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2章:砂上の安寧
第41話 気持ちはわかる
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「ほらほら、遠慮しない !」
フォルトはそう言いながら無理やりルーファンの衣服に触ってくる。
「分かった…分かったから…」
渋々ルーファンも応じ、鎧や着こんでいた服を脱ぎ捨てていく。やがて傷だらけの体が露になると、フォルトを始めとした周囲の子供達や、近くで様子を見ていたキアも呆然と眺めていた。牙や刃物や銃弾によって作られた傷跡をフォルトもまじまじと見つめている。
これだから嫌だった。今回ばかりは警戒されるような状況を作りたくなかったのだが、これでは威圧感を与えてしまう。そう考えていたルーファンは周りの視線が怖くて仕方がなかった。拒絶されるか、恐れられるか、気味悪がられるか…戦うのであれば効果的なのかもしれないが、今回に限って言えば望んではいなかった。
「……かっこいい… !」
「すっげぇ… !」
「え ?」
だが、子供達から返ってきた反応はなぜか羨望である。ルーファンが戸惑うが、隣にいたフォルトも目を輝かせている事に気づく。
「ああ、ごめんごめん…はいこれ。ハルシィボの果汁を体に擦りつけて行けばいい。頭もちゃんとだよ ? ハルシィボには昔から殺菌作用があるって言われてる。だから、これをすれば病気に罹りづらくなるからって事で、これで体を洗う行為は厄除けの力があるって信じられてたんだ。背中は流石に届かないだろうから、交互に擦り合うの」
ハルシィボの効能についてフォルトは語りつつ、ルーファンの後ろに回って彼の背中を擦り始める。ハルシィボの皮は内側が固く、果肉が残っているとはいえザラザラとしていた。それを使って汚れや垢を落としていくのだろう。獣人と違って毛に覆われてないルーファンには少々痛かったが、不快に思うほどではない。
「…ん ?」
そんな矢先、フォルトは奇妙な物を見つけた。ルーファンのうなじの部分へ目を凝らすと、傷跡によって搔き消されつつあるが何やら小さい刺青が残っている。数字が刻まれていた。
”Ⅱ”
これはいったい何を意味するのか聞いてみたかったが、体を見られることを嫌がっていたのだから深い事情があるのだろう。フォルトはそう解釈し、敢えて何も言わずに尻まで擦ってやった。ルーファンにも同じように自分の背中を洗わせた後、水を汲んで洗い流してから二人で池の中に入る。池の水は温めであり、膝より少し低い程度の深さだった。試しに座ってみると、砂の柔らかい感触が尻や脚に伝わって心地がいい。地熱で温められているらしく、あまり池を汚さないようにするためか現地の住民は数日に一回ぐらいしか入浴はしないらしい。
「砂塵はいつもこの場所を囲んでいるのか ?」
「うん。酷い時には蜃気楼を引き起こしたり、並の人間じゃまともに立つ事もできないくらいの風速になったりするよ。昔、気球で越えようとした人もいたらしいけど、山以上の高さにまで風が吹き荒れてしまうからまともに近づけないんだって…私達は<ガイア>が護ってくれてるんだって思ってる」
遠くで見る砂塵を見たルーファンが障壁について尋ねると、彼の隣に座っていたフォルトは幻神による加護のおかげだと解説をしてくれた。一方で子供たちは遠目からこちらの様子を窺っている。先程よりも人数が増えており、どうも自分の体にある傷の事について語り合っているらしかった。
「何が琴線に触れたんだろうな。あの子達にとって」
「この地の守り神である<ガイア>の様に、優しく強い戦士であれって私達は教えられて生きてるの。勉学にも武道にも励んで、故郷や家族を守れる戦士になって初めて一人前。昔は外で起きてる戦争なんかにもよく行ってたし、魔法の習得にも危険な修行が必要だったから。その過程で負った傷は自らが努力し、困難に立ち向かってきた事の証だってされてる。傷が多ければ多いほど、過酷な環境を生き延びた戦士として尊敬されるんだよ。まあ、ここまでの量は私も初めて見たけど…」
