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第2章
奇跡起こす…
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転移魔法の光が静かに収束し、ユートはいつもの中庭に現れた。
空には星が瞬き、家はまだ眠っていた。
玄関のドアを静かに開けると、居間の明かりがついていた。
「……おかえりなさい」
ソファに座っていたのはミリアだった。
ユートが帰ってくると信じていたかのように、温かいお茶を手にしている。
「遅かったですね。……何か、すごく疲れてますよ」
「ちょっと……な。命懸けの散歩だった」
ユートは冗談めかして答えながら、魔法袋の中から命の核石を取り出した。
ミリアはそれを見て、目を見開いた。
「……すごい……鼓動してる……これが?」
「ああ。こいつが希望だ」
---
翌日…
朝のうちに訪れたのは、王都の外れにある石造りの塔――ゼネの研究工房。
「おお、来たか。お前が戻ってきたってことは……生きてたんだな」
「当然。で、ほら」
ユートは小さな布包みを机に置いた。
ゼネが中身を確認し、目を細める。
「……“命の核石”……しかも結晶が生きてる。よくぞ無事で」
「これで……エリーナを助けられるんだな?」
「ああ。こいつを核にして、上級ポーションの配合を全面的に組み直す。
“万能薬”――作れるぞ」
「どれくらいかかる?」
「最低でも三日はくれ。……全神経を使うからな。あと一本だけ作れる素材量だ」
ユートは深く頷く。
「頼んだ。……あとは、俺が届ける」
---
鈍い金属音とともに蓋が閉じられ、ゼネが深く息を吐いた。
「――できた。万能薬、一式完成だ」
机の上には、これまでのポーションとは明らかに違う存在感を持つ、小さな瓶が置かれていた。
透明な液体の中に、淡い光がゆらめいている。まるで星の欠片を溶かしたかのように。
「命の核石が持つ再構築能力を最大限活かした、一本限りの奇跡だ。
……しくじるなよ。マジで、これっきりなんだからな」
「わかってる」
ユートは瓶を布で丁寧に包み、魔法袋の最奥に収めた。
その目には、いつもの軽口はない。
---
【王都・レクサート侯爵邸】
今回の訪問も、極秘裏に行われた。
前回と同じ部屋、同じ雰囲気、そして――同じ少女。
変わらずベッドに横たわるエリーナは、以前よりもわずかに弱々しく見えた。
侯爵は腕を組み、冷たい視線で立っていた。
「……今回はどうだ?」
ユートはただ一言、静かに告げる。
「――最終手段だ。これが最後の一本。万能薬だ」
---
侯爵が小さく息をのむ。
ユートは瓶を取り出し、ゆっくりと蓋を開けると、エリーナの唇に近づけた。
「エリーナ。少し苦いかもしれないけど、……飲めるか?」
少女は、まぶたをわずかに動かし、頷いた。
薬が口に入った瞬間――部屋の空気が変わる。
---
光が、彼女の体から淡く立ち昇り、
魔力の波が、内側から放射状に広がっていく。
その波は、まるで迷っていた命の流れを正しい形に“書き換える”ように、
心臓の構造を変え、臓器の機能を正常に戻していく。
「……っ! はぁっ……!」
呼吸器が不要になったように、彼女の胸が大きく上下する。
目が開き、血色が戻っていく。指が、足が、動き始める。
「……動く……身体が、軽い……?」
侯爵が目を見開いたまま、絶句していた。
「完了だ。……これで、彼女は生きられる」
エリーナの呼吸は安定し、頬には健康的な紅が差していた。
瞳に力が戻り、侯爵を見つめて微笑む。
「……お父様……私、生きてる……」
侯爵――レクサートは、その場に膝をついた。
誇り高く、威圧的な男が、
誰にも見せぬはずの父親の顔で、娘の手を握る。
「……エリーナ……お前が……」
喉から漏れた声は、もはや言葉にならなかった。
しばしの静寂のあと、侯爵は立ち上がり、再びユートに向き直る。
目にはまだ感情が残っていたが、表情は貴族の顔に戻っていた。
「……お前がいなければ、娘の命はここまでだった。
この恩は……金では足りぬ。だが、できる限りの報酬を用意させよう。言え」
ユートは少しだけ、首を横に振った。
「――いらない。俺は“助けられる命を助けただけ”だ。
それに、俺のやり方は“顔も名前も出さず、金にも執着しない”って決めてる」
「ふん……偽善か?」
「いいや。利己的な“信念”だよ」
侯爵は、しばしユートを見つめ――
そして、わずかに口元を緩めた。
「……貴様のような者が、我が国のどこかに潜んでいるのも……悪くない。
――エリーナを救ってくれたこと、我が家は決して忘れん。名も知らぬ、旅の薬師よ」
ユートはそれ以上言葉を交わさず、
娘の眠る病室を後にした。
背後で、エリーナが小さな声で呟いた。
「ありがとう……“だれか”さん……」
---
帰り道、魔法袋に残った小瓶の空を見つめながら、ユートは独りごちた。
「万能薬……もう一本も残ってない。命の核石も無い。
けど、あれで“ひとつの未来”は救えた」
静かな王都の夜風が、肩を撫でていく。
「さて……次は、何を救おうか」
空には星が瞬き、家はまだ眠っていた。
玄関のドアを静かに開けると、居間の明かりがついていた。
「……おかえりなさい」
ソファに座っていたのはミリアだった。
ユートが帰ってくると信じていたかのように、温かいお茶を手にしている。
「遅かったですね。……何か、すごく疲れてますよ」
「ちょっと……な。命懸けの散歩だった」
