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パート3:争奪
第42話 謎
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「オルディウスと名乗る突然現れた一匹のデーモンによって、魔界は大きく変わった。奴はその力によって君臨し、自分に従わない者達は例外なく殺す…近頃はどういう訳か、こうして現世への侵攻を始めた」
「良く分からんな。そんな事をして何の得がある?」
イフリートが話し始めた魔界の実情に、タルマンは首を傾げてから湧いて出た質問を口走った。
「遥かに優れた強さを持つデーモンが、人間達から隠れて生きている現状を嘆いたからというのが最有力だ…その他にも噂は多くあるが結局のところは分かっていない。だが侵攻を止める気がないのは確かだ」
「つまりお前はその君臨しているらしい”王様”に頭を下げて舎弟になったってわけか。そして命令をされたから、こちら側の世界へ来た」
イフリートの説明に茶々を入れるが如く、ベクターは彼の素性を探り当てようと口を出す。しかし、本人は首を横に振ってから苦笑いを浮かべた。
「表向きにすぎん。俺や同胞達はこのまま終わるつもりはない。だからこそ”レクイエム”を探すために現れたんだ。人間によって太古に封印され、現世で眠り続けている兵器…だが、この状況は想定外だった」
イフリートはベクターの左腕で鈍く輝いているレクイエムと、座ったままこちらを窺うムラセを見る。確かに目は見えてない筈だが、その様子にドキッとしたムラセは顔をそらし、落ち着かない様子でソファへ向かう。
「一つはレクイエムの封印が解かれ、人間を宿主にして活動している事だ。残されていた記録からするに、レクイエムの力は憑いた宿主の強靭さで決まる。貧弱な者では生気や魔力を吸い取られて死に至ってしまう程だ。なぜお前に扱える ?」
こちらへ顔を向けるイフリートに対して、レクイエムを動かしながらベクターは笑う。デーモンが自分を羨んでいるという優越感がそうさせた。
「昔からタフさには自信があったんでな。そこらの木っ端に使われるよりはこいつも幸せなんじゃないか ? 」
ベクターは得意げになり、指先を動かしながら歩き出す。そしてマグカップを掴んで台所に持って行くと、薄汚れたシミの見えるカップの中に水を張った。
「…まあいい。俺が気になっている事がもう一つある。小娘、お前だ」
「え ? あ、はい…」
唐突な形でイフリートが話題に出し来た事で、ムラセは大きく動揺しながら彼を見た。慌ててティカールを撫でていた手を止め、警戒するように彼の話へ耳を傾ける。一方で台所から戻って来たベクターは、話し声を聞いて顔を少し強張らせていた。
「あの時、貴様が使った力は俺も良く知っている。それに人間の気配とデーモンの匂いが混ざっている様だな…まさかとは思うが、貴様は―――」
「詮索はよせ、ただの半魔だ。変異した理由は本人も良く分かっていない」
イフリートが珍しそうに彼女から感じ取る魔力や匂いを頼りに、何かを言おうとしたがベクターがすかさず遮った。気のせいか、その横槍の速さにはどこか焦りが見える。自分にとって都合の悪い何かをイフリートが持っている。ベクターはそう思ったに違いないとリーラは考える。そして後で問い詰めてやろうかとベクターの後姿へ目をやった。
「ちょっと、ベクターいるの ? 」
その時、玄関のドアが叩かれる音がした。続けざまに怒りや呆れが入り混じった激しい口調で誰かがベクターを呼んでいる。
「朝っぱらから騒がしいって苦情があったわよ ! それと話があるから開けて ! …ああ、じれったい。勝手に入るわね ! 」
大家の声だった。鍵同士が擦れ合う音がしたかと思うと、玄関のカギ穴に何かが差し込まれるような雑音が間もなく響いた。
「あ、やべ…‼」
