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パート2:ターゲット
第33話 支援
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その頃、ようやく出撃の準備が整ったアーサーは装備を身にまとった状態で本社のエントランスへと向かっていた。
「アーサー、一応伝えておくが君が今装着しているのは開発中の試作型だ。携帯型装甲…アスラをベースに、いつでもどこでも使用可能な外骨格をコンセプトに作られた物でね。色々と犠牲にはしたが、何とか一人で持ち運べる大きさにまで収納できるようにした」
マークから連絡が入ると、アーサーが慌てて言われたとおりに身に着けた装備について説明をしてくる。確かに見た目こそアスラの面影があるものの、全体的に質素なデザインに変わっており、何より装甲が薄い。特大サイズのアタッシュケースに各部位が分かれて収納されていた事にも驚いたが、いざ付けてみると折り畳まれていた装甲が展開し、問題なく動作していた。
「だが言った通り色々と制限がある。当然だが出力は格段に低下しているから、近接で殴り合いなんて馬鹿な真似はよしてくれよ。おまけに収納する上で邪魔な物は取っ払っているから、防御力も大幅に下がっている。最後に活動できる時間だが、持って三十分程度だと思ってくれ」
「兵器の性能確認のために死ねって事か。泣きたくなるね」
アーサーは気を荒げる事は無かったが、想像以上に制限が多すぎるという点に対して憤慨していた。アスラでさえ太刀打ちできる望みが薄いというのに、これでは棺桶に入れられてる様なものだと心の中で愚痴を零してから悪態をつく。
「一応武器も持たせてるんだから良いじゃないか。それとも丸腰で放り込まれるのをご所望だったかな ? とにかくマズいと思ったらすぐに逃げるんだ」
マークは無いよりはマシだろうと言ってから、最悪の場合に備えて逃走も視野に入れて欲しいと彼を諭す。優秀な人材だからこそ無事に帰ってきて欲しいという思いがあったのは勿論だが、使用者の体験という点でのデータを収集しておきたかったという目的があるのは言うまでもない。
地下からの直通エレベーターが開き、グレネードランチャーを構えながらエントランスホールへ突入したアーサーだったが、直後に自信の頭上を何かが掠める。背後の壁に激突したらしく、壁が砕ける音や何かが床へ落ちる音が聞こえてきた。振り向いてみれば、身体に付着した壁の破片をはたきながら立ち上がるベクターがいる。
「どうもって言いたいところだが、隠れてた方が幸せだったかもな」
ベクターが憐れむように言ってから前を向く様に指で示す。正面へ視線を戻すと、イフリートが歩きながらこちらへ接近していた。
「お前が呼び寄せたのか…!?あのイカレ野郎を…」
「えっと、そうとも言えるし、そうでないとも言える」
武器を構えながら急いで尋ねるアーサーだったが、責任を追及されたくなかったベクターは酷く曖昧な調子で答えた。ベクターの言い淀み方からして、度合いにもよるが間違いなくこの馬鹿が原因だとアーサーは断定し、彼に対して反応する事なくイフリートへ攻撃を開始する。グレネード弾が発射され、胴体にあたった後に爆発が起きた。周囲にある物を巻き込んで炸裂したが、煙の中から現れたイフリートは怠そうに首を鳴らしながら歩みを再開する。
「な、凄いだろ ? 」
「突っ立ってないでお前も何かしろ ! 」
他人事の様に笑っているベクターへアーサーは苛立ちを隠さずに叫ぶ。そんなこと言われようがどうしようもないと、ベクターはお手上げといった風に首を横に振った。まともな格闘戦では太刀打ちが出来ず、左腕のエネルギーも既に無くなっているせいで変形も出来ない。
「クソッ、俺だけでも何とかしないと…」
その頃、自分が連れて来た不審者によって想定外の出来事が起きた事に対してジョージは己の選択を悔やんでいた。痛みを堪えつつ何とか立ち上がってからシアルド・インダストリーズへ突入をしようとした時、どこからともなく背後から人影が現れる。
「あーらら…わざわざ連絡してくるわけね」
リーラが何やら納得した様に呟き、目が合ったジョージに会釈をしてから建物へ向かって歩き出す。
「おい何やってる!?」
「何って…助っ人だけど ?」
「すぐに避難するんだ ! 君なんかに何が出来る ? 」
