スマホ片手に異世界ライフ! ~神様のアプリで無敵冒険者~

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第1章

依頼

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朝。
街のざわめきが、寝起きの耳に心地よい。
新居で迎える何度目かの朝、ガアラは軽く体を伸ばして起き上がった。

「……さて。今日は稼ぎに行くか」

すでに台所では、リィナがパンとスープの準備をしていた。
手慣れた動作で食器を並べながら、振り返る。

「ギルド、行くんでしょ? 私も行く」

「お、気が合うな。最近ちょっと“まとまった依頼”受けてないから、そろそろ動きたい」

「じゃ、今日は中級~Dランクあたり狙いで」

「おう。で、できれば“楽して稼げるやつ”希望な」

「そんな都合のいい依頼、あるわけないでしょ」

 



グラストール冒険者ギルド。午前の受付前。

依頼掲示板の前には、すでに多くの冒険者が集まっていた。
その中をくぐり抜け、ふたりは中段の常駐枠を見上げる。

> 【野営地補給ルートの警備:Dランク】
【遺跡調査隊の護衛:Dランク~Cランク】
【村落の水源に現れた魔物の討伐:Cランク】
【薬草採取:Dランク】
【家畜誘導中の見張り:Dランク】



ガアラがひとつの紙を指差す。

「……これ。遺跡調査隊の護衛って、なんか面白そうじゃね?」

「うん。戦闘もあるだろうし、何より“変なもの”が見られる可能性が高い」

「変なもの……?」

「古代文字、魔道具、未鑑定の遺物。
あんたのスマホ、何か反応するかもしれないでしょ」

「……ああ。確かにそういうの、けっこうメールのトリガーになってた気がする」

ふたりは目を合わせ、うなずく。

 



受付へ向かうと、いつもの職員が丁寧に対応してくれた。

「こちら、C~Dランク混合の合同依頼になります。
護衛対象は王国から派遣された民間の遺跡調査団。
現地までは半日、護衛期間は3日を予定しています」

「報酬は?」

「最低保証:銀貨10枚。追加報酬は発見物や戦果に応じて変動します」

ガアラとリィナは顔を見合わせ、声を揃えて言った。

「受けます」

「決まりね」

 




グラストール冒険者ギルドで依頼を受けたその足で、ガアラとリィナは街の南側にあるマーケット通りへ向かった。
遺跡の護衛任務――最低でも三日はかかる。
準備不足は命取り。ふたりは息を合わせるように、それぞれの持ち場へと動き出した。

「私は食料と水、それと保存食。あなたは装備点検と、予備の魔石の確認ね」

「了解。あと、今回の依頼先って遺跡調査団だから、鑑定アプリにも何か仕込んでおくべきか……」

「うん、何かに反応するかもしれないしね」

ガアラはスマホを片手に、商人たちの声で賑わう通りを歩いた。
装備屋で刃の摩耗を見てもらい、短剣のメンテナンスを依頼。
その隣の道具屋で、魔石式ランタンと予備の火打石も購入した。

「こういう小物、いざという時に助かるんだよな……って、あ、リィナ」

パン屋の前で立ち止まっていたリィナは、香ばしい匂いにやられた顔で、熱々の小ぶりな焼き菓子を袋に詰めてもらっていた。

「……たまにはね。甘いもの、必要でしょ」

「そういう時だけ笑顔なのおまえ」

「うるさい。さ、揃った?」

荷物を互いに確認しながら、ふたりはギルドに戻り、指定された集合時間の少し前に南門へ向かった。



午前十時過ぎ。  
街の南門からわずかに離れた広場に、馬車が三台、整然と並んでいた。
その周囲には、数人の護衛らしき冒険者と、調査団らしいローブ姿の男女があわただしく荷を積んでいる。

「……あれが、今回の護衛対象か」

「うん、見た目は学者って感じ」

ふたりが歩み寄ると、その中から一人の女性が振り返った。

「あなたたちが追加の護衛ですね? ようこそ。私はこの調査団の責任者、エリシア・ノードといいます」

エリシアは肩までの黒髪を丁寧に結い、整った顔立ちに知的な眼差しを携えていた。
だがその雰囲気は高圧的でも傲慢でもなく、むしろ“現場を知っている者”の空気を纏っていた。

