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3章:忘れられし犠牲
第73話 ワケあり
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図書館の前では最後の一人になったリミグロン兵を壁に叩きつけ、続けざまに頭部へ蹴りを入れて壁にめり込ませてるガロステルの姿があった。すっかり戦う事に飽きたのか、サラザールの方はというと死体を齧りつつ死体の山に座って昂っているガロステルを眺めている。
「増援もこれで最後か ? 張り合いが無くて困っちゃうぜ。この自慢の体に傷を付けられるような猛者はいないもんかね」
腰に手を当て、ガロステルは傷一つない剛体についた汚れをはたき落とす。不満げに辺りを見回すものの、敵の姿はおろかそれらしい物音すらしなくなっていた。
「そんなに怪我したいんならルーファンに頼めば ?」
「あれはダメだ。宿れ…だっけか ? あれを使った剣でぶった切られてみたんだが、簡単に腕と首を切り落とされちまってな。防御や装甲もお構いなしとは恐れ入った」
それは旅の道中、暇を持て余していた際の出来事であった。俺の体に傷を付けられるヤツなんざいないと豪語していたガロステルが、せっかくだから<闇の流派>の魔法を体感してみたいと言ってルーファンに自分を殺しに来てみろと頼んだのである。結果、初手から腕と首を切り落とされてしまった。すぐに近場の土や石を切断面に塗りたくり、地面に転がっていた頭部と腕を付けてみるとあっという間に肉体は元通りになったが、それ以降ガロステルは少し大人しくなったのだ。
「広範囲にわたる攻撃が行える手段は少ないけど、一度闇を纏わせれば全ての護りが無意味と化す…それが<闇の流派>の特徴。前に彼がそう言っていた」
ガロステルの無様な姿を思い出していたサラザールはルーファンが説明してくれた<闇の流派>の特徴について教えてあげるが、すぐに話を中断して食えそうな死体に嚙り付く。その食い意地の悪さにガロステルは少し引いていた。
「腹壊すぞいつか…」
ガロステルがそんな事を言っている内に周囲からは慌ただしい足音が雑多に押し寄せて始めていた。また敵の増援かと思った二人は立ち上がって図書館の正面に立ちはだかるが、どうやらリミグロンではないらしい。リガウェール王国の兵士達だった。
「あ、あなた方は一体…?」
「おいおい、大事な国の首都ほっぽり出した馬鹿どもの後始末してやった恩人様だぞ。もう少し労わってくれよ」
辺りに散乱している死体を見た兵士達は慄き、その足の踏み場も無さそうな死体溜まりの先にいるサラザール達に近づいてから話しかける。ガロステルはお礼の言葉が無い事を冗談のように言ったが、実を言うと少し腹を立てていた。
――――ルーファン達の方にもまた、ようやく到着したリガウェール王国の兵士達による救援部隊が現れていた。やはりこちらも道中の死体や血まみれになっているルーファン達の姿を見てしまい、誰を敵として扱うべきなのか一瞬戸惑っていた様だが、すぐに気を取り直して彼らに接触を始める。
「まさか”鴉”とその仲間による助太刀があったとは。なんにせよ感謝するぞ。そして…まさかあなたまでいるとは。”マスター”・アトゥーイ」
隊長であるウォーラン族の半魚人がルーファンとフォルトに謝辞を述べ、やがてアトゥーイの方を見た。その顔には敬意が込められている故に大変凛々しい物だが、当のアトゥーイは彼から目を逸らしていた。
「その称号は既に捨てました」
「水臭い事を言わないでください。今が何者であろうと我々半魚人達にとってあなたは―――」
「だけど過去は取り返せない。そしてどうか敬語はやめて頂きたい…私には過ぎた物です」
救援部隊の隊長が食い下がろうとするがアトゥーイは話を遮って自虐的に要求をしてくる。あくまで柔らかい口調で諭すように言い聞かせて来る分、寂しさと惨めさが尚の事際立っている。
「あ、あの~…とりあえず敵もいないんならどこか休んで態勢を整えられる場所に行くのもありなんじゃないかな~……なんてね、えへへ…」
「ふむ…それも言えている。よし、ひとまずは図書館の付近まで戻ろう。他の部隊もそちらに向かっている筈だ」
この気まずい空気を変えようと頑張ったのか、蚊帳の外気味だったフォルトが恐る恐る提案をする。
「ところで、その男はどうする気ですか ?」
すぐにでも移動をしたかったが、アトゥーイはどうしてもルーファンが引きずっている生き残りのリミグロン兵が気になって仕方がない。殴打によって顔は腫れ、おまけに足も折れている。恐らく逃げられない様にルーファンが折ったのだろう。
「どこでもいい。他人の邪魔が入らない場所はあるか ?」
「図書館なら恐らく地下室もあるとは思うが…不躾でなければ質問をさせてくれ。何をする気だ ?」
ルーファンからの唐突な頼みに嫌な予感がしたらしく、隊長は彼に尋ねるが返事はすぐに返ってこなかった。一度だけルーファンは息を荒げているリミグロン兵を見下ろすようにしてみた後、再び隊長の方へと顔を向ける。
「話をするだけだ。心配しないでくれ。きっとすぐに終わる」
