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事故

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ひとりかくれんぼが終わった。

浩一は電気をつけようとブレーカーのつまみを上げる。
だが、電気はつかなかった。

カチッ
カチッ

何度もつまみを上げ下げしたが、それでもつかない。

どうしてなんだ。

カチッ
カチッ

浩一は何十回もつまみを動かした。
それでも、部屋の明かりが灯ることはなかった。

それに向こうまでさっきまで点いていたテレビも消えている。
真っ暗な闇が周りを包み込んでいた。

「なんで、なんでなんだ」

再び、眠っていた不安が再燃する。

浩一は少し汗もかいていたこともあり、夏なのにも関わらず、寒気のようなものを感じた。

時計を見る。
現在は深夜の3時過ぎ。
かれこれ一時間も「ひとりかくれんぼ」をしていたということだが、それでも夜明けまではまだ早い。

そうだ。
幽谷にメッセージを送ろう。

スマートフォンのスイッチを押す。
けれども、スマートフォンの明かりがつかない。

再起動をしても、何をしてもつかないのだ。

「えっ......」

浩一は次から次へと起こる異変に動揺を隠せずにはいられなかった。
けれども、このままここにいても埒が明かない。

もう「ひとりかくれんぼ」は終わったんだ。
このまま寝てしまおう。

自分の布団がある部屋へ急ぎ足で向かう。
その時だった――。

ガシッ

何者かに足首を掴まれた感触があった。
それも、ものすごく強い力で。

「うわっ」

思わずその場に倒れ込む。

これはまずい――。
浩一はとても強い恐怖を感じた。

一目散に自分の部屋に入り、布団の中に駆け込んだ。

布団の中に入ればもう安心だ。

そう考えた瞬間だった。
周りで変な音が聞こえる。
ラップ音、なんだろうか。それに布団の近くではバタバタと誰かが歩き回る音が聞こえる。

心臓の鼓動は高まり、不安が再び、心の中で渦巻いていく。

浩一は布団の中で震えながら朝を待った。

――どれぐらい時間が経っただろうか。
眩しい光が顔をかすめる。

既に陽が出る時刻になっていたようだ。

スマートフォンを取り出し、時間を確認する。

12:30

「もう昼か......」

浩一はため息まじりに呟く。
だが、やはり昨日のことが引っかかる。
改めて家の中を見回した。

いつも通りの特に変わったことがない部屋。
そう思ったが、やはり、何かが違う。

部屋のあちこちから異様な気配がするのだ。
霊感がまったくない浩一であったが、それでも身体が訴えかけるようにはっきりと強い不安感を覚えた。

まさか、数時間前に行った「ひとりかくれんぼ」のせいだろうか。
いや、手順通りに「遊び」を終わらせたはず、何か見落としている点は......。

そう考えていると大事なことを見落としている事に気がついた。

「そうだ! 人形を処分していなかった!」

浩一は急いで浴槽の近くに向かう。
予想通りだ。

クマのぬいぐるみが風呂桶のすぐ側に置いてある。
電気が点かなかったこともあったが、それ以前に置き忘れていたのだろう。

「確か......、人形の処分はどうやるんだったっけなぁ.......」

そう言いながらスマートフォンを取り出し、再び「ひとりかくれんぼ」について検索をかける。

「使用したぬいぐるみは最終的に燃やす形で処分を行う.......」

ぬいぐるみの処分方法を読み上げる。
しかし、燃やすとはいえど、浩一のアパートは住宅街の真ん中にある。
近くには簡単に燃やせる場所もなかった。

「燃やすか......困ったな......」

浩一は悩んだ様子で頭を抱える。
このぬいぐるみが然るべき形で処分できなければ、どんな災厄が自分に降りかかるか予想できない。
それ故に、なるべく早く処分をして終わりにしたかったのである。

近くの森で燃やすのはどうだろう。
けれども、もしボヤ騒ぎになって警察が来たら余計厄介なことになりそうだ。

「どうしようか.......ごみ焼却場に持っていくか。どうせ燃やすんだし」

難しく考えるのが苦手だった浩一は短絡的な考えでぬいぐるみをゴミ袋に入れた。
そして、それを持ち、考える間もなくアパートを出た。

近くのごみ焼却場まで行こう――。
そう思いながらアパートの十字路に向かって自転車を走らせたその時だった。

突如、十字路の死角からトラックが飛び出してきた。

「えっ......!?」

ガシャーン!!!!!

金属のきしむような音とと共に、浩一の自転車がトラックに巻き込まれた。
身体が押しつぶされるような強い痛みと衝撃を感じる。

暗転する視界の中で、浩一の目に入ってきたのは、潰れた自転車のかごに挟まった「あのぬいぐるみ」であった。
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