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4章:果てなき焔
第122話 見聞録 その②
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静かな昼下がりであった。照り付ける太陽の下を歩くサラザールとアトゥーイは、周辺の不愉快そうな視線に気づきつつも平静を装って通りを歩く。飲食が出来る屋台や小屋の立ち並ぶ、コメフヤ通りと呼ばれる地区だったが中々望み通りの店が見つからない。
個室も完備している甘味処、何とかなるだろうと思って探し出そうとしたはいいが想像以上に見当たらない。余所者を招き入れたくないがために嘘をつかれている可能性さえあったが、喧嘩を売って良い事も無いため食い下がるしかなかった。更にどこを見ても似たような景観ばかりなお陰で、先程来た道かどうかさえおぼつかなくなってきている。
「サラザール」
「何 ?」
「私とあなたは旅と日常生活を短いなりにではありますが、共にしてきた盟友の様な間柄だと認識しています」
「間違っていないわね」
「ありがとう。では、友としてあなたに伺いたい……道に迷っていますね ?」
「迷っていない。絶対に迷っていない」
彼女のしくじりをアトゥーイが指摘してみると、サラザールは若干意気地になって否定し出す。だが、二人が歩いている通りの右手、そこの汚い字で書かれた看板が飾られている食堂は、間違いなく先程見かけた店であった。
「あの店をごらんなさい。先程入ろうとして個室が無いからと拒否されたでしょう。間違いを認める事が成長への第一歩です」
「間違ってない。あれは…たぶん、第二号店とかそういうのだと思う。うん、絶対そう」
「あんなに客の入りが悪そうな店だったというのに、そんな余裕があるわけないでしょう。何度も言いましたが、先程から同じ場所を回り続け…ん? 」
だが、嫌悪的な感情を孕んでいない呑気な口論が二人の間で交わされていた時、アトゥーイが異変を察知する。少し距離が離れている場所ではあるが、質素な飯屋の前で騒ぎがあった。店のドアを開けて狐目な初老の男が出てきており、その片手には髪の毛を鷲掴みにされた子供の姿がある。店から引きずり出された様だ。
「こんのガキィッ ! 手を出されないと思って付け上がりやがって、ええ⁉」
男は引きずり倒した子供から手を放し、ついでに蹴りを入れた。もう片方の手には角材が握られている。使い込まれていた。
「何でだよ… ! 食べ物買いに来ただけじゃないか…」
子供は涙ながらに反抗するが聞き入れてもらえない。次の瞬間には髪を掴まれて引っ張り上げられ、がら空きになった胸を蹴飛ばされ後ろへ転がされた。
「てめえのお仲間が食い逃げや強盗ばかりするせいでこの辺りの店は迷惑してんだ ! 性懲りもなく来やがってノルコア人風情が…挙句俺にガン飛ばしたろ。なあ」
「お、俺は何もしてない…それにそっちが俺の事を馬鹿にするから…」
「ごちゃごちゃうるせえんだよ移民のガキがッ !」
男は角材を子供へ振り下ろすとする。だが、その一撃が子供の頭部を破壊する事は無かった。アトゥーイが咄嗟に切り裂けと唱え、水の円盤を放って角材を切断したのだ。空振りした上に斬られて短くなった角材を見た男は仰天する。
「もうお止めなさい… !」
割って入ったアトゥーイの口調はいつもよりも厳しい物であった。
「んだてめ……ああ、国府のクソ野郎が血税で呼んだお客様か」
「理由はどうあれこの仕打ちは感心しませんよ」
「してもらわなくて結構だ。外人風情には一生分からんだろうからな。この盗人どもがどれだけこの国に迷惑かけてるかなんざ」
アトゥーイと男が睨み合っている間、サラザールは散らばった小銭を子供に集めさせて自分の後ろに隠れさせる。それと同じタイミングで店から店主らしき老人も出てきた。
