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4章:果てなき焔
第142話 各々
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夜になった。幕舎の中からは愚痴と慰めが入り混じった物悲しい賑やかさに満ち溢れている。戦闘、遠征、そして慣れない地域での滞在。疲弊をするのは当然である。だからこうして、せめてもの慰めとして酒と貧しい肴を手に語らうしかないのだ。これから向かう先もまた絶望が待っているかもしれない。そんな不安から目を逸らすためである。
「えっ、レストラン ?」
隣で語らっていた給仕長のケイミンから将来の夢を聞かされ、フォルトは目を丸くする。
「そうさ。まあ、夢ってよりは…う~ん、悲願。そう言った方が正しいかもしれない。俺の親父が昔、皇都で飯屋を開いた事があってね。故郷の伝統料理だけじゃない。ジェトワの文化も織り交ぜて、この国の食文化を更に発展させたいって息巻いてたんだ。美味い飯があれば、皆ちったあ苛立ちも収まると思ったんだろうな。差別ってのは、解決してもらうのを待つばかりじゃない。自分から、敵ではないと働きかけるのも大事だと、そう言ってた」
「それで…どうなったの ?」
「ダメだった。店に火を付けて燃やされたんだよ。”ノルコア人が復讐のために、武力以外の方法でこの国を乗っ取ろうととしてるに違いない”って因縁付けられたんだ。結局、田舎に戻って農業しながら一生を送る羽目になった」
「ええ、ひど…」
「まあ、そんなもんさ。俺が親父の夢を聞いて、もう一度挑戦しようとした頃にはもっと酷かった。ノルコア人じゃ店を構える事も出来ないし、働かせてもらおうにも門前払いだ。過去にあったカーユウの襲撃事件もあってか、ノルコア人とは仲良くしたくないんだと。そんな折に軍で給仕を募集してたから、こうして志願して来たんだ。軍直属の料理人だったとあれば、将来店を作る時の信頼感も違うだろ ?」
ケイミンは熱く語る傍で、他の兵士達も言葉を耳に入れながら料理を食べていた。干し肉と豆の炒め物といい、乾燥させた野菜のスープといい、豪勢とは言えないメニューである。が、ありあわせの物で作ったと考えれば中々の味であった。彼の話も合わさって、食べている時に感慨深い気分に浸れる。料理とは歴史と社会を反映する鏡のようなものであり、それらが付加価値として更に料理の存在意義を高めてくれると言うが、いずれ出来るであろう彼の店や料理も、そのように扱ってもらえる日が来るのかもしれない。少し楽しみになっていたのだ。
「おい、お前ら。お代わりは程々にしとけよ ? 後で”鴉”様にも食べさせてお墨付きを頂かねえといけねえんだ。”あの鴉も認めた”って、売り文句に使えそうだろ ?」
ケイミンの商売構想に兵士達の間でも笑いが起こる。そんな幕舎より離れた地点、小さな丘の上にルーファンは立っていた。暗闇で見える筈もない遥か先の目標地点、旧ノルコア城の方角をぼんやりと見つめている。
「…早かったな」
背後から気配がすると、そう言って振り向く。サラザールがいた。彼女の背後には、新聞記者のオルティーナもいる。
「こいつに頼まれてた書類、さっき届け終わった。メチャクチャ怪しまれたけど」
「ついて行ってあげられなくてごめんなさい。でもこれで、明日発行される新聞には間に合う。皆が分かってくれる筈…この村で起きた事件にリミグロンが関わっていた事も、彼らが狙いを付けた理由が、この国に根深く残っている禍根が原因だって事も全部」
オルティーナはそう言ってルーファンの横まで来ると、体育座りで地面に尻を付ける。彼がこんな場所で、一人きりでいる事を不思議に思っていたのだが、少し理由が分かった気がする。何も無い虚空を、誰にも邪魔されずに眺めている時間というのは、余計な事を考えずに思案にくれる事が出来るのだろう。耳を澄ましても互いの息遣いしか聞こえない。それ程の静寂だった。
