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パート2:ターゲット
第38話 目覚め
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「根に持つタイプは昔から苦手なんだよ…おわっ‼」
同族嫌悪に近い感情を抱いたベクターが愚痴を零し、間もなく爆炎によって吹き飛ばされた。ケルベロスは戦う姿勢を見せようともしなかったが、遠くの瓦礫に刺さっているオベリスクの柄を発見すると咄嗟に三匹で駆けだす。
「時間稼げ ! 」
吐き捨てる様に言ったファイに対して、ムラセが戸惑っている一方でリーラは走り出した。といっても、彼女には大型のデーモンに対抗できるだけの力は無い。とにかく自分の方へ引き付けようと囮を買って出ただけの事である。
自分はどうすれば良いのか。ムラセは思考が思うように回らず硬直した。周りが慌ただしくなる中で、自分に出来る役割が次々と無くなっていくのが分かる。指示といえばファイの一言のみであり、大雑把だった事もあってか却って頭を混乱させた。ベクターに変わって戦うのは不可能、かといって今更ファイ達によるオベリスクを掘り出す作業に加わるのも気が引けた。
リーラの様に囮になるしかない。切羽詰まっている中で駆け巡る雑念の中で、ムラセはようやく結論に辿り着いた。騒動が起き始めた頃に回収してもらった拳銃を手に取り、イフリートに向かって引き金を引く。手元がブレたせいで何発かは外れたが、一発だけ頭に命中したらしい。吹き飛ばしたベクターの方へ向かおうとしていたイフリートが彼女を睨んだ。
「邪魔立てするか…」
「えっと…え、あの…だ、黙れクソデブ」
普段のベクターの様に挑発をしてみようと、ムラセはイフリートに向かって続けざまに何か言おうとするが言葉が出ない。そういった口頭での攻撃に不慣れだった彼女は、ようやく細い声で身体的な見苦しさについて言い放った。
「…先に死にたいか」
ひとまずではあるもののイフリートの癪に障る事には成功する。どうやらプライドだけはご立派な物を持っていた彼にとって、直接的な罵倒は中々有効らしかった。
問答無用で拳を叩きつけて来たイフリートの攻撃を間一髪でムラセは躱し、必死に追撃から逃れつつ瓦礫の隙間へと滑り込む。そしてそのまま外へと逃れた。イフリートはそのまま建物へ突撃し、外へと飛び出してムラセの位置を把握した後に追撃を続行する。
「嘘でしょ…まずい」
ムラセの危機に対してリーラは呟くと同時に、イフリートの沸点の低さに呆れてしまった。一方で爆炎から立ち上がったベクターは、すっかり燃えてボロボロになった上着を破り捨てている。
「どこまで行った ? 」
「それほど遠くない ! 急いで ! 」
「おいベクター ! 掘り出したから持ってけ ! 」
仕切り直す気のベクターと、彼に現状を伝えたリーラが動き出した。ファイ達もようやく引き摺り出せたのか、オベリスクがあるとベクターに叫ぶ。慌てて駆け寄ってからオベリスクをベクターは担ぎ、急いでイフリート達を追いかけた。
その頃、何とか瓦礫や大破した車両に隠れつつ逃げていたムラセだったが、とうとう躱し切れずに爆風を浴びてしまった。吹き飛ばされた彼女は荒い形をした瓦礫の山々に背中から叩きつけられ、苦痛に喘ぎながら地面へと倒れ伏す。
「俺を愚弄する奴は許さん、何者であろうとだ」
イフリートは追い詰めたと分かった後に言いながら、最後のトドメとして拳を振り下ろしてくる。起き上がった頃には眼前に迫っていた巨大な拳に対して、ムラセは咄嗟に腕で頭を庇おうとした。冷静に考えれば、意味のない事だというのは分かり切っている。しかし、直感がそうさせた。せめてどうにか自身に降り注ぐ脅威を軽減せねばと。
その自己防衛本能が、彼女に眠っていた何かを目覚めさせた。赤い閃光が腕を中心に迸り、やがて落雷に似た巨大な衝突音が響く。イフリートは自分の拳が何かにぶつかった感触を味わっていたが、明らかに生物のそれではない。そして巻き上がった土煙が晴れた時、彼は自分の目を疑った。
「…それは… ! 」
彼女の上を覆う様にして巨大な腕が出現していた。雷の様に光り、魔力で構成されているソレは赤く透き通っている。しかし、イフリートの腕力をもってしても破壊できない強靭さでムラセを守っていた。
「…え ? 」
ムラセは、自分の体から放出されているのであろう光が作り出した巨腕を始めて目の当たりにした。何が起きているか分からないまま、頭を庇っていた腕をどかすと、巨大な腕もそれに合わせて薙ぎ払う様にイフリートの拳をどけた。
イフリートも確かに驚愕したが、それは未知の脅威に遭遇したという恐れとは違っていた。その力に見覚えがあったと同時に、過去の記憶からトラウマが呼び起こされる。そしてすぐに絶望感へと変わっていった。「この小娘は確実に、今すぐ殺さなければダメだ」と、イフリートはすぐに悟った。
「嘘だろ…⁉お前ら感じたか今の ?」
「ああ…だが、これは確か…」
「…」
イフリートが見える場所まで追い付いたベクター達だったが、走っていたファイは他の二匹達に話しかけていた。ドイラーも辺りに漂っている魔力の正体に気づいたらしく、何かを知っているような口ぶりで答える。ティカールも険しい顔をしながら押し黙っていた。
「リーラ、移動頼む」
「はいはい」
そんな話には聞く耳を持たず、ベクターからの頼みにリーラは即効で準備をする。そして彼がジャンプをしたと同時に魔方陣を出現させた。ベクターがその中へ飛び込んだ直後にイフリートの頭上へ別の魔方陣を作りだすと、そこからベクターが現れる。そのまま落下する勢いを利用し、首に向かってオベリスクを突き立てたベクターはアクセルを回してチェーンを回転させた。
「ぐおおおおおおおお!!」
不意打ちによって武器を肉体に突き立てられたイフリートが悲鳴を上げる。そのまま深くオベリスクを刺し込み、血を噴き出させる事に成功したベクターはそれを左腕に吸収させていった。大量の血を吸収した左腕が光った直後、小賢しいと言わんばかりにイフリートが暴れ出す。血で濡れてしまった事で滑りやすくなっていたのか、うっかりオベリスクが手から離れてしまったベクターは地面に落下した。
「どいつもこいつも俺を嘗めやがってええええ‼」
段々と余裕を無くしていくイフリートが、地面に降り立ったベクターへ向かって攻撃を仕掛けようとする。
「おい早く早く早く!爆発するやつだよ、殴ると!」
イフリートを吹き飛ばした時と同じ形態に変化して欲しいのだが、中々変形が進まない。そうしている間にもイフリートが自分の方へ向かって来ている焦燥感が自然とベクターを早口にさせた。
ところがイフリートの動きが止まり、突然そのままずっこけた。
「な…⁉」
驚いたイフリートが後方を見ると、ムラセが光る巨腕を使って尻尾を掴み、そのまま引っ張っていた。
「…色々知りたい事はあるが、ナイスアシスト」
何が起きているかは分からなかったが、いずれにせよチャンスが生まれたとベクターはムラセを褒める。そのまま無事に変形を終えた左腕と共に、引き摺られつつあるイフリートへと走って近づく。
「ひとまず死ね ‼」
そのまま下顎へアッパーカットの要領で叩きこみ、強烈な勢いでイフリートを上空へ吹き飛ばす。衝撃によって顎と歯が砕け散り、脳が揺れ、首かどこかしらの骨が折れるのをイフリートは感じながら宙を舞い、やがて地面に音を立てて墜落した。
