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パート2:ターゲット
第36話 類は友を呼ぶ
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「今のは何だ… ? 」
立ち込める煙の中で、アーサーはようやく立ち上がったベクターに対して困惑を隠さずに尋ねた。
「俺が聞きてえよ、あークソ…骨折れてないよな… ? てかお前さっき、俺の事避けただろ。助けるぐらいしてくれれば――」
「注文なら人間に出来る範囲の事で頼んでくれ。化け物が」
不慣れな形態から元の姿に戻った左腕を擦り、ベクターは悪態をつきながら身体に異常が無いか確かめる。一方でアーサーも、無茶を言わないでくれと彼を冷たくあしらった。
「なあ、それより話があるんだが」
「ん ? 」
「今回の一件、色々とマズい気がするんだよ。主にアンタらの会社」
急に馴れ馴れしく肩を回して来たベクターは、何やら不穏な助言を呈し始める。鬱陶しいと感じる反面、彼の言う話とやらがアーサーには気が掛かりだった。
「アレが変身する前に、おたくの兵士と一緒につるんでるのを見たぜ。まあ憶測の域を出ないが、もしあのデーモンがそいつに手引きされてこのシェルターに入り込んだんだとしたら…どうだろうなあ」
「…何が言いたい」
「ちょうど俺の知り合いに話を盛る事で有名な情報屋がいるんだよ。ほんのちょっぴり、そいつに金を渡してからブン屋の所に駆け込んでくれと言えば、あっという間に話が広がるだろ ? 天下のシアルド・インダストリーズ様がデーモンを連れ込んだ挙句、破壊活動を止められなかったとあれば…俺だったら喜んで石を投げる側に回る。楽しそうだし」
ベクターは自分の記憶の中から今回の騒動に関する簡単な仮説を立てると、それを元手に脅迫を始めた。決して根拠が満足にある訳ではないが、今回の件に関して少なくともアーサーが自分より情報を持っているとは思えない。それならば余計な入れ知恵をされる前に自分にとって有利な話を吹き込んでやろうという彼なりの魂胆があった。
「…目的は何だ ? 金か ? それにお前の話が事実だとも限らないだろ」
「やっぱ大手務めなだけあって結構賢いのな。だけど決めてもらうのはお前の所のボスさ…確かに事実だとも限らないが、全くのデタラメだと証明できる方法も現時点では無いだろ ? 」
どうせ口止め料が目当てだろうとアーサーは高を括った様子でせせら笑った。そして根拠のないハッタリにビビる訳が無いと追求し返す。腕っぷしに自慢はあるらしいが、結局は事あるごとに金を寄越せとほざく働きもしない惨めで醜悪な乞食と同類か、それよりは少しマシな程度の性根しか持ち合わせていないのだと見下げていた。一方でベクターも諦めが悪いらしく、懲りない様子で話を続ける。
「火のない所に煙は立たないが、火種を撒くってのは難しい事じゃない。シアルド・インダストリーズを嫌ってる人間なんて、それこそ山ほどいるんだ…そんな奴らに『面白い話があるぞ』と言えば、それが大した裏取りもされてない情報だろうが確実に注目する。トップに立ってる奴らがいなくなれば、自分達が天下を取れるなんて本気で思ってる単細胞連中ばかりなんだ。喜んで飛びつくだろうぜ」
ベクターがそうやって喋っている最中、応援として駆け付けて来たらしいシアルド・インダストリーズの私兵達がガチャガチャと武装を鳴らしながら辺りへ現れる。隊長らしき人物の指示をもとに周囲の警戒や被害の確認を始め、リーラ達は物陰から黙って見ていた。
「…何か、出づらくなっちゃった」
「まあ仕方ない。おい、それより今の話は本当か、なあ ? 」
リーラが様子を見ながら項垂れ、タルマンも相槌を打ってからとりあえず捕まえておいたジョージの胸倉を掴んで問い詰める。リーラ曰く手加減していたらしいが、良く無事だったなとムラセは驚いていた。ジョージが何かを口走りそうになった瞬間、タルマンはコッソリ渡したボイスレコーダーを回せとムラセに合図を送る。
「あ、ああ…俺があのデーモンを連れて来た…といっても人間に擬態してて…脅されたんだ ! 断ったら俺が死んでた ! 」
ジョージがひとしきり言い終えてから、タルマンはムラセに録音を中断するように合図を出して少し考えるように別の方向へ顔を向ける。
「…そんな話聞いて何がしたいの ? 」
そんな事してる場合じゃないだろうに。リーラはそう思いつつ奇妙そうな様子でタルマンに聞いた。
「いやいや、意外とこの手のゴシップみたいな情報って欲しがる奴がいるんだよ。金に出来ねーかなって思ってな…売り込むとかで。なあ、その話だが『上の連中にやらされました』みたいな方向に持って行けたりしないか ? 多少は…弾むぞ ? 」
「うわっ捏造する気だ」
金の匂いがすると睨んだタルマンが自身の目的を語り、ジョージに対して少し話に脚色を加えられないかと提案する。指で輪っかを作って金のアピールをしながら要求する姿を見て、ムラセは思わず口走ってしまった。
「なあに、最悪の場合は『双方の認識に齟齬が生じてました』で済ませられる。で、どうなんだ ? 」
「………そういえばうちの会社、最近やたらデーモンの生態研究に熱心だったような…」
「おお ! そういうのだそういうの ! もっとくれ ! よしムラセ、レコーダー回せ」
タルマンは誤魔化す方法は心得ていると自信ありげに言い放ち、どうせ事の発端が自分にあるとバレてしまえば首では済まないと分かったのか、ジョージも諦めた様に知る限りで会社の事情を説明し出す。それに目を輝かせるタルマンを見ながら、フェイクニュースはこうして作られていくのかとリーラ達は呆れていた。