ルーファンの疑問に対してフォルトは引き続き解説をしてくれるが、やはり彼女にとっても珍しいのか、ルーファンの体を時折興味深そうに観察をしていた。特に気になったのは、最近になって出来たのであろう頬の傷跡である。縫合跡が特に目立っていた。
「どんな事してきたの ? 戦争 ? それとも狩り ?」
「両方だよ。未だに決着もついていない」
フォルトの質問にルーファンは答えるが、どこか物悲しげな顔をしていた。遠くではしゃぐ子供達を見ていると、まだ自分がこのような状況に落とされる以前の事を思い出してしまう。それと同時に、手を打たなければあの無邪気な子供達も地獄を見る日が来るのかもしれないという不安が心の中に巣食い始めた。
「今は表立った戦争は減りましたが、そのせいで生活にも一苦労してるんです」
池の淵にキアが近づき、座っている二人の傍で言った。
「スアリウスとの貿易では不利な立場だったんでしょうけど、そのせいで色んな知識や道具が入ってきました。そのお陰で子供達は退屈しなかったし、私たちの生活も便利になった…でも、そのせいでこの土地に残る伝統や文化が失われてしまうんじゃないか。この辺りの年寄りは皆そんな風に思っているんです」
キアはにこやかな表情をしていたが、言葉の節々には不安が垣間見えた。
「あなたはどうお考えで ?」
本音を聞きたくなったルーファンはつい問いかけてしまった。キアは穏やかな態度を崩さず、小さくうなずいてから口を開いた。
「そりゃ不安ですよ。残しておきたい教えや知識は沢山ありますから。でも…変えるべきところは変えていかないと、廃墟や枯れ木の様に朽ち果ててしまうものです。逆もまた然り…変えてはならない物を無理に変え、瓦解を引き起こしてしまう事も珍しくありません。子供たちがこの砂漠に住む者として誇りをもって生きられるようにする。酋長も、それに反発する者達もそういった考えを持ってると信じてますから、いつかは良い落としどころを見つけてくれると良いんですがね」
「どうだろ。あの爺さん達がそんな事まで考えてるかどうか…」
キアは今後に期待をしている様だったが、フォルトは少々懐疑的な態度を取っていた。
「こらこら、そう悪く言ってはいけませんよ」
「だって、キタマとその一派の連中が誰と手を組みたがってるか知ってるでしょ ? リミグロンだよ ? 聞いた話だとあっちこっちで暴れてるし、ちょっと前に国一つ滅ぼしてる連中なんか、信用できるわけないじゃんか」
「そうだけど…この土地と私たちの生活を保護してくれるって言うなら、悪い話でもない気がするのよ…」
フォルトとキアは集落にある不穏な動きについて語り合っていたが、ルーファンが黙りこくっている事に気づく。
「あの…大丈夫 ?」
「ん、ああ…すまない。考え事をしてた」
フォルトは横から彼に問いかけたが、重々しい雰囲気を纏っていたせいで少しだけ慄いてしまった。そんな彼女の言葉で我に返ったルーファンは、申し訳なさそうに言い返す。
「おーい、ここにいたか…っておっと」
その時、ジョナサンが手を振りながらキアの背後から近づいてくる。だがルーファンとフォルトが裸であることに気づくと、少し躊躇するかのように立ち止まってから背中を向ける。
「ちょっと早くないか ? そういう関係は…」
「理由は後で話す。それよりどうかしたのか ?」
「ああ、色々と分かってきたんでね。寝床に戻ろう。情報を整理したい」
勘違いをしているジョナサンだったが、ルーファンから急かされるとすぐに気を取り直した。ルーファン達もすぐに池から上がって服を再び着込んでから、寝床へと戻っていく。そして日が暮れ始めた頃に、ジョナサンからの報告が始まった。
「まず時系列を確認しよう。今より遥か前、スアリウスとリゴト砂漠は貿易を始めた。リゴト砂漠からは資源や魔法を使える戦士たちを傭兵としてスアリウスへ…その引き換えにスアリウスは物資や商品を格安で提供するという関係だった。だが、年月が経っていく内にこの取引を不公平だと感じるようになっていた。おまけに近年におけるリミグロンの動きも相まって貿易が滞り、それを頼みの綱にしていたリゴト側の不満は更に募った。防衛や軍事という点で自分たちを頼っておきながら、思うように保護をしてくれない点が主な原因だと。ここまでは合ってるかな ?」
