76 / 167
3章:忘れられし犠牲
第75話 避けたい疑惑
しおりを挟む
襲撃が止み、ひとまず落ち着いた図書館の内部では右往左往する人々を隅から眺めるアトゥーイの姿があった。人と慣れ合うわけでもないが、孤立をする程周りを拒絶したいわけでもない。何とも言い難い複雑な心持のまま今後の動きをどうするか決めあぐねていた。
「もしかして今暇って感じか ?」
声が右から聞こえる。ゆっくり声のする方へ首を向けると、小さく手を上げて呼んでいるガロステルと遠慮がちに会釈をするフォルトがいた。どうも表情が明るくない。
「またお会いしましたね。一緒にいたあの剣士殿はどちらに ?」
「ちょっと別件でな…たぶんすぐ終わるが」
ルーファンがいない事をアトゥーイは不思議に思うが、ガロステルの茶を濁した回答と先程引きずっていたリミグロンの捕虜の事を思い出した。戦に負けた者の末路などたかが知れているとはいえ、つい気の毒に思ってしまう。
「えっと…自己紹介まだでしたよね ? フォ、フォルトです。フォルト・ラゲードン」
フォルトが話を切り出し、ゆっくりと手を伸ばして握手を求めた。自分やルーファンとも違う異形の種を前に緊張と不安を隠せないらしく、少しだけ動きがぎこちない。人によっては辛辣な物言いをされるよりも傷つくのではないだろうか。
「申し訳ない。性分と体質故に握手は出来ないのですが、気持ちは受け取っておきましょう…私の事はアトゥーイとでもお呼びください」
「う~む。まあ、事情があるんならあまりとやかく言わないが…手を握る事が出来ないってのはどういう事だ ? 」
「決して邪な考えあっての行動ではない事をどうかご理解いただきたい。それに、私などと関わっていれば困るのはあなた方でしょう」
そっけなさすぎる態度を疑問に思ったガロステルに対して釈明をするアトゥーイだが、そんな彼の言葉を証明するかの如く周囲の人々が意図的に避けている事にフォルトは気付いた。その不気味な見た目に言及する者もいれば、「よくもまあのこのこと…」などといった具合に何か因縁を感じさせる言葉を小さく吐いている者もいる。彼に何があったのだろうか。
「釘を刺すようで悪いのですが、こちらについての詮索はしなくて結構です。慣れてますので」
そんなフォルト達の抱いた疑問もお見通しなのか、冷たい声でアトゥーイは問題なさそうに彼らへ伝える。丁度その時、ジョナサンも林檎を齧りながら一同の下へとやって来た。
「ルーファンとサラザール以外はみんないるって感じだな。あ、こいつは初めまして。ジョナサンです…と、握手はいらないか ? …了解」
仲間の安否を確認した後にアトゥーイへお辞儀をする彼だったが、ディマス族には会ったことが無いという割には特にこれといったリアクションも無い。敵意が無い以上は対等に接するべきだろうという彼なりの配慮である。しかし握手に関して拒否をされると少し落ち込んでいた。
「こっちが汗水たらして働いている間、ずっと図書館に籠ってたのか ?」
「失礼な。自分に出来る仕事は一応してたよ。ちょっと場所を変えたいんだけどいいかな ? 他人に聞かれて騒ぎを起こされても面倒だ」
苦言を呈されてもジョナサンは悪びれず、自分が現段階で手にした情報を渡したくてうずうずしている様だった。とにかく人目に付かない場所へ行きたいという彼の申し出に、ひとまずルーファンの所へ連れて行くべきだとフォルト達は判断する。そしてアトゥーイと別れてから気が乗らないものの図書館の倉庫と、そこにある地下室への入り口に向かった。鉄の扉の向こうからくぐもった悲鳴が聞こえ続けている。
「あ~…まだ入らない方が良さそうだ」
中で何が行われているのか何となく分かったジョナサンは少し扉から距離を置く。そして倉庫をくまなく見回して、人気が無い事を確認してからフォルト達を自分の周りに集めた。
「誰もいなさそうだから話すが…今回のリミグロンの襲撃に関してはどうもきな臭いんだよな。リゴト砂漠の件とかなり似てる気がする」
「裏切り者がいるって事 ?」
林檎を咀嚼しつつ簡潔にジョナサンは自分の推測を伝えた。自分の故郷の事例と類似しているという点から、フォルトもすぐに彼が言わんとしている事を口にする。話が早くて助かると思ったのか、ジョナサンは頷きつつ食べかけの林檎を適当な棚の上に置いてから手帳を取り出して改めて情報の精査を始める。
「かもね。だが問題は仮に裏切り者がいたとして、どこまでが想定の範囲内だったかだ」
「どういう事 ?」
「この図書館に蓄えられていた物資の状況や、軍の動きからしてリミグロンが襲撃をしてくる事は予測されていた可能性があるんだよ。だがここで気がかりなのが撤退してしまったって点だ。リミグロン側はリゴト砂漠の時と違って制圧が出来てない。つまり考えられる可能性は二つ。”ルーファンや君たちがこの街にいた事は想定外で、目論見は失敗に終わった”という線……そしてもう一つは、”君たちがこの場に居合わせる事も予測したうえで潰し合わせる気だった”のどちらかだ」
手帳を閉じてからフォルト達に今の時点で考えられる可能性をジョナサンは話すが、その表情は決して明るいものではない。
