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第四章 問題解決リアリティーショー
第122話 記憶の森で見えたもの
しおりを挟む風呂から上がり、髪を乾かす。
高原牛乳を飲み干し、ソファで横になる。
今は平日の夕方。テレビではいつもと同じニュースキャスターが、いつもと同じような話題を必死で盛り上げようとしている。仕事とはいえ、ご苦労な事だ。
エスティはテレビを消して天井を眺めた。
シーリングライトがくるくると回っている。羽を目で追いかけ、1秒間に何回転してるのかを数えようかと思ったところで、深い溜息を吐いた。
「何というか…………暇ですね」
今ごろネクロマリアの人族と穏健派は、強硬派魔族との最終決戦に挑んでいるはずだ。勝てばしばしの平穏が訪れ、負ければ終わり。どちらにせよ、死者数は計り知れないだろう。
特にマチコデ達は一点突破狙いの大博打だ。ありったけの魔道具と魔力の詰まった魔石を渡したが、危険は残っている。
ガラングにも追加の必要物資を送り届け、トルロスにいるハルシウルにも食糧を送り付けた。
つまり……いざ準備が整ったと思ったら、自分は特にやる事が無かったのだ。
「掃除、洗濯……むぅ」
マチコデには隠れていろと言われた。確かにトラブルが起きた時に自由に動ける立場は必要だろうが、正直暇なのだ。積まれたアニメでも消費しようかとも考えたが、それは流石に空気を読めていない。
「暇そうだニャ」
「そうなんですよ、シロミィちゃん。一緒に何かして遊びませんか?」
「寝るニャ」
「そ、そうですか」
シロミィはよく寝る猫だ。お気に入りの寝床であるリビングの白樺の木の枝で丸まり、スヤスヤと眠り始めた。
エスティも炬燵に潜り込み、ぼーっとする。
「珍しいな、エス。ぐうたらすればいい」
「流石に気分が良くないでしょう。とはいえ、手持ち無沙汰ではありますけど」
ロゼはエスティの膝の上に乗り、丸まった。ロゼも遊び相手であるシロミィが寝てしまって暇なのだ。
「今のうちに、ムラカから貰ったあの薬でも飲んだらどうだ?」
「あー。それもそうですね」
エスティは記憶を呼び起こす薬を取り出し、蓋を開けた。怪しげな煙がフワッと出る。量は少ないが、ハーブの香りが漂って美味しそうだ。
だが、薬を飲もうとして思い留まった。
「……黒歴史を思い出しそうです」
「ふ。今まで散々迷惑を掛けてきたエスの蛮行を、しっかりと思い出すといい」
「別に飲まなくてもいいですよね?」
「知りたいのは、巻き戻りの魔法だろう?」
「ぐっ……!」
ロゼの言う通り、自分が唱えたと思われる1日巻き戻った魔法を知りたかった。
「仕方がないですね……」
エスティは、薬をクイッと飲み干した。
そして目を瞑る。
味は蜂蜜のように甘く、美味しい。
鼻を通り抜けるハーブの香りが爽やかで、そして何だか頭がぐるぐると――。
「ぅあ……! これ、お酒で……す……!」
「おい、エス!?」
エスティの視界が、暗転した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
霞がかった景色に、少しずつ色が付いていく――。
ここは深い森に囲まれた、古城の一室。
重厚な装飾が施された会議室で、真ん中には長方形のテーブルが置いてある。窓際に2人、その反対の扉側には男達が複数人、席に着いていた。
そこで、激しい議論が交わされていた。
「――――それは困難です。そもそも、やる気が出ませんよ。誤った行動を引き起こした人々の代償を、私達が支払わなければならないだなんて」
「そうだ! 言ってやれ!」
「お引き取り下さい。皆様の生活を見直してから、再度ここに尋ねて来て下さい」
フードを被った女性とその隣にいる壮年の男性が、相対している男達に文句を叩きつけている。2人とも豪華な杖を装備していた。魔法使いのようだ。
それに相対する男達は、とても豪華な服装をしていた。貴族よりも更に上等で、むしろ王族の親族に近しい装いだ。
(これは……)
エスティはその光景を窓際から眺めていた。自分の体が透明なレイスになっているようだ。
……一体、何を見せられているのか。
「……交渉決裂か」
「えぇ」
「貴女達がどうなっても知らぬぞ?」
「――それが脅しならば、帰しませんよ」
フードの女性が杖を構えた。
その瞬間、場に緊張が走った。
男達の護衛らしき者が、間に割って入る。
少しの沈黙が訪れた後、フードの女性は杖を下ろした。それを見た男の一人が口を開く。
「……貴女達の組織には大変世話になった。そのため、我々は忠告に来たのだ。分かるか……貴女達は我々と同様に、この運命を受け入れる義務があるのだ」
「道を踏み外したのはそちらでしょう!?」
「貴女達はその危険性を言わなかった」
「言いましたよ、約束を守る条件で!!」
女性は深い溜息を吐き、杖を机に置いた。
「……もうこれっきりにして下さい。私達にはやるべき事があるのです」
「それは残念だ」
「えぇ、残念です」
男達は立ち上がり、静かに部屋を去って行った。
扉がバタンと閉まった瞬間、女性の隣に立っていた壮年の魔法使いが声を上げた。
「何なんだよ、一体!!」
「落ち着いて下さい、フラクト。状況がよく掴めていません。何があったんですか?」
フードの女性が問いかけると、フラクトと呼ばれた男はゆっくりと口を開いた。
「……ここに来る前に掃除婦に聞いたんだが、昨日の昼にも奴らがやって来たらしくてな。師匠達を連れて全員でどっか行っちまった。荷物も全てを収納してだ。それが真実なら、今この組織に残ってるのは俺とお前の2人だけになる」
「昨日の昼というと、私達が城に到着する前ですか。でも一体なぜ……」
フラクトは机をドンと叩いた。
「裏切られたんだ、畜生……!!」
「まだ分かりません、フラクト。師匠達がそんな事をするはずが――」
「するだろうよ!! 魔法に囚われて奴らと取引をしたのは師匠達だ!!」
怒鳴り散らしたフラクトの目は、血走っていた。
呼吸も荒く、女性を睨んでいる。
「……時間がねぇとさ。俺は中央に行くぞ」
「ま、待ってください!」
「貧困街に知り合いは多い。どうにかして師匠達を連れ戻し、奴等を食い止める術を探る。お前はここでこの城を守っていてくれ」
フラクトは足早に部屋を出ようとした。
フードの女性がそれを追いかける。
だが、フラクトは振り返り……フードの女性に杖を向けた。
杖の先には、水の渦が現れている。
フラクトは水魔法を唱えていた。
女性は足を止める。
「フラクト……!」
「死にゃしねぇよ。城を頼んだぜ、ラクリマス」
(なっ……!?)
エスティは驚きつつも、様子を見続ける。
フラクトが部屋から出て、扉が閉まる。
会議室が急に静かになった。
ラクリマスは俯きながら、窓辺へと歩く。
そして2つある窓の左側、エスティのいない側へと向かい、窓を開いた。外は深い森だが、木々の隙間を通り抜ける風が部屋の中まで入り込む。
「……中々、上手くいきませんね」
風でフードがはらりと取れる。
(――――っ!!)
エスティは、唖然とした。
身長は150cm程度。
青い両目。
風になびく、ブルーグレーの長髪。
自分と瓜二つの人物が、そこにいた。
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