小さなベイビー、大きな野望

春子

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"禁術"

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リーサは中庭を通り抜け、双子に会いに行こうとした。学校は広くて、なかなか、会わないこともあり、今日、習いたての風魔法を双子に早く見せたかったのだ。
ゴットリー先生もよく出来ましたと太鼓判を貰い、鼻が高い。
逸る気持ちを抑えて、双子がいると聞いた訓練室に向かおうとした。
基本、学校での魔法の自主練習は、訓練室と呼ばれる規定の部屋で行われるのが校則であり、訓練室には、手続きをしてからの入室だ。
複数の生徒が練習がてら、使用したり、個人で、魔法の練習をしたりと、空いてる時間を見つけては、誰かが使用していたりする。
訓練室は別の棟にあり、距離がある。中庭から突き抜けて、最速の道でいく。
双子の同級生から、訓練室の二番にいるはずだと聞いたので、階段を登れば、直ぐに行ける。
頬を赤くしながら、訓練室に向かうリーサの足に何かが引っ掛かった。
「あ!」
ステンと転けた。何かが、バチンと当たった。
転けた拍子に擦りむいた。
何かと思ったが、起きれなかった。上に何かを置かれたかのように。
「!!?」
すると、わらわらと出てきた見知らぬ少年。見上げると、何処かで見たような顔だ。
メガネを掛けた…。



ハルベル家。
フィルは、最後の洗濯物を畳み、時計を見た。あと、十分程度で、お使いに出したツェリが戻ってくるだろうと算段をつける。
今日のメニューは、ステーキにするつもりだ。あとは、イガイガキャベツのスープ。ベイビーがイガイガキャベツのスープが好物で、今日、作ってとおねだりをしてきたからね。手によりをかけて、作りましょう。
あとは、頭の中で、計算を弾く。
すると、クロッグが鳴った。
「あらあら。ハイハイ。今。出るわ。」
クロッグに手を伸ばす。
「ハイー。えー?」
フィルは目を見開いた。




リーサは、囲まれた。自分より、背の大きな少年たちに。
「お前、ハルベルなんだろう?」
リーサをハルベルと勘違いするのは、よくあることであり、ロッシュヴォークの姓を言うと、ああそうだよねと言われるのもよくある。
「誰?」
リーサは不機嫌極まりない。早く、二人に見せたかったのに、邪魔され、転ばされ、いたく、ご立腹。
「体にドラゴンがいるそうじゃないか。」
「…。」
リーサは父から、ガルガンズは、リーサの体に封印されていると聞いてる。だからこそ、魔法省は、リーサに手を出せないと言っていた。
「見せてみろよ。」
「は?」
無理だ。施したのは、父のサラトガである。
解けるわけない。
それにガルガンズがリーサから出たら、大変なことになる。
無理矢理に、手を引っ張られ、嫌だと叫ぶ。
「何してる。よってたかって、一人を囲むとは。お里が知れるな。ジェームズ・エドウィン。」
聞きなれた声。ルーシリアだ。一年の癖に、出で立ちが偉そう。
「あ?」
「だから、何をしてるのか、聞いてる。耳が悪いのか。頭も悪ければ、耳も悪いか。ああ。性根も腐っていたか。良いとこがないな。お前。」
小さな女の子をがんじがらめに魔法で拘束してる姿は、いじめなど、可愛く、見える。
ルーシリアがリーサの拘束をほどいた。
「稚拙な魔法だ。真面目に授業を受けたらどうだ?一年に負けるような魔法をひけり散らかし、自分より幼い子供を複数で、囲んで、脅す。お山の大将気取りも甚だしい。」
ルーシリアは、鼻で嗤った。かあと赤くするジェームズ。回りの取り巻きが口汚く、罵る。
「黙れ。俺は頗る機嫌が悪い。俺のものに手を出したんだ。わかってるな。」
リーサは気づいた。ああ、こいつら、手を出したのか。コビトに。ルーシリアは傲慢のように振る舞いながらも、コビトだけは、大切にしている。傍目から見たら暴君に仕える従者だけど、二人にしか、わからない絆が結ばれてるのだ。コビトが数日前に、何処かからわいてきた火の玉で、火傷をした。その火の玉を出したのが、こいつらなら、ルーシリアは、キレている。
「コビトは左手を火傷をしたんだよ!コビトは利き手が左なのに!」
コビトは左利きだった。火傷をしたため、手当てを受けたが、包帯を巻いてるので、日常に支障をきたしてる。コビトが火の玉に当たったのは、あるはずない図書室の前の廊下。人通りもあったため、消火されたが、今、調査されてる案件だ。
「弱いものいじめが好きか?」
ルーシリアは、冷たく聞いた。弱いものいじめ?
「かのエドウィン家のバカ息子。お前、誰に手を出したか、理解してるか?お前もお前の両親も、終わるぞ。ひけり散らかした家名がもはや、お前を救えるような力など持ち合わせてない。お前、終わるよ。何も知らないバカが。」
「ルーシリア!!」
リーサが叫ぶ。取り巻きが魔法をかけるが、避けた。
取り巻きがルーシリアを襲うのを止めさせようとして、動いた瞬間、リーサは、ジェームズによる魔術の餌食にあった。
「光を奪えー闇夜に生きよ。メルバス。」
「ー!!」
「!!?リーサ!!!」
辺りが光に包まれた。それは遠目からでもわかるほど。


