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第2章
護衛依頼
しおりを挟む買い物を終え、陽が傾き始める通りを3人はゆったりと歩いていた。
「はぁぁぁ~……いっぱい買ってもらっちまったな。ユート、本当にありがとな」
「感謝してる。……ちゃんと、結果で返すよ」
ティナも控えめに言いながら、手に入れた装備をそっと撫でる。
「ん? ……なんか騒がしくないか?」
ユートが立ち止まった。
通りの先、角を曲がった路地から――
「やめろッ! 離せッ!」
若い男の叫び声が聞こえてきた。
続いて、*「くくっ……大人しく金貨出せばよかったんだよ」*と冷ややかな声。複数人いる。
ユートたちは顔を見合わせると、迷いなく駆け出した。
通りを曲がると、3人のならず者に1人の商人風の男が壁際に押し込まれている場面が目に入った。
「金も持ってねぇのにウロついてんじゃねえよ」
「荷物の中見せてみろや、なあ?」
ひとりが短剣をちらつかせる。
「おい、そこまでにしとけ」
ユートが静かに声をかける。
ならず者たちは振り返り、鼻で笑った。
「なんだテメェ、誰に口聞いて――」
ゴッ
ユートの膝が一閃。
最前列の男が吹っ飛び、壁に激突して昏倒。
「えっ……な、なんだテメェは――ッ!」
バルトがもう1人の男の手首を掴み、剣で脅す。
ティナは素早く残り1人の背後を取って、首元に剣をあてた。
「動いたら……刺すよ?」
「ひ、ひぃぃ……っ!」
震える男たちが捨て置かれ、警備兵に引き渡されると、商人風の青年が深く頭を下げた。
「本当に、ありがとうございました……っ! あと一歩遅ければ、あの荷物も……!」
「大丈夫か? ケガは?」
「いえ、平気です……でも、あなた方、もし良ければ……お礼をさせてください!」
青年は取り出した名刺のようなものをユートに手渡した。
「エンデリオ商会・見習い筆頭 ノア・スヴェル」
---
【翌日・ユートの自宅】
朝食を取り終えた頃、玄関の扉が静かにノックされた。
ユートが開けると、きちんとした仕立ての服を着た青年――昨日助けたノアが、軽く頭を下げて立っていた。
「突然の訪問、申し訳ありません。昨日のお礼と、できれば正式にご挨拶をと思いまして」
「……ここをよく見つけたな」
「王都のギルドに伺いました。“白い髪の獣人の少女”と“両手剣の青年”がいる3人といえば、すぐに教えてもらえましたよ」
ノアは笑みを浮かべながら、小さな木箱を差し出す。
「中身は、私の商会が扱う最高級のお茶と蜂蜜菓子です。よければ、皆さんで召し上がってください」
---
簡易な来客用スペースにノアを案内し、ティナとバルトも挨拶を済ませた。
「実は、ユートさんたちの実力を目の当たりにして、これはただの冒険者じゃないと感じました」
「ただの冒険者だよ、一応な」
ユートは肩をすくめる。
「それでも――」
ノアは少し前かがみに座り直す。
「我がエンデリオ商会は、今後より広い地域へ進出しようとしており、信頼できる護衛、あるいは協力者との繋がりを持ちたいのです」
「つまり……商会と冒険者の繋がり、ってわけか」
バルトが腕を組む。
「ええ。もちろんすぐに依頼をという話ではありません。ただ、名刺のような感覚で、今後のやり取りがしやすくなればと……」
ノアは、ユートたちが希望すれば商会専属の特別依頼ルートや、王都でも手に入りにくい物資の優先提供を申し出てきた。
「力になれることがあれば、どうか頼ってください」
「わかった。必要な時はこちらから声をかける」
ユートが頷くと、ノアは深く一礼して帰っていった。
【数日後・ギルドからの通知】
昼下がり、ギルドに立ち寄ったユートたちに、受付のエルナが声をかけてきた。
「ユートさん、ティナさん、バルトさん。あなた方宛に特別依頼が届いています」
「特別依頼?」
ユートが眉を上げると、エルナは一通の封筒を差し出した。
差出人――エンデリオ商会・ノア・スヴェル
封筒を開けると、そこには丁寧な手書きの文面が並んでいた。
---
《拝啓 ユート様
先日は本当にお世話になりました。
あれから商会内でもあなた方の噂は広がり、信頼と共に、大きな期待が寄せられています。
つきましては、今度我々が王都から西方の都市“レナス”へ向かう交易隊の護衛をお願いしたく、ご相談に参りました。
ご都合がよろしければ、明日の午後、エンデリオ商会本館にお越しください。
敬具》
---
【王都・エンデリオ商会本館】
翌日、ユートたちは立派な石造りの建物の前に立っていた。
門番に名前を告げると、すぐに通され、商会の応接室に案内される。
「お忙しい中お越しいただき、ありがとうございます!」
ノアは昨日よりもさらに丁寧な装いで頭を下げる。
「早速ですが、王都から西方レナスまでの3日間、輸送隊の護衛をお願いしたいのです。
道中には盗賊団の噂もあり、実力ある護衛がどうしても必要でして」
「荷馬車は何台?」
「4台です。物資は食料と薬品が中心で、商会にとっても重要な便になります」
「他の護衛は?」
「もう1組いますが、あくまでAランク相当の護衛が最低1人は必要だと、現地側の規定がありまして……」
「なるほどな」
ユートは一つ頷くと、隣の2人を見た。
「バルト、ティナ、どうする?」
「行こう。せっかく昇格したんだ、仕事しないとな」
「護衛なら、勉強になると思う」
ティナも真剣な表情でうなずいた。
