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停電

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 次の日。
 浩一は近くにいた友人に何気なくこっくりさんの事を話した。

「あのさ。実は俺昨日こっくりさんやったんだ」

「えっ。それって大丈夫なの?」

 眼鏡をかけた短髪の少年が浩一の方に椅子を向けて返答した。

 彼の名前は、昭人。
 浩一が入学してからの話仲間である。

「でもさ。こっくりさん呼んでもなんも返事なかったからやめちゃったんだよ」

 浩一は昨日の事を思い出しながら言った。

「へー。そうなのか」

 そして、間をおいて昭人は話した。

「まあ。おまじないとか本当にあるかわからないからな。でも、お前も変だよな。そんなのに興味持つなんて」

 昭人は苦笑いをしながら言った。

「だって仕方ないだろ。昔からそういうの......オカルトとかが好きなんだから」

 浩一は苦し紛れに返答した。

「正直、まあ俺から見たらそういうのってやり過ぎないほうがいいと思うけどな。なんか明るいこととかやったほうが良くないか?」

 昭人は忠告をするように言った。

「確かに言いたいことはわかるけど......」

 浩一は意表を突かれたように言った。

 キーンコーンカーンコーン

 ホームルーム開始のチャイムが鳴った。

「あとでな」

 昭人は席を自分の方へ戻した。

 一方で、昭人の言葉を聞いた浩一は心の中である感情が芽生え始めていた。





 学校が終わった夕暮れ時。
 
 昭人は落ち込んだ様子で家に入った。

「ただいま......」

 リビングの机を見ると、母のメモ書きが置かれていた。

「お母さんはパートで帰ってくるのが遅くなります」

 浩一の家は母子家庭だった。
 父は浩一が5歳の時に交通事故で亡くなり、保険金と母のパートのお金で生計を立てていた。

 家に母親がいない日も多く、浩一には兄妹もいなかったため、おまじないなどを咎める者が一人もいなかったのである。

 浩一は自分の部屋に入り独り言を話した。

「今日はさんざんだったな......」

 今日の浩一は不運の連続であった。

 体育の時間は理不尽なことで先生に叱られ、休み時間には隣のクラスにいるいじめっ子から嫌がらせをされた。

 掃除の時には腕に当たった花瓶が割れ、その破片で怪我をした。

 また、下校途中も車に轢かれそうになったのだった。

 だが、浩一はその不運が先日やったこっくりさんのせいであると認めようとしなかった。

 それどころか、今朝昭人に言われた言葉が心の中で引っかかっていた。

「『やり過ぎないほうがいい』か......そう言われるとなんかやりたくなるんだよなあ.......」

 すると、浩一の心にある考えが浮かんだ。

(そうだ。合わせ鏡なら別にやっても大丈夫だろう)

 浩一は好奇心の方が先行し、考える間もなく実行に移した。

 母の部屋にある三面鏡の前に立ち、鏡の扉を開く。
 そして、扉を動かして鏡の中にまた鏡が写るように配置をしていった。
 鏡に写った顔は合わせ鏡によって何重にも増えていき、異様な光景になっていった。

「確か......この前読んだ本だと『合わせ鏡の13番目の顔が自分の死に顔』とか書いてあったな......」

 浩一は試しに鏡に数を数えながら鏡に写っている自分の顔を数えていった。
 鏡が反射する毎に写った顔の色が変わっていくように見えた。

「たぶんここが13番目か......」

 反射によって顔の形が少し歪んでいるように見えたが、写っているのは自分の顔である事に変わりはなかった。

「なんだ。何もないじゃん。」

 浩一が鏡の扉を閉めようと手をかけた瞬間、彼の背中に軽く悪寒が走った。

 13番目に写った自分の顔が、にやり、と笑ったような気がしたのだった。

 彼は驚きのあまり、鏡の扉を勢いよく閉めてしまった。

 虚空の中に、「バン!」と扉が閉まる音が響いた。

(い、今の気のせいだよな......)

 彼は心の中でそのように呟いたが、心臓の鼓動は波打っていた。

 ふと窓を見ると夕闇が迫り、外はすでに暗くなりかけていた。

 浩一は気を紛らわそうと自分の部屋に戻り、パソコンの電源を入れた。

「とりあえず、ゲームでもするか」

 パスワードを入れ、ホーム画面に移ったところで、急にパソコンの画面が静止したまま動かなくなった。

「なんだよ。フリーズかよ」

 浩一はパソコンの電源を落として、再起動した。

 起動中に背後に人がいる気配を感じたが、特に気にかけずにオンラインゲームの画面を開いた。

「しばらくやってなかったからなー」

 独り言をつぶやきながらゲームの認証画面をクリックしようとしたその時――

 真横にあるリビングで「パチッ!」という音が大きく鳴り響いた。

 浩一は一瞬だけ体を震わせ、リビングの方へ顔を向けた。

 まだ母親は帰っておらず、リビングも電気を消していたため、そこには暗闇が広がっていた。

 少し間をおいたのち、浩一はこれがラップ音ではないかと考えた。

「でも、気にしていても仕方がないよな。さっきの合わせ鏡ぐらいで起こるなんて考えられないし、なんか別の音だと思うけどなあ」
 
 浩一は再びパソコンの画面に意識を戻し、ゲームに集中した。

「よしっ。一応ここまでできた。あとはセーブするだけだな」

 浩一がプレイしていたゲームはある程度まで進むとセーブをしなければいけない仕様だった。
 一方で、彼はそのレトロな仕様も気に入っている様子であった。

 セーブのアイコンをクリックしようとしたその瞬間――

「バチン!」

 電気のブレーカーが落ちる音と共に、辺り一面が暗闇に包まれた。

「えっ.......?」

 浩一は突然の出来事に何が起こったのか理解できないでいた。

「なんだよ......」

 浩一は周りが何も見えないことに不安を感じたが、このままじっとしていても何も変わらないと考え、ブレーカーの方向へと歩いていった。

 ブレーカーのスイッチを上げると何もなかったかのように照明が点灯した。

 そして、パソコンの方へ目を向けると画面は真っ暗になり、停電による影響か電源が落ちてしまっていた。

「データ消えちゃったじゃないかよ」

 浩一は、セーブ直前のゲームデータが消えてしまったことに怒りを覚えたが、先程のラップ音や停電が偶然ではなく、何者かによって引き起こされたのではないかという悪い予感が心の奥にあった。

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