小さなベイビー、大きな野望

春子

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エルシアとダグラス

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エルシア・ロッシュヴォーク(旧姓ヒース)は、生来、目が見えない子であった。
両親は、愛娘のために、金を貯め、錬金術に長けていた巨匠ビーダス・コルディアに杖を作って貰った。
彼女は、両親の杞憂を払うかのように、活発な子であった。歩き始めてから、特に、杖を渡されてから、家中を練り歩き、転んでも、めげずに、動き回る。そして、彼女は浮遊魔法に長けていた。
物や人を浮かす魔法がうまかった。そして、加えての悪戯が大好きであった。
目が見えないことを理由にいじめる連中を空に浮かばせ、逆さ吊りにする事もしばしば。
親が慌てて止めるが、私は悪くない!と顔をしかめ、渋々、地に派手に落とすまでが彼女のやり返しだった。
中には、家柄云々で、親を脅す輩を、無条件で、落とし穴に落としたのは、ご愛嬌である。
杖を奪われた時は、私のを奪った!と怒り、奪った奴の家の窓に、ペンキを派手に飛ばしたのも、仕方ないことである。
親は焦った。このお転婆を抑えられる子を側に置かなければと。生傷が絶えない娘の為にも何とか、親は、婚約者を探すことにした。一生涯のパートナーであり、理解者を探すために。
ちなみにヒース家は、普通の一般家庭であり、父親は、銀行員、母親は、専業主婦。エルシアの杖は、それこそ、大枚を払ったのだ。
この時代は、一般家庭であろうと、親が、決めた婚約者と結婚するのが当たり前だった。
エルシアの両親は、婚約者探しが、難航していた。
エルシアの目の事もあるが、何分、エルシアの所業が、広まっていたからだ。
元を辿れば、エルシアは悪くないが、やりすぎである。
両親は、エルシアの理解者になってくれるならば、年齢差を気にせずに、周囲を当たりまくった。
そんな中、ヒットした。
ただ、相手がまさかのダグラス・ロッシュヴォーク。
名家の嫡男様である。
ダグラス・ロッシュヴォークの噂を聞いていた両親は、どうするか、迷っていた。年頃は合っている。家柄はつり合ってないが、申し分がない。
でも、ダグラス・ロッシュヴォークは、同年代の中でも、子供らしくない子であり、いつも見透かしているような瞳をした少年であった。そして、ドラゴンの一族。そして、ダグラスに喧嘩を売るような相手には、制裁を加える過激派である。混ぜたら危険な気もする。
例え、ちょっとやんちゃで、やりすぎな子ではあるが、かわいい愛娘。名家に嫁がせれば、周りからのプレッシャーが酷くなるだろう。名家であれば、それこそ、引く手数多だろうに、なぜ、一般家庭の家にまで、話を持ってきたのか。
それも気がかりであった。
しかし、話を聞いたエルシアが、会うと、朗らかに言った。
「面白そう。」
一抹の不安が禁じ得なかったが、両親は、賭けた。



ダグラス・ロッシュヴォークの婚約者が中々、決まらなかったのは、本人の気質もあったが、母親であるマリアが気を遣っていたからだ。
我が子ながら、子供らしくない性格の息子であり、勝手に会得した魔法で、周囲を黙らす我が子に、頭を痛めていた。
「少しは手加減を覚えなさい。例え、小憎らしくても、うざったいと思っても、人には道理がある。あと、年長者を馬鹿にするような真似をするのは、控えなさい。態度に出過ぎです。あなたは、ロッシュヴォークを継ぐ子なのですから。一々、怒り、その度に、やり返すのですか。」
「お言葉ですが、母上。年を食っただけの年配者に、愚弄されるのは、腹ただしいのです。8つの子供相手に化け物と言う大人が大人ですか。」
「気持ちはわかります。相手には、それ相応の対応をします。あなたの気持ちは尊重したいと思ってますけど、あなた、アニマをけしかけるのをやめなさい。」
「腰を抜かすとは、腑抜けです。アニマが人を襲うことは無いのに。ガルガンズでなかった事に、運がいいと思えば良い。」
「ガルガンズを相手に差し向けたら、相手は確実に死にます。アニマは、人を知ってますが、ガルガンズは、そんな忖度しません。あなたが、一言、殺せといえば、存在ごと、消すでしょう。良いですか。出来るからといって、簡単にやってはいけないことがあるのです。」
アニマは、温厚であり、人に比較的友好であるが、ガルガンズは違う。今は、適合者がいないため、地下深くに、眠っている。
「子供だからと、許されるものばかりではありませんよ。」
マリアはため息をつく。周りからは、子供らしくない冷静さと冷淡だとよく言われる息子だが、子供らしく、少々、短気な所がある。
「あなたの事を理解し、ストッパー役になって貰える子を探せねば。」
「…。」
7つの年頃に始まる婚約者探しが、まだ、ダグラスは、相手が決まっていなかった。ロッシュヴォークと言う家柄もあるが、ダグラスの気性が噂に登っていた。
喧嘩するたびに、ドラゴンを呼ばれたら、たまったものではない。
「ダグラス。顔に出てます。」
「気の所為です。」
盛大にため息をつく母に素知らぬふりを貫き通す。


