小さなベイビー、大きな野望

春子

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取れたて新鮮野菜

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フィルの父親が丹精を込めて、作った菜園には、夏野菜が、瑞々しく、育っている。
「リーサももぎ取る!」
ふんすと鼻息を荒くし、とうもろこしを見様見真似で、ボキッと折る。実際には支えられ、綺麗にもぎ取れた。
「取れたあ!」
「ここに置いて。」
ザルに、置いていく。
フィルたちが、取れたての野菜を美味しく、料理してくれると聞いたから、張り切っている。
キャーキャーしながら、野菜を取る娘を優雅に、ティータイムをしているツェリ。
「ツェリ。あなたもやっても構わないのよ?」
「あれは、リーサの担当だわ。それに私は今、ヒールだもの。監視と言うティータイムに勤しんでるわ。」
「あなたはいつだって、そうじゃないの。」
意外とアウトドアも出来るツェリだが、性分が性分で、気儘なのだ。
「フィル。知っていて?夏休みって言うのは、親も休むのが役目だわ。」
「何をバカなことを言ってるの!」
「毎日、母親業をこなしてる自分を労うのは、大事なことだわ。自画自賛って言葉はほんとに良い言葉だわ。自分を誉めるのは、何よりも大事だわ。」
「あなた、そんなこと言ってるけれど、姉さんのチェックからは逃げられないわよ?」
「ねえ?ヘレンを止めて頂戴な。何で遊びに来てるのに、そう厳しくすることがあるの!年々、お母様に似てきて嫌になるわ。」
「姉さんからしたら、あなたは、まだまだ子供なのよ。」
「失礼しちゃうわ。」
リーサが、赤いトマトを嬉しそうに撫でている。
太陽をたっぷり浴びた真っ赤なトマトをかじりついても美味しいだろう。気分的には冷やしたトマトを食べたい。



アルクとメルバの兄にあたるセルギーが遅れてやって来た。彼はすでに社会人で、常に働きたくないと宣う今時の若者。ワカメのようにうねった髪型に父親に似ず、やせ形。
弟らから、ヒモになるなよとからかわれる。
「あ!セルギーだ!」
「よー。リーサ…重くなった!」
「リーサはおもたくない!」
駆け寄り、だっこをして貰う。
重いと言われて、叩く。
「女はちょっとふくよかでもかわいいって。」
「適当なことを言うじゃないわ。セルギー。」
「久しぶり。ツェリおば様。」
「あなたの近況は耳に入ってるのよ?ヘレンに叱られないと良いわね?」
「そこは叔母であるツェリおば様が助けてくれるよね?」
「嫌よ。巻き込まれるもの。」
きっぱり。
「セルギー。ヘレンおばちゃんに何を叱られるの?好き嫌い?」
「ンー。そう言った平和的な内容なら良いんだけどね?リーサ…覚えておけ。大人になるとな?辛いって言葉は、簡単に吐けなくなるんだ。」
「そうなの?」
「何を言ってるの。あなた、大層なことを言ってるけど、クビになる前に、提出期限を守りなさいな。あなた、昔から、宿題とか、提出期限を守らない常習犯じゃない。昔から適当なんだから。」
「ツェリおば様。事務処理って言うのは、中々、神経に来る俺のような繊細には、難しいものだよ?」
「あなたの恥ずかしい黒歴史なら、そらで言えるわ。」
「繊細って言葉、聞いていた?リーサ、ツェリおば様の教育をちゃんとしておけよ。」
「ままは、おじちゃんたち以外の命令は聞かないよ!」
「この甥を慰める気はないの?」
「自業自得じゃないの?」
あー、やだやだ、味方はいないのかと嘆く。



「リーサの瞳からもやが消えかかってるって?」
キュウリを丸かじりにしてるセルギーが聞く。あの事件は、親戚中に衝撃を与えた。
「そうね。大分よくなったわ。いまは、まだ点薬してるけれど、キンバリーが視てくれるし…。」
「後遺症の心配はないと言ってくれてるから、安心してる。」
「…ならメンタル?」
「今のところは大丈夫。もう元凶もいないわけだし、いまは、シルビアのところで、再教育中で戻っては来ないから、姿を見るわけでもない。」
「…。」
ボキッ。シャクシャクとセルギーの齧る音が響く。



目薬の点薬はいつも苦手。染みたりはないが、目に水が入る行為がどうしても苦手。
フィルがうまく、目に入るように入れてくれるが、いつも、目を固く瞑ってしまうのは、ご愛敬。
キンバリーが、いいと言うまでは、点薬は続く。
今日は、なぜか、セルギーがやってくれた。
「リーサ、成長したな。お前、目薬苦手だったろ?」
誉められ、鼻高々。
「リーサ、いいこだもん。」
「だな。」
「…キンバリーが中々、やめて良いって言わない。」
「未知な術なんだから、しょーがねえよ。リーサ…お前、辛いか?」
「リーサ、大人だから、辛くない!」
「ブハハハ。お前が大人なら大抵は大人だよ!」
笑うセルギーが言う。
「良いか。リーサ、お前が辛いと思ったら吐き出せ。溜め込む必要は一切ない。辛いって感情は大人も子供も感じるんだからな。だから、言うんだ。爆発する前に。」
「セルギーみたいに?」
「俺はボヤキの魔術師とうたわれる位に己の身大事さでは、髄を見せないね。当たり前の感情を吐き出すのは、当たり前のコトだ。」
「…辛くはないけど…セルギー。」
「ンー?」
「リーサ、もうお顔がわからないの。」
「顔?」
「あんなに許せないと思ったのに、顔が浮かばないの。ジェームズたちの顔。ままたちはもう会わないって言ってたから、たぶん、覚えてなくても良いんだと思うんだけど。何だか、もやもやする。」
「そっか。」
リーサは、もう忘れたのだ。己を護るための忘却なのかは知らないが、無理に思い出す必要はない。
「薬、しなくて済んだら、気分が良くなるかな?」
「そうだな。」
「大人も忘れる?」
「忘れるものだよ。俺なんて、ヘレンおばさんから、何度説教と言う差し向いての苦行を堪え、乗り越えた先を常に考えてる。」
実母より、ヘレンが恐ろしい。
「忘れるのは、悪くないことだよ。」
「うん。」
「俺が例え、提出期限を破っても、ストレスに比べれば、塵芥…。」
「やっぱり、リーサのが、大人。」
「知らないのか。リーサ、大人はストレスにまみれたら、過労死と匹敵するストレス死にがあるんだからな。大人は厳しいんだよ。だから、一緒に今から、ヘレンおばさんとこ、いこ!」
「やだあ。」
お説教は大嫌いである!
「セルギー。大人じゃんか!」
「大人でも説教は嫌いなんだよ!好きなやつは、ドM位だわ!従兄弟を守れ。」
「いやあ。」
すったもんだを繰り返していたら、様子を見に来たフィルから、注意を受けた。
めでたく、セルギーは、ヘレンからの説教を受けた。




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