「……私は、少し甘かったのかもしれない」
少し黙っていたオルティーナは、いきなり呟いた。
「今更か」
「だって、仕方ないでしょ ? 初めてだったもの…戦場なんて。あそこまで酷い事してるだなんて…思ってなかった」
「現地の人間の中に共犯者を作り、そいつに実質的な権限を与えておく。そうすれば都合が悪い時に全てを押し付けて逃げる事が出来る上に、地域内でも対立を煽れる…よくある方法だ。誠実と善性なんてものに夢を見ない事だ。戦場ではな」
「でも、善性を捨てたらそれこそ平和は無くなってしまうじゃない ! 戦いを止めるために戦いを起こし続けるだなんて…」
「簡単な事だ。全て殺せば解決する」
ルーファンは彼女と話を交わし、自分の持つ敵への殺意を端的に感じさせながらその場を去ろうとする。口を噤みそうになっていたオルティーナだが、どうしても聞いてみたかった質問が残っている事に気付き、意を決して背後で歩き去ろうとしているルーファンへ振り返る。
「ルーファン・ディルクロ ! …教えて頂戴。あなたがリミグロンに恨みを持っている事は聞いている。だけど聞きたい。全て殺した先で、あなたは何をするの ? 世界は…それで救われるの ?」
サラザールと共に立ち去ろうとしたルーファンだが、彼女の質問を聞いて立ち止まる。
「さあね」
答えは呆気なく帰って来た。振り向く事なくルーファンは続ける。
「偉そうな目的なんて、考えた事も無い。でも…全てを殺して、全てが終わって、その光景を目にする事が出来たら、きっと俺は感じる事が出来るんだと思う。生きてて良かったって」
そう言って足早に去る彼の背中は、怒っている様にも悲しんでいるようにも見える。戦いにのみ生きがいを見出し、それに殉じよう都する人間の姿はああも虚しい物なのか。オルティーナの心中には、彼の背景を踏まえた上での共感と、それはそれとして行きつくところまで来てしまった兵士としての姿、それに対する憐れみがあった。
そんな感情を周囲が持っている事は薄々察していたルーファンが寝床に戻ろうとすると、どういうわけかアトゥーイとメアがいる。座り込んで酒盛りをしていたのだ。よりにもよってルーファンの寝床で。
「…何をやってる」
「申し訳ありません。止めようとしたのですが、腹を割って話したいと聞かなくて」
「何だ⁉その顔~、さては貴様ら私の事嫌ってるな~ ?」
謝罪するアトゥーイを見習うわけでもなく、メアはへらへらと二人を交互に指さして笑う。俗に言う仕上がっている状態というやつである。笑うか、一言物申す度に酒の入った陶器に口を付けていた。
「嫌ってるわけじゃないが、今から寝るんだ。どいてくれ」
「おいおい、まだ丑三つ時ですらないんだぞ~ ! 飲めよ私の酒を~!!同志だろ私達は~ !」
「酒は別に君の物でも無いし、大体どういう意味だ丑三つ時って。それ以前に同志という言い方はやめろ。一緒にいるのは利害の一致に過ぎない」
「私は…同志だし、仲間だと思ってたよ ?」
「おい、急にしおらしくなるな。気色が悪い」
メアの絡みが想像以上にしつこい上に、全くと言って良いほど退く気配がない。アトゥーイも平然と酒を飲んでおり、逃げられないと分かったルーファンは諦めるように座った。
「はぁ…酒を」
「ど~ぞ~ !」
こんな事をしてる場合ではないというのに。そんな事を思いながら、ルーファンはメアから受け取った酒を渋々口に入れる。ほのかに甘く、喉越しは少し辛い。だがしつこい風味も無く、飲みやすいものではあった。
「俺やアトゥーイが同志とは、随分物好きだな」
「そりゃあもう。”嫌われ者”って点では似てるでしょ ?」
「ふん、嫌われ者か…」
「うん。言いがかり付けられて散々な目に遭ってきたディマス族に、現在進行形で揉めまくってるノルコア人に、あちこちで事件起こしてる武装組織から直々に恨み買っている殺人鬼。この場にはいないけど、あわや故郷が植民地にされかけた獣人の女の子もいるもんね。もはや奇跡じゃない ? 迫害仲間だよ私達は」
