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一章:魔術師だった男
第6話 自業自得って知ってるか?
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デルシンは上級魔術師の事を頼むとクリスに告げると、ポーチからガラス瓶に入っている肉体強化薬を取り出し、一息にそれを飲んだ。喉や舌、食道にひりつく様な辛さが染みわたっていくが、それと同時に目は獣の持つそれへと変貌し、ついには唸り声を上げる。そして犬歯を見せながらニンマリと笑って、大剣を肩に担いだ。
「滾って来たぜぇ」
そう言いながら昂る衝動を抑えきれなくなったデルシンは、こちらへ向かって来る魔術師達の援軍に単身で突っ込んで行った。尋常ではない速度でこちらへ接近したデルシンに慌てた魔術師達は応戦しようとするが、その前に大剣の一振りで薙ぎ払われた。真っ二つにされた者や吹き飛ばされた者達は死に絶え、辺りの地面は血しぶきによって濡れた。それは事情を知らない人間が見れば、一面にペンキをぶちまけたのかと見紛う程であった。
大地の属性を操れる魔術師はすぐに地面の砂鉄や岩を腕に纏わせ、刃を作り出して切りかかっていく。火や水を操れるものは遠距離攻撃による援護に徹した。だが非常に頑強な素材によって作られている騎士団の外套は、ある程度の威力の魔法であれば防ぐ事が出来るらしく、デルシンは飛んでくる火の球や弾丸の様に飛ばされる水滴に耐えながら大剣を振り回して暴れ続けた。
「お前は村の連中を守れ」
「でも…」
「さっさと行け」
デルシンが遠くで大立ち回りを繰り広げている頃、クリスはキャシーに向かってそう言った。加勢をしようとしていた彼女は迷ったものの、クリスに背中を押されて仕方なくその場を後にする。追いかけようと屋根から飛び降りたピーターに対して、クリスは拳銃を構えて牽制した。
「邪魔をする気か」
「だったらどうする?」
そのまま構え続けていたクリスだったが、不意に構えていた右腕を下ろした。
「なんてな、無駄撃ち厳禁なんだ」
右手に握っている拳銃をチラつかせながらクリスは白状した後にホルスターに収めた。そして静かにブラスナックルを装着して臨戦態勢に入る。ブラスナックルには棘状の突起物が付いており、殴られた際の事はあまり想像したくないと思わせる仕上がりになっていた。
「お前が魔術師として功績をあげる度に、俺の一族は腑抜けだ、無能だと見下され続けて来た。それが今や全く逆の立場だ。追放された裏切り者のクズと、前線で魔術師の未来のために戦う誇り高き戦士。一体どこで差が——」
魔法も使えなくなった奴など恐れるに足りないと調子に乗り、恨み節を述べていたピーターだったが、素早く詰め寄られたクリスの拳が頬へ食い込むと、そのまま煉瓦造りの壁に叩きつけられた。骨でも砕かれたのではないかと思う程の威力のせいで、殴られた箇所がまだズキズキと痛んでいる。頬や口元からも血が出ているのに気づくと、改めて目の前にいる敵の底知れ無さにピーターはようやく緊張感を見出した。
「よく喋るな」
そう言って平然と近づいてくるクリスに慄いたピーターは、咄嗟に彼の眼前に手をかざし、大爆発を引き起こした。そのまま仰け反ったクリスに対して追い打ちと言わんばかりに特大の火の玉を放つ。吹っ飛んで倒れたクリスが立ち上がろうとする前に、彼の頭上に向かって小さな火種を打ち上げる。そして火種を操作し巨大な炎柱へと変化させ、落雷の様にクリスへと叩きつけた。不意打ちを皮切りに、自分に出来る大技を全て放ったピーターは、疲労や倒せたのか分からないという不安から息を切らしていた。
「ざ、ざまあ見ろ…」
地面に倒れている黒焦げの人影を見て悪態をついたその時、消し炭になり損なったその肉体が突如として起き上った。原型を留めてない程にボロボロになった服をはたいて煤や焦げを落としながら立ち上がったクリスは、肉体が再生し終わるとピーターを見た。
「アレで終わりって事は無いだろ?」
