異世界転移して最強のおっさん……の隣に住んでいる。

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第2章

積荷2

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王都のエンデリオ商会本部に、**レナスから届いた報告書(ノアが記したもの)**が届いた数日後。
その内容を確認した商会本部の重役たちは、すぐに信頼できる貴族ルートに相談し、グレイス伯爵に情報を提供する。

報告書の中には、ユートたちが未登録の薬品や積荷の封蝋の不審点を発見し、クロード商会に関する目撃情報も含まれていた。

伯爵はその中に記された名――
「積極的に動き、裏の痕跡を追っていた“ユート”」という人物に強い興味を抱く。

【王都・グレイス伯爵邸 応接室】

「商会の者は、“現場で動いていた若き冒険者”の存在を強調していた。
 私はピンと来たのだ――あの魔石の持ち主……あの青年しかいないと」

「カーラム商会の不正は、単なる裏取引では終わらん。背後には……もっと大きな何かがある。
 ならば、“既に異常な力を見せている者”にこそ、真実に近づいてもらいたい」


 「これが、カーラム商会の配送記録と、積荷リストの“二重帳簿”だ」
 グレイス伯爵は、ユートに重厚な封筒を手渡した。

 中には、本来の記録とは別に存在する“隠し積荷”のリストが。そこには、レナス行きの便に紛れていたあの薬品の箱の記録も――

 「……決まりですね。カーラム商会が、あの薬を“裏で流していた”のは明白です」

 「加えて、証言がある。クロード商会の関係者が“カーラムからの密命で箱を混ぜた”と話している。逃がす前に動く」

 伯爵は立ち上がった。

 「君にも同行してもらいたい、ユート。これは“表の調査”だが、相手が抵抗したときには……分かっているな?」

 「任せてください」
 ユートは即答した。


---

【王都・カーラム商会本部】

 翌日午前。
 王都の中心部にある、白い石造りの大きな建物。
 そこに、グレイス伯爵と護衛、そしてユートたちが現れる。

 「……うちに何のご用でしょうか、伯爵殿?」
 対応に出てきた初老の商会主・レゼルは、不機嫌そうに眉を吊り上げる。

 「積荷に不正があった。内容を確認させてもらう」
 グレイス伯爵の声は低く、揺るがなかった。

 「な、何を根拠に……っ!」

 その時、背後からギルド職員と商会連盟の役人が現れた。

 「王都商業規約に基づき、強制調査を実施する。協力を拒めば、その場で営業停止処分だ」

 レゼルの顔が青ざめた。


--

 調査班が建物の奥、鍵のかかった地下倉庫を開けた瞬間――

 「……あった」
 ノアが低くつぶやく。

 そこには“未登録の薬品箱”が積み上げられていた。封蝋は、あの箱とまったく同じ。

 「これで決まりだ」
 ユートが言った。

【カーラム商会・地下倉庫】

 ずらりと積み上げられた未登録の薬品箱。証拠は十分。
 商会主レゼルは、もう逃げられないと悟ったのか、震える声で白状を始めた。

 「……命じたのは、私たちではありません。私たちは、ただ“指示に従った”だけ……」

 「誰の指示だ?」
 グレイス伯爵の声は冷たく鋭い。

 レゼルは、しばらく言葉を飲み込んでいたが、観念したように言った。

 「……“オルディス家”です。王都西部の旧貴族で、今は裏で薬品と魔道具の流通を牛耳っている一派。彼らに逆らえば……家族の身が……!」


 「オルディス……? すみません、その家、俺は知らないです」

 伯爵は頷いた。

 「無理もない。オルディス家は、表向きには文官貴族として文化方面に尽力しているが……裏では、汚れ仕事も多く請け負う影の貴族だ。
 カーラム商会のような中堅商会や、各地の闇業者に薬を流し、王都内の“依存薬中毒”の温床になっているとも言われている」

 ノアも険しい顔で口を開いた。

 「今までも調査は入っていたんですが……表向きの顔が清廉すぎて、切り込めないでいたんです。証拠が出ても、揉み消される」

「だが、これでようやく手がかりが繋がった。
 ユート、この件……君に追ってもらいたい。私からも王都ギルド経由で正式に協力依頼を出す」

 「分かりました。とことん調べます」


---

バルト、ティナに話す

 「奴らがどこで薬を作ってるかが分かれば、一気に証拠を掴める。
 問題は、“どこに工房があるか”だが……噂では、オルディス領内にある古い鉱山跡に拠点があるとかないとか」

 「鉱山跡……それ、行ける距離か?」

 「数日かかるが、馬で行ける範囲だ。危険はあるが……やる価値はある」

---

【オルディス領・廃鉱山の入口】

 霧に包まれた山奥。獣道を抜けると、ぽっかりと口を開けた黒い穴が現れた。
 人の手で削られた痕跡はあるが、今はもう使われていない様子。しかし、風に乗って漂ってくる微かな薬品の匂いが、ここがまだ“生きている”ことを物語っていた。

