22 / 84
壱ノ章:災いを継ぐ者
第22話 即バレ
しおりを挟む
「さて…と」
仕事に一区切りついた颯真がノートパソコンを閉じ、颯真は秀盟達のもとへ向かう。正直仕事が終わったわけでは無い。しかし集中力が削がれるからか、衆人環境で作業をするというのが大嫌いなのだ。喫茶店に堂々と居座ってこれみよがしに白紙のエクセルやワードを開いている者を、颯真はせせら笑って見下すタイプであった。
秀盟は龍人達へ飾られている武器の解説をしていたところだった。火縄銃や刀、エングレーブ付きのシングルアクションアーミーの様なとっくに骨董品と化しているヴィンテージ品や、亜空穴を経由して漂着した得体の知れない代物まで様々である。特に目を引いたのはチェーンソーを模したかのような大剣である。わざわざ白兵戦用の武器にチェーンソーの機構を組み込む理由が分からない上に、こんな物を振り回すようなアホがいるとは思えない。
「結構苦労したんだぜ、これ集めるの」
興味津々に眺める龍人へ颯真は話しかけた。
「いくらした ?」
「拾ってきたから全部タダ。問題は運ぶのとメンテナンス。でもそれやってる時が一番楽しいんだ。語り掛けて、勝手に想像するんだ。こいつらは前の持ち主とどんな風に過ごしてたんだろうなって」
「フン、でも最後は捨てられた」
「まあ…それはそう」
颯真の趣味に対して龍人は少し皮肉っぽく笑った。颯真もそれは否定せず苦笑する。秀盟はそれを見てから佐那の方へ首を向けると、彼女は小さく頷いた。
「まあ若いもん同士の方が話も進むだろう。颯真、そいつとは今後長い付き合いになるかもしれん。色々と相手になってやれ。佐那、少し話があるんだが良いか ?」
「奇遇ね。同じことを思っていた」
秀盟が颯真に龍人を頼み、佐那も特に何か言うわけでもなくオフィスを出て行こうとする。去り際に一度だけ振り向き、眉をひそめてから秀盟と共に部屋を出て行った。気のせいなのかもしれないが、なぜかオフィスの中で龍人の気配がした。それも二つ、全く別々の場所からである。
「……へえ、龍人か。良い名前だ」
秀盟達がいなくなり、一瞬だけ静寂が訪れたオフィスに颯真の声が響く。
「お前もな。颯真って……安直すぎないか。自分の名前のイニシャルから取ったのかよ。”S”って」
「やっぱバレたか」
「お前ゴーグルだけで顔隠せるわけねえだろうが。声色と喋り方を変える努力もしてねえし、それに…」
これが初対面ではない事を互いに認識した上で、龍人は霊糸を床に這わせる。やがて霊糸の先端がとある大理石の一角に潜り込んだ。
「そこになんかあるだろ。見せろ」
龍人に言われるがまま、颯真は近づいて大理石の床を足で踏む。青く光る術式が浮かび上がり、やがて床に格納されていた石の柱がせり上がった。銃器や武器が収納されており、その中にある弾倉を一つだけ霊糸で絡めとってから、龍人は自分の手元へと引き寄せた。
「肉分虫の気配が部屋に入ってすぐ分かった。念のため探知できるようにはしておいたが、まさかこんな形で見つけるとは思わなかった。老師もたぶん気付いてたな。出て行くときの態度からして」
「ふ~ん、まあ隠すつもりは無かったけどな」
「何だよ、負け惜しみか ?」
「いいや。れっきとした事実だ」
怪しげな協力者の正体が簡単に割れるとは思わなかったが、その張本人が大して問題のように思っていなかった事が龍人に更なる懐疑心を抱かせた。
「お前の目的が全く見えてこねえ。正体隠して近づいてきたくせにバレても構わないってどういう事だよ」
「それは大丈夫だと判断したからだ。素性、実力、後は…そうだな、性格 ? 俺なりに考えた結果、たぶんお前は俺の事を知ってても大丈夫。さっきのは単純に風巡組にバレたくないからあんな形で近づいただけ。お分かり ?」
「風巡組の事嫌いなのか ?」
「ああ、ぶっ潰すつもりだからな」
彼の企みに見当がつかなかった龍人だが、すぐに颯真はそれを示唆するような言葉を告げる。潰すという文字を彼が口にした時、体から放たれる気迫やこちらを見る眼光の中に殺意が混じっていた。本気だ。
「ぶっ潰す ? 正義の自警団様をか ?」
「あれが正義に見えるんなら、お前も同じレベルの知能とモラルしか持ち合わせていない獣だと宣言しているようなものだぞ…せっかくだ、立ち話も疲れるだろ。これからの俺達二人の将来について話そうぜ。晩酌でもしながらな」
「…奢ってくれるんなら」
「決まりだ」
龍人の肩を馴れ馴れしくポンと叩き、颯真が笑って見せた。爽やかではあるがどこか引きつっている、いうなれば緊張が見え隠れしているようなぎこちなさがある。直後、「失礼します」という冷淡な声を発してからオフィスに別の人影が入って来た。眼鏡を掛けた青色に染めた羽毛の鴉天狗である。
