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パート3:争奪
第48話 不法占拠
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「もしかして胃袋か何かか ? 」
周囲に散らばり、こんもりと山を築き上げるガラクタやゴミを眺めているベクターが言った。悪臭にだいぶ慣れたのか、二人はいつもと変りなく歩いて辺りを散策してみる。急いでクロノスを倒さなければならないのは承知だが、デーモンの体内への潜入は子供のような抑えきれない好奇心を彼らに抱かせていた。
「じゃあ、どうします ? 長居してたら酸で溶かされちゃうかも…」
ムラセが近くに転がっていたタイヤを蹴ってから言った。
「生物の仕組みとか詳しくは知らんが…大体食べ物が通るのって一本道なんだろ ? なら穴を見つけて入って行けば良いんじゃねえか ? 問題はコアがどこにあるかだ 」
胃袋と思われる白みがかっている赤い壁に錆びきったバスが突き刺さっており、そこへ入っていきながらベクターも提案する。白骨が転がっており、腐敗臭も漂っていた。
「とにかくコアを破壊するのが一番手っ取り早い。素材は勿体ないが、今回ばかりは諦めよう」
特に何もなかった事に失望しながら、軋むバスを後にしたベクターがコアに狙いを絞る。コアを破壊してしまった場合、デーモンの肉体は消滅してしまうが今回ばかりは小銭稼ぎの採取は難しいと判断したが故の発言だった。
「コアって基本どこにあるんですか ? 」
「それがよく分かってない。小型の連中はまだしも、大型になると個体によって場所が違うなんてこともザラにあるしな…何よりコイツに関しては初めて見た」
ムラセに対してデーモンの生態に関する一部をベクターは語り、胃袋の壁を蹴ってからその気色悪い手応えに顔をしかめる。ここにいては消化されて大便にされるのがオチだろう。いずれにせよ動く必要があった。
「あ ! ベクターさん、あそこ ! 」
発炎筒をかざしながらムラセが叫び、大きな洞穴を指差した。
「ここが胃袋だとして、あれが出口って事は腸…つまり、ここから先にはデカいウ〇コがあるのか」
「…別の道が無いか探しません ? 」
「あったとしてもそっちがウ〇コまみれって可能性もあるぜ ? やっぱここで暴れちまうか…」
二人はここから先に待っている物を想像してしまい、これ以上悪臭や汚物で体を苦しめない様にする方法はないかと考え始める。猶予が無いのは分かっているが、出来れば周りから距離を置かれる様な事にはなって欲しくなかった。そしてムラセの言う通り、他に通れそうな場所がないかと探し始めたとした時だった。どこかかから何かが這いずるような音が聞こえ、乾いた呻き声が聞こえる。カラスの鳴き声をさらにしゃがれさせた様な声だった。
「…何か、聞こえませんでした ? 」
ムラセが言った直後に、同じような物音が次々と聞こえ始める。ベクターも異変に気付いたのか、残り少ないバッテリーを犠牲に懐中電灯で辺りを照らす。体内に入った際は全く意識していなかった胃袋の上部には、壁一面を埋め尽くすほどの夥しい穴が開いていた。
そして、その穴ぼこから次々と人型の怪物が這い出て、地面に落下をする。ボトボトと落ちてくる怪物たちは全身を粘膜か何かで覆われているのか、懐中電灯の光によって艶艶しい光沢を見せる。ナメクジのような皮膚を持ち、顔の部分に空いた大きな空洞からは何やら怪しい液体が垂れていた。
「まあ、こんだけデカければ何かしらいるわな」
「こいつらって… ? 」
「いや、知らない。マジで」
滴る度に炭酸のような音を立てる液体に慄きながら、二人はこちらへ迫ってくる怪物達を前に後ずさりをしながら様子を見ていた。
――――無事にクロノスの脅威から救われたトレーラーの上では、怠けているイフリートを尻目にジョージが周囲の警戒を行っていたが、間もなくタルマンの連絡によってベクター達の現状が伝えられると、動揺を隠さずに詰め寄った。
「食われた…って、じゃあどうするんだ⁉」
「落ち着け落ち着け。中から攻めるんだと。アイツらが提案したらしい」