キアから頂いた干し肉に齧りつきつつ、ジョナサンは砂の床の上に棒で総監図を描く。フォルトやキアも特に反論することなく頷いた。
「まあ結果的に関係は悪化。リゴト側は資源やこれ以上の人的資源を送ることは出来ないとした。一方でスアリウス側も取引を中止。先代酋長が死去するまでその硬直した状態が続いていたが、現在の酋長はその関係を終わらせたがっている。ところが、タイミングよくリミグロンから脅迫され、それを支持するキタマという爺さんが率いる一派もいるせいでなかなか結論を纏められない…って感じかな ?」
「うん、それで合ってる。姉さんって態度は厳しいけど、昔から押しに弱いんだよねえ…」
ジョナサンが整理した現在の状況についてフォルトは同意し、酋長の性格上の欠点をぼやいた。
「ひとまずは今夜酋長の元へ行って細かい話を聞こう。彼女の意向次第で俺達が取るべき動きも変わってくる…そういえばサラザールはどこだ ?」
「謁見をした時、酋長に抗議してた老人どもがいただろ ? あれがキタマとその一派だ。彼らの動きが気になるからって事で尾行をしたいんだと。ルーファン、君が酋長と接触した以上、リミグロンだって放っておかないだろうしな。何かしら動きがあるかも」
ルーファンの問いにジョナサンが答えると、フォルトは不思議そうに二人を見た。
「何でリミグロンが放っておかないの ? スアリウスの使者だから ?」
「それもあるが…ルーファンは目をつけられてるんだ。かつてリミグロンが戦場にして滅ぼした国の魔法使い。彼はその数少ない生き残りだよ」
フォルトに対してジョナサンが経緯を話すと、彼女とキアはすぐにルーファンの方を見る。俯いて目を合わせようとしない彼の態度は気まずさに満ち溢れており、リミグロンの話題を出した際になぜ彼が黙ってしまったのかをようやく理解した。丁度その時、床の一部の砂が蟻地獄のように渦を巻きだす。やがて砂が地中へと吸い込まれていき、人が通れそうなくらいの穴がぽっかりと開いてしまった。
「ちゃんといてくれたか…酋長がお呼びだ。ついて来てくれ」
酋長の護衛をしているらしい男の獣人が穴から顔を出し、ルーファン達を呼ぶ。そのまま誘われる形でルーファンとジョナサン、そしてフォルトは床に出来た穴へと入って行った。
フォルトはそう言いながら無理やりルーファンの衣服に触ってくる。
「分かった…分かったから…」
渋々ルーファンも応じ、鎧や着こんでいた服を脱ぎ捨てていく。やがて傷だらけの体が露になると、フォルトを始めとした周囲の子供達や、近くで様子を見ていたキアも呆然と眺めていた。牙や刃物や銃弾によって作られた傷跡をフォルトもまじまじと見つめている。
これだから嫌だった。今回ばかりは警戒されるような状況を作りたくなかったのだが、これでは威圧感を与えてしまう。そう考えていたルーファンは周りの視線が怖くて仕方がなかった。拒絶されるか、恐れられるか、気味悪がられるか…戦うのであれば効果的なのかもしれないが、今回に限って言えば望んではいなかった。
「……かっこいい… !」
「すっげぇ… !」
「え ?」
だが、子供達から返ってきた反応はなぜか羨望である。ルーファンが戸惑うが、隣にいたフォルトも目を輝かせている事に気づく。
「ああ、ごめんごめん…はいこれ。ハルシィボの果汁を体に擦りつけて行けばいい。頭もちゃんとだよ ? ハルシィボには昔から殺菌作用があるって言われてる。だから、これをすれば病気に罹りづらくなるからって事で、これで体を洗う行為は厄除けの力があるって信じられてたんだ。背中は流石に届かないだろうから、交互に擦り合うの」
ハルシィボの効能についてフォルトは語りつつ、ルーファンの後ろに回って彼の背中を擦り始める。ハルシィボの皮は内側が固く、果肉が残っているとはいえザラザラとしていた。それを使って汚れや垢を落としていくのだろう。獣人と違って毛に覆われてないルーファンには少々痛かったが、不快に思うほどではない。
「…ん ?」
そんな矢先、フォルトは奇妙な物を見つけた。ルーファンのうなじの部分へ目を凝らすと、傷跡によって搔き消されつつあるが何やら小さい刺青が残っている。数字が刻まれていた。
”Ⅱ”