「俺はガアラ。こっちはリィナ。よろしくお願いします」

「こちらこそ。……今回は、王国魔術院からの調査命令を受けていて、現地では遺跡内部への立ち入りがあります。
遺物の発掘よりも、地形の把握と護衛を重視していただけると助かります」

「了解です」

ふたりが軽くうなずくと、後方から馬車の積み荷を調整していた青年が声をかけてきた。

「エリシアさん、準備できました!」

「ありがとう。……それでは、出発します」

こうして、ガアラとリィナを乗せた調査団は、かつて栄えた古王国の遺跡“エル=ヴェルグ”へと向けて、街を後にした。
"""


馬車が止まり、森の静寂の中に車輪の音が消えていった。
目の前に広がるのは、苔むした石の階段と、崩れかけたアーチを抜けた先に佇む――古代遺跡「エル=ヴェルグ」の南部区画。

石造りの門の前には、既に数名の護衛兵たちが待機していた。

「ここから先は、調査対象の高魔力区域です」

調査団の責任者であるエリシアが、きっちりと整えた黒髪を揺らしながら一礼した。
背筋の伸びた長身の女性で、知性のにじむ落ち着いた声が印象的だ。

「国の指示で、遺跡内部への進入人数は制限されています。
申し訳ありませんが、護衛の皆さんはここでお待ちください」

「了解。ここからはお前たちで頼むぞ。危なくなったら叫べ」

護衛兵たちは門の前で警戒体勢を整える。

「ってことは、俺らだけで入るのね」

ガアラがリィナの方を見ながら軽く肩をすくめた。

「まあ、そういうこと。ちゃんと戦えるの、私とあんたくらいでしょ?」

そしてもうひとり、エリシアの後ろには、若干緊張した面持ちの青年が控えていた。

「……あの、ボクはルーク。補助術士です。
戦闘はあまり得意じゃないんですが、展開魔法と結界系の魔法ならある程度……」

ルークは、胸にかけた青い魔力布と簡素なローブを身につけた、細身の青年だった。
言葉は丁寧で控えめだが、その目には誠実な意志が見えた。

「無理に前に出なくていい。俺たちが前に立つ。背中だけは守る」

ガアラの言葉に、ルークは小さくうなずいた。

 



遺跡の奥は、まるで空気そのものが淀んでいるような感覚だった。

石の床はひび割れ、壁面の装飾には古代魔法の文字が刻まれている。
しかし、その文字が一部、淡く発光しているのにガアラは気づいた。

「魔力が……今も残ってるのか?」

「いいえ、“動いてる”の。魔法の痕跡じゃない。これは、今も稼働している構造体」

エリシアは警戒の目を強め、魔力感知盤を手に周囲を確認していく。

「先に進んだ先に、目的の魔力集中点があるはずです。……行きましょう」

慎重に通路を進み、やがて豪奢な彫刻が施された石扉が姿を現す。
その中央には、淡く青白く光を放つ魔法陣の輪郭があった。

「これが……封鎖されてた“南部区画”の核心か」

「魔力の流れが安定している。開きます。皆さん、注意を」

エリシアが扉に魔力を送り込むと、石が鈍く唸りながら左右に開いた。
中には広めの石造りの広間と――その中心に、複雑な幾何学模様を描いた魔法陣。

「っ……転送陣……!?」

「違う、未発動だ。だが……」

そのとき。

ルークが、魔法陣の縁にわずかに足を踏み入れた。

「わっ……?」

「下がれ、ルーク!!」

ガアラが叫ぶよりも早く、陣全体が眩く光を放った。

「リィナ!!」

「ガアラっ!!」

全身を包む閃光。
視界が白に染まり、重力の感覚が消え――
次の瞬間、四人の身体は空間ごと消え去った。

 

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