狼狽えるジョージに対して予定通りだとタルマンは諭すが、イフリートはせせら笑ってから積み荷に座り直す。
「どうだろう…何も無ければ難しくはないかもしれんが、”プレタ”に出会わない事を祈るしかない。無理だろうがな」
イフリートの言葉にジョージが振り向く。
「プレタ ? 」
「クロノスの中に巣食っているデーモン…まあ、寄生虫か。胃の中へ放り込まれたものを片っ端から喰らいつくしてしまう。クロノスが常に空腹を感じ、バカでかい口を開けて目に付く物を放り込んでしまう原因だよ」
彼が言及した”プレタ”という単語が気がかりになったジョージが尋ねるが、イフリートはデーモンの一種である事を告げた。聞いたことの無い名前だったが、まだ確認されていない未知の種なのだろうとジョージは割り切る。
「まさか…強いのか ? 」
「口から硫酸を垂れ流して何でも溶かしてしまうが、肉体に関しては正直弱い。しかし問題は繁殖力だ。一匹でも見かけたら、近くに二十匹はいると思え。弱点もある。例えば暗所で生活しているせいで視力がほとんど無く、聴覚に頼っているせいか大きな音を立てなければ問題ない。まあ誰とは言わんが、あの騒がしい馬鹿が一緒じゃ…やり過ごせるとは思えんな」
イフリートの解説にジョージとタルマンは目を丸くする。腕っぷしが弱いと言っても、それはデーモンの基準で考えた場合だろうとベクター達の身を案じてしまった。
「そんなヤツがいるのか…あのデカブツの体に…⁉」
「可能性は十二分にある。クロノスとはいえ、あのデカさまで成長できるなら相当な量を食ってきたんだろう。つまり屈強な個体だ…奴らが棲み処にしない理由はない」
驚愕するジョージ達へイフリートが危険性を示唆する。一方で彼は、クロノスが現れた理由について考えを巡らし始めた。クロノスの知能を考えれば、自力で現世へと来る事は滅多にない。大抵は他のデーモン達に便乗して訪れる事の方が多い。自分が現世へ来た際には他のデーモンは連れてなかったという点からして、今回の個体は何者かが作った現世への入り口を利用したのだろう。問題はその入り口を作ったのは誰かという点であった。
周囲に散らばり、こんもりと山を築き上げるガラクタやゴミを眺めているベクターが言った。悪臭にだいぶ慣れたのか、二人はいつもと変りなく歩いて辺りを散策してみる。急いでクロノスを倒さなければならないのは承知だが、デーモンの体内への潜入は子供のような抑えきれない好奇心を彼らに抱かせていた。
「じゃあ、どうします ? 長居してたら酸で溶かされちゃうかも…」
ムラセが近くに転がっていたタイヤを蹴ってから言った。
「生物の仕組みとか詳しくは知らんが…大体食べ物が通るのって一本道なんだろ ? なら穴を見つけて入って行けば良いんじゃねえか ? 問題はコアがどこにあるかだ 」
胃袋と思われる白みがかっている赤い壁に錆びきったバスが突き刺さっており、そこへ入っていきながらベクターも提案する。白骨が転がっており、腐敗臭も漂っていた。
「とにかくコアを破壊するのが一番手っ取り早い。素材は勿体ないが、今回ばかりは諦めよう」
特に何もなかった事に失望しながら、軋むバスを後にしたベクターがコアに狙いを絞る。コアを破壊してしまった場合、デーモンの肉体は消滅してしまうが今回ばかりは小銭稼ぎの採取は難しいと判断したが故の発言だった。
「コアって基本どこにあるんですか ? 」
「それがよく分かってない。小型の連中はまだしも、大型になると個体によって場所が違うなんてこともザラにあるしな…何よりコイツに関しては初めて見た」
ムラセに対してデーモンの生態に関する一部をベクターは語り、胃袋の壁を蹴ってからその気色悪い手応えに顔をしかめる。ここにいては消化されて大便にされるのがオチだろう。いずれにせよ動く必要があった。
「あ ! ベクターさん、あそこ ! 」
発炎筒をかざしながらムラセが叫び、大きな洞穴を指差した。
「ここが胃袋だとして、あれが出口って事は腸…つまり、ここから先にはデカいウ〇コがあるのか」
「…別の道が無いか探しません ? 」