これはいったい何を意味するのか聞いてみたかったが、体を見られることを嫌がっていたのだから深い事情があるのだろう。フォルトはそう解釈し、敢えて何も言わずに尻まで擦ってやった。ルーファンにも同じように自分の背中を洗わせた後、水を汲んで洗い流してから二人で池の中に入る。池の水は温めであり、膝より少し低い程度の深さだった。試しに座ってみると、砂の柔らかい感触が尻や脚に伝わって心地がいい。地熱で温められているらしく、あまり池を汚さないようにするためか現地の住民は数日に一回ぐらいしか入浴はしないらしい。
「砂塵はいつもこの場所を囲んでいるのか ?」
「うん。酷い時には蜃気楼を引き起こしたり、並の人間じゃまともに立つ事もできないくらいの風速になったりするよ。昔、気球で越えようとした人もいたらしいけど、山以上の高さにまで風が吹き荒れてしまうからまともに近づけないんだって…私達は<ガイア>が護ってくれてるんだって思ってる」
遠くで見る砂塵を見たルーファンが障壁について尋ねると、彼の隣に座っていたフォルトは幻神による加護のおかげだと解説をしてくれた。一方で子供たちは遠目からこちらの様子を窺っている。先程よりも人数が増えており、どうも自分の体にある傷の事について語り合っているらしかった。
「何が琴線に触れたんだろうな。あの子達にとって」
「この地の守り神である<ガイア>の様に、優しく強い戦士であれって私達は教えられて生きてるの。勉学にも武道にも励んで、故郷や家族を守れる戦士になって初めて一人前。昔は外で起きてる戦争なんかにもよく行ってたし、魔法の習得にも危険な修行が必要だったから。その過程で負った傷は自らが努力し、困難に立ち向かってきた事の証だってされてる。傷が多ければ多いほど、過酷な環境を生き延びた戦士として尊敬されるんだよ。まあ、ここまでの量は私も初めて見たけど…」
ルーファンの疑問に対してフォルトは引き続き解説をしてくれるが、やはり彼女にとっても珍しいのか、ルーファンの体を時折興味深そうに観察をしていた。特に気になったのは、最近になって出来たのであろう頬の傷跡である。縫合跡が特に目立っていた。
「どんな事してきたの ? 戦争 ? それとも狩り ?」
「両方だよ。未だに決着もついていない」
フォルトの質問にルーファンは答えるが、どこか物悲しげな顔をしていた。遠くではしゃぐ子供達を見ていると、まだ自分がこのような状況に落とされる以前の事を思い出してしまう。それと同時に、手を打たなければあの無邪気な子供達も地獄を見る日が来るのかもしれないという不安が心の中に巣食い始めた。
「今は表立った戦争は減りましたが、そのせいで生活にも一苦労してるんです」
池の淵にキアが近づき、座っている二人の傍で言った。
「スアリウスとの貿易では不利な立場だったんでしょうけど、そのせいで色んな知識や道具が入ってきました。そのお陰で子供達は退屈しなかったし、私たちの生活も便利になった…でも、そのせいでこの土地に残る伝統や文化が失われてしまうんじゃないか。この辺りの年寄りは皆そんな風に思っているんです」
キアはにこやかな表情をしていたが、言葉の節々には不安が垣間見えた。
「あなたはどうお考えで ?」
本音を聞きたくなったルーファンはつい問いかけてしまった。キアは穏やかな態度を崩さず、小さくうなずいてから口を開いた。
「そりゃ不安ですよ。残しておきたい教えや知識は沢山ありますから。でも…変えるべきところは変えていかないと、廃墟や枯れ木の様に朽ち果ててしまうものです。逆もまた然り…変えてはならない物を無理に変え、瓦解を引き起こしてしまう事も珍しくありません。子供たちがこの砂漠に住む者として誇りをもって生きられるようにする。酋長も、それに反発する者達もそういった考えを持ってると信じてますから、いつかは良い落としどころを見つけてくれると良いんですがね」
「どうだろ。あの爺さん達がそんな事まで考えてるかどうか…」
キアは今後に期待をしている様だったが、フォルトは少々懐疑的な態度を取っていた。
「こらこら、そう悪く言ってはいけませんよ」
「だって、キタマとその一派の連中が誰と手を組みたがってるか知ってるでしょ ? リミグロンだよ ? 聞いた話だとあっちこっちで暴れてるし、ちょっと前に国一つ滅ぼしてる連中なんか、信用できるわけないじゃんか」