同族嫌悪に近い感情を抱いたベクターが愚痴を零し、間もなく爆炎によって吹き飛ばされた。ケルベロスは戦う姿勢を見せようともしなかったが、遠くの瓦礫に刺さっているオベリスクの柄を発見すると咄嗟に三匹で駆けだす。
「時間稼げ ! 」
吐き捨てる様に言ったファイに対して、ムラセが戸惑っている一方でリーラは走り出した。といっても、彼女には大型のデーモンに対抗できるだけの力は無い。とにかく自分の方へ引き付けようと囮を買って出ただけの事である。
自分はどうすれば良いのか。ムラセは思考が思うように回らず硬直した。周りが慌ただしくなる中で、自分に出来る役割が次々と無くなっていくのが分かる。指示といえばファイの一言のみであり、大雑把だった事もあってか却って頭を混乱させた。ベクターに変わって戦うのは不可能、かといって今更ファイ達によるオベリスクを掘り出す作業に加わるのも気が引けた。
リーラの様に囮になるしかない。切羽詰まっている中で駆け巡る雑念の中で、ムラセはようやく結論に辿り着いた。騒動が起き始めた頃に回収してもらった拳銃を手に取り、イフリートに向かって引き金を引く。手元がブレたせいで何発かは外れたが、一発だけ頭に命中したらしい。吹き飛ばしたベクターの方へ向かおうとしていたイフリートが彼女を睨んだ。
「邪魔立てするか…」
「えっと…え、あの…だ、黙れクソデブ」
普段のベクターの様に挑発をしてみようと、ムラセはイフリートに向かって続けざまに何か言おうとするが言葉が出ない。そういった口頭での攻撃に不慣れだった彼女は、ようやく細い声で身体的な見苦しさについて言い放った。
「…先に死にたいか」
ひとまずではあるもののイフリートの癪に障る事には成功する。どうやらプライドだけはご立派な物を持っていた彼にとって、直接的な罵倒は中々有効らしかった。
問答無用で拳を叩きつけて来たイフリートの攻撃を間一髪でムラセは躱し、必死に追撃から逃れつつ瓦礫の隙間へと滑り込む。そしてそのまま外へと逃れた。イフリートはそのまま建物へ突撃し、外へと飛び出してムラセの位置を把握した後に追撃を続行する。
「嘘でしょ…まずい」
ムラセの危機に対してリーラは呟くと同時に、イフリートの沸点の低さに呆れてしまった。一方で爆炎から立ち上がったベクターは、すっかり燃えてボロボロになった上着を破り捨てている。
「どこまで行った ? 」
「それほど遠くない ! 急いで ! 」
「おいベクター ! 掘り出したから持ってけ ! 」
仕切り直す気のベクターと、彼に現状を伝えたリーラが動き出した。ファイ達もようやく引き摺り出せたのか、オベリスクがあるとベクターに叫ぶ。慌てて駆け寄ってからオベリスクをベクターは担ぎ、急いでイフリート達を追いかけた。
その頃、何とか瓦礫や大破した車両に隠れつつ逃げていたムラセだったが、とうとう躱し切れずに爆風を浴びてしまった。吹き飛ばされた彼女は荒い形をした瓦礫の山々に背中から叩きつけられ、苦痛に喘ぎながら地面へと倒れ伏す。
「俺を愚弄する奴は許さん、何者であろうとだ」
イフリートは追い詰めたと分かった後に言いながら、最後のトドメとして拳を振り下ろしてくる。起き上がった頃には眼前に迫っていた巨大な拳に対して、ムラセは咄嗟に腕で頭を庇おうとした。冷静に考えれば、意味のない事だというのは分かり切っている。しかし、直感がそうさせた。せめてどうにか自身に降り注ぐ脅威を軽減せねばと。