ユートは冗談めかして答えながら、魔法袋の中から命の核石を取り出した。
ミリアはそれを見て、目を見開いた。
「……すごい……鼓動してる……これが?」
「ああ。こいつが希望だ」
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翌日…
朝のうちに訪れたのは、王都の外れにある石造りの塔――ゼネの研究工房。
「おお、来たか。お前が戻ってきたってことは……生きてたんだな」
「当然。で、ほら」
ユートは小さな布包みを机に置いた。
ゼネが中身を確認し、目を細める。
「……“命の核石”……しかも結晶が生きてる。よくぞ無事で」
「これで……エリーナを助けられるんだな?」
「ああ。こいつを核にして、上級ポーションの配合を全面的に組み直す。
“万能薬”――作れるぞ」
「どれくらいかかる?」
「最低でも三日はくれ。……全神経を使うからな。あと一本だけ作れる素材量だ」
ユートは深く頷く。
「頼んだ。……あとは、俺が届ける」
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鈍い金属音とともに蓋が閉じられ、ゼネが深く息を吐いた。
「――できた。万能薬、一式完成だ」
机の上には、これまでのポーションとは明らかに違う存在感を持つ、小さな瓶が置かれていた。
透明な液体の中に、淡い光がゆらめいている。まるで星の欠片を溶かしたかのように。
「命の核石が持つ再構築能力を最大限活かした、一本限りの奇跡だ。
……しくじるなよ。マジで、これっきりなんだからな」
「わかってる」
ユートは瓶を布で丁寧に包み、魔法袋の最奥に収めた。
その目には、いつもの軽口はない。
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【王都・レクサート侯爵邸】
今回の訪問も、極秘裏に行われた。
前回と同じ部屋、同じ雰囲気、そして――同じ少女。
変わらずベッドに横たわるエリーナは、以前よりもわずかに弱々しく見えた。
侯爵は腕を組み、冷たい視線で立っていた。
「……今回はどうだ?」
ユートはただ一言、静かに告げる。
「――最終手段だ。これが最後の一本。万能薬だ」
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侯爵が小さく息をのむ。
ユートは瓶を取り出し、ゆっくりと蓋を開けると、エリーナの唇に近づけた。
「エリーナ。少し苦いかもしれないけど、……飲めるか?」
少女は、まぶたをわずかに動かし、頷いた。
薬が口に入った瞬間――部屋の空気が変わる。
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光が、彼女の体から淡く立ち昇り、
魔力の波が、内側から放射状に広がっていく。
その波は、まるで迷っていた命の流れを正しい形に“書き換える”ように、
心臓の構造を変え、臓器の機能を正常に戻していく。
「……っ! はぁっ……!」
呼吸器が不要になったように、彼女の胸が大きく上下する。
目が開き、血色が戻っていく。指が、足が、動き始める。
「……動く……身体が、軽い……?」
侯爵が目を見開いたまま、絶句していた。
「完了だ。……これで、彼女は生きられる」
エリーナの呼吸は安定し、頬には健康的な紅が差していた。
瞳に力が戻り、侯爵を見つめて微笑む。
「……お父様……私、生きてる……」
侯爵――レクサートは、その場に膝をついた。
誇り高く、威圧的な男が、
誰にも見せぬはずの父親の顔で、娘の手を握る。
「……エリーナ……お前が……」
喉から漏れた声は、もはや言葉にならなかった。
しばしの静寂のあと、侯爵は立ち上がり、再びユートに向き直る。
目にはまだ感情が残っていたが、表情は貴族の顔に戻っていた。
「……お前がいなければ、娘の命はここまでだった。
この恩は……金では足りぬ。だが、できる限りの報酬を用意させよう。言え」
ユートは少しだけ、首を横に振った。
「――いらない。俺は“助けられる命を助けただけ”だ。
それに、俺のやり方は“顔も名前も出さず、金にも執着しない”って決めてる」
「ふん……偽善か?」
「いいや。利己的な“信念”だよ」
侯爵は、しばしユートを見つめ――
そして、わずかに口元を緩めた。
「……貴様のような者が、我が国のどこかに潜んでいるのも……悪くない。
――エリーナを救ってくれたこと、我が家は決して忘れん。名も知らぬ、旅の薬師よ」
ユートはそれ以上言葉を交わさず、
娘の眠る病室を後にした。
背後で、エリーナが小さな声で呟いた。
「ありがとう……“だれか”さん……」
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帰り道、魔法袋に残った小瓶の空を見つめながら、ユートは独りごちた。
「万能薬……もう一本も残ってない。命の核石も無い。
けど、あれで“ひとつの未来”は救えた」
静かな王都の夜風が、肩を撫でていく。
「さて……次は、何を救おうか」
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【作者より、感謝を込めて】
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本当に、ありがとうございます。
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