「何をやっているんです。もうやめてください」
「旦那、アンタみたいな奴がそうやって甘やかすからノルコア人達が調子に乗り出すんだ。カーユウでの事件を忘れたってのか ?」
「それとこれとは別問題だ。私がいつ、君たちのような自警団もどきにノルコア人をぶちのめせなどと頼んだんだ ? この子はいつも私の店で食べ物を買ってくれる大事なお客様なんだ」
「チッ、アンタも平和ボケした無自覚な売国奴ってわけか」
「な、何だと…」
おおよそ同じ国に住む人間に対するものとはおもえない罵倒を男は店主へぶつけだす。だが間もなく、甲高い笛の音と共に急いでるかのような足音が聞こえた。兵士達がこちらへ向かって来ているのだ。
「貴様ら、何をやっている⁉」
兵士の一人が叫んでいたが、サラザールは少し驚いた。先程訓練場でフォルトを侮辱した兵士を咎めていた青年だったからだ。兵士を見た男は逃げ出そうとしたが、間もなく追いかけた別の兵士達に取り押さえられた。
「ノルコア人に喧嘩を売られたと言って子供をいたぶっていたのです。そちらの二人は止めに入ってくれただけなんですよ、軍人さん」
「成程、またですか…そいつを連れていけ !」
店主から事情を聞いた青年が命じると、兵士達は男を連行してどこかへ去って行く。
「ノルコア人は庇う癖に同胞は犯罪者扱いか ! 国府もてめえら軍人どもも滅ぼされてしまえ !」
「まったく…全員帰れ ! 見世物じゃないんだぞ !」
連行されながら怒鳴る男の姿は酷く滑稽で、同時に虚しさがあった。その後ろ姿を軽蔑するように見送り、野次馬達を一喝して散らせた後に兵士の青年はアトゥーイ達に近づく。
「お見苦しい所を見せてしまい、申し訳ありません」
兵士は頭を下げた。
「さっき訓練所にいたわね。まさか私達を探しに来たの ?」
「ええ。立ったままというわけにもいきませんから、場所を変えませんか ? 甘味を食べられる良い店を知っています。個室付きですから話もしやすい」
どうやって把握したのかは知らないが、青年はこちらの要望通りの環境を整えてくれるらしかった。訓練所での件、そして今しがた目にしたいざこざ。この国で何が起きているのか、それを知りたくなったアトゥーイ達にとっては願ってもない誘いであった。
個室も完備している甘味処、何とかなるだろうと思って探し出そうとしたはいいが想像以上に見当たらない。余所者を招き入れたくないがために嘘をつかれている可能性さえあったが、喧嘩を売って良い事も無いため食い下がるしかなかった。更にどこを見ても似たような景観ばかりなお陰で、先程来た道かどうかさえおぼつかなくなってきている。
「サラザール」
「何 ?」
「私とあなたは旅と日常生活を短いなりにではありますが、共にしてきた盟友の様な間柄だと認識しています」
「間違っていないわね」
「ありがとう。では、友としてあなたに伺いたい……道に迷っていますね ?」
「迷っていない。絶対に迷っていない」
彼女のしくじりをアトゥーイが指摘してみると、サラザールは若干意気地になって否定し出す。だが、二人が歩いている通りの右手、そこの汚い字で書かれた看板が飾られている食堂は、間違いなく先程見かけた店であった。
「あの店をごらんなさい。先程入ろうとして個室が無いからと拒否されたでしょう。間違いを認める事が成長への第一歩です」
「間違ってない。あれは…たぶん、第二号店とかそういうのだと思う。うん、絶対そう」
「あんなに客の入りが悪そうな店だったというのに、そんな余裕があるわけないでしょう。何度も言いましたが、先程から同じ場所を回り続け…ん? 」
だが、嫌悪的な感情を孕んでいない呑気な口論が二人の間で交わされていた時、アトゥーイが異変を察知する。少し距離が離れている場所ではあるが、質素な飯屋の前で騒ぎがあった。店のドアを開けて狐目な初老の男が出てきており、その片手には髪の毛を鷲掴みにされた子供の姿がある。店から引きずり出された様だ。
