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災厄 二

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その夜。
浩一はスマートフォンのゲームにひたすら没頭していた。
一方で、背後からかすかな寒気のようなものを感じていた。

けれども、今はゲームの方に夢中だ。
高鳴る高揚感に心を奪われ、そんなことは全く気にも留めなかった。

ゲームの画面を進めようとスマートフォンの画面に触れようとしたその時だった。

痛い。
急に頭の方に鈍い痛みを感じた。

ズキズキとした痛みというよりは、どちらかというと誰かに手で強く押さえつけられているような痛みだ。

「いてて......」

思わず、手で頭を押さえてしまう。
痛みに加えて寒気のようなものもひどくなってきた。

風邪なのだろうか?
それにしてはなにか様子が変だ。

体に異常が起こっていると言うよりかは、何者かの手で人為的に引き起こされているような感じがする。

浩一はふと考えた。

「浄霊対策はさっきやったはずだ......何が原因なんだ?」

それでも、一応やるだけのことはやったのだ。
これ以上気にしていても仕方がないし、今日は頭痛薬でも飲んで寝るとするか。

そう思い、立ち上がろうとしたその時だった。

バチン

急に家の電気が消える。

またか、と浩一は思った。

停電に関しては慣れっこだ。
これぐらいなんともないだろう。

ブレーカーのある玄関の方へ向かおうと、足を一歩踏み出したその瞬間だった。

体の奥底からとてつもない気持ち悪さがこみあげてくる。
めまいのように視界がグラグラするような感じもある。

浩一は思わず、立っていられなくなる。
床に膝をつき、そのまま額を押さえる。

「ダメだ。気持ち悪い」

こんなに気分が悪いのは生まれて初めてだ。
気を抜くと意識を失いそうになる。

視界が何だか暗転してくるような感じだ。
一体何が原因なんだろう。

そうこうしているうちに、身体の力が少しずつ抜けていく。

浩一はそのまま意識を失って倒れてしまった。



「ここは......」

目覚めると、そこは暗い森の中のようだった。
風が吹き、近くの木々が不気味に揺れ動く。
辺りは誰も居らず、真っ暗な情景だけが周りに広がっていた。

強い風が再び吹き、周りの木々を揺れ動かす。

寒い。
なぜだかわからないが、寒気が止まらないのだ。

身体中が激しく震え、謎の恐怖心のようなものが湧き上がってくる。

一体ここはどこなんだ。
何が起こっているんだ。

浩一は訳がわからない状況に不安を募らせることしかできずにいた。

その時だった。

ガサッ

何者かが草木の間をかき分けて進んでくるような音が聞こえてくる。

ガサッ

ガサッ

ガサッ

徐々にその音は自分の方へと近づいてくる。

逃げ出したい。
しかし、身体が動かない。

悪寒が強くなってくる。

ガサッ

ガサッ

心臓が破裂しそうなほど波打つ。
今すぐ逃げ出したいのに足が動かない。

「ハアッ......ハアッ......ハアッ......」

鼓動が早くなり、今にも死んでしまいそうだ。
息切れが止まらなくなる。

音が目の前まで近づいてきたその時だった。
急に音が止み、辺りは静寂に包まれる。

聞こえるのは自分の息遣いと心臓の鼓動だけだ。

脅威は去ったのか。

そう思い、後ろを振り返る。
すると____、目の前には、浩一が『ひとりかくれんぼ』で使ったくまのぬいぐるみが立っていた。

「うわっ!」

思わず叫んでしまう。
目の前に広がる光景に束の間の安堵が恐怖へと変わっていく。

ぬいぐるみは遊びで使用した時の手のひらサイズではなく、浩一の身長を大きく上回る大きさだった。
無機質なその目は不気味にこちらを睨みつけているようであった。

浩一は一目散にその場を離れようとした。
けれども、足が動かない。

まるで何者かに押さえつけられているようだ。

考える間もなく、目の前のぬいぐるみが浩一の方に手を伸ばす。
当然、距離があるので手はこちらに届かない

だが、なにか変だ。

首が苦しい。
ぬいぐるみの手は届いていないのに、何者かに首を締められている感じがする。
まるで、ぬいぐるみが手を伸ばした先に、見えない透明の手があり、首を締めているようだ。

「ウウウ......」

声にならない悲鳴しか出すことができない。
暴れようとするが身体を動かすこともできず、為す術もなかった。

どんどん首に感じる力が強くなっていく。
じわじわと力が加わり、苦しさが増す。

徐々に意識が遠のいていく____。
視界が少しずつぼやけ、やがて目の前が真っ暗になった。



気がつくと、浩一はリビングの前に倒れていた。
先程とは違い、自分の前に見えるのはいつものアパートの風景だった。

だが、心臓の鼓動は激しく波打ち、身体中からは汗が吹き出していた。
それにかすかに頭が痛い。

「なんだったんだ......今のは......」

浩一は先程の目を疑うような悪夢に、ただ怯えることしかできなかった。
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