小さなベイビー、大きな野望

頭痛の種が増えた

現実逃避をしたいとビルが思うのも、致し方ない。なぜなら、ハルベルのお姫様が単独で来たのだから。
 ｢喉が渇いたわ。お茶をくださる？」
ナチュラルに、わがままを言い放つのは、ツェツリーエだ。
渋々、出されたお茶を飲む。
伊達に、リリーエによる教育を施されてきたツェリは優雅にお茶を嗜む。
｢何しにきた。」
｢見ての通りだわ。娘たちを迎えにきたのよ。あと、あのバカの頬を叩きにね。お兄様に知られたら、会う前に、家から出されなくなるでしょう?｣
ライオネルは睨みを効かすが、何分、相手が悪い。
｢魔方陣の一欠片の道のりで、ようやく見つけたら、まさか、あなたのとこに飛ばされてるなんて。マダムのとこかと思ったのに。」
｢あのバカは此方で始末をつける。」
｢あのバカ、今度は何をしたの？」
仕出かさないことは、何一つなし。色町でも指名手配されてる位だ。
｢娘を引き連れ、帰れ。」
｢そうしたいのは、山々だけど、考えてみてちょうだい。今頃、フィルに知られ、お兄様の耳に入るわ。ああ！恐ろしい！」
｢…。」
未遂事件のことも、報告があがり、内容も顛末も知ってる。ため息がこぼれる。
｢…初めて来たけれど、いい部屋ね。座り心地もいいわ。拘ったのでしょう？」
当たり前だ。ライオネルの執務室に、変なものは、置けない。威厳のある部屋で金に厭目をつけない調度品。
…いまは、四人が騒がしく、遊ぶのを、冷や汗掻きながら、舎弟たちが見ているが。
｢ツェツリーエ。お前の兄貴は、いつ来る？
。｣
｢…さあ？」
ツェリは首を傾げる。兄が来る前に、フィルが来そうな感じがする。
｢正直な話、マルクスが来るなら問題ないが、余計な奴等が来られたら、困る。｣
｢お兄様は世界一、穏やかなジェントルマンだわ。｣
何を言うかと胡乱な目付き。
｢おじちゃんくるのー？」
｢お兄様はきっと来ないわ。来てほしいけれども。多分、マーベリック辺りが来るかしらね。親分さん。フランやノアのメイドが、あの子たちの兄達を止めに行ったわ。大変だったわ。労ってちょうだい。｣
アンネなど、大変だった。オスカーを目の敵にしてるのだから。骨が折れる。
迎えにいくから、暴走しそうな彼らを止めるようにお願いしたのだ。
｢アンネたちのお話？？」
｢アンネは、任務遂行のために尽力してるわ。｣
｢任務？」
｢ミスターも真っ青な任務だわ。｣
｢ミスター？」
キャーキャーする四人。
｢私たちはのんびり、待ってればいいのよ。｣
｢直ぐ様、帰れ。」
｢私に命令出来るのは、お兄様たちだけだわ。」
実兄二人の命令しか、聞かないお姫様。
｢お茶のおかわりをちょうだい。｣
わがままお姫様は、どこでも、通常運転。