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違和感

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「生き人形遊び」をした次の日、浩一 は体に謎の違和感を感じていた。

 体全体が重苦しい。
 それに倦怠感もひどく、なかなか起き上がれない状態だった。
 
 昨日、夜遅くまでオンラインゲームをしたせいだろうか、それとも......

 その時、浩一のスマートフォンからメールの着信音が鳴った。
 
 確認してみると母からだった。
 
「お母さんは今日の夕方帰ってくるので、お留守番お願いします」
 
 時刻を見ると、朝の10時を過ぎていた。
 
「夏休みだけど、もうそろそろ起きないといけないな」

 浩一はそう言うと、ゆっくりと布団に力を入れて起き上がろうとした。

 しかし、体が重い。
 まるで見えない何かが体の上から押さえつけているような感覚だ。

 浩一は力を入れてようやく起き上がる。
 
 その日は雨だった。
 部屋全体も雰囲気が変わったような、暗い感じがした。

 浩一は昨日の「遊び」で使った人形をどこに置いたか確認した。

「特撮ヒーローの人形はあるよな......あとは怪獣の人形......」
 
 まずは人形を入れた戸棚の中を探した。
 
 だが、人形は見つからない。

「えっ、なんで......」
 
 浩一はもう一度戸棚の上から下までを入念に探した。

 それでも、肝心のもう一つの人形が見つからない。

「なんでないんだよ......」

 浩一は心拍数が少しずつ高まっていくのを感じた。
 
 いくら「遊び」と言えど、侮ってはいけない。
 
 昨日もかすかではあるが怪奇現象のようなものを感じたのだし、そのままにしていては流石に何か起こるのではないか。
 
 心の中でそのように考えながらも、思い当たる場所を一つずつ探していった。

 ところが、どこを探しても人形を見つけることはできなかった。

 浩一は投げやりな様子で独り言をつぶやいた。

「実際に『生き人形遊び』をやってる人の動画を見たけど、その人達はその後死んだりとかもしてなかったよな」

 それに、前やった「こっくりさん」だって「チャーリーゲーム」の時だってそこまで大したことは起こらなかった。
「さとるくん」の時は変な夢を見たがあれもただ怖いと思い込んだ心が起こした幻影のようなものだろう。

 そう自分に言い聞かせながら、人形が見つからないことに対する不安感を振り払おうとした。

「とりあえず、この人形だけでも寺で供養しないといけないな」

 浩一は手持ちのスマートフォンで近くに供養ができる神社がないかを調べた。
 
 しかし、現在住んでいる地域にはそのような神社はなく、隣町まで行かないといけない様であった。

 浩一は少し考えたのち、自転車の鍵を取り出した。

「忘れないうちに早く持っていったほうがいいよな、ずっと残してたらもやもやするし。残りの人形はまた見つかった時にでも供養するか......」

 そのまま家を出て、自転車で隣町へ向かった。

 数時間後、浩一は途方に暮れた様子で家に帰ってきた。

 隣町の神社は現在の時期では供養を受け付けていないのだった。
 また、人形などの供養をするにはお金が必要であり、浩一の手持ちの貯金では足りない状況であった。
 それ故に、諦めて帰ってくる他なかった。

「どうすればいいんだろう......」

 浩一はしばらく考え込んだ。
 それでも、答えは出て来なかった。
 
 その時、心にある考えが浮かんできた。
 
「この人形はあくまで身代わり用の人形だ。儀式で本格的に使用した訳でもない。」

 確かにその通りだー―と浩一は考えた。
 
 それにもう午後だ。
 夕方には母も帰ってくる。
 
 浩一は、母が帰ってきた時に勉強しているように見せようと、リビングの机に夏休みの宿題を置いた。
 そして、スマートフォンのゲームをやりながら、解けそうな問題を先に解いていった。

 「パチッ!」

 問題を解いている間も謎のラップ音が数分おきにリビングに鳴り響いた。

 また、それだけではなく、背後に何者かがいるような気配を幾度も感じたりした。

 これも昨日の『生き人形遊び』のせいなのか、そのような考えが心の中を何度も交錯し、宿題に集中することができなかった。
 
その時、家の扉が勢いよく響いた。

「ただいま」

 何事かと思い玄関の方を見ると、そこにいたのは母だった。

 いきなり驚かすのはやめて欲しいな、と思いながらも、浩一は黙々と宿題をやっているふりをした。

 その時だった。

「なんかこの部屋変じゃない?」

 母がリビングのかすかな異変を感じ取った。

 浩一は一瞬、「ドキッ」としたが、何もないかのように母に返答した。

「気のせいじゃないの? 何も感じないけど」

 しかし、全く気にも留めない浩一の様子を見て、逆に母は疑心暗鬼になった。

「浩一、あんた何か隠してない?」

 浩一は、内心では「ギクッ」とした。
 こういう時はどう返答すればいいのか。

 しかし、迂闊に何かを話したらまずいことになるかもしれない。
 少しは母の言葉に耳を傾けながら、何も知らないという態度を一貫して演じることにしようーー浩一は心の中でそう考えた。

「何も隠してないよ。でも、なんか確かに変かもしれないよね。」
 
「そうよね。なんか霊でもいるのかしら?」

 母は不安そうな様子で言った。

「霊か......そろそろお盆が近いからご先祖様とかが来てるんじゃないかな?」

「そうだといいけど......」

 母は会話をそこで止め、親戚から頂いた荷物などを整理した。

 とりあえず、今回はうまく母に詮索されないで済みそうだと浩一は考えた。

 けれども、確かに変だ。
 昨日「生き人形遊び」をやってから、体のだるさはまだ少し取れてないし、部屋のところどころからラップ音もする。
 それに異様な気配だってするし、家全体のどんよりとした雰囲気も消えない一方だ。
 
 明らかに「何か」がこの家にいるのではないだろうか。
 そして、それは自身が行った危険な「遊び」や「儀式」によって呼び寄せてしまったのではないだろうか。
 
 浩一はそう思いを巡らせた。

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