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十二章:コールド・ハート
第97話 科学の力
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「ったく、何やってたんだ…」
「…悪いな」
しびれを切らした様にこちらを睨むイゾウに対して、クリスは申し訳なさそうにする。墓地から無事に野営地へと辿り着いたクリスは、改めて兵士達から現在の状況を知らされた。
「子供 ?」
「はい。どうやら標的と思われる魔術師は、子供を従えているようです…それもかなりの数を。一見あどけない少年少女ではありますが、実力はかなりのもの。既に犠牲者も出ています」
クリスが聞き返すと、指揮官は頷きながら戦力について現在分かっている全てを伝える。一瞬、クリスの顔がいつにも増して険しくなったように見えたイゾウ達だったが、すぐに話を今後の戦略へと移した。
「それで何か手立てはあるの ?」
「はい。本部から送られて来たこちらの装備を使用すれば、本拠地と思われる旧市街でも活動が容易になります。もっとも…試作品ですから限度はありますがね」
メリッサに尋ねられた指揮官は、部下達に運ばせた何やら重厚なケースを開封する。そこにあったのは、非常に鈍い光沢を放つ素材によって作られた防護服であった。騎士団の外套よりもさらに黒が濃い色合いに仕立てられており、顔を覆うためのマスクには何やらチューブが取り付けられている。
「騎士団が開発中である対極限環境特化の防護用装甲…今回は寒冷地仕様に調整してあります。実戦でも問題なく動作するのは、既に一般兵を使って確認済み。口元に繋がっているチューブは専用のタンクから酸素を吸入するために用意しました。肺が凍りついている死体の存在もありましたから念のためです」
技術班から出張してきたのだと思われる整備士が、装着の手順を指導しながら三人に説明をする。
「ただし気を付けてください。タンクにある酸素の残量からして、活動時間は三時間程度です。あと激しい運動や衝撃に耐えられるようには設計しているつもりですが、出来る限りは損傷をさせないでください。使える予算や材料に制限が掛かっているので」
「…ったく無茶言ってくれるぜ」
頭部以外の全てを装備し終えた三人に整備士は注意事項を語る。これから交戦するかもしれないという自分達に対して、あまり無謀な留意点だとクリスは苦言を呈したが案の定無視された。
最終的な作戦としては、装甲を纏った三人が先行して旧市街へ突入。辺りの危険を排除しつつ標的である魔術師を探し、他の兵士達は彼らが付けた目印を確認しつつ進軍するという形で行う事になった。防護用装甲の運用テストも兼ねた旧市街地での調査に関する報告書から、ホワイトアウトも確認された事から地図の常備と出来る限り地形を把握しておくように忠告された三人は、出発に備えて暖を取り始める。
「ねえねえ、あれって誰の墓だったの ?」
クリスが地図に目印を付け、進みやすそうな場所や建物の多い区域を分けている時だった。紅茶が入ったカップを片手に近づいて来たメリッサは彼に聞いてくる。神妙な顔つきで墓石を眺めていた彼の事が気になっていたのだろう。
「ただの馴染みだよ。お前が生まれる遥か昔の」
「男の人 ?女の人 ?」
「…そこまで言う必要あるか ?」
「別に。ただの好奇心」
曖昧な答えで茶を濁すクリスに対して、メリッサは少々不服そうにしながらカップを渡した。
「アンディが話してたけどさ、夜にデートするような関係持ってる相手がいたらしいけど、もしかしてその人 ?」
「…ぶっ !」
彼女が追加で発した質問と、思っていたよりも熱かった紅茶にクリスが怯んだタイミングが重なってしまう。端から見れば質問に動揺していると捉えられても仕方がない光景であった。
「あ、図星 ?」
「違う…紅茶が熱かった」
否定するクリスに対して絶対に嘘だと勘付く半面、彼が猫舌だった事にメリッサは少し驚いていた。あまり追及しすぎて気を悪くしてもらっても困ると判断し、メリッサは物足りなさそうな顔で彼のもとを去って行く。
「殺すな ?」
「はい。相手は仮にも子供ですから、出来る限りは控えて欲しいというお達しだそうで…」
一方、他の兵士達から任務の詳細を確認していたイゾウだったが、とある内容に対して何やら言いたげな風であった。
「だが子供と言えど戦える力を持っている。死人が出ている以上、奴らも平等に敵であり始末すべき対象だろ。違うか ?下手に生存させれば余計な犠牲者が出かねない」
「ですが、これに関しては上が決めた事ですし…老若男女問わず全員を殺害したとあれば、騎士団の世評にも響いてきます。それに、子供たちが直接犯行に関わっているわけではないという可能性もありますので…」
イゾウはどうも異議があるらしく、指揮官や諜報員に対して厳しい口調で申し立てていた。しかし、あくまで指示に従うだけの立場である彼らに上層部の決定を覆そうとする程の度胸は流石にない。イゾウは彼らに対して意気地なしめと理不尽な感想を心に抱き、舌打ちをしてから準備に向かう。
「随分ご立腹だな」
彼が自分の後ろを通る瞬間、準備に勤しんでいたクリスは小馬鹿にした言い方で彼に話しかける。
「…黙ってろ」