「特に後者の場合なら犯人候補もかなり絞られてくる。一番怪しいのはこの事件において一番得した人物だろうな」
「それってまさか…」
「ああ。国務長官だ」
「もしかして今暇って感じか ?」
声が右から聞こえる。ゆっくり声のする方へ首を向けると、小さく手を上げて呼んでいるガロステルと遠慮がちに会釈をするフォルトがいた。どうも表情が明るくない。
「またお会いしましたね。一緒にいたあの剣士殿はどちらに ?」
「ちょっと別件でな…たぶんすぐ終わるが」
ルーファンがいない事をアトゥーイは不思議に思うが、ガロステルの茶を濁した回答と先程引きずっていたリミグロンの捕虜の事を思い出した。戦に負けた者の末路などたかが知れているとはいえ、つい気の毒に思ってしまう。
「えっと…自己紹介まだでしたよね ? フォ、フォルトです。フォルト・ラゲードン」
フォルトが話を切り出し、ゆっくりと手を伸ばして握手を求めた。自分やルーファンとも違う異形の種を前に緊張と不安を隠せないらしく、少しだけ動きがぎこちない。人によっては辛辣な物言いをされるよりも傷つくのではないだろうか。
「申し訳ない。性分と体質故に握手は出来ないのですが、気持ちは受け取っておきましょう…私の事はアトゥーイとでもお呼びください」
「う~む。まあ、事情があるんならあまりとやかく言わないが…手を握る事が出来ないってのはどういう事だ ? 」
「決して邪な考えあっての行動ではない事をどうかご理解いただきたい。それに、私などと関わっていれば困るのはあなた方でしょう」
そっけなさすぎる態度を疑問に思ったガロステルに対して釈明をするアトゥーイだが、そんな彼の言葉を証明するかの如く周囲の人々が意図的に避けている事にフォルトは気付いた。その不気味な見た目に言及する者もいれば、「よくもまあのこのこと…」などといった具合に何か因縁を感じさせる言葉を小さく吐いている者もいる。彼に何があったのだろうか。
「釘を刺すようで悪いのですが、こちらについての詮索はしなくて結構です。慣れてますので」
そんなフォルト達の抱いた疑問もお見通しなのか、冷たい声でアトゥーイは問題なさそうに彼らへ伝える。丁度その時、ジョナサンも林檎を齧りながら一同の下へとやって来た。
「ルーファンとサラザール以外はみんないるって感じだな。あ、こいつは初めまして。ジョナサンです…と、握手はいらないか ? …了解」
仲間の安否を確認した後にアトゥーイへお辞儀をする彼だったが、ディマス族には会ったことが無いという割には特にこれといったリアクションも無い。敵意が無い以上は対等に接するべきだろうという彼なりの配慮である。しかし握手に関して拒否をされると少し落ち込んでいた。
「こっちが汗水たらして働いている間、ずっと図書館に籠ってたのか ?」
「失礼な。自分に出来る仕事は一応してたよ。ちょっと場所を変えたいんだけどいいかな ? 他人に聞かれて騒ぎを起こされても面倒だ」
苦言を呈されてもジョナサンは悪びれず、自分が現段階で手にした情報を渡したくてうずうずしている様だった。とにかく人目に付かない場所へ行きたいという彼の申し出に、ひとまずルーファンの所へ連れて行くべきだとフォルト達は判断する。そしてアトゥーイと別れてから気が乗らないものの図書館の倉庫と、そこにある地下室への入り口に向かった。鉄の扉の向こうからくぐもった悲鳴が聞こえ続けている。
「あ~…まだ入らない方が良さそうだ」
中で何が行われているのか何となく分かったジョナサンは少し扉から距離を置く。そして倉庫をくまなく見回して、人気が無い事を確認してからフォルト達を自分の周りに集めた。
「誰もいなさそうだから話すが…今回のリミグロンの襲撃に関してはどうもきな臭いんだよな。リゴト砂漠の件とかなり似てる気がする」
「裏切り者がいるって事 ?」
林檎を咀嚼しつつ簡潔にジョナサンは自分の推測を伝えた。自分の故郷の事例と類似しているという点から、フォルトもすぐに彼が言わんとしている事を口にする。話が早くて助かると思ったのか、ジョナサンは頷きつつ食べかけの林檎を適当な棚の上に置いてから手帳を取り出して改めて情報の精査を始める。
「かもね。だが問題は仮に裏切り者がいたとして、どこまでが想定の範囲内だったかだ」
「どういう事 ?」
「この図書館に蓄えられていた物資の状況や、軍の動きからしてリミグロンが襲撃をしてくる事は予測されていた可能性があるんだよ。だがここで気がかりなのが撤退してしまったって点だ。リミグロン側はリゴト砂漠の時と違って制圧が出来てない。つまり考えられる可能性は二つ。”ルーファンや君たちがこの街にいた事は想定外で、目論見は失敗に終わった”という線……そしてもう一つは、”君たちがこの場に居合わせる事も予測したうえで潰し合わせる気だった”のどちらかだ」
手帳を閉じてからフォルト達に今の時点で考えられる可能性をジョナサンは話すが、その表情は決して明るいものではない。
「特に後者の場合なら犯人候補もかなり絞られてくる。一番怪しいのはこの事件において一番得した人物だろうな」
「それってまさか…」
「ああ。国務長官だ」
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる