小さなベイビー、大きな野望

春子

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怒りを乗せて

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盛大に泣き出すリーサをマッキーは強く、抱きしめる。
マルクスは、怒りのあまり、震えている。
フィルは、マルクスの元に駆け寄り、口を開く。
「マルクス、落ち着いて。とは、違うわ。多分…ツェリは、魔法省に連れて行かれただけよ。深呼吸して。ツェリを迎えに行くのよ。」
フィルの説得に、震えながら、頷く。取り乱し、奴らの思惑にハマるなど、あってはならない。何よりも可愛い妹の安全が最優先事項。
「サラトガ、マルクスといてちょうだいね。ダグラスおじ様。クロッグを借りるわ。リリーエ先生に言うわ。」
「わかった。…サラトガ、好きに動いてこい。責任は私が持つ。」
「…わかった。」
フィルは、名残惜しげに、マルクスから離れ、慌てて館に戻る。



「なんの気配かと思えば…古龍種の波動ではないか…。」
ビシビシっと感じた威力と、絶大な魔力に、妖精王は、顔を顰める。
「小娘、起きよ。干からびたミイラのような姿であろうと、かつては、あの魔王の娘の血を引く身として、この程度で、死ぬような惨めを味あうのか?まあ、詮無きこと…。あの子の髪を切り、心を傷つけた代償はこの程度では済ません。」
妖精王が掴んでいるのは、かつては、魔王の娘として、世間を震撼させた吸血鬼。
「条約等、最早、意味をなさない。壊れたものを守るやつもおらん。」
にしても、このような場所に、隠れ住んでいたとは、落ちぶれたようだ。
広さだけは、それなりの、ガタがきている古びた洋館。
辛うじて、隠蔽魔法が掛けられているだけで、防衛等は、大した事がない。
干からびた奴を守ろうとしていた矮小は、一足先に、地獄に向かった。
「…誰だ。私の許可を得ず、近寄る不届き者は。」
ビシッ。空気が割れる。



フィルは、慌てて、クロッグを繋げる。
本来は、リチャードか、ココが出て、経由してから、デニエルやリリーエの元に繋がる番号に、掛けるが、緊急事態の時は、直接の番号に掛ける。
繋がった。
「はい…。」
「もしもし?リリーエ先生ですか?助けて。ツェリが査問会に連れて行かれたの!あっという間で!!」
「!?」
受話器の向こうで、息を呑むリリーエ。
「何ですって?!」
が性懲りもなく、陰湿に手を出してきたの。ツェリは、キレてしまって…、攻撃したら、査問会が現れて…」
「ビビアナ…!?」
二度と聞きたくない名前に憤慨するリリーエは、堪えるように、フィルに説明を求める。
「お任せなさい。そっちにダグラスがいるなら、問題ないですわ。私は、デニエルと共に、これから、魔法省に乗り込みますわ。コルルには、万一の為に出てこないように伝えて。あのバカたちは、下らないことに、いつまでも、心血を注ぐのですから。フィル、マルクスのこと、お願いしますわ。」
「勿論。」
「あと、リーサを暴れさせないようにせねばなりませんわ。あの子が暴れたら、嬉々として、やって来ますわ。母が連れて行かれた姿を見てしまった胸中を思うと、心が痛みますが…。」
リーサがガルガンズに本気で、査問会に攻撃するように頼めば、おそらく、ガルガンズは、躊躇いもせず、攻撃する。
「カールハインツといい、ビビアナといい…。忌々しい夫婦ですわ!!」
仰る通りだと、フィルは、強く頷く。あの二人のせいで、人生を狂わされた者たちは多い。


リーサは、溢れる涙を拭き、マルクスとサラトガにお願いをした。
「ままを助けて。おじちゃんとパパが助けに行ってくれたら、ままは喜ぶ…。捕まったお姫様を助けるのは、王子様とナイトが助けるんだもん。」 
「もちろんだよ。ベイビー。」
「…ぐしっ。」
マルクスは、鼻水を垂らすリーサに、心を痛めた。目の前で母親を奪われたのだ。
自分もは、弟を奪われ、怒りと屈辱で、己を戒める事など出来なかった。
サラトガは、リーサに、必ず、ままを連れて戻るからと約束する。リーサは知ってしまっている。詳細までは知らないが、フランツが何故、キングブレストにいるのかを。もし、ツェリまで、キングブレストに連れて行かれるのではと不安を抱いてることも知っている。



アルミンは、オルドーに頼んで、ある部屋に向かって貰った。重厚な扉を開けてもらい、一枚のレリーフの元に向かう。それは、アニマとガルガンズとゴルトアが彫られている巨大なレリーフである。
椅子を引きずり、登って、アニマのレリーフに触れる。
「アニマ、アニマ、助けて。意地悪なやつが来たの。ままをいじめるやつとツェリおばちゃんをいじめるやつだよ!」
「アルミン?なにしてんの?」
「“アニマ、こっちにおいで”」
アニマのレリーフが光る。光って一筋の光が放たれる。



「アルミンがアニマを呼んでしまったな。一発で成功させるとは。」
庭に降り立つアニマは、ロッシュヴォークの本邸の部屋にいるよりも大きく、本来の姿のまま、庭に降り立った。
「いい機会だ。マルクス、サラトガ、アニマに乗って、迎えに行けばいい。味あわせてやれ。怒りをぶつけて来い。」
不敵に笑うダグラスは、アニマを優しく、撫でる。
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