは驚いた様子で言った。二重の装甲になっているガントレットの表面には、叩きつけた際に仕込んでいたギミックで特殊な光エネルギーによる爆発を引き起こすという機構を備えていた。一度しか使えない上に、使う前と比較してガントレットの防御力自体も低下するという諸刃の剣だったが、効果に関しては悪くないらしい。大怪我を負ったプレタは呻きながら苦しんでいた。
使い物にならなくなった表面の装甲を剝ぎ取っていた直後、他のプレタ達もすかさず飛びかかってアスラへ齧りつこうとする。
『気を付けろ ! 思っていたより損傷が激しい ! 回路をやられれば機能にも影響が――』
「分かってる ! 」
分かり切っている警告を入れたオペレーターに怒鳴り、アーサーはリストブレードを起動してプレタの首を切断しようとする。しかし、スパイクや頑強な肉体に阻まれて上手く切断できない。
「どけぇ‼」
ベクターがレクイエムの怪力ですぐさま引っぺがし、そのまま顔面に一発入れて吹き飛ばす。すかさず右手でオベリスクを握り、付近にいたプレタを斬り伏せようとするがやはり肉体の持つ防御力に阻まれてしまった。
「意外と硬いなコイツら…」
ガスマスク越しに顔をしかめながらベクターが言った。その頃、避難を終えたらしいムラセが再び穴から戻って来る。
「終わりました…って増えてる⁉」
「まだ出てくるよ。まあ、精鋭って所か」
戸惑うムラセやそれに答えるベクターを余所に、変異したプレタ達が次々と現れてコアを囲う。思っていたよりも長引くと分かったベクターは「クソが」と小さく呟いた。
アーサーが叫んだ。コアを守るために強固な肉体を纏うか、毒性の強い体液が循環している様なデーモンがいるとは聞いた事はあるが、コアそのものが防衛機能を備えているなど前代未聞である。
「あ~…いった…」
口から血を吐きながら呟いていたベクターだったが、そのまま触手によって放り投げられる。周囲にへばり付いている汚れが服にも付着し、茶色や黄土色が混ざった染みを服を染める。
「…良くない方向に向かっている気がする」
そう言って既に塞がりつつある腹の傷口を眺めた。気のせいかもしれないが、レクイエムがデーモンのコアを吸収し、力を得る度に肉体の能力も増強している様な気がしてならない。あれだけの攻撃を食らっておきながら直後に立ち上がれるだけの余力があるなど、少なくとも以前であればあり得なかった。
確かに良い事尽くしだが、ベクターにとっては素直に喜べない。”タダほど怖い物はないぞ”と父であるジードは常に言い聞かせてくれた。世の中に存在するものは必ず対価を必要としており、払わなければ本人が忘れた頃に必ずやって来て、首を絞めながら払えと催促をして来る。だからこそ自分にとって対価を払えない程手に余る物や、一生をかけてでも払う覚悟が無い物には手を出してはいけない。
それが今の世界を生き抜く上で重要なコツだと語っていた。だが、殺されたという時点でジードはそのコツとやらを遵守出来ずに破滅してしまう側なのかもしれない。きっとどこかでうっかり払い忘れてたツケを、命を以てして払う羽目になったのだろう。レクエイムが持つ力についてベクターは嬉しがる反面、自分が取り返しのつかない事をし始めているのかもしれないと不安がよぎり続けていた。その不安が増幅するのはレクイエムを手に入れて行使するようになった時だけではない。様々な仕事に手を染めた経歴や、”あの日”の出来事も同様であった。
「ちょっと、何あいつら…」
アーサーの背後に隠れさせてもらったウィンディが呟く。コアの背後にある肉壁から、一際大きいプレタの棲み処と思われる穴が開いている。そこからこれまで遭遇してきた貧相な個体達とは比べ物にならない体躯を持つプレタが数体ほど現れた。体からは蒸気を放ち、綺麗な形で整った筋肉が目立っている。そして鋭利そうな骨質のスパイクが腕や足、体の様々な部分を覆っていた。
「ボディーガード付きとは贅沢なサービスだ」
立ち上がったベクターが嫌味ったらしく言った。
「ムラセ、全員を一回下に降ろすんだ」
「はい」
ベクターはすぐさま指示を出すと、ムラセも納得した様に応じる。今度ばかりは「自分達も戦う」などとは言わずに、ウィンディ達は黙ってムラセに連れられて行った。
「やるのか」
この際だからなぜ平気でいられるのかは突っ込まず、アーサーはベクターに聞いた。
「言う迄も無いだろ。全部倒す、それで終わり。何なら避難してても良いぞ」
喋りながら準備運動をしていたベクターへ、プレタの内の一体が飛び掛かって来た。力比べでもしてやろうかとプレタを受けとめたものの、明らかに押し負けている事に気づき、少々ベクターは慄く。
「すまん、やっぱ助けて ! 」
「チッ ! 」
ベクターが乞うと、アーサーは舌打ちをしてからプレタにタックルをかます。そして一瞬だけ怯んだ瞬間に、腹部へ向かって重厚なガントレットを叩きつけた。一瞬だけ光が放たれたかと思えば、直後に爆発が発生した様な轟音が響く。そして黒焦げになったプレタが吹きとばされた。
「しばらく見ない内に…装備増えたのな」
「企業努力だ」
攻撃によるノックバックで後ろへ少しよろけたアーサーに対して、ベクターは驚いた様子で言った。二重の装甲になっているガントレットの表面には、叩きつけた際に仕込んでいたギミックで特殊な光エネルギーによる爆発を引き起こすという機構を備えていた。一度しか使えない上に、使う前と比較してガントレットの防御力自体も低下するという諸刃の剣だったが、効果に関しては悪くないらしい。大怪我を負ったプレタは呻きながら苦しんでいた。
使い物にならなくなった表面の装甲を剝ぎ取っていた直後、他のプレタ達もすかさず飛びかかってアスラへ齧りつこうとする。
『気を付けろ ! 思っていたより損傷が激しい ! 回路をやられれば機能にも影響が――』
「分かってる ! 」
分かり切っている警告を入れたオペレーターに怒鳴り、アーサーはリストブレードを起動してプレタの首を切断しようとする。しかし、スパイクや頑強な肉体に阻まれて上手く切断できない。
「どけぇ‼」
ベクターがレクイエムの怪力ですぐさま引っぺがし、そのまま顔面に一発入れて吹き飛ばす。すかさず右手でオベリスクを握り、付近にいたプレタを斬り伏せようとするがやはり肉体の持つ防御力に阻まれてしまった。
「意外と硬いなコイツら…」
ガスマスク越しに顔をしかめながらベクターが言った。その頃、避難を終えたらしいムラセが再び穴から戻って来る。
「終わりました…って増えてる⁉」
「まだ出てくるよ。まあ、精鋭って所か」
戸惑うムラセやそれに答えるベクターを余所に、変異したプレタ達が次々と現れてコアを囲う。思っていたよりも長引くと分かったベクターは「クソが」と小さく呟いた。
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