一度もクリスと目を合わせることなく、イゾウは一言だけ辛辣に返してから歩き去って行く。理由は分からなかったが、その態度は余裕の無さを必死に隠しているかのようだとクリスは思っていた。
「…悪いな」
しびれを切らした様にこちらを睨むイゾウに対して、クリスは申し訳なさそうにする。墓地から無事に野営地へと辿り着いたクリスは、改めて兵士達から現在の状況を知らされた。
「子供 ?」
「はい。どうやら標的と思われる魔術師は、子供を従えているようです…それもかなりの数を。一見あどけない少年少女ではありますが、実力はかなりのもの。既に犠牲者も出ています」
クリスが聞き返すと、指揮官は頷きながら戦力について現在分かっている全てを伝える。一瞬、クリスの顔がいつにも増して険しくなったように見えたイゾウ達だったが、すぐに話を今後の戦略へと移した。
「それで何か手立てはあるの ?」
「はい。本部から送られて来たこちらの装備を使用すれば、本拠地と思われる旧市街でも活動が容易になります。もっとも…試作品ですから限度はありますがね」
メリッサに尋ねられた指揮官は、部下達に運ばせた何やら重厚なケースを開封する。そこにあったのは、非常に鈍い光沢を放つ素材によって作られた防護服であった。騎士団の外套よりもさらに黒が濃い色合いに仕立てられており、顔を覆うためのマスクには何やらチューブが取り付けられている。
「騎士団が開発中である対極限環境特化の防護用装甲…今回は寒冷地仕様に調整してあります。実戦でも問題なく動作するのは、既に一般兵を使って確認済み。口元に繋がっているチューブは専用のタンクから酸素を吸入するために用意しました。肺が凍りついている死体の存在もありましたから念のためです」
技術班から出張してきたのだと思われる整備士が、装着の手順を指導しながら三人に説明をする。
「ただし気を付けてください。タンクにある酸素の残量からして、活動時間は三時間程度です。あと激しい運動や衝撃に耐えられるようには設計しているつもりですが、出来る限りは損傷をさせないでください。使える予算や材料に制限が掛かっているので」
「…ったく無茶言ってくれるぜ」
頭部以外の全てを装備し終えた三人に整備士は注意事項を語る。これから交戦するかもしれないという自分達に対して、あまり無謀な留意点だとクリスは苦言を呈したが案の定無視された。
最終的な作戦としては、装甲を纏った三人が先行して旧市街へ突入。辺りの危険を排除しつつ標的である魔術師を探し、他の兵士達は彼らが付けた目印を確認しつつ進軍するという形で行う事になった。防護用装甲の運用テストも兼ねた旧市街地での調査に関する報告書から、ホワイトアウトも確認された事から地図の常備と出来る限り地形を把握しておくように忠告された三人は、出発に備えて暖を取り始める。
「ねえねえ、あれって誰の墓だったの ?」
クリスが地図に目印を付け、進みやすそうな場所や建物の多い区域を分けている時だった。紅茶が入ったカップを片手に近づいて来たメリッサは彼に聞いてくる。神妙な顔つきで墓石を眺めていた彼の事が気になっていたのだろう。
「ただの馴染みだよ。お前が生まれる遥か昔の」
「男の人 ?女の人 ?」
「…そこまで言う必要あるか ?」
「別に。ただの好奇心」
曖昧な答えで茶を濁すクリスに対して、メリッサは少々不服そうにしながらカップを渡した。
「アンディが話してたけどさ、夜にデートするような関係持ってる相手がいたらしいけど、もしかしてその人 ?」
「…ぶっ !」
彼女が追加で発した質問と、思っていたよりも熱かった紅茶にクリスが怯んだタイミングが重なってしまう。端から見れば質問に動揺していると捉えられても仕方がない光景であった。
「あ、図星 ?」
「違う…紅茶が熱かった」
否定するクリスに対して絶対に嘘だと勘付く半面、彼が猫舌だった事にメリッサは少し驚いていた。あまり追及しすぎて気を悪くしてもらっても困ると判断し、メリッサは物足りなさそうな顔で彼のもとを去って行く。
「殺すな ?」
「はい。相手は仮にも子供ですから、出来る限りは控えて欲しいというお達しだそうで…」
一方、他の兵士達から任務の詳細を確認していたイゾウだったが、とある内容に対して何やら言いたげな風であった。
「だが子供と言えど戦える力を持っている。死人が出ている以上、奴らも平等に敵であり始末すべき対象だろ。違うか ?下手に生存させれば余計な犠牲者が出かねない」
「ですが、これに関しては上が決めた事ですし…老若男女問わず全員を殺害したとあれば、騎士団の世評にも響いてきます。それに、子供たちが直接犯行に関わっているわけではないという可能性もありますので…」
イゾウはどうも異議があるらしく、指揮官や諜報員に対して厳しい口調で申し立てていた。しかし、あくまで指示に従うだけの立場である彼らに上層部の決定を覆そうとする程の度胸は流石にない。イゾウは彼らに対して意気地なしめと理不尽な感想を心に抱き、舌打ちをしてから準備に向かう。
「随分ご立腹だな」
彼が自分の後ろを通る瞬間、準備に勤しんでいたクリスは小馬鹿にした言い方で彼に話しかける。
「…黙ってろ」
一度もクリスと目を合わせることなく、イゾウは一言だけ辛辣に返してから歩き去って行く。理由は分からなかったが、その態度は余裕の無さを必死に隠しているかのようだとクリスは思っていた。
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