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貿易都市グリゴレオ編

12 癒しを求めた戦い 中編

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 鏡に映る誰かが言う。

『僕は君で君は僕だ。だからさ?一つになろう?そうすれば君は苦しまずに生きていける』

 鏡に映る自分を見つめて問いかける。

「本当に苦しまないのかい?僕は…一人だ。今も昔も何一つ変わらない。君は前もそう言って、それに従った僕は一人になった。君を信じていいのか分かりやしないんだ。だから君に従うのは合理的じゃない」

 そんな彼を嘲笑うかのように鏡に映る誰かが諭すように話す。

『じゃあ君はこの感情が何か分からないまま時が過ぎるのを待つつもりかい?それこそ不合理だ』

 鏡に映る虚像。鏡に映らない実像。

「僕は、僕が分からない。君は一体誰だ?僕は一体なんだ?」

 鏡に映る誰かがせせら笑う。

『だから言っているじゃないか』

  少しの間があり鏡に映る誰かは口を三日月型にして凄惨に笑った。

『僕は、傲慢の魔王ルシファー。君自身だよ』

 鏡に映る虚像のルシファーは実像のルシファーを見つめていつまでも凄惨に笑っていた。



   ○    ○   ○ 



 あららら、やっちゃった。

'言っている場合ではありませんよ。次の攻撃が来ます。防御魔法を唱えてください'

りょーかい!

「プロテクトシェル!」

 マナを俺の周囲に集め、質量変換し硬くする。すると驚くことに魔王の攻撃さえも効かな

 バギンッ!

「え」

 パンチだ。マナのマすら纏っていないただのストレートパンチ。それだけでマナのガードを破って来た。

「グぶっ!」

 鳩尾にクリティカルヒット。痛みこそなけれど呼吸が苦しくなる。

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァーーーーーーーーーーーーーッ!まだまだ強くなれるのに理解出来ていないとはねぇっ!全く宝の持ち腐れじゃあないか!僕がその頭の中にいるソレ、貰ってあげるよ!それとも、僕を救ってくれるのかい!?」

 踊るように軽快なステップを踏みつつ俺に攻撃を仕掛けてくる。まさに

「踊り狂う道化師、ピエロ……」

 今のルシファーは恐らく溜め込んできたストレスと、押さえ込んだ欲望が暴走して今の状態に至っているのだろう。

 ガゴンッと民家の壁に勢いよくぶつかる。パタタッと地面に落ちていった液体は赤黒い、血。

'次の攻撃が来ます。防御魔法を唱えて'

「ッるせえ!!黙ってろ!」

 どうする?どうすればあの道化師を、自分を隠し続けて来た可哀想な魔王を元に戻し尚且つ倒す為には…。

 起き上がろうとすると身体が動かないことに気付く。

「君にだから一つだけ教えてあげよう。今の僕は虚像の僕だ。実像の僕は虚像となり、虚像の僕は実像になった。僕こそが本当の」

 ルシファーの教えてくれることなどお構い無しに俺は考えていた。リヴィアンは何故買春をしようとしていた?いや、そもそもリヴィアンが眷属になった理由は?なんだ?何かがおかしい。

 そして、気付く。

 "全てお芝居"という事実に。俺の憶測が正しければの話だが。

「ふひっ。ひひひっ」

 つい笑ってしまう。ここまでするか?普通。嫌われるのにここまでする?

 怪訝そうにルシファーは俺を見ている。

「何が可笑しいんだい?」

 魔王ってのは相当繊細な奴らしい。

「くひっひクククッ」

「その笑い方、不愉快だよ」

 無表情になったルシファーは俺を思い切り蹴る。が、それでも笑うのをやめない。

「ぐっ!…フ、くくっハハハッ!あんた最高だな。そんでもって酷く虚しい奴だ。自分をバラバラにしてまで嫌われたいのか?」

「なんの事だい?」
 
 「ああ、忘れちまったのか。自分が何をしようとしていたか、その目的をあんたは見失った。感情に飲まれたんだな。嫉妬の感情に」


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