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鉱山都市ロイハイゲン編
79 それぞれの正義
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「ってぇな」
俺は割と本気で殴ったのだが、オロバスは普通にむくりと起き上がる。
「転生者。お前の拳は僕には届かねぇよ」
欠けた馬の頭蓋骨の隙間から見える目は只必死だった。
「僕は、ここで負けることは出来ない。レヴィアタン様のために!」
オロバスは剣を鞘から引き抜く。俺も銃を錬成する。
「どんな理由がお前をつき動かしてるのか知らねぇけどよ、だからといって人を殺すことが許されることじゃねぇんだぞ」
「五月蝿いっ!お前に何がわかる!僕にとっての正義は、レヴィアタン様を守り、レヴィアタン様のために死ぬ事だ!ここで死ぬなら、刺し違えてでもお前達を殺す!」
いくらその覚悟が本物で、偽りや曇りのない正義であるとしても、それでもその正義は俺にとっては、
「悪同然だ」
銃を構え二発、発砲する。
「くっ…!」
オロバスは銃弾の軌道を呼んで一発だけ切りつける。
(もう一発はーーーーーッ!?)
俺は笑う。それは勝利を勝ち取ったものではない。俺は心底笑う。それは自分のしていることが正しいと思ってのことではない。
「後ろさ」
二発目の銃弾がオロバスの右肩を貫く。反射弾。反射弾をもちいて敵を確実に仕留める銃技。
低く呻き声をあげるオロバスに一瞬にして俺は間合いを詰める。そしてそのまま傷口を靴の先で抉り蹴る。
「ああっ!」
ふらつく足取りのオロバス。俺はそれを牽制するように笑いかける。
「はは、みっともねぇな。それで大事な人でも守るつもりか?お笑いだよ」
「五月蝿い…。勝ち目がなくても、あの人の笑顔だけは、あの人の心だけは、汚すことも失わせるわけにも、いかねぇんだよ!」
何一つとしてこいつは分かっていない。人々にどんな極悪非道なことをしたのかを。なんの罪もない子供たちを殺し下水道のようなひどい場所に捨てていたことを。
俺はふつふつと湧き上がる憤りに戸惑いを覚える。なぜ自分が見も知らない子供や人のために憤っているのか。それは不死身を手にした化物観点がそう思わせているだけなのか。
「正直さ」
「あぁ?」
「俺もなんで怒っているのか分からないんだよ」
「お前何言って」
「でもただ、それでもただ言えることはある。いくらその人の為でも、やって悪いことは注意して、止めなければならない。それが例え従者や下僕関係だとしてもだ。お前はレヴィアタンのやってきたことを全て黙認していた」
話すうちにわかる。こいつはどこか俺に似ている。境遇は別々だろうが、性格はそこそこに似ている。
「もう一度問うぞ、くそ馬骨野郎。お前にとっての正義はなんだ?」
暫くの沈黙。
そして、オロバスの応えは
「レヴィアタン様のために、ここで勝つことだ!」
そうか。そこまでの覚悟か。死んでまで、嫉妬の魔王を守るのか。
「いいだろう。オロバス、お前の忠誠心はよくわかった。でも、一方通行の自己犠牲はエゴ以外の何者でもないぞ」
「そんなこと百も承知だ」
ゆらりとオロバスは立ち上がり剣を構え、目は俺を見据えている。
「剣技、死の涙」
瞬間、時が止まったように思えた。目では追えていたはずなのに、消えた。
「どこを見ている。僕は後ろだぞ」
俺は咄嗟に走り出す。俺がいた場所に剣の軌跡が弧を描いているのが一瞬だけ見えた。あそこにいれば俺は真っ二つ。考えるだけでも身が弥立つ。だけど、
「俺は勝ってるぞ」
何もいない場所に俺は笑いかける。そう、この勝負は俺の勝ちなのだ。
「俺なら、レヴィアタンの呪縛を解いてやれるぜ」
「!?」
マグ達は口を開けて呆然としている。しかしこれはハッタリに近い。だが、オロバスはそうでもなかったらしい。
「どういう、ことだ」
姿を現したオロバスはそのまま膝をつく。そして俺といえば、
「こういうことさ」
膝をついたオロバスのした顎を蹴り飛ばす。
「がっ…」
「悪いけど、少し寝ていてもらう」
幕引きはあっけなく、そして地味。
「毎度思うんです」
マグが目を赤く腫らして俺に向かって言う。
「もう少し格好つけて勝ってくださいよ」
派手な演出より地味な演出よりの方がいいと俺は思うんだけど…。言われたら仕方ないので、
「ぜ、善処します…」
戦いに勝ったはずなのに、なんか負けた気分ですね…。
俺は割と本気で殴ったのだが、オロバスは普通にむくりと起き上がる。
「転生者。お前の拳は僕には届かねぇよ」
欠けた馬の頭蓋骨の隙間から見える目は只必死だった。
「僕は、ここで負けることは出来ない。レヴィアタン様のために!」
オロバスは剣を鞘から引き抜く。俺も銃を錬成する。
「どんな理由がお前をつき動かしてるのか知らねぇけどよ、だからといって人を殺すことが許されることじゃねぇんだぞ」
「五月蝿いっ!お前に何がわかる!僕にとっての正義は、レヴィアタン様を守り、レヴィアタン様のために死ぬ事だ!ここで死ぬなら、刺し違えてでもお前達を殺す!」
いくらその覚悟が本物で、偽りや曇りのない正義であるとしても、それでもその正義は俺にとっては、
「悪同然だ」
銃を構え二発、発砲する。
「くっ…!」
オロバスは銃弾の軌道を呼んで一発だけ切りつける。
(もう一発はーーーーーッ!?)