一切の愛想も無くルーファンから放たれるその言葉をすんなりと信頼できるほど彼らもお人好しではない。しかし血まみれの凶器を携え、半ば死体になりつつある敵の体を引きずっている男を前にして拒否できるような度胸もまた持ち合わせてはいなかった。
「増援もこれで最後か ? 張り合いが無くて困っちゃうぜ。この自慢の体に傷を付けられるような猛者はいないもんかね」
腰に手を当て、ガロステルは傷一つない剛体についた汚れをはたき落とす。不満げに辺りを見回すものの、敵の姿はおろかそれらしい物音すらしなくなっていた。
「そんなに怪我したいんならルーファンに頼めば ?」
「あれはダメだ。宿れ…だっけか ? あれを使った剣でぶった切られてみたんだが、簡単に腕と首を切り落とされちまってな。防御や装甲もお構いなしとは恐れ入った」
それは旅の道中、暇を持て余していた際の出来事であった。俺の体に傷を付けられるヤツなんざいないと豪語していたガロステルが、せっかくだから<闇の流派>の魔法を体感してみたいと言ってルーファンに自分を殺しに来てみろと頼んだのである。結果、初手から腕と首を切り落とされてしまった。すぐに近場の土や石を切断面に塗りたくり、地面に転がっていた頭部と腕を付けてみるとあっという間に肉体は元通りになったが、それ以降ガロステルは少し大人しくなったのだ。
「広範囲にわたる攻撃が行える手段は少ないけど、一度闇を纏わせれば全ての護りが無意味と化す…それが<闇の流派>の特徴。前に彼がそう言っていた」
ガロステルの無様な姿を思い出していたサラザールはルーファンが説明してくれた<闇の流派>の特徴について教えてあげるが、すぐに話を中断して食えそうな死体に嚙り付く。その食い意地の悪さにガロステルは少し引いていた。
「腹壊すぞいつか…」
ガロステルがそんな事を言っている内に周囲からは慌ただしい足音が雑多に押し寄せて始めていた。また敵の増援かと思った二人は立ち上がって図書館の正面に立ちはだかるが、どうやらリミグロンではないらしい。リガウェール王国の兵士達だった。
「あ、あなた方は一体…?」
「おいおい、大事な国の首都ほっぽり出した馬鹿どもの後始末してやった恩人様だぞ。もう少し労わってくれよ」
辺りに散乱している死体を見た兵士達は慄き、その足の踏み場も無さそうな死体溜まりの先にいるサラザール達に近づいてから話しかける。ガロステルはお礼の言葉が無い事を冗談のように言ったが、実を言うと少し腹を立てていた。
――――ルーファン達の方にもまた、ようやく到着したリガウェール王国の兵士達による救援部隊が現れていた。やはりこちらも道中の死体や血まみれになっているルーファン達の姿を見てしまい、誰を敵として扱うべきなのか一瞬戸惑っていた様だが、すぐに気を取り直して彼らに接触を始める。
「まさか”鴉”とその仲間による助太刀があったとは。なんにせよ感謝するぞ。そして…まさかあなたまでいるとは。”マスター”・アトゥーイ」
隊長であるウォーラン族の半魚人がルーファンとフォルトに謝辞を述べ、やがてアトゥーイの方を見た。その顔には敬意が込められている故に大変凛々しい物だが、当のアトゥーイは彼から目を逸らしていた。
「その称号は既に捨てました」
「水臭い事を言わないでください。今が何者であろうと我々半魚人達にとってあなたは―――」
「だけど過去は取り返せない。そしてどうか敬語はやめて頂きたい…私には過ぎた物です」
救援部隊の隊長が食い下がろうとするがアトゥーイは話を遮って自虐的に要求をしてくる。あくまで柔らかい口調で諭すように言い聞かせて来る分、寂しさと惨めさが尚の事際立っている。
「あ、あの~…とりあえず敵もいないんならどこか休んで態勢を整えられる場所に行くのもありなんじゃないかな~……なんてね、えへへ…」
「ふむ…それも言えている。よし、ひとまずは図書館の付近まで戻ろう。他の部隊もそちらに向かっている筈だ」
この気まずい空気を変えようと頑張ったのか、蚊帳の外気味だったフォルトが恐る恐る提案をする。
「ところで、その男はどうする気ですか ?」
すぐにでも移動をしたかったが、アトゥーイはどうしてもルーファンが引きずっている生き残りのリミグロン兵が気になって仕方がない。殴打によって顔は腫れ、おまけに足も折れている。恐らく逃げられない様にルーファンが折ったのだろう。
「どこでもいい。他人の邪魔が入らない場所はあるか ?」
「図書館なら恐らく地下室もあるとは思うが…不躾でなければ質問をさせてくれ。何をする気だ ?」
ルーファンからの唐突な頼みに嫌な予感がしたらしく、隊長は彼に尋ねるが返事はすぐに返ってこなかった。一度だけルーファンは息を荒げているリミグロン兵を見下ろすようにしてみた後、再び隊長の方へと顔を向ける。
「話をするだけだ。心配しないでくれ。きっとすぐに終わる」
一切の愛想も無くルーファンから放たれるその言葉をすんなりと信頼できるほど彼らもお人好しではない。しかし血まみれの凶器を携え、半ば死体になりつつある敵の体を引きずっている男を前にして拒否できるような度胸もまた持ち合わせてはいなかった。
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