立ち込める煙の中で、アーサーはようやく立ち上がったベクターに対して困惑を隠さずに尋ねた。
「俺が聞きてえよ、あークソ…骨折れてないよな… ? てかお前さっき、俺の事避けただろ。助けるぐらいしてくれれば――」
「注文なら人間に出来る範囲の事で頼んでくれ。化け物が」
不慣れな形態から元の姿に戻った左腕を擦り、ベクターは悪態をつきながら身体に異常が無いか確かめる。一方でアーサーも、無茶を言わないでくれと彼を冷たくあしらった。
「なあ、それより話があるんだが」
「ん ? 」
「今回の一件、色々とマズい気がするんだよ。主にアンタらの会社」
急に馴れ馴れしく肩を回して来たベクターは、何やら不穏な助言を呈し始める。鬱陶しいと感じる反面、彼の言う話とやらがアーサーには気が掛かりだった。
「アレが変身する前に、おたくの兵士と一緒につるんでるのを見たぜ。まあ憶測の域を出ないが、もしあのデーモンがそいつに手引きされてこのシェルターに入り込んだんだとしたら…どうだろうなあ」
「…何が言いたい」
「ちょうど俺の知り合いに話を盛る事で有名な情報屋がいるんだよ。ほんのちょっぴり、そいつに金を渡してからブン屋の所に駆け込んでくれと言えば、あっという間に話が広がるだろ ? 天下のシアルド・インダストリーズ様がデーモンを連れ込んだ挙句、破壊活動を止められなかったとあれば…俺だったら喜んで石を投げる側に回る。楽しそうだし」
ベクターは自分の記憶の中から今回の騒動に関する簡単な仮説を立てると、それを元手に脅迫を始めた。決して根拠が満足にある訳ではないが、今回の件に関して少なくともアーサーが自分より情報を持っているとは思えない。それならば余計な入れ知恵をされる前に自分にとって有利な話を吹き込んでやろうという彼なりの魂胆があった。
「…目的は何だ ? 金か ? それにお前の話が事実だとも限らないだろ」
「やっぱ大手務めなだけあって結構賢いのな。だけど決めてもらうのはお前の所のボスさ…確かに事実だとも限らないが、全くのデタラメだと証明できる方法も現時点では無いだろ ? 」
どうせ口止め料が目当てだろうとアーサーは高を括った様子でせせら笑った。そして根拠のないハッタリにビビる訳が無いと追求し返す。腕っぷしに自慢はあるらしいが、結局は事あるごとに金を寄越せとほざく働きもしない惨めで醜悪な乞食と同類か、それよりは少しマシな程度の性根しか持ち合わせていないのだと見下げていた。一方でベクターも諦めが悪いらしく、懲りない様子で話を続ける。
「火のない所に煙は立たないが、火種を撒くってのは難しい事じゃない。シアルド・インダストリーズを嫌ってる人間なんて、それこそ山ほどいるんだ…そんな奴らに『面白い話があるぞ』と言えば、それが大した裏取りもされてない情報だろうが確実に注目する。トップに立ってる奴らがいなくなれば、自分達が天下を取れるなんて本気で思ってる単細胞連中ばかりなんだ。喜んで飛びつくだろうぜ」
ベクターがそうやって喋っている最中、応援として駆け付けて来たらしいシアルド・インダストリーズの私兵達がガチャガチャと武装を鳴らしながら辺りへ現れる。隊長らしき人物の指示をもとに周囲の警戒や被害の確認を始め、リーラ達は物陰から黙って見ていた。
「…何か、出づらくなっちゃった」
「まあ仕方ない。おい、それより今の話は本当か、なあ ? 」
リーラが様子を見ながら項垂れ、タルマンも相槌を打ってからとりあえず捕まえておいたジョージの胸倉を掴んで問い詰める。リーラ曰く手加減していたらしいが、良く無事だったなとムラセは驚いていた。ジョージが何かを口走りそうになった瞬間、タルマンはコッソリ渡したボイスレコーダーを回せとムラセに合図を送る。
「あ、ああ…俺があのデーモンを連れて来た…といっても人間に擬態してて…脅されたんだ ! 断ったら俺が死んでた ! 」
ジョージがひとしきり言い終えてから、タルマンはムラセに録音を中断するように合図を出して少し考えるように別の方向へ顔を向ける。
「…そんな話聞いて何がしたいの ? 」
そんな事してる場合じゃないだろうに。リーラはそう思いつつ奇妙そうな様子でタルマンに聞いた。
「いやいや、意外とこの手のゴシップみたいな情報って欲しがる奴がいるんだよ。金に出来ねーかなって思ってな…売り込むとかで。なあ、その話だが『上の連中にやらされました』みたいな方向に持って行けたりしないか ? 多少は…弾むぞ ? 」
「うわっ捏造する気だ」
金の匂いがすると睨んだタルマンが自身の目的を語り、ジョージに対して少し話に脚色を加えられないかと提案する。指で輪っかを作って金のアピールをしながら要求する姿を見て、ムラセは思わず口走ってしまった。
「なあに、最悪の場合は『双方の認識に齟齬が生じてました』で済ませられる。で、どうなんだ ? 」
「………そういえばうちの会社、最近やたらデーモンの生態研究に熱心だったような…」
「おお ! そういうのだそういうの ! もっとくれ ! よしムラセ、レコーダー回せ」
タルマンは誤魔化す方法は心得ていると自信ありげに言い放ち、どうせ事の発端が自分にあるとバレてしまえば首では済まないと分かったのか、ジョージも諦めた様に知る限りで会社の事情を説明し出す。それに目を輝かせるタルマンを見ながら、フェイクニュースはこうして作られていくのかとリーラ達は呆れていた。
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