「あったとしてもそっちがウ〇コまみれって可能性もあるぜ ? やっぱここで暴れちまうか…」
二人はここから先に待っている物を想像してしまい、これ以上悪臭や汚物で体を苦しめない様にする方法はないかと考え始める。猶予が無いのは分かっているが、出来れば周りから距離を置かれる様な事にはなって欲しくなかった。そしてムラセの言う通り、他に通れそうな場所がないかと探し始めたとした時だった。どこかかから何かが這いずるような音が聞こえ、乾いた呻き声が聞こえる。カラスの鳴き声をさらにしゃがれさせた様な声だった。
「…何か、聞こえませんでした ? 」
ムラセが言った直後に、同じような物音が次々と聞こえ始める。ベクターも異変に気付いたのか、残り少ないバッテリーを犠牲に懐中電灯で辺りを照らす。体内に入った際は全く意識していなかった胃袋の上部には、壁一面を埋め尽くすほどの夥しい穴が開いていた。
そして、その穴ぼこから次々と人型の怪物が這い出て、地面に落下をする。ボトボトと落ちてくる怪物たちは全身を粘膜か何かで覆われているのか、懐中電灯の光によって艶艶しい光沢を見せる。ナメクジのような皮膚を持ち、顔の部分に空いた大きな空洞からは何やら怪しい液体が垂れていた。
「まあ、こんだけデカければ何かしらいるわな」
「こいつらって… ? 」
「いや、知らない。マジで」
滴る度に炭酸のような音を立てる液体に慄きながら、二人はこちらへ迫ってくる怪物達を前に後ずさりをしながら様子を見ていた。
――――無事にクロノスの脅威から救われたトレーラーの上では、怠けているイフリートを尻目にジョージが周囲の警戒を行っていたが、間もなくタルマンの連絡によってベクター達の現状が伝えられると、動揺を隠さずに詰め寄った。
「食われた…って、じゃあどうするんだ⁉」
「落ち着け落ち着け。中から攻めるんだと。アイツらが提案したらしい」
狼狽えるジョージに対して予定通りだとタルマンは諭すが、イフリートはせせら笑ってから積み荷に座り直す。
「どうだろう…何も無ければ難しくはないかもしれんが、”プレタ”に出会わない事を祈るしかない。無理だろうがな」
イフリートの言葉にジョージが振り向く。
「プレタ ? 」
「クロノスの中に巣食っているデーモン…まあ、寄生虫か。胃の中へ放り込まれたものを片っ端から喰らいつくしてしまう。クロノスが常に空腹を感じ、バカでかい口を開けて目に付く物を放り込んでしまう原因だよ」
彼が言及した”プレタ”という単語が気がかりになったジョージが尋ねるが、イフリートはデーモンの一種である事を告げた。聞いたことの無い名前だったが、まだ確認されていない未知の種なのだろうとジョージは割り切る。
「まさか…強いのか ? 」
「口から硫酸を垂れ流して何でも溶かしてしまうが、肉体に関しては正直弱い。しかし問題は繁殖力だ。一匹でも見かけたら、近くに二十匹はいると思え。弱点もある。例えば暗所で生活しているせいで視力がほとんど無く、聴覚に頼っているせいか大きな音を立てなければ問題ない。まあ誰とは言わんが、あの騒がしい馬鹿が一緒じゃ…やり過ごせるとは思えんな」
イフリートの解説にジョージとタルマンは目を丸くする。腕っぷしが弱いと言っても、それはデーモンの基準で考えた場合だろうとベクター達の身を案じてしまった。
「そんなヤツがいるのか…あのデカブツの体に…⁉」
「可能性は十二分にある。クロノスとはいえ、あのデカさまで成長できるなら相当な量を食ってきたんだろう。つまり屈強な個体だ…奴らが棲み処にしない理由はない」
驚愕するジョージ達へイフリートが危険性を示唆する。一方で彼は、クロノスが現れた理由について考えを巡らし始めた。クロノスの知能を考えれば、自力で現世へと来る事は滅多にない。大抵は他のデーモン達に便乗して訪れる事の方が多い。自分が現世へ来た際には他のデーモンは連れてなかったという点からして、今回の個体は何者かが作った現世への入り口を利用したのだろう。問題はその入り口を作ったのは誰かという点であった。
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