手遅れだと分かっていながらベクターは動き出そうとしたが、それよりも先に大家がドアを開けてズカズカと入って来る。そして部屋の中で広がる混沌とした光景を前に呆然とした。動きが硬直したままこちらを見ているベクター、ソファに座って不気味な容姿をした犬達を撫でているムラセ、テーブルに座ったまま「クソ」と悪態づくタルマン、その隣で立っているリーラ、部屋の隅で縮こまっているジョージ、そして体へ撃ち込まれた杭によって壁に固定されている血まみれのイフリート。
辺りが血や犬のものと思われる唾液やらで汚れ、ふと見上げれば天井には巨大な穴が開いていた。
「…サプラーイズ……何か飲むか ? 」
これは新手のドッキリだという体にして事なきを得ようとベクターが口を開くが、なぜか彼女が用意していた金槌ですぐに殴られた。
「また盛大にぶっ壊してくれたわね⁉」
「くそぉ…痛え… いい加減訴えるぞ鬼婆 ! 」
「お互い様でしょ ! 何アレ⁉というか何コレ⁉」
「だから…ジョーク…ドッキリだって――」
「じゃあせめて笑わせる努力をして ! 」
頭を擦りながら血が出ているの確認するベクターと大家は、やたら増えた同居人や天井に空いた穴、そして磔にされているイフリートについて論争をおっぱじめた。普通なら即死か大怪我だというのに元気な姿で怒鳴るベクターを見て、相変わらずシュールだと思いながらリーラやタルマンは眺めていた。
「あの…」
こっそりムラセがイフリートへ近づき、おずおずと問いかけ始めた。
「さっき、何か話していた事の続きを聞きたくて。私がどうしたんですか ? 」
「あの力は、俺の知っているデーモンとよく似ている…それも特に嫌っている奴だ。もしかすれば、そいつに襲われて怪我をさせられた事があるのかと思ってな」
「いや、こうなる前までは別に何も…」
「…そうか」
イフリートが彼女の過去について尋ねるも、ムラセは心当たりが無いと答える。当てが外れた様にガッカリしたイフリートだったが、それと同時にもう一つの可能性について考え始めていた。半魔になる条件は怪我によるデーモンの遺伝子の体内への侵入か、デーモンとの血の繋がりがある者に限られる。つまり彼女の両親…そのどちらかがデーモンではないかと睨んでいた。
「良く分からんな。そんな事をして何の得がある?」
イフリートが話し始めた魔界の実情に、タルマンは首を傾げてから湧いて出た質問を口走った。
「遥かに優れた強さを持つデーモンが、人間達から隠れて生きている現状を嘆いたからというのが最有力だ…その他にも噂は多くあるが結局のところは分かっていない。だが侵攻を止める気がないのは確かだ」
「つまりお前はその君臨しているらしい”王様”に頭を下げて舎弟になったってわけか。そして命令をされたから、こちら側の世界へ来た」
イフリートの説明に茶々を入れるが如く、ベクターは彼の素性を探り当てようと口を出す。しかし、本人は首を横に振ってから苦笑いを浮かべた。
「表向きにすぎん。俺や同胞達はこのまま終わるつもりはない。だからこそ”レクイエム”を探すために現れたんだ。人間によって太古に封印され、現世で眠り続けている兵器…だが、この状況は想定外だった」
イフリートはベクターの左腕で鈍く輝いているレクイエムと、座ったままこちらを窺うムラセを見る。確かに目は見えてない筈だが、その様子にドキッとしたムラセは顔をそらし、落ち着かない様子でソファへ向かう。
「一つはレクイエムの封印が解かれ、人間を宿主にして活動している事だ。残されていた記録からするに、レクイエムの力は憑いた宿主の強靭さで決まる。貧弱な者では生気や魔力を吸い取られて死に至ってしまう程だ。なぜお前に扱える ?」
こちらへ顔を向けるイフリートに対して、レクイエムを動かしながらベクターは笑う。デーモンが自分を羨んでいるという優越感がそうさせた。
「昔からタフさには自信があったんでな。そこらの木っ端に使われるよりはこいつも幸せなんじゃないか ? 」