マリアは、範囲を広げ、一般家庭のお宅まで広げた。
すると、とある子がヒット。
それが、エルシアである。
釣書を見たダグラスは、母に告げた。面白そうだと。
奇しくもふたりとも感じ取った事は、同じであった。



顔見合わせの日は、エルシアの両親は、ド緊張していた。娘には、かわいい水色のワンピースと白い帽子を被せ、今日は何があっても、いい子にしてなさいと、言い含めてきた。
エルシアは満面の笑みであった。余計に両親は、不安を募らせたが、来たものは、仕方ない。
ロッシュヴォークの家で開かれた。
素晴らしい庭に素敵な料理とお茶が並べられ、素敵な一面。
「よく来てくれました。」
優雅に話す夫人に緊張しながら、受け答えする両親を尻目に
エルシアは、ダグラスと向かい合っていた。
「その杖、素晴らしいな。」
「見る目があるのね。名家のお坊ちゃんは、鼻持ちならないヤツばっかりだと思ってた。私の自慢の杖なのよ!」
巨匠ビーダス・コルディアの作った杖は、繊細であり、計算された魔法陣がいくつも組み込まれている。
「なんだ。他の奴らになんて言われた?」
「ゴテゴテした派手な杖。」
「ハッ。」
マリアは、息子がこんなに楽しそうな顔をするのを久しぶりに見た。気が合うようである。
「ちなみに言ったのは、トーマス・フリーデンよ。いかにもクソ坊っちゃんって言うやつよ!知ってる?」
「トーマス・フリーデン?ああ。」
「あと、クリス・モーガン。お嬢ちゃんなら、エリザベス・キラー。リア・ラベルよ。ムカついたから、落とし穴に落としてやったわ。」
「言いそうなラインナップだな。落とし穴にハマるまぬけだ。」
「フフ。穴を掘るのは、得意なのよ。」
「エルシア!」
ビクッ。両親からの注意に、私は、まだ何もしてないと、弁明。
ダグラスが笑った。



「母上は、エルシアを婚約者と決めた。当時は、家柄云々で、とやかく、言うバカモノがいたが、その度に、エルシアは、言った相手に報復しに行った。それを私に愉快に話す。お互いの保護者は、ストッパー役を欲しがっていた面があるが、まあ、無理であった。子供だったからな。今思えば、私も子供らしい子であった。」
時には二人で、報復しに行き、保護者に説教を受けていた。
「おじいちゃんも叱られたことがあるの?」
「ある。子供相手に行き過ぎた行為をするバカをシメに分からせるつもりで、厳冬の森に、置き去りにしたり、火山灰を投げつけたり…。」
その度に、母に叱られた。エルシアは、母に、まだ生きてると弁明したが、当たり前ですと、デコピンを食らっていた。
「短気なところはあまり、治らなかった。私の悪い癖だ。」
「えー?おじいちゃん、怒りん坊に見えないよね?」
「うん。見えないよ!」
孫たちに昔話をする。
「エルシアはお前たちのように、悪戯ピンキーを探していた。見えないが、話で悪戯ピンキーを気に入っていた。エルシアの両親は、我が子が既に、悪戯ピンキーのようだと嘆いていた。」
「!!」
悪戯ピンキー!!
「ねえねえ、悪戯ピンキーは見れたの?」
「残念ながら、見れていない。私も見たことはない。だが、よく、付き合った。悪戯ピンキーが出そうな方法を試したり…」
「ダグラスおじ様。ストップ。ベイビー、アルミン、やらないのよ!」
嫌な予感したフィルが慌てて、介入。
目をキラキラさせる二人にだめだと言い聞かす。
「父さん、わざと?」
騒ぎを聞きつけたサラトガが聞く。
「童心に帰ろうとしたちょっとした思いつきだ。」
「ねえ。見て。あの二人の悪戯ピンキーみたいな顔つき。」
会うんだと意気込む顔が、恐ろしい。
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