「ありがとうございます!」
ノアの顔がぱっと明るくなる。
【依頼内容】
依頼名:エンデリオ商会 交易隊護衛
期間:3日間
行先:王都→レナス市
報酬:金貨10枚+成功報酬あり
備考:盗賊団出没情報あり。戦闘の可能性高し
【王都西門・出発当日】
4台の荷馬車と、それを操る商会の従業員たちが集まり、街道の始点で慌ただしく準備を進めていた。
「よし、荷台の確認終わりました!」
「馬の調子も問題ないです!」
ノアは全体を見回しながら、ユートたちに向かって深く頭を下げた。
「改めて、よろしくお願いします! 無事にレナスへ辿り着けたら、皆さんに感謝されること間違いなしです!」
---
【もう一組の冒険者たち】
その時、馬車の奥から3人の冒険者が歩いてきた。
「君たちが今回のもう一組か。俺たちは“イースチーム”っていうパーティ。よろしく頼む」
声をかけてきたのは、整った顔立ちの青年――カイと名乗った男で、その背には美しい彫金の施された細剣。
一見すると軽い印象だが、身のこなしに隙がない。
後ろには、寡黙そうな巨漢の斧使いレッドと、小柄ながら鋭い眼光を持つ魔法使いの少女ノアールが続く。
「君たちが“ユート”たちか……噂は聞いてるよ」
「噂?」
バルトが眉を上げると、カイは笑って肩をすくめた。
「王都じゃ、最近の昇格者で“ただ者じゃない”って話題だ。
ま、俺たちもその程度の噂じゃ驚かないが――」
彼はそこで口角を上げ、指で自分を指した。
「ちなみに俺、**Aランクだ。君たちと同じ“護衛枠”だけど、どっちが本命かは、道中見て決めさせてもらうよ?」
「へえ……面白いこと言うじゃねえか」
バルトが笑い、ユートは静かに頷いた。
「お互い、無事にたどり着けるようにしよう」
「もちろん。張り合いがあるのは、嫌いじゃないさ」
---
【1日目・道中の小休憩】
昼を過ぎ、隊列は緩やかな丘を越えたあたりで小休憩に入っていた。
護衛たちは警戒を維持しながらも、軽い食事をとる。
「なあ、ティナ。剣の握り方、少し変えたろ?」
「うん、道場の先生に教えてもらった通りに。前より力が伝わりやすくなった」
ティナは片手剣を胸元に抱えながら微笑んだ。
一方で、バルトはレッドと斧の重量バランスについて語り合っていた。
「片刃斧の方が、斬り込むときの手応えが違うんだよな」
「……分かる」
「お、やっと喋ったな」
ユートはその様子を眺めながら、同じ木陰で休んでいたカイに視線を向けた。
「楽しそうにやってるな」
「うちのも、ああ見えて話す相手には飢えてるのさ。最近は護衛ばっかりで、ダンジョンにも潜れてない」
「……あの斧使い、強いな」
「レッドはSに片足突っ込んでる。俺より戦闘は上だよ」
静かに放たれたその言葉に、ユートの目がわずかに細まった。
---
【2日目・橋の手前】
川沿いの街道を進んでいた一行は、木製の小さな橋の手前で、どこか不穏な気配を感じ取っていた。
「……妙に静かだな」
カイが剣に手をかけた。
ユートも無言で馬車の横から周囲を睨む。
「そこだッ!」
バルトの叫びと同時に、左右の茂みから十数人の黒装束の男たちが飛び出した!
---
「護衛陣、戦闘配置ッ!!」
ノアが叫ぶ中、ティナがすぐさま前へと跳び出す。
「ウォーターブレード!」
地を這うように走る水の刃が、敵の足元を削り、飛びかかろうとした1人の足を止めた。
バルトは両手剣を構え、重い一撃で敵の剣ごと叩き折る。
「全員、商隊から離すな!」
ユートが声を上げ、ファイアボールを連続発射。敵の間合いを乱し、戦場のリズムを支配していく。
「こっちにも来るぞ!」
カイがノアールと共に左側の敵に向かい、細剣で的確に急所を突く。
その時、茂みの奥から――
重く、確かな気配。黒装束の大男が現れた。
「……お前が、“本命”か」
男は無言。背に負った大剣を引き抜き、迷いなくユートに向かって突進した。
「“あの荷に、貴族の命運が乗ってる”……何を狙ってる?」
ユートが問いかけるも、男は答えない。
(……喋らないか。なら、力で引きずり出すしかない)
剣が振り下ろされる直前、ユートは一瞬後ろに跳び、同時に風の刃を連続で発射!
「ウィンドカッター、連射」
シュッ――ズバッ!
鋭い風が男のマントを裂き、頬に一筋の切り傷を作ったが、男は怯まない。
次の瞬間――
「ぬぅおおおおお!!」
男が爆発的な踏み込みで距離を詰める!
大剣の軌道が唸りをあげ、ユートの腹部へ一直線!
だが――
「おせえ」
ユートの拳が先に男の顎を打ち上げた。
吹き飛ぶ男の身体が地面に落ちる前に、火と風と土の複合魔法が弾幕のように降り注いだ!
ボウッ! ドンッ! ズバッ!
火の爆発、風の衝撃波、土の礫――それぞれが男を囲むように炸裂し、地面を大きく抉る。
---
辺りが静かになった時、盗賊たちは全員戦意を喪失し、次々と逃げ出していた。
「くっ……撤退しろ! 全員撤退ッ!!」
指示を出す声が聞こえたが、すでにほとんどは倒されていた。
「ただの盗賊ってわけじゃないな……」
カイが肩で息をしながら言う。
ユートは男の大剣に刻まれた紋様を見下ろした。
それは――王国のとある古い貴族家に伝わる“家紋”だった。
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
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