ドラゴンズ・ヴァイス

シノヤン

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参ノ章:激突

第77話 増大した結果

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「…お前、それどこで知った ? つかいつの間に ?」

 飲み終わってない無糖の缶コーヒーを自分の口から遠ざけ、颯真は龍人を見た。どういう話なのかイマイチ分かっていないのか、キヨは互いの顔を交互に見ている。

「お前の姉さん。日頃世話になってるから、良かったらお茶でもしませんかって誘われた。俺も向こうもビックリしたぞ。あの人、てっきり俺は知ってる事前提で手を貸してたもんだと思ってたらしいから」
「マジかよ…クソが、余計な事してくれやがって」

 悪態をつく颯真に、龍人は真剣な眼差しを向けている。更に、それ以上の言葉は慎むべきとでも言うかのように、強い音を立てながら空き缶を近くの塀の上に置いた。

「余計かどうかは俺が決める。しかも俺にとっては余計な事でも何でもなかった。単純に俺が分かってる情報で考えても、お前は自分が作った組織を自分で潰すために、何の関係も無い部外者の俺を巻き込んでくれやがった。違うか ?」

 もう逃げられない。誤魔化しが効く状況でもない。ここで会話から逃げる事によって、今後の関係に亀裂が入って行くことになるというのを颯真は恐れていた。自分個人というよりも、財閥と玄招院佐那の関係性についてである。龍人が不貞腐れ、佐那に対して不仲を申し出た場合に、彼女の財閥に対する行動が変化するという可能性は否定できない。

「その…上手く行かないもんなんだ…何事もデカくなりすぎると。俺が翼の無い落ちこぼれだったって話は前したよな ?」

 探り探りに、何が相手にとって地雷なのかを見極めようと慎重になりながらも、颯真は口を開いた。

「ああ」
「だけどそこから必死に勉強して、今はこうして楽しくやってる。でも歯痒かったんだよな。いつかは必ず…なんて言ってる間に悪さされて地獄見てる奴がいると、なんかすげえ申し訳なくなるんだよ。俺がちんたらしてる間に別の誰かが生贄にされたような気がして。だからそのために…仕事の合間を縫って、ネットの掲示板で小さなコミュニティを作ったんだ」
「コミュニティ ?」
「ああ。俺が財閥のネットワークを使って町で起きている犯罪や原因を調べ上げて、報酬付きで全員に賞金稼ぎをやらせるんだよ。ルールは簡単。身元が割れない様に極力顔は隠して、事が片付けば指定した口座に俺が匿名で金を振り込む。最初はゲーム感覚だったんだろうが、みんなびっくりしたと思うぜ。金が貰える上に、犯罪や事件を解決してヒーローを気取れる。”あの掲示板の住人がまたやってくれた”って褒められると、帰属意識を持ったユーザー達が随分と満足げに、自分がいかにこの掲示板を誇りに思っているのかを語り合うんだ。気が付いたら掲示板で依頼を欲しがる連中が日に日に増えて行ってさ…兼智もその一人だったみたいだけど、あいつはどうもがめつかった」

 缶コーヒーの残りを全て呷り、手遊びに使うかどうか迷った後にゴミ箱へ颯真は捨てた。話の最中に別の事に気を取るのは、どうも不誠実な気がしたのだ。

「報酬を釣り上げるのはまだ良いんだ…問題は、こちらで調べがついても無い噂だけを頼りに、勝手に街に出ては暴れ始める始末だった。その頃には風巡組の名前を出しとけば、一端のチンピラなら尻尾撒いて逃げ出してたろうからな…それが猶更増長に繋がった。そして事件が起きた」
「事件 ?」
「ああ。スリの常習犯が逃げ続けてるとかいう噂があったんだが、先走ってボコってうっかり殺しちまった奴がいたんだよ。そしたらその後に、真犯人が財閥の私兵に捕まったもんだから騒動になっちまった。つまり冤罪で殺したってわけだ。挙句の果てに通信記録を調べたら、証拠を隠滅するために自分達の会話の記録を消した痕跡まであった。そこだよな。俺が潰そうって決めたのは」
「だけど潰そうにも、デカくなりすぎてどうしようもなかったって事か」
「そうだ。その頃には知っての通り暗逢者を利用したシノギも見つけてたみたいだから…創設者の俺が止めた所で、自警団ごっこなんか出来なくなっても構わなかったんだろ」

 龍人も飲み干し、迷うことなく自分の持っているごみ袋へ捨てる。キヨはいつの間にかいなくなっていた。

「何か…あのタイミングで俺に協力を持ち掛けた理由が分かって来た気がする」
 
 すかさず二本目を買い始めながら龍人が言った。次に買ったのはコーラである。

「俺に選択肢が残ってない状況で船に乗らせて、そのままずるずる目的達成まで一緒に過ごすつもりだったか。お前の事だろうから、もっと早い段階で誘いに来ることも出来ただろうけど。老師の事も知ってたみたいだしな」
「い、いや…あれについては…割と…偶然」

 動揺の仕方からして間違いなく嘘だろうが、龍人はそこについては黙る事にした。乗る船は慎重に選びたいタイプだが、一度乗った船を途中で降りるなどというダサいマネをしたくない。昔から良くも悪くも変わっていない、なるようになるさという精神の表れであった。

 その時、電話が鳴った。恐る恐る取り出してみると、佐那の名前がスクリーンに映っている。

「もしもし ?」
「龍人 ? 元気にしてる ? 作り置きなんか特にしてなかったから食べれてるか心配だったけど、声を聞くに大丈夫そうね」

 ホテルの一室で、部屋着になっている佐那がノートパソコンを開きながら電話を耳に当てていた。いつも仕事による外出が長くなる時は、必ず龍人の様子を確認する挨拶から始まるのは定番である。

「弥助さんが作ってくれたり、一緒に食いに行ったりしてる。どうしたの ?」
「亜空穴についてイギリスの仕事仲間から情報を貰ったけど、やはり世界規模で亜空穴の出現と、そこから流入したであろう漂流物の確認件数が増えているみたい。ただ、気になる報告もあったの。誰かが人為的に出現をさせている可能性があるって…」
「人為的 ?」
「ええ。そっちに戻れる頃には情報も集まってるでしょうから、詳しく教えるわ。久々に声が聞けて良かった。じゃあね」
「あ、うん」

 佐那との通話を切ったが、龍人は首を傾げていた。スピーカーをオンにしてくれていたお陰で内容を聞いていた颯真は、誰が亜空穴を人為的に引き起こしているのかを気にしているのだろうと踏んでいたが、見当違いも良い所である。

「なあ、老師って今スコットランドにいる筈なんだけど、何で現地じゃなくて外国のイギリスから情報貰ってんだろ」
「龍人、その言い方はやめた方が良い。面倒くせえことになる」
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