何事も無かったかのように再び向かって来るクリスを前に、ピーターは何も考えられなくなっていた。我武者羅に攻撃を仕掛け続けるが、それらにすら臆することなくクリスは近づいていく。最早ヤケクソになっていたピーターの攻撃を避け、クリスは腹に一発パンチを放った。これはかなり堪えたらしく、苦痛のあまりに息さえもまともに出来ていない彼へ次々に攻撃を決めていく。
顎や腹へは拳が入り、時折膝蹴りも交ざっていた。魔法をまともに使える状況ではないらしく、拳で反撃してくるがそれには肘打ちで迎え撃つ。そして息も絶え絶えに跪いて項垂れているピーターの首を掴んで、無理やり立ち上がらせてからトドメに顔面へ大振りのストレートを叩きこんだ。
群がっていた魔術師達を殲滅したデルシンは、薬の効果が切れたこともあってか疲労が一気に肉体へ雪崩れ込んできていた。改めて大剣を肩に担いでから休憩も兼ねて辺りを見回していると、トドメの一撃によってピーターが壁に叩きつけられている瞬間を目撃した。抵抗する様子もなく壁からずり落ちるピーターの前へ向かうと、背後から来たクリスにも目をやった。
「お前、ボロボロにしすぎだろ!仕立屋が怒るぜ?意外と高いんだからな、その素材」
「…すまない」
「まあいいさ。さて…言い訳か遺言があるなら今のうちに記録しといてやるが、どうする?」
制服を台無しにしてしまった事について言葉を交わしてから、デルシンは目の前で虫の息になっている上級魔術師に辞世の句を詠むチャンスを与えようとする。
「ガーランド...!かつての同胞を傷つけ、命を奪う事に何の躊躇いも無いのか…⁉この外道め!」
「人のことを言える立場か?それにお前らブラザーフッドが決めた事だ。俺はもう魔術師じゃない。お前らの規律に従う必要も無いんだ」
ピーターは必死にクリスを罵ったが、知った事かと思いつつクリスは言い返した。自分から全てを奪い、魔術師達の社会から追放する事に真っ先に賛同したのはあろうことかこの男を始めたとした彼の一族である。自分が奪われる側に回った途端に情けなく被害者面をするこの男に、クリスは少々むかっ腹が立った。
「まあ…俺の家族によろしくな」
そう言うとクリスは素早くホルスターから銃を抜き、待ってくれと叫ぶピーターに向かって二度、引き金を引いた。
「滾って来たぜぇ」
そう言いながら昂る衝動を抑えきれなくなったデルシンは、こちらへ向かって来る魔術師達の援軍に単身で突っ込んで行った。尋常ではない速度でこちらへ接近したデルシンに慌てた魔術師達は応戦しようとするが、その前に大剣の一振りで薙ぎ払われた。真っ二つにされた者や吹き飛ばされた者達は死に絶え、辺りの地面は血しぶきによって濡れた。それは事情を知らない人間が見れば、一面にペンキをぶちまけたのかと見紛う程であった。
大地の属性を操れる魔術師はすぐに地面の砂鉄や岩を腕に纏わせ、刃を作り出して切りかかっていく。火や水を操れるものは遠距離攻撃による援護に徹した。だが非常に頑強な素材によって作られている騎士団の外套は、ある程度の威力の魔法であれば防ぐ事が出来るらしく、デルシンは飛んでくる火の球や弾丸の様に飛ばされる水滴に耐えながら大剣を振り回して暴れ続けた。
「お前は村の連中を守れ」
「でも…」
「さっさと行け」
デルシンが遠くで大立ち回りを繰り広げている頃、クリスはキャシーに向かってそう言った。加勢をしようとしていた彼女は迷ったものの、クリスに背中を押されて仕方なくその場を後にする。追いかけようと屋根から飛び降りたピーターに対して、クリスは拳銃を構えて牽制した。
「邪魔をする気か」
「だったらどうする?」
そのまま構え続けていたクリスだったが、不意に構えていた右腕を下ろした。
「なんてな、無駄撃ち厳禁なんだ」
右手に握っている拳銃をチラつかせながらクリスは白状した後にホルスターに収めた。そして静かにブラスナックルを装着して臨戦態勢に入る。ブラスナックルには棘状の突起物が付いており、殴られた際の事はあまり想像したくないと思わせる仕上がりになっていた。