引き留めようとしたジョージだったが、リーラは何か問題でもあるのかという風な口ぶりで言い返す。コートを羽織り、シンプルな色合いの帽子を被っている彼女の姿はとてもではないが戦いに臨めるような状態ではない。強いて言えば片手に長尺のロッドを携えていたが、いずれにせよ戦闘に耐えうるような代物ではなさそうだった。
「…戦うのは私じゃない。どいて」
面倒くさそうにジョージの手を払いのけたリーラは、ガラスの破片や崩れた柱を気にしながら屋内へ侵入する。彼女の存在に気づいたのか、ムラセが受付のカウンターから手を振った。警備室から戻っていたタルマンも彼女を見て安堵している。
「武器は持って来させている…そろそろね。どうにかこっちへ気を引き付けられるかしら ?」
リーラが時計を見ながら何かを確認し、二人へ催促をしてきた。タルマンがムラセに拳銃を渡し、二人で一斉に背を向けているイフリートへ射撃を行う。煩わしいと感じたイフリートは入り口付近にいるリーラ達の方へ睨みを利かせる。タルマンはともかく、他の二人に関しては魔力が宿っている事をすぐに感じ取った。
「…ほう」
興味深そうにイフリートが自分を見た直後、リーラはロッドを使って床を小突く。その動作の意図をすぐに察したベクターは、自身の背後に巨大な魔方陣が生み出されている事に気づいた。
「伏せろ ! 」
ベクターがそう言ってアーサーを抑えつけて床へ押し倒した瞬間、魔方陣が光り出して三つ首の巨大なデーモンが飛び出して来た。犬の様な姿をしており、黒い体毛には渦を連想させるような赤い模様がびっしりと浮かび上がっている。背後から現れた強烈な気配にイフリートが思わず反応した頃には、胴体めがけて巨大な前足が横から叩きつけられていた。
そのまま吹き飛ばされたイフリートが壁の向こうに消え、呆然としていたアーサーを余所に犬の姿をしたデーモンはベクターに近づく。そして巨大な口を使って彼の体を一舐めした。
「おえっ…くっせ…」
その腐らせた果物のような臭いに文句を垂れながらベクターが睨むと、三つの首は揃いも揃ってニンマリと牙を剥き出しにしながら笑う。
「ケルベロス…うちの飼い犬の本来の姿よ」
その様子を遠くから見ていたリーラは、自分の近くで怯えるムラセを安心させるために犬の姿をしたデーモンの正体を伝えてから彼女に向かって得意気に微笑んだ。
「アーサー、一応伝えておくが君が今装着しているのは開発中の試作型だ。携帯型装甲…アスラをベースに、いつでもどこでも使用可能な外骨格をコンセプトに作られた物でね。色々と犠牲にはしたが、何とか一人で持ち運べる大きさにまで収納できるようにした」
マークから連絡が入ると、アーサーが慌てて言われたとおりに身に着けた装備について説明をしてくる。確かに見た目こそアスラの面影があるものの、全体的に質素なデザインに変わっており、何より装甲が薄い。特大サイズのアタッシュケースに各部位が分かれて収納されていた事にも驚いたが、いざ付けてみると折り畳まれていた装甲が展開し、問題なく動作していた。
「だが言った通り色々と制限がある。当然だが出力は格段に低下しているから、近接で殴り合いなんて馬鹿な真似はよしてくれよ。おまけに収納する上で邪魔な物は取っ払っているから、防御力も大幅に下がっている。最後に活動できる時間だが、持って三十分程度だと思ってくれ」
「兵器の性能確認のために死ねって事か。泣きたくなるね」
アーサーは気を荒げる事は無かったが、想像以上に制限が多すぎるという点に対して憤慨していた。アスラでさえ太刀打ちできる望みが薄いというのに、これでは棺桶に入れられてる様なものだと心の中で愚痴を零してから悪態をつく。
「一応武器も持たせてるんだから良いじゃないか。それとも丸腰で放り込まれるのをご所望だったかな ? とにかくマズいと思ったらすぐに逃げるんだ」
マークは無いよりはマシだろうと言ってから、最悪の場合に備えて逃走も視野に入れて欲しいと彼を諭す。優秀な人材だからこそ無事に帰ってきて欲しいという思いがあったのは勿論だが、使用者の体験という点でのデータを収集しておきたかったという目的があるのは言うまでもない。
地下からの直通エレベーターが開き、グレネードランチャーを構えながらエントランスホールへ突入したアーサーだったが、直後に自信の頭上を何かが掠める。背後の壁に激突したらしく、壁が砕ける音や何かが床へ落ちる音が聞こえてきた。振り向いてみれば、身体に付着した壁の破片をはたきながら立ち上がるベクターがいる。