ロッシュヴォーク家の館。
アニマが起きた。
「ギャオオオオー!!!」
腹の底から威嚇する、地響きのような鳴き声。ペットたちが固まる。コルルが何事かと、アニマの部屋へ向かう。
「アニマ!!?落ち着いてー!」
アニマは興奮している。コルルだけではダメだ。ギルベルトに連絡しなきゃ。


アルミンは廊下で足をガクンと落ちていく。
「アルミン?!」
膝から崩れ去ったアルミンは、心配する声も聞こえなかった。ただひとつ、感じたものに。
「リーサが危ない!!」
「え?」
アルミンはダッシュ。
「ちょっとまって。アルミン!!!」
バタバタ。




サラトガは、何かを感じ取った。
嫌な予感がする。胸騒ぎが収まらない。
何か、嫌なことが起きた。なんだこれは。



目映い光に包まれ、意識を失い掛けたルーシリアは、何とか、意識を保てた。
突っかかってきた取り巻きは、倒れている。
リーサも倒れていた。
「おい…リーサ。」
肩を揺する。
リーサはううと呟き、動いた。
顔をあげた瞬間、息を詰めた。
「ルーシリア?…目が見えない!」
リーサの目に蜘蛛の糸のような糸が何本も張り付いている。
「今の光はなんだ?」
先生が現れた。が、リーサの姿に、息を呑んだ。


バタバタバター!!
訓練室2と言う看板がある扉を思い切り、開く。本来なら、訓練室の扉を使用してる間は、勝手に開けてはいけないし、暴発事故防止によるもので、術で結界が作られてる。
「マッキー!!オルドー!!」
「!?」
「バカ。急に開けるなよ!」
入ってきた同級生に、驚き、魔法訓練していた二人は止まる。
「ハアハア…リーサが!!」
「?」
「リーサが襲われた!!」
杖を落とした。


フィルは、学校からの連絡に、何事かと見構えた。ベイビーがわがままを言ったのか?それとも何か?
担任のゴットリーからだった。
「どうなさったんですか?ベイビーがまたわがままを?」
「いえ。フィル。落ち着いてください。リーサが、」
「?」
「リーサが襲われました。いまは保健室で手当てを受けていますが、目が見えておりません。」
「は?」
「ある児童がリーサに掛けた魔法により、リーサは、今、目を開けることが出来ないのです!!」
クロッグの向こう側では、ゴットリーが感情露に叫んだ。震える唇に叱咤しながら、紡いだ言葉は、フィルの耳に通り抜けてしまう。
何を言ってるの?ベイビーはまだ一年で、相手を傷つけるような術は、勉強していないし、事故防止のために、一年は、対戦など、禁じられてる。
フィル。落ち着きなさい!深呼吸よ!今、焦って、真っ白になるわけにはいかないのよ!
「ーただいま。フィル。見てちょうだい。オマケしてもらえたわ。聞いてよ。彼処の肉屋さんったら。私のことをいまだにー?フィル。どうしたの?顔が真っ青だわ?」
「ツェリ…ツェリ!!ベイビーが!!!」
「?!!」
フィルが告げた内容に、ツェリは、買ってきたものを落とした。



バタバタバタ。
保健室には、既に人だかりが出来ていて、掻き分ける。
「リーサ!!」
マッキーたちは入った。そこには、オフィーリアが泣き叫んでおり、ジオルクが怒りで、震えていた。
「マッキー?オルドー?」
目線をあげたリーサの顔に悲鳴をあげるのを必死に堪えた。
小さな女の子には痛々しい姿でいるのだから。








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