ひとしきり言って満足したのか、メアは酒を豪快に煽って大笑いする。色々と鬱憤が溜まっているのだろうか。
「こういう立場だと本当メンド―な事ばかり ! どっかの同郷の馬鹿がちょっと問題起こすだけで、私達まで同じ様に扱われて石を投げられるんだ。正直言うと…この村の件も私、あの子を一瞬憎みそうになった」
「まあ、当然の考えだろうな。踏みとどまれた分マシだろう」
なぜなら自分は出来なかったから。ツジモの件を思い出してルーファンは少し苦い表情をする。お前のせいで、お前が余計な事をしなければ、そんな他責思考を人間は誰しも持っているものであり、捨て去ることなど不可能である。
「でもね、私としてはアンタたちの方が羨ましい。立場に縛られず、嫌われる事も覚悟で自分のやりたい事を貫けるって、普通出来ないからね ? 私みたいに首輪に繋がれてる類の人間は特に」
「そう自分を過小評価すべきではありません。あなたはよくやっています。我々も感謝をしていますよ。少人数での進軍とは言いましたが、こうして付き合ってくれているのですから」
「手柄を立てたいからね。そして見せつけてやるんだ。ノルコア人にだって、強くて、称賛されるに価する人間が沢山いるって事を。私は行動で示してやる。兄貴のためにも…」
彼女の目が嬉々としていた。酒を飲まずにしゃべり続けていたからか、酔いが醒めてきたのだろうか。姉さんのためにもという言葉が出た直後、彼女はハッとして慌てて酒を飲み干した。
「いけないいけない。しみったれた話はやめよう ! 酒がマズくなる ! もう一本行くぞー ! 迫害仲間の皆で乾杯だー !」
「頼むからその呼び方やめてくれないか。色々とマズい気がする」
空元気を見せる彼女を窘めながらも、ルーファンは乾杯に応じる。戦場にいる者達は皆、それぞれの思いを抱いている事は分かり切っていたが、実際に話をしてみると猶更強く感じる。彼らもまた、自分と同じ意思と理由を持つ人間なのだ。しかしその直後に、ふと背筋が冷たくなった。自分が殺して来た者達も、皆こうして死ぬ前日には笑い合っていたのだろうか。
余計な事は考えるな。先程のメアの発言を今になって肯定したルーファンは、一瞬だけよぎった自分のくだらない甘さを掻き消そうと、ただ必死に酒を呷るしかなかった。
「えっ、レストラン ?」
隣で語らっていた給仕長のケイミンから将来の夢を聞かされ、フォルトは目を丸くする。
「そうさ。まあ、夢ってよりは…う~ん、悲願。そう言った方が正しいかもしれない。俺の親父が昔、皇都で飯屋を開いた事があってね。故郷の伝統料理だけじゃない。ジェトワの文化も織り交ぜて、この国の食文化を更に発展させたいって息巻いてたんだ。美味い飯があれば、皆ちったあ苛立ちも収まると思ったんだろうな。差別ってのは、解決してもらうのを待つばかりじゃない。自分から、敵ではないと働きかけるのも大事だと、そう言ってた」
「それで…どうなったの ?」
「ダメだった。店に火を付けて燃やされたんだよ。”ノルコア人が復讐のために、武力以外の方法でこの国を乗っ取ろうととしてるに違いない”って因縁付けられたんだ。結局、田舎に戻って農業しながら一生を送る羽目になった」
「ええ、ひど…」
「まあ、そんなもんさ。俺が親父の夢を聞いて、もう一度挑戦しようとした頃にはもっと酷かった。ノルコア人じゃ店を構える事も出来ないし、働かせてもらおうにも門前払いだ。過去にあったカーユウの襲撃事件もあってか、ノルコア人とは仲良くしたくないんだと。そんな折に軍で給仕を募集してたから、こうして志願して来たんだ。軍直属の料理人だったとあれば、将来店を作る時の信頼感も違うだろ ?」
ケイミンは熱く語る傍で、他の兵士達も言葉を耳に入れながら料理を食べていた。干し肉と豆の炒め物といい、乾燥させた野菜のスープといい、豪勢とは言えないメニューである。が、ありあわせの物で作ったと考えれば中々の味であった。彼の話も合わさって、食べている時に感慨深い気分に浸れる。料理とは歴史と社会を反映する鏡のようなものであり、それらが付加価値として更に料理の存在意義を高めてくれると言うが、いずれ出来るであろう彼の店や料理も、そのように扱ってもらえる日が来るのかもしれない。少し楽しみになっていたのだ。