「そうだけど…この土地と私たちの生活を保護してくれるって言うなら、悪い話でもない気がするのよ…」
フォルトとキアは集落にある不穏な動きについて語り合っていたが、ルーファンが黙りこくっている事に気づく。
「あの…大丈夫 ?」
「ん、ああ…すまない。考え事をしてた」
フォルトは横から彼に問いかけたが、重々しい雰囲気を纏っていたせいで少しだけ慄いてしまった。そんな彼女の言葉で我に返ったルーファンは、申し訳なさそうに言い返す。
「おーい、ここにいたか…っておっと」
その時、ジョナサンが手を振りながらキアの背後から近づいてくる。だがルーファンとフォルトが裸であることに気づくと、少し躊躇するかのように立ち止まってから背中を向ける。
「ちょっと早くないか ? そういう関係は…」
「理由は後で話す。それよりどうかしたのか ?」
「ああ、色々と分かってきたんでね。寝床に戻ろう。情報を整理したい」
勘違いをしているジョナサンだったが、ルーファンから急かされるとすぐに気を取り直した。ルーファン達もすぐに池から上がって服を再び着込んでから、寝床へと戻っていく。そして日が暮れ始めた頃に、ジョナサンからの報告が始まった。
「まず時系列を確認しよう。今より遥か前、スアリウスとリゴト砂漠は貿易を始めた。リゴト砂漠からは資源や魔法を使える戦士たちを傭兵としてスアリウスへ…その引き換えにスアリウスは物資や商品を格安で提供するという関係だった。だが、年月が経っていく内にこの取引を不公平だと感じるようになっていた。おまけに近年におけるリミグロンの動きも相まって貿易が滞り、それを頼みの綱にしていたリゴト側の不満は更に募った。防衛や軍事という点で自分たちを頼っておきながら、思うように保護をしてくれない点が主な原因だと。ここまでは合ってるかな ?」
キアから頂いた干し肉に齧りつきつつ、ジョナサンは砂の床の上に棒で総監図を描く。フォルトやキアも特に反論することなく頷いた。
「まあ結果的に関係は悪化。リゴト側は資源やこれ以上の人的資源を送ることは出来ないとした。一方でスアリウス側も取引を中止。先代酋長が死去するまでその硬直した状態が続いていたが、現在の酋長はその関係を終わらせたがっている。ところが、タイミングよくリミグロンから脅迫され、それを支持するキタマという爺さんが率いる一派もいるせいでなかなか結論を纏められない…って感じかな ?」
「うん、それで合ってる。姉さんって態度は厳しいけど、昔から押しに弱いんだよねえ…」
ジョナサンが整理した現在の状況についてフォルトは同意し、酋長の性格上の欠点をぼやいた。
「ひとまずは今夜酋長の元へ行って細かい話を聞こう。彼女の意向次第で俺達が取るべき動きも変わってくる…そういえばサラザールはどこだ ?」
「謁見をした時、酋長に抗議してた老人どもがいただろ ? あれがキタマとその一派だ。彼らの動きが気になるからって事で尾行をしたいんだと。ルーファン、君が酋長と接触した以上、リミグロンだって放っておかないだろうしな。何かしら動きがあるかも」
ルーファンの問いにジョナサンが答えると、フォルトは不思議そうに二人を見た。
「何でリミグロンが放っておかないの ? スアリウスの使者だから ?」
「それもあるが…ルーファンは目をつけられてるんだ。かつてリミグロンが戦場にして滅ぼした国の魔法使い。彼はその数少ない生き残りだよ」
フォルトに対してジョナサンが経緯を話すと、彼女とキアはすぐにルーファンの方を見る。俯いて目を合わせようとしない彼の態度は気まずさに満ち溢れており、リミグロンの話題を出した際になぜ彼が黙ってしまったのかをようやく理解した。丁度その時、床の一部の砂が蟻地獄のように渦を巻きだす。やがて砂が地中へと吸い込まれていき、人が通れそうなくらいの穴がぽっかりと開いてしまった。
「ちゃんといてくれたか…酋長がお呼びだ。ついて来てくれ」
酋長の護衛をしているらしい男の獣人が穴から顔を出し、ルーファン達を呼ぶ。そのまま誘われる形でルーファンとジョナサン、そしてフォルトは床に出来た穴へと入って行った。
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