俺は笑う。それは勝利を勝ち取ったものではない。俺は心底笑う。それは自分のしていることが正しいと思ってのことではない。
「後ろさ」
二発目の銃弾がオロバスの右肩を貫く。反射弾。反射弾をもちいて敵を確実に仕留める銃技。
低く呻き声をあげるオロバスに一瞬にして俺は間合いを詰める。そしてそのまま傷口を靴の先で抉り蹴る。
「ああっ!」
ふらつく足取りのオロバス。俺はそれを牽制するように笑いかける。
「はは、みっともねぇな。それで大事な人でも守るつもりか?お笑いだよ」
「五月蝿い…。勝ち目がなくても、あの人の笑顔だけは、あの人の心だけは、汚すことも失わせるわけにも、いかねぇんだよ!」
何一つとしてこいつは分かっていない。人々にどんな極悪非道なことをしたのかを。なんの罪もない子供たちを殺し下水道のようなひどい場所に捨てていたことを。
俺はふつふつと湧き上がる憤りに戸惑いを覚える。なぜ自分が見も知らない子供や人のために憤っているのか。それは不死身を手にした化物観点がそう思わせているだけなのか。
「正直さ」
「あぁ?」
「俺もなんで怒っているのか分からないんだよ」
「お前何言って」
「でもただ、それでもただ言えることはある。いくらその人の為でも、やって悪いことは注意して、止めなければならない。それが例え従者や下僕関係だとしてもだ。お前はレヴィアタンのやってきたことを全て黙認していた」
話すうちにわかる。こいつはどこか俺に似ている。境遇は別々だろうが、性格はそこそこに似ている。
「もう一度問うぞ、くそ馬骨野郎。お前にとっての正義はなんだ?」
暫くの沈黙。
そして、オロバスの応えは
「レヴィアタン様のために、ここで勝つことだ!」
そうか。そこまでの覚悟か。死んでまで、嫉妬の魔王を守るのか。
「いいだろう。オロバス、お前の忠誠心はよくわかった。でも、一方通行の自己犠牲はエゴ以外の何者でもないぞ」
「そんなこと百も承知だ」
ゆらりとオロバスは立ち上がり剣を構え、目は俺を見据えている。
「剣技、死の涙」
瞬間、時が止まったように思えた。目では追えていたはずなのに、消えた。
「どこを見ている。僕は後ろだぞ」
俺は咄嗟に走り出す。俺がいた場所に剣の軌跡が弧を描いているのが一瞬だけ見えた。あそこにいれば俺は真っ二つ。考えるだけでも身が弥立つ。だけど、
「俺は勝ってるぞ」
何もいない場所に俺は笑いかける。そう、この勝負は俺の勝ちなのだ。
「俺なら、レヴィアタンの呪縛を解いてやれるぜ」
「!?」
マグ達は口を開けて呆然としている。しかしこれはハッタリに近い。だが、オロバスはそうでもなかったらしい。
「どういう、ことだ」
姿を現したオロバスはそのまま膝をつく。そして俺といえば、
「こういうことさ」
膝をついたオロバスのした顎を蹴り飛ばす。
「がっ…」
「悪いけど、少し寝ていてもらう」
幕引きはあっけなく、そして地味。
「毎度思うんです」
マグが目を赤く腫らして俺に向かって言う。
「もう少し格好つけて勝ってくださいよ」
派手な演出より地味な演出よりの方がいいと俺は思うんだけど…。言われたら仕方ないので、
「ぜ、善処します…」
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