「お前が魔術師として功績をあげる度に、俺の一族は腑抜けだ、無能だと見下され続けて来た。それが今や全く逆の立場だ。追放された裏切り者のクズと、前線で魔術師の未来のために戦う誇り高き戦士。一体どこで差が——」
魔法も使えなくなった奴など恐れるに足りないと調子に乗り、恨み節を述べていたピーターだったが、素早く詰め寄られたクリスの拳が頬へ食い込むと、そのまま煉瓦造りの壁に叩きつけられた。骨でも砕かれたのではないかと思う程の威力のせいで、殴られた箇所がまだズキズキと痛んでいる。頬や口元からも血が出ているのに気づくと、改めて目の前にいる敵の底知れ無さにピーターはようやく緊張感を見出した。
「よく喋るな」
そう言って平然と近づいてくるクリスに慄いたピーターは、咄嗟に彼の眼前に手をかざし、大爆発を引き起こした。そのまま仰け反ったクリスに対して追い打ちと言わんばかりに特大の火の玉を放つ。吹っ飛んで倒れたクリスが立ち上がろうとする前に、彼の頭上に向かって小さな火種を打ち上げる。そして火種を操作し巨大な炎柱へと変化させ、落雷の様にクリスへと叩きつけた。不意打ちを皮切りに、自分に出来る大技を全て放ったピーターは、疲労や倒せたのか分からないという不安から息を切らしていた。
「ざ、ざまあ見ろ…」
地面に倒れている黒焦げの人影を見て悪態をついたその時、消し炭になり損なったその肉体が突如として起き上った。原型を留めてない程にボロボロになった服をはたいて煤や焦げを落としながら立ち上がったクリスは、肉体が再生し終わるとピーターを見た。
「アレで終わりって事は無いだろ?」
何事も無かったかのように再び向かって来るクリスを前に、ピーターは何も考えられなくなっていた。我武者羅に攻撃を仕掛け続けるが、それらにすら臆することなくクリスは近づいていく。最早ヤケクソになっていたピーターの攻撃を避け、クリスは腹に一発パンチを放った。これはかなり堪えたらしく、苦痛のあまりに息さえもまともに出来ていない彼へ次々に攻撃を決めていく。
顎や腹へは拳が入り、時折膝蹴りも交ざっていた。魔法をまともに使える状況ではないらしく、拳で反撃してくるがそれには肘打ちで迎え撃つ。そして息も絶え絶えに跪いて項垂れているピーターの首を掴んで、無理やり立ち上がらせてからトドメに顔面へ大振りのストレートを叩きこんだ。
群がっていた魔術師達を殲滅したデルシンは、薬の効果が切れたこともあってか疲労が一気に肉体へ雪崩れ込んできていた。改めて大剣を肩に担いでから休憩も兼ねて辺りを見回していると、トドメの一撃によってピーターが壁に叩きつけられている瞬間を目撃した。抵抗する様子もなく壁からずり落ちるピーターの前へ向かうと、背後から来たクリスにも目をやった。
「お前、ボロボロにしすぎだろ!仕立屋が怒るぜ?意外と高いんだからな、その素材」
「…すまない」
「まあいいさ。さて…言い訳か遺言があるなら今のうちに記録しといてやるが、どうする?」
制服を台無しにしてしまった事について言葉を交わしてから、デルシンは目の前で虫の息になっている上級魔術師に辞世の句を詠むチャンスを与えようとする。
「ガーランド...!かつての同胞を傷つけ、命を奪う事に何の躊躇いも無いのか…⁉この外道め!」
「人のことを言える立場か?それにお前らブラザーフッドが決めた事だ。俺はもう魔術師じゃない。お前らの規律に従う必要も無いんだ」
ピーターは必死にクリスを罵ったが、知った事かと思いつつクリスは言い返した。自分から全てを奪い、魔術師達の社会から追放する事に真っ先に賛同したのはあろうことかこの男を始めたとした彼の一族である。自分が奪われる側に回った途端に情けなく被害者面をするこの男に、クリスは少々むかっ腹が立った。
「まあ…俺の家族によろしくな」
そう言うとクリスは素早くホルスターから銃を抜き、待ってくれと叫ぶピーターに向かって二度、引き金を引いた。
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