 「……ここか」
 ユートが呟くと、ティナが鼻をひくつかせる。

 「……魔力の匂いもする。しかも、かなり濃い」

 バルトは剣の柄に手を添えながら、表情を引き締めた。
 「何が出てきてもおかしくないってことだな」


--

 地下へと続く坑道を慎重に進む。途中に人影はない。
 しかし、通路の奥――空気が変わった。

 「止まれ」
 ユートが静かに手を上げる。すぐ前方に、明らかな“殺気”がある。しかも尋常じゃない。

 そして――

 「……よくぞ来たな。王都の犬ども」
 闇の中から、ゆっくりと現れたのは、一人の男だった。



 黒い外套をまとい、肩から腰にかけて二本の湾曲した大剣を背負っている。
 その身体は筋肉質でありながら、静かに、獲物を狙う猛獣のように構えを取っていた。

 「アーゼル……!」
 ノアが息を呑む。

 「知ってるのか?」
 ユートが訊くと、ノアは険しい表情で答えた。

 「“黒き刃のアーゼル”。元王都の近衛騎士団所属――でも、あまりにも過激な戦闘嗜好と破壊癖のせいで追放された男。
 でも、今は……オルディス家の裏部隊の筆頭だって噂だった……!」



 アーゼルはゆっくりと前に出る。そのたびに空気が重くなり、地面がわずかに鳴る。

 「俺は強い奴としか戦わない。貴族? 命令? 知ったことか。
 だが貴様……その魔力の匂い。おもしれぇ。今すぐ、ぶっ潰したくなる」

 ティナは拳を握りしめるが、全身からあふれ出す戦気に、自然と一歩下がってしまう。

 「……こいつ、マジでヤバい」
 バルトも冷や汗をかきながら言った。


 「いいよ、下がってて。こいつは……俺がやる」

 バルトとティナが目を見開く。
 しかし、ユートの背中はどこまでも頼もしかった。

 「魔法は……使っていいんだよな?」
 ユートがそう呟いたとき、アーゼルが不敵に笑った。

 「かまわん。手加減なんて……こっちもしねぇ」


 次の瞬間、地面が砕けた。
 アーゼルが踏み込み、大剣を両手で構えながら疾風のごとく距離を詰めてくる!

 だがユートは、それを読むように魔法を展開――

 「ウィンド・シールド!」
 突風の壁が巻き起こり、アーゼルの剣が軌道を逸らされる。

 すかさず――
 「フレイム・ランス!」

 紅蓮の槍がアーゼルの肩をかすめ、爆発の衝撃で吹き飛ぶかと思いきや――

 「ぬるいッ!!」
 吹き飛ばされた砂煙の中から、傷一つない姿でアーゼルが飛び出す。


 ――ズンッ!!

 地面が抉れ、飛び散った岩片が周囲の壁に突き刺さる。
 アーゼルが跳躍し、大剣を真上から叩きつける。空気が唸り、ティナとバルトが思わず後退するほどの殺気。

 「ぬおおおおおおッ!!」
 「……その程度、読めてるよ」

 ユートは足元を滑らせながら横にステップ。
 その瞬間――「ストーンスパイク!」
 足元に突如現れた岩の槍が、アーゼルの腹を狙う。

 しかしアーゼルは体を捻って回避し、そのまま脇腹に回り込む。
 「速いッ! やっぱりおもしれぇぞ、オマエ!!」



 火、風、土、水――
 ユートは魔法を次々と展開し、速度、角度、属性を変えてアーゼルに浴びせていく。
 しかし、アーゼルの戦闘本能は恐ろしく鋭く、それらの魔法の一つ一つをギリギリでかわす、または刀身で弾き飛ばす。

 「これでどうだッ……!」

 ユートが叫び、両手を広げる。

 「ツイン・フレイム・ラッシュ!!」

 火の球が二重螺旋で放たれ、蛇のように絡みつきながらアーゼルへ飛来。
 アーゼルは一瞬たじろぎ――

 「おらよッ!!」
 ――爆発!!

 炎の爆音とともに視界が赤に染まる。




 「……終わった……か?」

 ティナが一歩前へ出ようとした、そのとき。

 ――ズリッ

 煙の中から、重たい足音が響いた。

 「……なかなか、やるじゃねえか……」

 ボロボロになった黒い外套を脱ぎ捨て、火傷と血で赤黒く染まったアーゼルが、なおも笑っていた。

 「でもな……本当に面白くなるのはこれからだ」

 懐から、赤黒い小瓶を取り出し――ゴクッと一気に飲み干す。


 ブゥン!!
 筋肉が膨れ上がり、血管が浮き上がる。瞳孔は爛々と輝き、吐息が熱気を含んで蒸気のように噴き出す。

 「強化薬……ッ!? それも……上級の……!」
 ノアの声が震える。

 「なにそれ、ズルじゃん」
 ユートは溜息混じりに一歩前へ。

 「……じゃあ、こっちも手加減やめるか」



 ドンッ!!

 ユートが地面を蹴る――その瞬間、空気が爆ぜた。
 疾風のような速度で間合いを詰め、アーゼルの拳とユートの拳が正面から激突。

 ガガッ!! ズドォン!!