ベクターは得意げになり、指先を動かしながら歩き出す。そしてマグカップを掴んで台所に持って行くと、薄汚れたシミの見えるカップの中に水を張った。
「…まあいい。俺が気になっている事がもう一つある。小娘、お前だ」
「え ? あ、はい…」
唐突な形でイフリートが話題に出し来た事で、ムラセは大きく動揺しながら彼を見た。慌ててティカールを撫でていた手を止め、警戒するように彼の話へ耳を傾ける。一方で台所から戻って来たベクターは、話し声を聞いて顔を少し強張らせていた。
「あの時、貴様が使った力は俺も良く知っている。それに人間の気配とデーモンの匂いが混ざっている様だな…まさかとは思うが、貴様は―――」
「詮索はよせ、ただの半魔だ。変異した理由は本人も良く分かっていない」
イフリートが珍しそうに彼女から感じ取る魔力や匂いを頼りに、何かを言おうとしたがベクターがすかさず遮った。気のせいか、その横槍の速さにはどこか焦りが見える。自分にとって都合の悪い何かをイフリートが持っている。ベクターはそう思ったに違いないとリーラは考える。そして後で問い詰めてやろうかとベクターの後姿へ目をやった。
「ちょっと、ベクターいるの ? 」
その時、玄関のドアが叩かれる音がした。続けざまに怒りや呆れが入り混じった激しい口調で誰かがベクターを呼んでいる。
「朝っぱらから騒がしいって苦情があったわよ ! それと話があるから開けて ! …ああ、じれったい。勝手に入るわね ! 」
大家の声だった。鍵同士が擦れ合う音がしたかと思うと、玄関のカギ穴に何かが差し込まれるような雑音が間もなく響いた。
「あ、やべ…‼」
手遅れだと分かっていながらベクターは動き出そうとしたが、それよりも先に大家がドアを開けてズカズカと入って来る。そして部屋の中で広がる混沌とした光景を前に呆然とした。動きが硬直したままこちらを見ているベクター、ソファに座って不気味な容姿をした犬達を撫でているムラセ、テーブルに座ったまま「クソ」と悪態づくタルマン、その隣で立っているリーラ、部屋の隅で縮こまっているジョージ、そして体へ撃ち込まれた杭によって壁に固定されている血まみれのイフリート。
辺りが血や犬のものと思われる唾液やらで汚れ、ふと見上げれば天井には巨大な穴が開いていた。
「…サプラーイズ……何か飲むか ? 」
これは新手のドッキリだという体にして事なきを得ようとベクターが口を開くが、なぜか彼女が用意していた金槌ですぐに殴られた。
「また盛大にぶっ壊してくれたわね⁉」
「くそぉ…痛え… いい加減訴えるぞ鬼婆 ! 」
「お互い様でしょ ! 何アレ⁉というか何コレ⁉」
「だから…ジョーク…ドッキリだって――」
「じゃあせめて笑わせる努力をして ! 」
頭を擦りながら血が出ているの確認するベクターと大家は、やたら増えた同居人や天井に空いた穴、そして磔にされているイフリートについて論争をおっぱじめた。普通なら即死か大怪我だというのに元気な姿で怒鳴るベクターを見て、相変わらずシュールだと思いながらリーラやタルマンは眺めていた。
「あの…」
こっそりムラセがイフリートへ近づき、おずおずと問いかけ始めた。
「さっき、何か話していた事の続きを聞きたくて。私がどうしたんですか ? 」
「あの力は、俺の知っているデーモンとよく似ている…それも特に嫌っている奴だ。もしかすれば、そいつに襲われて怪我をさせられた事があるのかと思ってな」
「いや、こうなる前までは別に何も…」
「…そうか」
イフリートが彼女の過去について尋ねるも、ムラセは心当たりが無いと答える。当てが外れた様にガッカリしたイフリートだったが、それと同時にもう一つの可能性について考え始めていた。半魔になる条件は怪我によるデーモンの遺伝子の体内への侵入か、デーモンとの血の繋がりがある者に限られる。つまり彼女の両親…そのどちらかがデーモンではないかと睨んでいた。
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