その自己防衛本能が、彼女に眠っていた何かを目覚めさせた。赤い閃光が腕を中心に迸り、やがて落雷に似た巨大な衝突音が響く。イフリートは自分の拳が何かにぶつかった感触を味わっていたが、明らかに生物のそれではない。そして巻き上がった土煙が晴れた時、彼は自分の目を疑った。
「…それは… ! 」
彼女の上を覆う様にして巨大な腕が出現していた。雷の様に光り、魔力で構成されているソレは赤く透き通っている。しかし、イフリートの腕力をもってしても破壊できない強靭さでムラセを守っていた。
「…え ? 」
ムラセは、自分の体から放出されているのであろう光が作り出した巨腕を始めて目の当たりにした。何が起きているか分からないまま、頭を庇っていた腕をどかすと、巨大な腕もそれに合わせて薙ぎ払う様にイフリートの拳をどけた。
イフリートも確かに驚愕したが、それは未知の脅威に遭遇したという恐れとは違っていた。その力に見覚えがあったと同時に、過去の記憶からトラウマが呼び起こされる。そしてすぐに絶望感へと変わっていった。「この小娘は確実に、今すぐ殺さなければダメだ」と、イフリートはすぐに悟った。
「嘘だろ…⁉お前ら感じたか今の ?」
「ああ…だが、これは確か…」
「…」
イフリートが見える場所まで追い付いたベクター達だったが、走っていたファイは他の二匹達に話しかけていた。ドイラーも辺りに漂っている魔力の正体に気づいたらしく、何かを知っているような口ぶりで答える。ティカールも険しい顔をしながら押し黙っていた。
「リーラ、移動頼む」
「はいはい」
そんな話には聞く耳を持たず、ベクターからの頼みにリーラは即効で準備をする。そして彼がジャンプをしたと同時に魔方陣を出現させた。ベクターがその中へ飛び込んだ直後にイフリートの頭上へ別の魔方陣を作りだすと、そこからベクターが現れる。そのまま落下する勢いを利用し、首に向かってオベリスクを突き立てたベクターはアクセルを回してチェーンを回転させた。
「ぐおおおおおおおお!!」
不意打ちによって武器を肉体に突き立てられたイフリートが悲鳴を上げる。そのまま深くオベリスクを刺し込み、血を噴き出させる事に成功したベクターはそれを左腕に吸収させていった。大量の血を吸収した左腕が光った直後、小賢しいと言わんばかりにイフリートが暴れ出す。血で濡れてしまった事で滑りやすくなっていたのか、うっかりオベリスクが手から離れてしまったベクターは地面に落下した。
「どいつもこいつも俺を嘗めやがってええええ‼」
段々と余裕を無くしていくイフリートが、地面に降り立ったベクターへ向かって攻撃を仕掛けようとする。
「おい早く早く早く!爆発するやつだよ、殴ると!」
イフリートを吹き飛ばした時と同じ形態に変化して欲しいのだが、中々変形が進まない。そうしている間にもイフリートが自分の方へ向かって来ている焦燥感が自然とベクターを早口にさせた。
ところがイフリートの動きが止まり、突然そのままずっこけた。
「な…⁉」
驚いたイフリートが後方を見ると、ムラセが光る巨腕を使って尻尾を掴み、そのまま引っ張っていた。
「…色々知りたい事はあるが、ナイスアシスト」
何が起きているかは分からなかったが、いずれにせよチャンスが生まれたとベクターはムラセを褒める。そのまま無事に変形を終えた左腕と共に、引き摺られつつあるイフリートへと走って近づく。
「ひとまず死ね ‼」
そのまま下顎へアッパーカットの要領で叩きこみ、強烈な勢いでイフリートを上空へ吹き飛ばす。衝撃によって顎と歯が砕け散り、脳が揺れ、首かどこかしらの骨が折れるのをイフリートは感じながら宙を舞い、やがて地面に音を立てて墜落した。
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