「おい、お前ら。お代わりは程々にしとけよ ? 後で”鴉”様にも食べさせてお墨付きを頂かねえといけねえんだ。”あの鴉も認めた”って、売り文句に使えそうだろ ?」
ケイミンの商売構想に兵士達の間でも笑いが起こる。そんな幕舎より離れた地点、小さな丘の上にルーファンは立っていた。暗闇で見える筈もない遥か先の目標地点、旧ノルコア城の方角をぼんやりと見つめている。
「…早かったな」
背後から気配がすると、そう言って振り向く。サラザールがいた。彼女の背後には、新聞記者のオルティーナもいる。
「こいつに頼まれてた書類、さっき届け終わった。メチャクチャ怪しまれたけど」
「ついて行ってあげられなくてごめんなさい。でもこれで、明日発行される新聞には間に合う。皆が分かってくれる筈…この村で起きた事件にリミグロンが関わっていた事も、彼らが狙いを付けた理由が、この国に根深く残っている禍根が原因だって事も全部」
オルティーナはそう言ってルーファンの横まで来ると、体育座りで地面に尻を付ける。彼がこんな場所で、一人きりでいる事を不思議に思っていたのだが、少し理由が分かった気がする。何も無い虚空を、誰にも邪魔されずに眺めている時間というのは、余計な事を考えずに思案にくれる事が出来るのだろう。耳を澄ましても互いの息遣いしか聞こえない。それ程の静寂だった。
「……私は、少し甘かったのかもしれない」
少し黙っていたオルティーナは、いきなり呟いた。
「今更か」
「だって、仕方ないでしょ ? 初めてだったもの…戦場なんて。あそこまで酷い事してるだなんて…思ってなかった」
「現地の人間の中に共犯者を作り、そいつに実質的な権限を与えておく。そうすれば都合が悪い時に全てを押し付けて逃げる事が出来る上に、地域内でも対立を煽れる…よくある方法だ。誠実と善性なんてものに夢を見ない事だ。戦場ではな」
「でも、善性を捨てたらそれこそ平和は無くなってしまうじゃない ! 戦いを止めるために戦いを起こし続けるだなんて…」
「簡単な事だ。全て殺せば解決する」
ルーファンは彼女と話を交わし、自分の持つ敵への殺意を端的に感じさせながらその場を去ろうとする。口を噤みそうになっていたオルティーナだが、どうしても聞いてみたかった質問が残っている事に気付き、意を決して背後で歩き去ろうとしているルーファンへ振り返る。
「ルーファン・ディルクロ ! …教えて頂戴。あなたがリミグロンに恨みを持っている事は聞いている。だけど聞きたい。全て殺した先で、あなたは何をするの ? 世界は…それで救われるの ?」
サラザールと共に立ち去ろうとしたルーファンだが、彼女の質問を聞いて立ち止まる。
「さあね」
答えは呆気なく帰って来た。振り向く事なくルーファンは続ける。
「偉そうな目的なんて、考えた事も無い。でも…全てを殺して、全てが終わって、その光景を目にする事が出来たら、きっと俺は感じる事が出来るんだと思う。生きてて良かったって」
そう言って足早に去る彼の背中は、怒っている様にも悲しんでいるようにも見える。戦いにのみ生きがいを見出し、それに殉じよう都する人間の姿はああも虚しい物なのか。オルティーナの心中には、彼の背景を踏まえた上での共感と、それはそれとして行きつくところまで来てしまった兵士としての姿、それに対する憐れみがあった。
そんな感情を周囲が持っている事は薄々察していたルーファンが寝床に戻ろうとすると、どういうわけかアトゥーイとメアがいる。座り込んで酒盛りをしていたのだ。よりにもよってルーファンの寝床で。
「…何をやってる」
「申し訳ありません。止めようとしたのですが、腹を割って話したいと聞かなくて」
「何だ⁉その顔~、さては貴様ら私の事嫌ってるな~ ?」
