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パート3:争奪

第51話 乱入

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「タルマン、すまなかった。今ならいける」

 すっかり忘れていたと、ベクターは急いで無線で連絡を取る。少ししてからノイズ交じりの声と共にタルマンが応答した。

「おお、無事で何より」
「まあな。何か用事か ? 関係無い話なら切るぜ」
「いやいや。大いに関係あり。まあ、俺じゃなくイフリートの方が話したがっている」

 そう言ってタルマンはイフリートへ無線機を渡し、簡単に使い方を教えるとぎこちない手つきで掴みながらイフリートはベクターへ話し始めた。

「よお、恐らくだが胃袋の中だろう」 
「ああ。先客がわんさかいたよ」
「プレタか…やはりな」

 最初からお見通しだったかのような物言いをするイフリートに少々ムカつきを覚えながらベクターも応じる。知ってるのなら最初から警告の一つでもしてくれれば良いというのに。

「プレタねえ…教えてくれれば良かったろ」
「体に直接乗り込むような馬鹿に配慮してマニュアルでも作れと ? そこまで面倒を見てやる筋合いはない。当ててやろうか、さしずめコアを破壊するのが目的といった所だろう」
「御名答」
「ふん、単細胞の考えそうな事だ…だが気を付けろ。クロノスは胃袋を複数持ってる。そしてそのどれもにレプタの群れを寄生させているんだ。大概はコアもそのどこかか…或いは心臓だ」

 あんな連中がまだウジャウジャいるという事実に震え上がるムラセ達を差し置いて、ベクターは唯一見つけた入り口と思われる穴を見つめる。自分やムラセはともかく、物量だけで言えば他の者達の命の保証はない。

「成程。心臓部にはどうやって行けば良い ? 」
「そんなことまでは知らん。自分でどうにかしろ」
「チッ、もういいよ。だが助かった。じゃあな」

 肝心な部分で役に立たないイフリートに悪態をついたベクターだったが、雑に礼を言った後で無線を切ってから全員の状態に目を通す。どれだけの敵が潜んでいるかも分からない状況では、少々物足りない人手と装備である。囮にしたいわけではないが、ムラセと自分だけが前線で働き続けるというのはいささか公平性に欠けるではないかという不満が原因だった。

「な、何か言ってましたか ? 」

 ムラセが不思議そうに尋ねて来る。

「いや。ココと同じような場所がいくつかあるらしい。コアを見つけるなら他の胃袋を探すか、どこかにある心臓部を目指すしかないかもしれん。だが、さっきの連中が潜んでる可能性が高いんだ」

 ベクターは近くに落ちていたコンクリートの残骸に腰を掛けてこれからの行動目的を話すが、不安要素である兵士達の方をもう一度見た。

「俺と彼女はともかく、アンタたちはどうする ? ここで待っててくれても構わな――」
「恩人が働いてる間中、手を拱いて待ってろと ? 冗談じゃねえや。俺達も行くぜ」

 ベクターが遠慮がちに選択肢を出そうとするが、老人への兆候とも言える頑固な態度を見せながらサヴィーノが息巻いた。

「だな。生憎『そうですか、分かりました』なんて言える様な厚かましさは持ち合わせていない。同行させてもらうよ。足手纏いになるようなら置いてってくれて構わないぜ」
「賛成。ここで待ってても不安になるだけだし、私も行くわ」

 ローマンとウィンディもその考えに応じる。正直な所、下手に犠牲者を増やして面倒事に巻き込まれたく無かったベクターだったが、ここで頑なに断っては怪しまれるかもしれないと何も言い返せなかった。自分達だけ抜け駆けすることの無いようにと、彼らも警戒しているのかもしれない。

「分かった…アル、あんたはどうする ? ホントにどっちでも良いんだぜ。来なかったからって見捨てたりはしない」
「い、いや…俺も行くよ。こんな所で一人にされたら何か起きた時にどうなるやら…」

 返事が無い事に気づいたベクターがアルに問いかけると、少し言い淀みながら彼も周囲の流れに同調した。



 ――――その頃、進撃を続けるクロノスの動きが少し遅くなりつつある事に気づいていた傭兵たちは警戒しながら攻撃を続けていた。

「どういう事だ ? 」
「中で何かやっているのかもな…ん、あれは何だ ? 」

 様子のおかしいクロノスを見ながら運転席と助手席にいた二人の傭兵が話していた時だった。サイドミラーを確認すると、はるか後方の空から複数の飛空艇がこちらへ向かって来ている。荒れた地を疾走する大型の軍用輸送車両も見えた。

「あのロゴ…シアルド・インダストリーズだ」
「いつもなら邪魔だと思うが、今回ばかりは有難いな」

 傭兵たちがそうして話ている間、飛空艇ではクロノスへの攻撃を行うための準備を進めていた。

「想像以上のデカさだ… ! 念のためアスラも持ってきたが、あれが相手じゃ使い道がないかもしれなんな」

 クロノスを追いかける飛空艇の中では、現場の解析を行っていたオペレーターがぼやいていた。

「いや、使い道はある」

 座席に腰を掛けていたアーサーが呟き、何か覚悟を決めたような真剣な表情を浮かべながら立ち上がった。そして整備をされ、吊るされた状態でエネルギーの充填を行われているアスラへと近づいて行った。

「おい、何をする気だ ? 」
「アスラを装着した後、直接乗り込んでやるのさ。そして爆薬を使って内側から吹き飛ばす」

 口に咥えていたロリポップを落としたオペレーターは、慌てて拾い上げた後に目立った汚れが無い事を確認して加え直す。

「…遺言は書いたか ? 」

 そして荒唐無稽な計画を暴露して準備を進めようとするアーサーに対して、馬鹿馬鹿しい物を見る様な呆れ顔で揶揄った。
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