 拳と拳の応酬。衝撃波が周囲の壁を砕き、地鳴りが響く。

 「クハハハ!! いい! もっとやれ!!」

 「じゃあ……遠慮なく!」

 ユートが渾身の魔力を拳に集中――

 「エンチャント・ブレイズ!!」

 拳が灼熱を帯びる。火の魔力をまとったその拳が、アーゼルの腹を打ち抜いた。


 アーゼルの体が吹き飛び、岩壁にめり込む。

 静寂。

 しばらくして、瓦礫の中から呻き声が上がる。

 「……ッたく……ホントに……バケモンだな、アンタ……」

 そう言って、アーゼルは気絶した。



 「ふぅ……強かった」
 ユートが息を吐きながら振り返ると、ティナとバルトがぽかんと口を開けていた。

 「……お、お前ほんとに人間か……?」
 「……でも、勝ったね!」

【鉱山跡・地下施設の奥】

 アーゼルを倒した後、奥へと続く通路を進むと――そこには広大な空間が広がっていた。
 石造りの床には鉄の器具が並び、複数の瓶、壺、火炉……そして、甘ったるく鼻に刺さる薬品の匂い。

 「……ここが、工房か」

 ノアが駆け寄り、作業台に置かれていた帳簿を広げる。

 「……間違いないわ。ここで依存性薬品が製造されていた。
 製造工程や、流通ルートまで――全部、残ってる。しかも、オルディスの名で発注された記録も……!」

 「証拠としては十分ですね」
 ユートが淡々と言いながら、床に転がる瓶のいくつかを拾い上げる。まだ薬液がわずかに残っている。



 背後から、ガタン、と音がする。
 ティナとバルトが警戒を強めると、気絶していたはずのアーゼルが、ふらりと立ち上がっていた。

 「……逃げようとか考えてないさ。もう、戦う気もねぇ」

 その声には、先ほどの狂気はない。
 むしろ、どこか……敗北の余韻すら漂っていた。

 「……お前、俺よりずっと強ぇのに……なんでこんな面倒なことやってんだ?」

 ユートはアーゼルを見据え、静かに言った。

 「“力だけじゃ守れないものがある”って、知ってるから」

 アーゼルはしばらく沈黙し――「……皮肉なもんだな」と笑って座り込んだ。


---

【ノアの提案】

 「この男、連れて帰るべきよ。王都で公正な裁きを受けさせる。
 あのオルディスの名前が、彼の口から出れば、さらに確実な証拠になる」

 「……自分が話せば、命はないぜ?」

 「でも……話す気があるんだろ?」

 アーゼルは小さく肩をすくめた。

 「勝った奴が何でも決めろよ。俺は……もういい」


---


 証拠の帳簿、薬品の見本、そして“黒き刃のアーゼル”本人。
 全てを確保したユートたちは、坑道を後にした。

 「今回の成果、ギルドに持ち帰れば……王都が揺れるかもしれないわね」
 ノアが言いながら、ちらりとユートを見た。

 「……だけど、今はそれが必要なのかも」


---

【王都・冒険者ギルド 本部応接室】

 坑道から戻って数日。ギルドへの報告書が提出され、ユートたちは応接室に通された。

 目の前に並べられたのは、分厚い帳簿、依存薬の見本瓶、そして鎖で拘束されたアーゼル。

 「……これが、全てか」
 グレイス伯爵は帳簿を開きながら、眉を潜める。

 「オルディス家の名が、ここまで露骨に出てくるとはな……。
 やはり、王都の薬物被害の裏には、あの家が関わっていたか」

 ギルドマスターも静かに頷く。
 「薬品は王都の裏市場でも拡がっていました。これが元だと断定できれば……貴族会議でも動ける材料になります」


---

【アーゼルの証言】

 「俺は……戦いたかっただけだ。だが、金と自由をもらう代わりに、口を閉じろと言われた」
 「その代償が、これだ。……本望じゃねえ」

 アーゼルはそう言いながら、視線をそらす。

 「証言は任せろ。俺の口から言ってやる。……誰にでも、贖罪ってのは必要だからな」

 ユートはその横顔を見つめ、静かに頷いた。


---

 「ユート。君はまた、大きな火種を持ち帰ってくれた」
 「……ただ、正しいことをしただけです」

 「謙遜するな。君のような者がいなければ、この腐った王都は変わらなかっただろう。
 君がいずれ、王に目をつけられる日も近いかもしれんな」

 冗談とも本気ともつかない声で伯爵が笑う。


---

【帰り道・夜の街角】

 ギルドを出て、ユートたちは街路を歩いていた。
 ティナはユートの腕を見ながら、ぽつりとつぶやく。

 「……あんな強い敵、初めて見た。
 ユートがいてくれて、ほんとによかった……」

 「いや、ふたりがいたから俺も安心して戦えたよ。
 これからも、たぶんまだいろいろある。でも……3人でなら、なんとかなる気がする」

 バルトが照れ隠しのように肩をすくめた。

 「なんか……そう言われると責任重くて胃が痛くなるな」

 「……ふふっ」

 夜の王都は静かに灯をともしていた。

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