「こんのガキィッ ! 手を出されないと思って付け上がりやがって、ええ⁉」
男は引きずり倒した子供から手を放し、ついでに蹴りを入れた。もう片方の手には角材が握られている。使い込まれていた。
「何でだよ… ! 食べ物買いに来ただけじゃないか…」
子供は涙ながらに反抗するが聞き入れてもらえない。次の瞬間には髪を掴まれて引っ張り上げられ、がら空きになった胸を蹴飛ばされ後ろへ転がされた。
「てめえのお仲間が食い逃げや強盗ばかりするせいでこの辺りの店は迷惑してんだ ! 性懲りもなく来やがってノルコア人風情が…挙句俺にガン飛ばしたろ。なあ」
「お、俺は何もしてない…それにそっちが俺の事を馬鹿にするから…」
「ごちゃごちゃうるせえんだよ移民のガキがッ !」
男は角材を子供へ振り下ろすとする。だが、その一撃が子供の頭部を破壊する事は無かった。アトゥーイが咄嗟に切り裂けと唱え、水の円盤を放って角材を切断したのだ。空振りした上に斬られて短くなった角材を見た男は仰天する。
「もうお止めなさい… !」
割って入ったアトゥーイの口調はいつもよりも厳しい物であった。
「んだてめ……ああ、国府のクソ野郎が血税で呼んだお客様か」
「理由はどうあれこの仕打ちは感心しませんよ」
「してもらわなくて結構だ。外人風情には一生分からんだろうからな。この盗人どもがどれだけこの国に迷惑かけてるかなんざ」
アトゥーイと男が睨み合っている間、サラザールは散らばった小銭を子供に集めさせて自分の後ろに隠れさせる。それと同じタイミングで店から店主らしき老人も出てきた。
「何をやっているんです。もうやめてください」
「旦那、アンタみたいな奴がそうやって甘やかすからノルコア人達が調子に乗り出すんだ。カーユウでの事件を忘れたってのか ?」
「それとこれとは別問題だ。私がいつ、君たちのような自警団もどきにノルコア人をぶちのめせなどと頼んだんだ ? この子はいつも私の店で食べ物を買ってくれる大事なお客様なんだ」
「チッ、アンタも平和ボケした無自覚な売国奴ってわけか」
「な、何だと…」
おおよそ同じ国に住む人間に対するものとはおもえない罵倒を男は店主へぶつけだす。だが間もなく、甲高い笛の音と共に急いでるかのような足音が聞こえた。兵士達がこちらへ向かって来ているのだ。
「貴様ら、何をやっている⁉」
兵士の一人が叫んでいたが、サラザールは少し驚いた。先程訓練場でフォルトを侮辱した兵士を咎めていた青年だったからだ。兵士を見た男は逃げ出そうとしたが、間もなく追いかけた別の兵士達に取り押さえられた。
「ノルコア人に喧嘩を売られたと言って子供をいたぶっていたのです。そちらの二人は止めに入ってくれただけなんですよ、軍人さん」
「成程、またですか…そいつを連れていけ !」
店主から事情を聞いた青年が命じると、兵士達は男を連行してどこかへ去って行く。
「ノルコア人は庇う癖に同胞は犯罪者扱いか ! 国府もてめえら軍人どもも滅ぼされてしまえ !」
「まったく…全員帰れ ! 見世物じゃないんだぞ !」
連行されながら怒鳴る男の姿は酷く滑稽で、同時に虚しさがあった。その後ろ姿を軽蔑するように見送り、野次馬達を一喝して散らせた後に兵士の青年はアトゥーイ達に近づく。
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兵士は頭を下げた。
「さっき訓練所にいたわね。まさか私達を探しに来たの ?」
「ええ。立ったままというわけにもいきませんから、場所を変えませんか ? 甘味を食べられる良い店を知っています。個室付きですから話もしやすい」
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