「どうもって言いたいところだが、隠れてた方が幸せだったかもな」
ベクターが憐れむように言ってから前を向く様に指で示す。正面へ視線を戻すと、イフリートが歩きながらこちらへ接近していた。
「お前が呼び寄せたのか…!?あのイカレ野郎を…」
「えっと、そうとも言えるし、そうでないとも言える」
武器を構えながら急いで尋ねるアーサーだったが、責任を追及されたくなかったベクターは酷く曖昧な調子で答えた。ベクターの言い淀み方からして、度合いにもよるが間違いなくこの馬鹿が原因だとアーサーは断定し、彼に対して反応する事なくイフリートへ攻撃を開始する。グレネード弾が発射され、胴体にあたった後に爆発が起きた。周囲にある物を巻き込んで炸裂したが、煙の中から現れたイフリートは怠そうに首を鳴らしながら歩みを再開する。
「な、凄いだろ ? 」
「突っ立ってないでお前も何かしろ ! 」
他人事の様に笑っているベクターへアーサーは苛立ちを隠さずに叫ぶ。そんなこと言われようがどうしようもないと、ベクターはお手上げといった風に首を横に振った。まともな格闘戦では太刀打ちが出来ず、左腕のエネルギーも既に無くなっているせいで変形も出来ない。
「クソッ、俺だけでも何とかしないと…」
その頃、自分が連れて来た不審者によって想定外の出来事が起きた事に対してジョージは己の選択を悔やんでいた。痛みを堪えつつ何とか立ち上がってからシアルド・インダストリーズへ突入をしようとした時、どこからともなく背後から人影が現れる。
「あーらら…わざわざ連絡してくるわけね」
リーラが何やら納得した様に呟き、目が合ったジョージに会釈をしてから建物へ向かって歩き出す。
「おい何やってる!?」
「何って…助っ人だけど ?」
「すぐに避難するんだ ! 君なんかに何が出来る ? 」
引き留めようとしたジョージだったが、リーラは何か問題でもあるのかという風な口ぶりで言い返す。コートを羽織り、シンプルな色合いの帽子を被っている彼女の姿はとてもではないが戦いに臨めるような状態ではない。強いて言えば片手に長尺のロッドを携えていたが、いずれにせよ戦闘に耐えうるような代物ではなさそうだった。
「…戦うのは私じゃない。どいて」
面倒くさそうにジョージの手を払いのけたリーラは、ガラスの破片や崩れた柱を気にしながら屋内へ侵入する。彼女の存在に気づいたのか、ムラセが受付のカウンターから手を振った。警備室から戻っていたタルマンも彼女を見て安堵している。
「武器は持って来させている…そろそろね。どうにかこっちへ気を引き付けられるかしら ?」
リーラが時計を見ながら何かを確認し、二人へ催促をしてきた。タルマンがムラセに拳銃を渡し、二人で一斉に背を向けているイフリートへ射撃を行う。煩わしいと感じたイフリートは入り口付近にいるリーラ達の方へ睨みを利かせる。タルマンはともかく、他の二人に関しては魔力が宿っている事をすぐに感じ取った。
「…ほう」
興味深そうにイフリートが自分を見た直後、リーラはロッドを使って床を小突く。その動作の意図をすぐに察したベクターは、自身の背後に巨大な魔方陣が生み出されている事に気づいた。
「伏せろ ! 」
ベクターがそう言ってアーサーを抑えつけて床へ押し倒した瞬間、魔方陣が光り出して三つ首の巨大なデーモンが飛び出して来た。犬の様な姿をしており、黒い体毛には渦を連想させるような赤い模様がびっしりと浮かび上がっている。背後から現れた強烈な気配にイフリートが思わず反応した頃には、胴体めがけて巨大な前足が横から叩きつけられていた。
そのまま吹き飛ばされたイフリートが壁の向こうに消え、呆然としていたアーサーを余所に犬の姿をしたデーモンはベクターに近づく。そして巨大な口を使って彼の体を一舐めした。
「おえっ…くっせ…」
その腐らせた果物のような臭いに文句を垂れながらベクターが睨むと、三つの首は揃いも揃ってニンマリと牙を剥き出しにしながら笑う。
「ケルベロス…うちの飼い犬の本来の姿よ」
その様子を遠くから見ていたリーラは、自分の近くで怯えるムラセを安心させるために犬の姿をしたデーモンの正体を伝えてから彼女に向かって得意気に微笑んだ。
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