謝罪するアトゥーイを見習うわけでもなく、メアはへらへらと二人を交互に指さして笑う。俗に言う仕上がっている状態というやつである。笑うか、一言物申す度に酒の入った陶器に口を付けていた。
「嫌ってるわけじゃないが、今から寝るんだ。どいてくれ」
「おいおい、まだ丑三つ時ですらないんだぞ~ ! 飲めよ私の酒を~!!同志だろ私達は~ !」
「酒は別に君の物でも無いし、大体どういう意味だ丑三つ時って。それ以前に同志という言い方はやめろ。一緒にいるのは利害の一致に過ぎない」
「私は…同志だし、仲間だと思ってたよ ?」
「おい、急にしおらしくなるな。気色が悪い」
メアの絡みが想像以上にしつこい上に、全くと言って良いほど退く気配がない。アトゥーイも平然と酒を飲んでおり、逃げられないと分かったルーファンは諦めるように座った。
「はぁ…酒を」
「ど~ぞ~ !」
こんな事をしてる場合ではないというのに。そんな事を思いながら、ルーファンはメアから受け取った酒を渋々口に入れる。ほのかに甘く、喉越しは少し辛い。だがしつこい風味も無く、飲みやすいものではあった。
「俺やアトゥーイが同志とは、随分物好きだな」
「そりゃあもう。”嫌われ者”って点では似てるでしょ ?」
「ふん、嫌われ者か…」
「うん。言いがかり付けられて散々な目に遭ってきたディマス族に、現在進行形で揉めまくってるノルコア人に、あちこちで事件起こしてる武装組織から直々に恨み買っている殺人鬼。この場にはいないけど、あわや故郷が植民地にされかけた獣人の女の子もいるもんね。もはや奇跡じゃない ? 迫害仲間だよ私達は」
ひとしきり言って満足したのか、メアは酒を豪快に煽って大笑いする。色々と鬱憤が溜まっているのだろうか。
「こういう立場だと本当メンド―な事ばかり ! どっかの同郷の馬鹿がちょっと問題起こすだけで、私達まで同じ様に扱われて石を投げられるんだ。正直言うと…この村の件も私、あの子を一瞬憎みそうになった」
「まあ、当然の考えだろうな。踏みとどまれた分マシだろう」
なぜなら自分は出来なかったから。ツジモの件を思い出してルーファンは少し苦い表情をする。お前のせいで、お前が余計な事をしなければ、そんな他責思考を人間は誰しも持っているものであり、捨て去ることなど不可能である。
「でもね、私としてはアンタたちの方が羨ましい。立場に縛られず、嫌われる事も覚悟で自分のやりたい事を貫けるって、普通出来ないからね ? 私みたいに首輪に繋がれてる類の人間は特に」
「そう自分を過小評価すべきではありません。あなたはよくやっています。我々も感謝をしていますよ。少人数での進軍とは言いましたが、こうして付き合ってくれているのですから」
「手柄を立てたいからね。そして見せつけてやるんだ。ノルコア人にだって、強くて、称賛されるに価する人間が沢山いるって事を。私は行動で示してやる。兄貴のためにも…」
彼女の目が嬉々としていた。酒を飲まずにしゃべり続けていたからか、酔いが醒めてきたのだろうか。姉さんのためにもという言葉が出た直後、彼女はハッとして慌てて酒を飲み干した。
「いけないいけない。しみったれた話はやめよう ! 酒がマズくなる ! もう一本行くぞー ! 迫害仲間の皆で乾杯だー !」
「頼むからその呼び方やめてくれないか。色々とマズい気がする」
空元気を見せる彼女を窘めながらも、ルーファンは乾杯に応じる。戦場にいる者達は皆、それぞれの思いを抱いている事は分かり切っていたが、実際に話をしてみると猶更強く感じる。彼らもまた、自分と同じ意思と理由を持つ人間なのだ。しかしその直後に、ふと背筋が冷たくなった。自分が殺して来た者達も、皆こうして死ぬ前日には笑い合っていたのだろうか。
余計な事は考えるな。先程のメアの発言を今になって肯定したルーファンは、一瞬だけよぎった自分のくだらない甘さを掻き消そうと、ただ必死に酒を呷るしかなかった。
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