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祟り
しおりを挟む浩一は最近うなされることが多くなった。
自分が何者かに追いかけられる夢ばかり見るのだ。
家でラップ音も鳴る頻度も増えていき、母はノイローゼ気味になっていた。
浩一の言う通り、最初は自分の先祖の霊がそれを引き起こしているのだろうと受け入れていた母であったが、四六時中それが続くにつれて、イライラする事が多くなっていった。
また、母は謎の倦怠感や得体のしれない気配を感じるという話をすることも多くなった。
浩一と同じで母もうなされて眠れない日々が続いており、睡眠不足や倦怠感による疲れからなのか、家で横になる回数が多くなっていった。
「どうしよう......」
浩一は内心では「まずい」と考えていた。
まさか遊び半分でやった「儀式」や「遊び」がこんな形で現れるとは思っていなかったのである。
でも、どうすればいいかわからない。
霊能者を呼んでお祓いをしてもらうべきか。
でも、そんなことをしたら霊能者の霊視などによって自分が原因で一連の怪奇現象が起こっている事が公になってしまう。
それに霊能者を呼ぶには数万から数十万もかかるそうだ。
当然、自分の貯金ではそんなお金を出すことはできない。
浩一は時が立てばこの問題もいつか解決するだろうと思っていた。
そう考えながら過ごしていたある日、とんでもない出来事が起こってしまった。
「プルルルル」
一件の電話が鳴り響いた。
母が受話器を取って要件を聞く。
「もしもし、えっ......おじさんが交通事故で亡くなった.......」
浩一は母の声を聞いて、心臓が飛び出しそうになった。
おじさんといえば、浩一の母の従兄弟にあたる。
浩一も幼い頃にドライブやレストランに連れていってもらった記憶がある。
母曰く、以前親戚の家に行った時にはとても元気であったようだ。
それが突然の急死。
死因も自分の父親と同じ交通事故。
浩一はそれを知ってただ事ではないと考えた。
そして、今はこの一連の「祟り」のような出来事をこれ以上起こさないようにする方が先決だと考えた。
「もしかすると、あの人形をちゃんと供養しなかったのがいけないのかもしれないな......それだったら......」
浩一は、前に「生き人形遊び」で使った人形と合わせ鏡を入れた袋を自分の部屋の引き出しから取り出した。
「寺で供養ができないのなら自分で供養するしかないか......」
浩一は持っているスマートフォンで供養のやり方を調べようとした。
その時、母の声が聞こえた。
「お母さん、おじさんの葬式に行ってくるから。浩一はどうする?」
浩一は特に何もなければ行ってもいいと思った。
しかし、今はこの人形の供養が最優先で、それ以外の事は後回しにするしかない。
「ごめん、お母さん。俺今ちょっと体調が悪くて動けないんだ。おばさんによろしくって伝えといて」
浩一はその場しのぎの嘘をついた。
流石に母がいる時に変な動きをしたら勘付かれてしまうかもしれない。
なるべく早く、母がいない機会を狙って供養をするなら今しかない
母は喪服に着替えると、すぐに家から出ていってしまった。
「よし、ようやく動ける!」
浩一は、自分で行える供養のやり方をスマートフォンで検索した。
ところが、検索結果に表示されたのは、供養を行う業者のホームページが大多数を占めており、浩一が手に入れたい情報は手に入らなかった。
そこで浩一は、自分で考えたオリジナルの供養を行うことを決めた。
方法としては、人形の近くで線香を焚き、インターネットの動画サイトで見つけたお経の動画を全て流すというものだった。
普通であればこのような考えには至らない筈であったが、叔父の死や一連の怪奇現象などによる不安感から手段を選んでいる場合ではないと結論付けてしまったのだった。
「とりあえず、人形の周りに線香を焚いて......家の中でも焚くか。あとは、お経の動画をたくさん流しまくれば大丈夫だろう。」
浩一は自身が考えたやり方を確認すると、すぐさま行動に移した。
まずは、百円ショップに行き、線香を購入した。
次に以前使ったチャッカマンを戸棚から取り出すと、人形のそばに並べた。
それから、スマートフォンで動画配信サイトを開くと、除霊に効果があるとされるお経の動画をクリックした。
動画を開くと、幼い頃、父の葬式の時に聞いたことがあるような、単調なリズムのお経が流れてきた。
浩一はスマートフォンの音量ボタンを最大まで上げ、部屋全体に音が行き渡るようにした。
「よし、あとは線香か......」
浩一は線香を一本持つと、その先端に向けてチャッカマンで火をつけた。
線香の先は赤く燃え、白い煙が出た。
浩一の周りには、独特な香りが立ち込めた。
線香を焚きながら、ふと考えた。
「この線香の煙とお経の動画を全ての部屋で流せば、この家全体を除霊できるかもしれない」
浩一はそう言うと、左手にスマートフォン、右手に線香を持って、家の中を周回した。
家全体に線香の煙が行き渡り、しばらくの間、除霊動画の音声が家全体に鳴り響いた。
母の部屋も念のために除霊しておこう。
そう思いながら母の部屋に足を踏み入れた途端、部屋の奥にある父の遺影と目が合った気がした。
「もし、俺の父さんが生きていたら、ものすごい怒るだろうな......まあ、死人に口なしというから、そんなこと気にしなくても平気かもしれないけど」
その時、父の遺影ある仏壇の方を見ると、線香の束が置かれていた。
「なんだ、線香買わなくても家にあったじゃん」
浩一は、残念そうな顔をして母の部屋を後にした。
「こんな感じで大丈夫か」
これで全ての部屋の除霊が済んだはずだ
浩一はそう考えながら、少し安心したような心持ちになった。
しかし、その安堵と共に、ある罪悪感のようなものがこみ上げてきた。
「俺のせいで......叔父さんが死んだかもしれない......」
いくら遊びとはいえど、まさか人が死ぬなんて思ってもいなかった。
自分のやったことは間接的ではあるが、人殺しなのだ。
もはや取り返しのつかない事をしてしまったのかもしれない。
浩一は深くうなだれながら、心の中で深い後悔をした。
そして、しばらく悩んだ末に、一つの誓いを立てた。
「もう危険な儀式や遊びをしないようにしよう」
そして、これからもその誓いを守っていかなければならないと考えた。
また人が死んでしまうかもしれないのだから。
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