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信仰都市ギャンヴェル編

30 怠惰の魔王ベルフェゴールの悩み

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 匂いを吸っていたところ、メイドさんに見つかりました。ミスった。メイドさんはマグ達と一緒に行くと思っていたのになぁ。

 そして、しばしの沈黙。

「では、行きましょうか」

 華麗なスルー。見事なスルー。スルーを決め歩き出すメイドさん。

「待って!待って!なんか言って!俺が心苦しいから!精神的に来るから!」

「はぁ、そうですね。では」

 よ、よぉし。しっかりぼけたんだから(変態行為)盛大なツッコミを期待してますよ。

「キャー(棒)。ヘンターイ(棒)」

 あー…。うん。アレね。棒読み。あるよね、対応に困った時とかドン引きしてる時とか。なるなる。なるんだけれどね?

「感情込めてよぉ!」

 俺の悲惨な悲鳴が城の廊下に響いた。



   ○   ○   ○



 大広間にて。

「諸君ら。よく集まってくれた。この度は長旅ご苦労であった。存分に食事を楽しむと良い!」

 魔王城で開かれた労いの晩餐が開かれた。円卓で。席順は、時計回りでベルフェゴール、俺、リヴィアン、フェイ、マグの順番である。

「あの、ベルフェゴールさん?」

 恐る恐る隣にいるベルフェゴールに話しかけるが、やはり殿とか様とか先輩っ!とか付けた方がいいのかな。あ、でも最後のはないな。

「さんはいらない。ベルとでも読んでくれればよい」

「では、ベルさん。折り入って話があるのですが」

「嫉妬の魔王のことだろう?」

 ワイングラスの中の紅いワインを揺らしながら言う。なぜ知っているのか、とか野暮な事は聞かない。魔王だから。魔王はなんだって出来る。

「知っているなら話が早いです。あなたの力を貸してはくれないでしょうか」

 ふむ、と顎に手をやるベル。そしておもむろに口を開く。

「残念だがそれは出来ない」

「何でですかっ!?」

 リヴィアンが机を思い切り叩いて立ち上がる。憤るのもわからない訳では無い。だが今は控えて欲しい。話が進まん。

「落ち着けリヴィアン。あの、なぜ力になれないと?」

 ワイングラスをぐいとあおりベルは話し出す。

「まずは知っての通りオレの国は信仰都市として有名だ。だからといって信仰だけでは国はいつしか滅びる。だからこちらも色々な国から貿易を行っているわけだが、まぁグリゴレオ程ではないがね。主にここへ来る品物は大体たいていは嫉妬の魔王の国から来ている。そこから考えると君たちにも分かるだろう?オレと嫉妬の魔王が仲違いをしてしまえばこの国は数日もしない内に滅びてしまう。うちは武器なしの神頼みな人間ばかりだ。戦争なんてできやしないんだよ」

 商業の問題に戦争問題。この二つが折り重なってこの国を襲えばほぼ確実にギャンヴェルは滅亡へと繋がる。

「ーーーーーーッ!!」

 がたっとリヴィアンがまたもベルに殴りかかろうとするのをなだめる。

「落ち着けって」

「ただ」

 ベルは俺を見据えそう言った。

「ただ、オレの悩みを解決してくれるなら何とかしてやらんこともない」

「悩み?」

 なんと、ずっと怠けているイメージがあるベルフェゴール様に悩みとは。ゼウスもびっくりな事だな。

「ああ。最近モリガンの目撃情報が相次いで止まないのだ」

「確かここの信仰対象の…」

 前々回くらいに話していたあれか。

「メタ発言はやめた方がいいですよ」

 マグが俺のメタ発言をたしなめる。サーセン…。

「めた?まぁいい。そうだ、崇められている神の名前だ。モリガンが暴走しているとの噂も流れてきていてだな。その確認と、もしもモリガンが暴走していたらその討伐も頼みたい。それが出来たなら、最低限力を貸してもよい」

 なるほど。交渉にしてはリスクが高すぎるな。だけど。リヴィアンの横顔を見る。下唇を噛み血が薄く滲んでいる。悔しいのだろう。自分が下手したてであることが、自分の無力さが。憎くて、悔しくて、恨めしくてそれが酷く堪らない。その感情はリヴィアンだけのものではない。俺の感情でもある。

「その交渉、乗った!」

 机を盛大に叩く。びぐっとフェイが肩を震わせる。(可愛い)

「ほう?このリスクは大きいと思えるのだが?」

「神様相手にリスクが高い?はっ!寝言は寝てから言ってくれよ。ブエルを余裕でぶちのめしたんだ。今回だって余裕だよ」

「フラグ乙」

 おいやめろ!そんなん言ったら作者がやりかねないだろ!ピンチからの大逆転系の戦闘アニメ大好きなんだから!とマグのツッコミを華麗に切りさばく。いや、さばけてないけど。

「とまあ、不安も残るがベルさんにゃあ手伝ってもらわないと困るからな」

 こうやって俺は神様の様子見兼討伐の依頼をすることになったのだった。
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