「秘書の織江だ。織江、残業代出すから晩酌ついでにドライブに連れてってくれ。今日はガレージの五番を使って良いぞ」
「そう仰ると思いまして、既に車庫から移動させて待機済みです」
「流石だな、神通力だけで言えば俺並みだ」
「前任者たちが大したことないだけです」
迅速な対応を颯真は褒めるが、織江は大して嬉しくなさそうだった。なぜこんな事でいちいち褒めるのだこの男はという、疑問さえ抱いてそうなほどに冷たい反応をしてからそそくさと動き出す。
「神通力ってなんだ ?」
気になった龍人が尋ねた。
「鴉天狗の、それも一部の類まれなる才能持ち特有の超能力みたいなもんだ。後で詳しく話してやる」
「そうか…それともう一つ良いか ?」
「どうしたんだよ」
「………酒飲むのにわざわざいるのか ? その銃は」
龍人の視線の先には、先程出した石柱の収納ケースからショルダーホルスターと拳銃、そしてナイフや消音器を揃えだしている颯真の姿があった。
「…ライフル持ち歩くわけにはいかないだろ ?」
「そこじゃねえよ」
何が悪いのかイマイチ分かっていなさそうな颯真を前に、龍人は誘いに乗った事を後悔し始めた。
仕事に一区切りついた颯真がノートパソコンを閉じ、颯真は秀盟達のもとへ向かう。正直仕事が終わったわけでは無い。しかし集中力が削がれるからか、衆人環境で作業をするというのが大嫌いなのだ。喫茶店に堂々と居座ってこれみよがしに白紙のエクセルやワードを開いている者を、颯真はせせら笑って見下すタイプであった。
秀盟は龍人達へ飾られている武器の解説をしていたところだった。火縄銃や刀、エングレーブ付きのシングルアクションアーミーの様なとっくに骨董品と化しているヴィンテージ品や、亜空穴を経由して漂着した得体の知れない代物まで様々である。特に目を引いたのはチェーンソーを模したかのような大剣である。わざわざ白兵戦用の武器にチェーンソーの機構を組み込む理由が分からない上に、こんな物を振り回すようなアホがいるとは思えない。
「結構苦労したんだぜ、これ集めるの」
興味津々に眺める龍人へ颯真は話しかけた。
「いくらした ?」
「拾ってきたから全部タダ。問題は運ぶのとメンテナンス。でもそれやってる時が一番楽しいんだ。語り掛けて、勝手に想像するんだ。こいつらは前の持ち主とどんな風に過ごしてたんだろうなって」
「フン、でも最後は捨てられた」
「まあ…それはそう」
颯真の趣味に対して龍人は少し皮肉っぽく笑った。颯真もそれは否定せず苦笑する。秀盟はそれを見てから佐那の方へ首を向けると、彼女は小さく頷いた。
「まあ若いもん同士の方が話も進むだろう。颯真、そいつとは今後長い付き合いになるかもしれん。色々と相手になってやれ。佐那、少し話があるんだが良いか ?」
「奇遇ね。同じことを思っていた」
秀盟が颯真に龍人を頼み、佐那も特に何か言うわけでもなくオフィスを出て行こうとする。去り際に一度だけ振り向き、眉をひそめてから秀盟と共に部屋を出て行った。気のせいなのかもしれないが、なぜかオフィスの中で龍人の気配がした。それも二つ、全く別々の場所からである。
「……へえ、龍人か。良い名前だ」
秀盟達がいなくなり、一瞬だけ静寂が訪れたオフィスに颯真の声が響く。
「お前もな。颯真って……安直すぎないか。自分の名前のイニシャルから取ったのかよ。”S”って」
「やっぱバレたか」
「お前ゴーグルだけで顔隠せるわけねえだろうが。声色と喋り方を変える努力もしてねえし、それに…」
これが初対面ではない事を互いに認識した上で、龍人は霊糸を床に這わせる。やがて霊糸の先端がとある大理石の一角に潜り込んだ。
「そこになんかあるだろ。見せろ」
龍人に言われるがまま、颯真は近づいて大理石の床を足で踏む。青く光る術式が浮かび上がり、やがて床に格納されていた石の柱がせり上がった。銃器や武器が収納されており、その中にある弾倉を一つだけ霊糸で絡めとってから、龍人は自分の手元へと引き寄せた。
「肉分虫の気配が部屋に入ってすぐ分かった。念のため探知できるようにはしておいたが、まさかこんな形で見つけるとは思わなかった。老師もたぶん気付いてたな。出て行くときの態度からして」
「ふ~ん、まあ隠すつもりは無かったけどな」
「何だよ、負け惜しみか ?」
「いいや。れっきとした事実だ」
怪しげな協力者の正体が簡単に割れるとは思わなかったが、その張本人が大して問題のように思っていなかった事が龍人に更なる懐疑心を抱かせた。
「お前の目的が全く見えてこねえ。正体隠して近づいてきたくせにバレても構わないってどういう事だよ」
「それは大丈夫だと判断したからだ。素性、実力、後は…そうだな、性格 ? 俺なりに考えた結果、たぶんお前は俺の事を知ってても大丈夫。さっきのは単純に風巡組にバレたくないからあんな形で近づいただけ。お分かり ?」
「風巡組の事嫌いなのか ?」
「ああ、ぶっ潰すつもりだからな」
彼の企みに見当がつかなかった龍人だが、すぐに颯真はそれを示唆するような言葉を告げる。潰すという文字を彼が口にした時、体から放たれる気迫やこちらを見る眼光の中に殺意が混じっていた。本気だ。
「ぶっ潰す ? 正義の自警団様をか ?」
「あれが正義に見えるんなら、お前も同じレベルの知能とモラルしか持ち合わせていない獣だと宣言しているようなものだぞ…せっかくだ、立ち話も疲れるだろ。これからの俺達二人の将来について話そうぜ。晩酌でもしながらな」
「…奢ってくれるんなら」
「決まりだ」
龍人の肩を馴れ馴れしくポンと叩き、颯真が笑って見せた。爽やかではあるがどこか引きつっている、いうなれば緊張が見え隠れしているようなぎこちなさがある。直後、「失礼します」という冷淡な声を発してからオフィスに別の人影が入って来た。眼鏡を掛けた青色に染めた羽毛の鴉天狗である。
「秘書の織江だ。織江、残業代出すから晩酌ついでにドライブに連れてってくれ。今日はガレージの五番を使って良いぞ」
「そう仰ると思いまして、既に車庫から移動させて待機済みです」
「流石だな、神通力だけで言えば俺並みだ」
「前任者たちが大したことないだけです」
迅速な対応を颯真は褒めるが、織江は大して嬉しくなさそうだった。なぜこんな事でいちいち褒めるのだこの男はという、疑問さえ抱いてそうなほどに冷たい反応をしてからそそくさと動き出す。
「神通力ってなんだ ?」
気になった龍人が尋ねた。
「鴉天狗の、それも一部の類まれなる才能持ち特有の超能力みたいなもんだ。後で詳しく話してやる」
「そうか…それともう一つ良いか ?」
「どうしたんだよ」
「………酒飲むのにわざわざいるのか ? その銃は」
龍人の視線の先には、先程出した石柱の収納ケースからショルダーホルスターと拳銃、そしてナイフや消音器を揃えだしている颯真の姿があった。
「…ライフル持ち歩くわけにはいかないだろ ?」
「そこじゃねえよ」
何が悪いのかイマイチ分かっていなさそうな颯真を前に、龍人は誘いに乗った事を後悔し始めた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界ハーレム漫遊記
けんもも
ファンタジー
ある日、突然異世界に紛れ込んだ主人公。
異世界の知識が何もないまま、最初に出会った、兎族の美少女と旅をし、成長しながら、異世界転移物のお約束、主人公のチート能力によって、これまたお約束の、ハーレム状態になりながら、転生した異世界の謎を解明していきます。

裏切られ追放という名の処刑宣告を受けた俺が、人族を助けるために勇者になるはずないだろ
井藤 美樹
ファンタジー
初代勇者が建国したエルヴァン聖王国で双子の王子が生まれた。
一人には勇者の証が。
もう片方には証がなかった。
人々は勇者の誕生を心から喜ぶ。人と魔族との争いが漸く終結すると――。
しかし、勇者の証を持つ王子は魔力がなかった。それに比べ、持たない王子は莫大な魔力を有していた。
それが判明したのは五歳の誕生日。
証を奪って生まれてきた大罪人として、王子は右手を斬り落とされ魔獣が棲む森へと捨てられた。
これは、俺と仲間の復讐の物語だ――

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~
芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。
駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。
だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。
彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。
経験値も金にもならないこのダンジョン。
しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。
――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる